truth
「ピート、これはいったい?」
この状況を全て説明する余裕などありません。
僕はサーシャに簡潔に伝えました。
「サーシャ様、こいつは魔物です。村の人々は、まだ生きているそうですよ……たぶん。」
「――よく分からないけど、要はこいつを倒せばいいのね。」
「正解。」
何とか伝わったみたいで、僕はホッと胸を撫で下ろしました。
しかし、サーシャ様がフォックスに勝てるのか?という問題は何も解決していません。いや、恐らく勝てないでしょう。
僕はサーシャ様がフォックスと戦っている間に作戦を練ることに集中しましょう。
「やっと真打ちのお出ましか。」
フォックスは楽し気にサーシャ様を見て言いました。
この時、僕はフォックスの言葉に違和感を覚えました。
やはり、さっき僕に語った動機は嘘だったのでしょう。
目的は、やはりサーシャ様の瞳。もしくはサーシャ様自身。
「燃え盛れ剣」
サーシャ様は魔法剣を発動して、すかさずフォックスへと攻撃を始めました。
燃え盛る炎が宿る剣が振られる度に、炎の音と余韻が残響のようになり、フォックスは間合いを惑わされているようで防戦一方です。
「面白い。いいぞ、もっとだ。もっとお前の力を見せろ、サーシャよ。」
フォックスは反撃に出れないというよりは、出ないだけみたいですね。つまり、まだまだ余裕があるということでしょう。
「馬鹿にしてるわね。だったら――。」
サーシャ様は、魔力を一気に増幅させていきます。その魔力は、とても強大なものでした。
しかし、魔法剣は魔力を維持していかなければなりません。そのレベルの魔力をずっと継続して放出することができるでしょうか。
「私のフレイムソードの進化版を見せてやるわ。」
サーシャ様は、魔力を更に上げていきます。
「サーシャ様、それ以上は――。」
「焼き尽くせ、不死鳥」
サーシャ様の剣に宿る炎は、まるで不死鳥のような形態に変化しました。そして、その魔力の塊のような不死鳥は羽ばたき、フォックスを捉えました。
「終わりだ。」
ボンッ!
まるで大爆発を起こしたかのようにフォックスは、サーシャ様の不死鳥に飲み込まれていきました。
どうやら、これで勝負ありのようですね。しかし、いつの間にあんな新技をあみだしていたのでしょう。僕はサーシャ様を真底見直しました。
「サーシャ様、さすがです。僕はサーシャ様が勝つって最初から信じていましたよ。」
だが、サーシャ様は戦闘体制を崩しません。
「まだよ。」
僕は、ぞくりと背筋に寒気を感じました。
そして、振り返って驚きました。そこには、涼しい顔をした、フォックスが無傷のまま立っていたからでした。
「素晴らしい、さすがだ。だが――。」
フォックスは恐ろしいスピードでサーシャ様の目前まで迫り、反撃の余地も与えぬまま、サーシャの細い首を片手で締め上げ宙に浮かせました。
「サーシャ様!」
僕はすぐさま駆け寄ろうとしました。
フォックスは、こちらを見向きもせずにもう片方の手を僕に向けました。
すると、何か見えない衝撃波のようなものが僕を襲いました。
僕は後方へ大きく吹き飛ばされてしまいました。
「お前の力はこんなものではない。その、未完成なままのパープルアイズを早く覚醒させよ。」
「な、なんのこと?」
サーシャ様は首を捕まれたまま、苦しそうに言いました。
「まさかお前、自分でコントロールできないのか?」
フォックスは初めて驚いた表情を見せた。
「ならば私が呼び起こしてやろうぞ。」
フォックスの禍禍しいオーラが更に濃くなって、辺り一面を覆い尽くしました。
すると、サーシャ様に異変が。
今まで苦しそうに、もがいていたサーシャ様の動きがピタリと止んでしまいました。逝ってしまわれたのでしょうか。
「……なせ……。」
何かを口にしましたね。良かった生きているようです。
「離せ下郎!」
何やらサーシャ様の雰囲気が変です。
僕は、その変化にすぐに気づきました。
それは両目の色です。
サーシャ様は、片方が赤くもう片方が青い、いわゆるオッドアイでした。
しかし、今は両目が濃い紫に変わっているではありませんか。
しかも、何やら口調にも変化が出ています。
――素敵です。しびれますね。
「ふっ、ようやく覚醒したかと思えば私を下郎呼ばわりか。図に乗るな。」
ふと見ると、今まで地面から少し宙に浮いていたサーシャ様が、地に足をつけています。
だが、フォックスの腕はまだ、しっかりサーシャ様の首を掴んでいます。
「これは驚きだ。いつの間に私の腕を切り落とした?」
サーシャ様は、自分の首を掴む、フォックスの腕を外し、地面へと叩きつけました。
僕には勿論、腕を切られた当の本人のフォックスですら気づいていないとは、いったいどうやったのでしょう。
しかし、フォックスには焦りなどありませんでした。これまでと同様、余裕の表情を崩しません。
そして、またしても切れた腕を再生させようとしました。
「無駄だ。パープルファイア。」
サーシャ様の剣にも変化ありです。
これまでの激しい赤く燃え上がる炎が、燻って燃えるような、弱いですが禍禍しい紫色の炎に変わっているではありませんか。
その炎がフォックスの切られた腕の傷口に着火しました。
「くっ!これは?修復ができない。」
今度こそフォックスは焦った顔を見せました。
しかも、その紫の炎は消えるどころか徐々にフォックスの全身を覆うように静かに広がっていきました。
「な、なんだこの火は、消えぬ。」
「これで終わりだ。」
「ぐわぁぁあ!」
やりました!これでフォックスは焼き尽くされることでしょう。
「――なんてな。今日はここまでだ。私の任務は果たされた。また、会おうぞ、サーシャよ。」
まさかの展開でした。全身を炎に焼かれても生きているとは、もはや僕の想像を越えた生物です。
何にせよ、今回はサーシャ様の勝ちです。あんな化け物を退かせただけでも、凄いことです。
「やったあ!やりましたね、サーシャ様!」
僕はサーシャ様と勝利のハイタッチをしようと駆け寄りました。
「貴様は、人間か。人間風情が気安く近づくな。」
「サ、サーシャ様!?」
突然、サーシャ様は僕に対して剣を振り上げました。
僕のことを判っていないのでしょうか。
僕は力がフッと抜けて、その場に尻もちをつきました。
「サーシャ様、やめてぇぇえ!」
辺りに僕の悲鳴に近い声が響き渡りました。




