フルガイアへの道
「父が生きてるの!?」
衝撃的な事実に驚愕したのは、サーシャ様だけではありません。
僕やシエルさんも同じでした。
「ご存命ですよ。訳あってサーシャさんには明かしていなかったみたいですけど。」
その時のサーシャ様は父上が生きていて、嬉しいという感情の他に、どうしていいか分からない感情や、どこか怒りの感情さえ持っている、そんな様子でした。
「それで私たちは、ディミトリさんからの頼みで、サーシャさん、貴女を探して欲しいとお願いされたのです。」
では、グッドタイミングだったと言うわけですか。
しかし、それにしても偶然というにはタイミング良すぎな気もしますが、何はともあれ父上が生きておられて良かったですね。
「じゃあ、これから一緒にフルガイアへ行きましょう。ディミトリさんからは、サーシャさんを連れて来て欲しいとのことでしたので。」
ジャクリンさんの言う通りですね。
ここも、またいつ敵が来るか分かりませんからね。
えっ?デーモンズホールに入るのを、あんなに嫌がっていたくせに、ですって。
いいえ、今はもう全然平気ですよ。
なにせレジェスとジャクリンさんが、一度通っているんですから。
「でも、父はどうして私を騙したの?生きているなら連絡くらいしてくれても、いいじゃない。」
サーシャさんの言い分は、もっともです。
「『それは、直接本人に聞くのだな』と、申しております。」
レジェスの言い分も、当然もっともですね。
とりあえずフルガイアとやらに行った方が話しは早い。
「この穴に底はあるのかな?」
僕は穴の中を覗き込むようにして、中を伺ってみました。
「『それは、自分の目で確かめてみるのだな』と、申しております。」
ふと振り向くと、何故かレジェスが薄い笑みを浮かべていました。
嫌な予感がしました。
「それじゃあここは、経験者の君から――うわぁ!」
皆さん、ご察しの通り僕はレジェスに背を押されデーモンズホールへと吸い込まれるようにして落下していきました。
暗闇に落ちた僕ですが、そこはなんとも不思議な感覚でした。
下へ向かって落ちているはずなのですが、暗闇ということもあって上下どちらへ向かっているのか分からなくなってきました。
感覚が狂わされているような気分です。
およそ数分後、僕はまだ落下中?でした。
しかし、さっきとは全く違う感覚の中にいました。
なんというか、上昇している感じです。
しかも急激にというわけではなく、ふわりと宙へと浮いていくような不思議な感覚です。
その状況のなか、終わりは突然やってきました。
急に目の前が、明るく輝いたのです。
「うわっ、眩しい!」
目が眩むようにとは、このことですね。
僕の体は地面に叩きつけられることはなく、ふわっと地面に着地しました。
さっきまでの眩い光は、どこにも存在していません。
むしろ、この場所は薄暗い、どこかの森の中のようでした。
「皆さん無事ですか。」
気がつくと、他の皆も到着していました。
どうやら、全員無事にたどり着けた様です。
「ここが、フルガイア。」
「あ、あのサーシャさん。非常に言いにくいのですが、実は、ここはどうもフルガイアではなさそうなのです。」
ジャクリンさんの発言に皆、驚きを隠せません。
「どういうこと?」
「私にも原因は分かりませんが、ここはフルガイアではありません。ここは、おそらくテルミナだと思われます。そうですよね、レジェス様。」
レジェスは私に振るな、というような素振りで素知らぬ顔をしました。
「テルミナって、確かカモミール姫が言っていた、定番の魔物たちがいるところよね?」
「サ、サーシャさん。定番の魔物ってなんですか、それ?」
サーシャ様はカモミール姫に教えてもらったことを、そのままレジェスとジャクリンさんに説明しました。
「なるほど。その例えは分かりやすいですね。さすがはカモミール姫様ですね。」
ジャクリンさんが感心しているのと対象的なのがレジェスでした。
「『カ、カモミール姫……恐ろしい。』と、申しております。」
あの姫様と何かあったのでしょうかね?
もしかして、昔つき合っていたとか。
僕はカモミール姫とレジェスのツーショットを想像して、笑いが出てきました。
それを、レジェスは鋭い勘で、僕がよからぬ事を考えていると見抜いたように、睨みました。
まったく野生の勘でも兼ね備えているのでしょうかね。
そういえば昔から変な勘だけは、凄まじかった。
これは、注意しとかないと殺されかねません。
「テルミナからフルガイアへ行くことは可能なの?」
「もちろん可能ですよ。テルミナもフルガイアも同じ世界で成り立っていますからね。歩いてでも行くことは可能なはずですよ。ただし、パンドラだけは別ですよ。そこは、たどり着くことさえ不可能と言われている場所ですからね。全ては謎に包まれているのです。」
パンドラ……想像しただけでも恐そうな所ですね。
そんな所とは一生無縁でいたいです。
「ところで皆。この大木を見てくれよ。」
ローラスは、自分の近くにあった木を触りながら言いました。
「この木、なんか生きてるみたいだ。まるで呼吸しているようだ、凄いな。」
「――ローラス!?……それたぶん、木じゃないよ。」
サーシャ様は、何かに気づいた様子です。
他の皆も注意深く、観察しました。
そして、次の瞬間でした。
突然、木が激しく動きだしました。
その大木には顔が浮き出ていて、恐ろしい牙を持っていました。
「うわ!化け物だ!」
僕らは一斉に逃げ出しました。
着いてそうそう、大変な目に逢い、先が思いやられました。




