accept pupils~下編~
彼こと、ペンカタ……いや、僕の弟子の話です。
僕たちは寝食を共にし、固い絆で結ばれていきました。
「さあ、それじゃあそろそろ夕飯にしようか。食事の用意を頼むよ。」
「……。」
僕と彼が師弟関係になって、およそ三ヶ月。確か師匠は僕だったはずです。
しかし彼は僕の言うことを全く聞いてくれません。
どうしたものでしょうか。反抗期なのでしょうか。これだから子供は扱いにくい。
「仕方ない。食事は僕が用意しよう。その代わり君は剣の素振りを千回ですよ。」
「……。」
雑用等は全くやってくれない彼ですけど剣の修業だけは、きっちりやってくれます。
僕と出会った時よりも、かなり強くなっている様に思います。
一度テストしてみるのもいいですね。
――さらに三ヶ月後。
「今日は君に課題を与えよう。」
「……。」
僕らはキリエス国の王都マビン・グラスにいました。
僕はキリエスに目をつけられているので、なかなか危険な状況下にあります。
そうまでして人目につきやすい王都までやって来たのには理由があります。
ここ最近、巷の噂になっている「赤い刃」を見つける為です。
世間では黒い刃と赤い刃では、どちらが強いのかという話題がトレンドらしいのです。
聞いた話によると赤い刃こと、ゲティという男はキリエスに雇われた傭兵らしい。そして彼が請け負った任は僕の首を取ること。
上等です。僕の通り名をパクったような輩に打ち取られるな男では、ありませんよ僕は。
だいたい赤い刃なんて血糊のついた剣の事を指しているだけで、刀身が赤い訳でもなんでもないんですよ。本当に腹立たしい。
話が逸れましたが、その赤い刃を見つけ出すことが僕の弟子の使命です。
戦わせないのかって?
さすがにそれは無理ではないでしょうか。
紛いなりにも、この僕と比べられるくらいだから、そこそこ強いのでしょう。彼にはまだ早いでしょう。
しかし赤い刃は単独で動いているわけではないようです。
どうやら剣各集団を率いているらしいのです。
つまり、他の雑魚の相手をさせようということです。
それくらいなら今の彼に丁度良いでしょう。
僕は街の片隅の路地で座り込んで赤い刃を捜しに行った弟子の帰りを待ちます。
奴を見つけたら僕に報告するように言いつけています。
単なる人捜しと思って舐めてはいけませんよ。
街の人々の話に聞き耳を立てて情報を収集しターゲットに辿り着く。これも生きていくためには、とても重要なことです。
僕は彼に剣術だけを教えるつもりは毛頭ありません。
一人で生きていく術を身に付けて欲しいのです。
僕って立派でしょ。
「遅いな。見つけられないのかな。」
まあ、この広い王都では簡単には見つからないのでしょう。
それも仕方ありませんね。
「おい!大変だ!赤い刃が誰かと決闘しているってよ!」
「赤い刃!?あんな凶暴な奴らと誰が戦っているんだ!?」
「それが――ガキらしいぜ。」
「ガキ?そりゃあ戦っているんじゃなくて一方的にやられてるんだろ。」
「とりあえず見に行ってみようぜ。ステン通りだ。」
街の住人達の話から察するに……彼だ!
捕まってしまったのだろうか?
もし本当に彼が、しくじってしまったのであれば期待外れですね。
もう少し出来る少年だと信じていましたから。
まあ、何はともあれ行ってみますか。どんな形であれターゲットは見つかったのですから。
僕が現場に辿り着くと、そこには大勢の人だかりができていました。
僕は、その人込みを掻き分けて前線へ。
「――!!こ、これは!?」
僕の目に飛び込んできた光景に絶句しました。
皆の視線の中央に刃から真っ赤な血が滴っている、それはまさに赤い刃。しかし、その剣を持っているのはゲティではなく、紛れもなく僕の弟子でした。
地べたに転がる数人の遺体の中にはゲティと思しき人物も。
「君がやったのか?」
彼は笑顔で頷きました。
その瞬間、僕の全身は粟立ち、心の奥底からマグマの様に熱い何かが噴き出しました。
僕たちは、その場を離れました。そして、人気のない森へ入りました。
僕は何度か躊躇いながらも彼に言いました。
「僕と本気で戦ってみないか。いや、戦おう。」
僕には、はっきりと分かっていました。彼が、僕の願いに応じることを。
そして地面に剣で少年は字を書き始めました。
「いいよ。でも、ぼくのほうが強いよ。」
僕の中で何かが弾けました。
「面白い。こい!」
――結果は僕の惨敗でした。
唯一、彼に感謝したいのは命まで取らないでいてくれたことです。
僕は、まだ死にたくありませんからね。
その夜、彼は僕の元から旅立っていきました。
僕は、剣を置くことを決心しました。
きっと僕では一生彼には勝てないでしょう。
まったく恐ろしい化け物を弟子にしてしまいました。
しかし、僕は諦めが悪い男です。いつの日か、どんな形であれ君を倒してみせます。
それまで、どんどん強くなって待っていてください。




