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第7話  飛翔 お金がいくらあっても足りませんわ!

 違反金を取られて数日。カスターは旅支度のための金稼ぎに精を出していた。

 春なのでそろそろ護衛系の依頼が増えてくるし、そうなると最低限の貯えがないと依頼が受けづらい。

 残念ながら一攫千金みたいな割の良い仕事なんかないので泥臭く頑張っている。

 そんな生活の楽しみといえば、よく冷えたスライムだ。酷使した筋肉に最高。


  もう欠かせない!


 とカスターは毎日ヴィータにダイブしている。進化してさらに肌触りが良くなっているし余計にだ。

 けれど困ったこともある。

 カスターとしては、外は危険がいっぱいだしやめてほしいんだが、ヴィータは体の強度が上がってからというもの、勝手に宿を抜け出してカスターに着いて来るようになってしまった。

 器用なもので、扉の隙間から体をヌルンと出して鍵穴に入り、開けて出てきているらしい。宿のスタッフから「扉が開きっぱなしでしたよ」と言われて発覚した。

 進化後から数日一緒に過ごしているけれど技らしい技は出さないし、わが道を行く、と言わんばかりに道の真ん中を歩くのでどうしたらいいかといろいろ考えた。いろいろやった。説得とか。けどそれでも出てくるんならもういい。ヴィータがその気ならこっちがやることはひとつ。


  装備だ!

  なにがあっても死なない装備を手に入れてやる!


 カスターは就寝前に枕代わりのヴィータに抱きついて、うりうりと顔を埋めて決意した。



  ◇◇◇



「あ! 待って待って、やっぱ待っ」


 大きな翼がぐん、と空気を押してカスターは空へ舞い上がった。

 町の外れの広場が一気に小さくなる。ちょっと上がりすぎでは!?

 ビビりながら目を凝らして真下を見ると見物にやって来た人たちの塊が見えた。子どもの高い歓声が風と一緒にカスターの耳に入る。

 ヴィータはカスターの旅行鞄の中でカスターの服をでろでろにしているだろう。

 大きな鳥モンスターの背に力いっぱいしがみつくカスターの眼下には、雲に隠れる大地と地平線が広がっている。風圧対策のマスクがズレそうになって、羽毛に顔を埋めた。


 後ろから手が伸びてきてカスターのマスクのベルトを締めてくれる。

 ハンドサインで「オッケー?」と尋ねてくる。カスターは頷いた。

 この人は空路の運転手だ。

 幅広のベルトを胴と股と腰に回して命綱にしている。座っているかと思いきやふわりと鳥の背から浮き上がり空を飛んでいた。実際は鳥に引きずられているんだろうけど片手でベルトを操作する仕草が自然すぎて本当に飛んでいるのかと錯覚する。

 飛び立つ前に、命を預けるには信頼関係が大切だと言うので互いに自己紹介をした。

 彼女の名前はディーナ。趣味は各地のご飯屋巡り。目的地を言ったら地図に彼女イチ押し飯屋の印をつけてくれた。

 カスターたちが乗っている鳥はヒュールというそうだ。好物は人参。

 馬みたいだな、と思ったらつつかれた。

 命綱のつけ方や飛行中の姿勢なんかの指導を受けて飛ぶまで1時間もかかっていない。なのに彼女が良く話すのでやけに密度が高かった。そのうえこの急上昇。

 カスターは早くもへとへとだった。


 景色はものすごく良い。

 ディーナのように飛べたら気持ちいいだろうな、と思って横を見る。ディーナがぐるぐると回転しながら離れていった。無理だ。死んでしまう。

 カスターはひっしとヒュールにしがみついた。

 ヒュールの体が進路を変えるために傾く。羽毛の下の筋肉が翼の動きに連動して隆起した。


 目指すは国一番の大都会タントリリアだ。

 カスターが仕入れた情報によるとモンスター専門の装備屋があるらしい。

 テイマーの決まりごとがあるくらいなのでそういう装備屋自体は珍しくない。が、件の装備屋は取り扱い装備についても店主についても全く分からないのだ。

 デマかもしれない、とも思ったがギルドも知っていたしひとまず行ってみることにした。

 本当に存在していて変な装備が出てきたらそれはそれで面白い。

 それにその装備屋関係の情報発信者第1号になるかもしれない。それが魅力的じゃないはずがない。

 つまり好奇心だ。


 タントリリアまで休憩を二度挟む。

 休憩場所は開けた平地か木の上の二択で、事前にどちらにするかを聞かれていた。即決で平地だ。


  耳痛い。力入れすぎて胸焼けする。


 着陸した途端にカスターはヒュールの上にへたり込んだ。トイレも行きたいよぉ。

 そうは思うが重力が重い。

 カスターの斜め掛け旅行鞄がもぞもぞと動いた。

 隙間からヴィータの一部が出てきてチャックを開ける。開いたところで一度てろん、と鞄の中に広がった。もしかして真似してる?


「大丈夫ですかー? 最初はキツいですよね。あ、マスク取っちゃってください。トイレはあっちで」


 ディーナの指の先に建物がある。

 手伝いを受けてハーネスを外すとヒュールから降り立った。よろけそうになったのをなんとか踏ん張って耐えると、やや距離のあるその建物へ歩いて向かう。ディーナはぴょんぴょんと跳ねていて、なんというか元気だ。


「軽食を用意してるので、食べる前にちょっと動きましょうね!」


 本当に元気だ。

 カスターは「はぁい」と返事をして建物に入った。

 休憩中の運動については事前に理由が説明されている。

 長い時間同じ姿勢を取っていると血流が滞る。筋肉が硬直する。身体に悪い。

 カスターの理解はそんなものだが、プロが言うのだから従うのみだ。


「じゃあ30秒、ジャンプしましょう! カウントしまーす!」


 ヒュールが見守るなか、号令に従って飛ぶ。最初は着地の度にくず折れそうになったが、何度も繰り返したらしっかりしてきた。ヴィータはカスターの隣、ではなくディーナの隣で飛んでいる。なぜそっちに。

 飛んだあとは10分ほどの鬼ごっこ。ジャンプで刺激した筋肉を今度は動かそうという感じか?

 ともあれこれでわかったことがある。ヴィータの体当たりの威力が上がっていた。あとバリエーションも増えていた。一回目の体当たりは素直にぶつかってきてカスターを、ぼよん、ベシャ、と転ばせた。二回目の体当たりはぶつかる前にバッと広がってカスターを飲み込んだ。これも地面に転がる羽目になった。とにかく進化後の技の強化をはじめて実感できてちょっと嬉しい。

 そんなこんなで肩で息をするカスターにディーナが話しかける。


「しんどいのに付き合ってもらっちゃってすみません! お待ちかねの軽食なんですけど、ヴィータちゃんも食べられます?」

「あー、たぶん?」

「了解です! すぐ出しますね」


 ヒュールに括りつけられている数多のベルトや収納ケース。ディーナはそのうちのひとつを外して敷物の上に広げた。


  これは……!


 カスターは軽食に駆け寄った。目は収納ケースの中身に釘付けだ。敷物の上に両ひざ両手をついてまじまじと見る。収納ケースはディーナの指一押しで四方に広がった。イメージは仕掛け絵本だ。

 壁がペタッと地につく。その上には、販促画像では皿に盛ったサンドイッチが乗っていた。


「これぇ! 販売前からめっちゃ話題になってたのに店舗販売じゃなかったやつ!」

「そうなんですか?」

「え! 入手経路は?」


 上目で聞くと「お客さんから」と返ってくる。


「とっても便利ですよ! バッと広げられるのに中身が崩れないのが最高なんですよね、お客さんに出すのに最適で」

「でも魔力洗浄のみ!」

「そうなんですよ~! そこだけ不便」

「あとで触らせてください!」


 この収納ケースの分類名はピクニックセットだ。合計6個の区画分けがされていて、互いに干渉しない。夢がある。いいなぁ!

 ディーナは快く了承してくれた。ただし全部食べて中身が無くなったら、という条件つき。カスターは体調不良を忘れてもりもり食べた。

 これが一回目の休憩だ。6個の区画に入っていたのはお茶とちょっとしたサンドイッチと甘味。それぞれ二回分ずつ。ということはカスターが触れるのは二回目の休憩が終わってからだ。

 カスターはディーナが入れてくれたお茶を飲んだ。


「温度管理もイケるんですか!?」


 熱いくらいのお茶に思わず叫ぶ。

 ヴィータが飛び跳ねててろんと伸びた。縁をぴろぴろぴろと波立たせる。

 ヒュールに水分補給させていたディーナが愛想よく答えた。


「温かい物と冷たい物一緒に入れられるんです~!」


  いや、ちょっと、まじで欲しい。どこで買えるんだこれ。タントリリアか?


 休憩を終えてヒュールに乗り込む前に「盗まれないように気をつけてください」と真剣に忠告した。

 

『鳥運航 空路サービス(チサメ~タントリリア) [総合評価4.3]

  初回利用でしたので慣れない部分が多々あります。万全のレビューではないかもしれませんがご了承ください。これから利用しようかな、と考えている方には有用かと思います。

  出発地点のチサメは山間にある町です。

  空路サービスの利用申請はギルドで行いました。手数料は380ゴールドです。

  申請後3日で返事が来て(その時にはサービス担当者が鳥と一緒に来ていたみたいです)2日後に出発しました。

  空路サービスで運んでもらえるとはいえ、利用者も悠々と乗っていればいいわけではありません。

  頑丈なハーネスを装着し命綱で繋がってはいますが、身体を密着させて固定されるわけではないからです。しっかりとしがみついていないと空を浮くことになります。

  もっとも、運転責任者は飛んでいるあいだ浮いていることが多かったので、慣れた利用者は同じように飛ぶのかもしれません。私も一瞬楽しそうだと思いましたので。

  移動の主役の鳥系モンスターですが、乗り込む前に清潔にされているらしく、においなどは気になりませんでした。むしろお日様の香りで最高でした。

  飛行中は風圧対策にマスクを着用します。これはズレる度に運転手が直してくださいます。ちょっと固めなので皮膚が弱い方は少し値が上がりますがゴーグルと一体型のマスクにしたほうが良いと思います。

  私は今回長距離でしたので休憩が2度ありました。こちらは木の上か平地かを選べるので、お好きなほうで良いと思います。

  平地ではトイレ休憩と軽運動、軽食がありました。

  軽運動の内容は、(平地メニューかもしれません)30秒のジャンプと10分の鬼ごっこです。事前に説明があるかと思いますが、理由あってのことなのでクレームなどは控えて臨まれてください。飛行後の軽運動は結構きついです。

  私は翌日筋肉痛になって宿に篭ったので布団の中で「一気に移動してよかった!」と思いました。

  軽食も文句なしに美味しかったです。私の担当が趣味ご飯屋巡り、という方だったのでそのせいもあるかもしれません。美味しいものしか食べたくない、という利用検討者は《ディーナ》さんの指名をお勧めします。元気で陽気でよく喋る方です。こちらが話さなくても間を繋いでくださるので会話が苦手でも大丈夫です。

  空路サービスは性質上、利用者も命を預けなければならないサービスです。

  運転責任者のおっしゃることをよく聞くことが大前提です。

  皆様の楽しい遠征が安全な旅になりますことを願います。』





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