シグレ島の噂
さきぼどまでの雨が嘘みたいに、空は綺麗な青空に変わりました。
ピカピカと水溜まりが輝いています。
僕らはリグレットの町に一旦引き返し、グリ坊を医者に預けてから再び歩き出しました。
「あのグリ坊とかいう、あんたの弟子、死ななくて良かったわね。やっぱり最後で躊躇したんじゃないの。」
サーシャ様は、意地悪そうな笑みを浮かべで言いました。
「いいえ、僕は殺す気で刺したつもりなんですけど、サーシャ様に頂いたエッグブレイドが脆すぎて仕留めそこなっただけですよ。」
「ほう、私があげた剣のせいにするわけね。ふーん。」
「な、なんですか。」
「いや、別に――でも覚えておくわね、さっきの言葉。死ぬまでずっとね。」
こ、恐いです。僕は、ごくりと生唾を飲み込みました。
そんな他愛もない話で、和気あいあいと進む僕たちが向かっているのは、サーシャ様の故郷、シグレ島です。
その島に向かう為、最寄りの漁村を目指します。
その道中、僕は以前からサーシャ様に、お訊ねしたかったことを勇気を出して質問してみました。
「あの、サーシャ様。」
「なに?」
「……やっぱりいいです。」
「言いなさいよ。」
サーシャ様の目が怖かったので、僕は意を決して訊ねました。
「僕と出会ったあの日、サーシャ様は血まみれでしたよね。返り血と仰っていましたけど、あれは一体何と戦われたのですか?」
サーシャ様は少しの沈黙の後、一言だけ発しました。
「覚えてないんだ。」
僕は、それ以上は深く立ち入りませんでした。
少し重い空気の中、僕たちは目的の漁村に辿り着きました。
空は、またどんよりと厚い雲に覆われてしまいました。
そのせいなのか、その漁村は何か沈んだ雰囲気に感じました。
ちょうど僕らの側を小さな女の子が横切ったので、僕は、
「ちょっといいかな。」と、声をかけました。
「なに?」
女の子は純真無垢な笑顔で立ち止まりました。
しかし次の瞬間、その女の子の表情は一変しました。
「こ、こわい。」
そう言って女の子は半べそ状態で走り去っていきました。
その原因はサーシャ様でした。
女の子はサーシャ様の顔を見ると顔が、みるみる内に曇っていったのです。
「プッ!」
僕は思わず吹き出してしまいました。そして、あの女の子にこう言ってあげたいと思いました。
「正解。」と。
「だから子供は嫌いなのよ。」
サーシャ様は、軽くショックを受けているようでした。
仕方なく僕は、村の大人を捕まえて訊ねてみました。
「あの、すいません。シグレ島に行きたいのですが、どうしたら行けます?」
村人の中年男性、面食らったら顔をしましたが、さきぼどの子供とは違い逃げずに答えてくれました。
「あんたらシグレ島なんかに何の用があるんだい?」
「えっと、ちょっと知人が住んでまして。」
すると男は少し考える様にして海の方を指差しました。
「あの島には近寄らんほうがええぞ。」
あれがシグレ島。
僕は驚きました。シグレ島は、ここの目と鼻の先ではありませんか。さすがに泳いでいくには遠いし、この季節てすからね、ありえませんが。
「何故ですか?」
「少し前までは、あそこにも人が住んでいたんじゃが。今は誰もおらん。」
これは衝撃的でした。それではサーシャ様の故郷も、もう存在しないことになってしまいます。
「どこかに移住した、とか?」
「いいや、ある日突然のことじゃ。ここの村の男が、あの島を行き来しとったんじゃが、ある日、島に行ってみると人一人おらかったそうじゃ。しかもそこは、ついさっきまで生活しとったような様子じゃったらしい。こりゃ恐らく神隠しにでもあったんじゃなかろうか、という噂になったんじゃ。」
神隠し?本当にそんなことがあるのでしょうか。
僕は興味が湧いてきましたよ。なにせオカルト大好きですからね。
「それで、また後日に島へ渡った、その男は今度は帰ってこんようになってしまったんじゃ。あの島は呪われておるんじゃ。」
なるほど。ただ、ここの村人がそんなに恐怖に怯えているのでは、恐らく僕らをシグレ島まで運んでは、くれないでしょうね。
「あの、小舟を一隻お借りできないでしょうか。もちろんレンタル料は、お支払いしますから。」
「あんたら本当に行く気か……まあ儂らは連れていけんけど、舟なら貸そう。だが悪いことは言わん、やめときなさい。」
そんなことで僕らは止まりません。むしろ行きたい衝動が抑えきれないくらいです。
この時、サーシャ様が何を考え、どういう心境だったかは定かではありません。
ですが、理由はどうあれ、気持ちは僕と一緒だったはずです。
「よし、行こうかピート。」
「了解です。」




