過去の因縁
僕たちは遂にシグレ島へと上陸を果たしました。
ここまでは何の苦労もなく到着です。
やはり、あの漁村からここまでは結構近かったのですね。
ひたすらオールで漕いできましたが、さほど疲れはありません。
浜辺に上陸すると、すぐ目前には林があり、それを進んでいくと森と化しました。
更に進むと、突然拓けた場所へ辿り着きました。
そこには十軒程の小さな家がありました。
「どうやら、ここみたいですね。どうです、懐かしさとか溢れ出てきたりしませんか?」
「全くない。私は本当にここに居たのか……。」
確かに覚えていないのなら、初めて来たのと何ら変わりません。
それに、ここの住人たちも居ないのではどうしようもありませんね。
何となく不気味な雰囲気の村を探索している時でした。
急に誰かの足音がして、それが近づいてきます。
僕たちは咄嗟に身構えました。
しかし、現れたのはサーシャ様と同じ歳くらいの若い女性でした。
素朴な感じの女性は派手さはありませんが清純派の美少女でした。
「あっ、どうもこんにち――。」
「サ、サーシャ!?」
おお!どうやらサーシャ様の、お知り合いのようですね。
ところがサーシャ様は困惑した様子でした。
覚えていないのでしょう。そんなことでは、お友達をなくしてしまいますよ。
こんな時は、「久しぶり」とか、「元気だった」とか適当に言っておけばよいのです。
「あ、あなた何しに来たの。」
「わ、私はその――。」
「帰って!あなたが何をしたか分かってるの?ここに、あなたの居場所なんてないわ、早く出てって!」
これは急展開です。この女性の激怒っぷりはただ事ではありません。いったい何をやらかしたんでしょうか、サーシャ様は。
「ちょっと待って、私は聞きたいことが沢山あって、ここに来たの。だから話しだけでも――。」
「話し?何言ってるの、あんなことをしておいて、よくもぬけぬけと、そんなこと言えるわね。」
「私が何をしたっていうの。」
さすがにサーシャ様も少し不機嫌になり始めました。
まあ、覚えてないのでしょうから何もしていないのと同じでしょうからね、当人にとっては。
「白々しい。あなたがやったのは人殺しよ。それも一方的な虐殺。何もしていない善良な、この村の人々を私以外、全員殺したじゃない。忘れたの?そうだとしたら随分都合がいい脳みそしてるわね。」
何ということでしょう。
この女性の衝動発言に僕たちは動揺を隠せませんでした。
「もういいでしょ!早く出てって!それとも村の生き残りの私を殺しに来たの?もしそうなら殺しなさいよ。もう、私には何もないんだから。」
女性は号泣しながら地面に崩れる様に膝まづきました。
「サーシャ様、行きましょう。」
僕は茫然としているサーシャ様を強引に引っ張って村を出ました。
その後、浜辺まで戻った僕たちは沈黙を続けていました。
浜辺に座りこみ、うつむいたままのサーシャ様。
しかし本当にサーシャ様はそんな残忍な犯行を犯したのでしょうか?
僕は、ふとサーシャ様と出会った時のことを回想しました。
誰かの返り血で真っ赤に染まったサーシャ様……やはり彼女の言っていることは真実なのか。
確かにサーシャ様ならやりかねません。ですが、僕はやっていないと思うのです。
根拠はありません。昔のサーシャ様を僕は知らないから。ですが、引っ掛かることもあります。
「サーシャ様、少しここでお待ちを。」
僕はサーシャ様が顔を上げずに小さく、コクりと頷いたのを確認して、さっきの村まで戻りました。
僕はさきぼど女性と出会った場所まで戻ってきました。
すると、さっきの女性がそこに立っていました。
「よかった、まだ居らしたのですね。」
すると女性は驚いた様に、振り返りました。
「まだ、居たの。お願いだから早く帰って。」
さっきほどの威勢はありません。それはサーシャ様、本人が居なかったからかもしれません。
「僕はピートと申します。サーシャ様の従者をしております。ちょっとだけお話しを聞いて頂ければなと思いまして、えーと……。」
「……シャロンです。」
シャロンと名乗った、この女性は先ほどの凄い剣幕で激怒していた女性とは明らかに違い、落ち着きを取り戻していました。
やはり僕一人で来て正解でしたね。
「シャロンさん。お聞きしたいのですが、どうしてサーシャ様は村の方々を手にかけたのですか?」
「そんなこと知らないわ。突然の目の前で起こった出来事に私は恐怖と絶望を感じたことしか覚えていないわ。」
今の口ぶりからだと彼女は目の前で、その惨劇を目撃していたようですね。しかし他の村人たちは殺されたのに、どうしてシャロンさんは生き残ったのでしょう。
「あのシャロンさんは、サーシャ様と親しかったのでしょうか?」
「ええ、昔は仲の良い友達だったわ。」
それが生き残れた原因なのでしょうか?僕はそうは思いませんでしたけど、それ以上は追求しませんでした。
「じゃあそれ以来、貴女はずっとここで一人で暮らしているのですか?」
「ええ、そうよ。皆のお墓の手入れをしながら、私は一人、以前のまま暮らしているわ。」
僕は、舟を貸してくれた漁村の男性の言葉を思い出しました。
確か、この村には誰も居なかったと言っていたと記憶していましたが、シャロンさんはここで生活している様子。
どういう事でしょうか?
さらに僕には、もう一つ解せぬ事があります。
おそらくシャロンさんが話した事との矛盾が生じるでしょう。核心をつく質問を僕は彼女に投げ掛けました。
「最後に一つよろしいですか。」
「ええ。」
「貴女は一人と仰っていましたが、この村からは十八……十九人の人の気配が地下の方からするのですが、これは?因みに、この村全体を非常に薄い膜のようなもので覆っているのは、魔力ですね。これは貴女が?」
最初に、この村に来た時から違和感に包まれていました。集中力を高めなければ人の気配も感じ取れなかったでしょう。
シャロンさんに責められ精神的に不安定だった、サーシャ様なんかは絶対に気づいていない筈です。
「な、なにを言っているの。こ、ここには私しか――。」
「いいえ。沢山の人が居ますよね。」
シャロンの顔が、みるみる強張っていくのが見てとれます。
これは彼女も知っていることが明白ですね。
しかも、焦りからなのかシャロンさんから、異質な気が漏れていました。
「シャロンさん、貴女何者です?」




