只今魔法剣の特訓中
サーシャ様とローラスの魔法剣の成果に違いが生まれ始めたのは二人が魔法剣の修行を始めて半年ほど経った頃でした。
「サーシャ!もっと魔力を上げて!そんなんじゃお肉も焼けないわよ!まあ、私はレアが好きだから一向に構わないんだけどね!」
「こ、これで全力です師匠。」
サーシャ様の炎の剣は勢いがありません。最初の頃よりは目に見えて強い炎を出せるようにはなっていますが、まだまだ実戦で使えるほどではありません。
そんなサーシャ様を尻目にメキメキと上達していくのは、ローラスでした。
「ぬおおっ!これでどうですか、グラノール様。」
「うん。いいわねローラスちゃん。炎にも勢いがあるわね。これならお肉もウェルダンよ。もしかしたら、あなた天才かもしれないわね。」
「本当ですか!いやーまいったな、才能を発掘されちゃったな。」
「ローラスちゃん。そのままの状態で、あと三時間キープしてね。うふ。」
グラノールさんの笑みの下にある悪魔の素顔をローラスは垣間見たことでしょう。
ともあれサーシャ様の魔力の問題は少々深刻な気がしますね。
あのサーシャ様が、これほど苦しんでいるのですから。
まあ、僕としては苦悩に満ちたサーシャ様を見ていられるのは快感以外のなにものでもありませんがね。
「……だめです、これ以上は。」
ついには音を上げる始末です。これでは最強の戦士を目指すのは困難極まりない状況ではないでしょうか。
「おかしいわね。センスでいったらローラスちゃんより断然サーシャのほうが上だし、魔力だって弱い訳ではない。と、いうことはやっぱりコントロールが上手くいかないのかしら?」
先ほどまで天才だと持ち上げられていたローラスは苦い顔をしています。
しかしグラノールさんの疑問も僕には理解できます。
僕が言うのもおかしいですが、サーシャ様の魔力は弱いどころか強いほうに分類されるでしょう。
ただ不安定というかなんというか、簡単に言うと何かおかしな制御が働いているようにさえ感じます。
「――仕方ない。あまり気乗りしないけど、あいつのところにでも行ってみようかしら。」
「グラノールさん、あいつとは?」
僕の質問にグラノールさんはため息を吐きながら答えました。
「ラビット族の長老よ。」
ああ、そういえば最初にここへ来た時に挨拶に行くとか行かないとか言っていた、あの長老さんですね。まあ、結局未だに挨拶に行けていないのが現状ですが。というより完全に忘れていました。
「師匠、気分転換のつもりなのかもしれませんけど、私はあまり気乗りしません。」
それはそうでしょう。苦しんでいるサーシャ様に、そんな気持ちの余裕がありようもないでしょう。
「そうかもしれないけど、会っておく価値はあると思うわよ。」
いったい村の長老にどんな価値があるのだろう。
僕も含め、サーシャ様とローラスの三人は無言で顔を見つめ合いました。
「一応、彼の名を教えておくわ。聞いたことがあるかもしれないからね。ラビット族の長老の名前は――パラドール・ジグマよ。」
えっー!
えっー!
えっー!
今度は三人が大きな叫び声にも似た声を上げ顔を見合わせました。
それは、さっき見た三人の顔とは、まるで別人の様でした。




