団長と将軍
男の怒号が家に響き渡りました。
アレックスの顔が青ざめているのが伺えます。
「ベガ団長!」
太い体格に大きな顔。
絵に描いたような悪党顔です。
簡単な鎧を着込み、その上から熊の毛皮を羽織っています。この出立ちは、もはや山賊ですね。
「おい、アレックス。うちを抜けるなんて冗談だよな?今なら許してやるから大人しく戻ってこいよ。」
「私は、戻る気なんてない。」
「やれやれだ。お前が辞めちまったら一人分の報酬が減ってしまうだろうが。その損失をどう埋めてくれるんだ。お前が帰るつもりがないなら、こっちにもやり方があるぞ。おい!」
ベガ団長の後ろから姿を見せたのは十人の男たちでした。
まったく女一人に……いえ、か弱い男一人に数の暴力とは頂けませんね。
「話が早くていいじゃない。つまりは、あんたらを倒しちゃえべいいんでしょ。」
さすがはサーシャ様。話を簡潔にまとめてくれましたね。
「よし、俺も参戦するぞ。」
「私も私も、楽しそう。」
ローラスとシエルさんも乗り気です。
「この野郎、俺らを舐めるんじゃねえぞ。いけ!」
襲いかかるグリッジブルーの男たち。
「燃え盛る剣」
まずはサーシャ様が魔法剣で三人の男を処理しました。
それに続いたのはローラスです。
「突き刺され氷剣」
ローラスもやるものです。サーシャ様と同じく三人を、あっというまに倒します。
「ウォーターハンド。」
シエルさんは突っ込んで来る男三人の足首に水の手を出現させました。
その手が男たちの足首を、がっちり掴むと男たちは勢いよく前のめりに倒れました。
「キャハハハ。変なこけかた。」
あっという間に、グリッジブルーはベガ団長一人となりました。
「お、おのれ!こうなったら俺が本気を出すしかあるまい。俺はこう見えてもな、ギアン大陸では――。」
「超音速」
「な、なに……。」
話しが長いので斬ってしまいました。
そもそも本当に、この人は戦闘のプロなのでしょうか?
あまりにも隙だらけだったので一瞬だけ躊躇ってしまいました。
ですがこれで終わりですね。口ほどにもないとは、まさにこのこと。
「お、おまえら、このままで済むと思うなよ。」
ベガ団長は相当打たれ強いみたいです。
僕の一撃を喰らってなお立ち上がるとは、おみそれしました。
タフさだけは一級品のようですね。
「貴様たちはグリフォンブルーを敵に回したんだ。ちょうど今、この国に六牙将軍の一人が来られている。お前たちなど一瞬であの世送りだぜ。」
本当にタフで口がよく回る悪党です。
どうやら、とどめを刺しておく必要がありそうですね。
「六牙将軍!?そ、それはまずいです。皆さん身を隠したほうがいいかもしれません。」
アレックスさんの慌てぶりから察するに、相当やばいのでしょう。
僕は不安に駆られ、逃亡の身支度を始めようとしました。
しかし、その時です。
「団長!六牙将軍様をお連れしましたぜ!」
どうやらベガ団長の手下が動いていたようですね。
ちょっとまずい展開かもしれません。
「おお!でかしたぞ。」
その男は白馬に跨がってやってきました。
思ったよりも随分と若いです。
しかも、超美形です。将軍というより王子様といった印象です。
「いったい私に何の用があるというのですか。」
どうやら無理矢理連れて来られた様で、不機嫌そうな六牙将軍の男にベガ団長は苦しい言い訳を並べました。
「申し訳、ございやせん。こやつらがグリフォンブルーに反旗を翻したもので、ここはディルク様に裁いて頂きたくて、お呼びした次第でございやす。」
ベガ団長は強い者には媚を売るタイプで間違いないですね。
「あっ、ディルクじゃん!」
僕の後方からした声はシエルさんでした。
「き、貴様!ディルク様を呼び捨てにするとは、縛り首だぞ!」
「これはこれは、誰かと思えばシエル様ではありませんか。ご無沙汰しております。」
やはりシエルさんの顔の広さは並みでは、ありません。
しかも、この二人のやり取りを聞く限りでは、こちらに分がありそうですね。
「あの、お知り合いで?」
「ああ。シエル様には我が部隊の魔法の講師として、たまにお世話になっているんだ。」
今回の件については、その場でシエルさんがディルクさんに事の詳細を説明しました。
「なるほど、そういうことでしたか。でしたら解決は簡単です。グリッジブルーは、この件から手を引きなさい。」
これにはベガ団長も逆らえません。
「それよりも、何よりもグリッジブルーという組織を動かしているのは、いったい誰なんだ?私ではないし、他の六牙将軍でもない筈だ。返答次第では解体しなければならない。その辺りも含めて調査したい。帰国したら私の元へ来るのだ、よいな。」
「わ、分かりました。」
「皆様には大変迷惑を、おかけしました。グリフォンブルーの将軍として詫びさせてください。」
ディルクさんは馬から降り、軽く頭を下げました。
出来た方ですね。僕は感心するばかりでした。
その後、ディルクさんとグリッジブルーの方々は引き上げていきました。
「良かったね、アレックス。」
アレックスさんはサーシャ様の呼びかけに応じず、どことなく暗い顔をしている様に思えました。
「私、惚れました!」
えっ!?
「私は昔から剣の腕が人より優れていたため、よく男勝りと言われてきました。そして、それは月日が経つと、本当は男なんじゃないか?という噂までたちはじめました。私は傷ついた。」
「ち、ちょっと待ってください。あのアレックスさんは本当に……女性なんですか?」
僕の発言に、横にいたサーシャ様の鉄拳が僕の頭部を激しく打ちつけました。
「どこからどう見ても女だろ。失礼だぞ、ピート。」
確かに、そう言われてみればそうです。あの顔立ち、華奢な体、膨らんだ胸――女だろ。
ああ、僕はなんて馬鹿なのでしょう。
愚民共の噂話しを、すっかり信じきってしまいました。
ですが、早く気づけて良かった。
アレックスさんは僕に好意を持っています。
これからは、優しくしますよアレックス。
「私は、私より圧倒的に強い殿方を、ずっと探し続けてきました。そして、大会でピートさんに恋をしました。ピートさんは私より遥かに強い方でした。」
いやー、そんな風に言われてしまうと照れてしまいますね。
「でも、私は目が覚めました。私が真に求めていたのは強いだけではない、ということを。強さがあり優しさがあり、器の大きな方。私にはもう――ディルク様しかいません。」
アレックスさんの言葉に何故か皆が頷いていました。
僕は頭が真っ白になり、何も言葉が出てきません。
「叶わぬ恋かもしれませんが、私はディルク様に仕えたい。私はグリフォンブルーへ帰ります。」
急展開過ぎて、僕は完全に置いてけぼりでした。
それでも何か言わなくては、そう思いました。
「あ、あのアレックスさん――。」
「ごめんなさいピートさん。私の事は忘れてください。さようなら。」
走り去るアレックスさんを僕は呆然と見送りました。
僕が哀れな振られた男みたいな、台詞は止めて頂きたい。
「仕方ないさ。あのディルクって男、いい男だったもん。今夜は飲もう、ピート。」
サーシャ様?僕は傷ついてなんかいませんよ。
「キャハハハ、振られたなピート。」
シエルさん。僕は振られてなんかいませんよ。というより何が起こったのかすら把握できないだけです。
「落ち込むな?また次があるさ。」
ローラスさん……殺すぞ!
僕は色々な感情が混ざり合い、カオスさを増していきます。
そして何故だか分かりませんが涙が流れ落ちてきました。
それでも僕は強がってみせました。
「泣くもんか。」と。




