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第6話  テイムの作法 罰金は勘弁してください(泣)

 熊系モンスター討伐と解体5頭分。


 約1週間前に受けた依頼だ。

 カスターは1週間振りに町に帰ってきた。

 進化したスライムも一緒だ。つやつや、てろん、と日の光を反射させてカスターに着いてくる。

 テイムしたての頃みたいにカスターの首に掛けられていないのは弾力が増したからだ。

 そういうわけでスライムは堂々と歩いていた。

 カスターも意気揚々と歩いている。報酬のジャーキー1頭分ってどれくらいなんだろう、と想像する。楽しみだ。

 子どもがスライムに駆け寄ろうとして、親に腕を取られて強制連行されて行った。


  この辺のスライムは水色ばっかだもんな。


「こんにちは」


 町の入り口で門番に挨拶をする。ギルドの会員カードを見せて通ろうとすると呼び止められた。


「そのスライム、お仲間ですか?」

「はい。きれいでしょ」

「ええ。お名前をお伺いしても?」

「名前……えぇと、スライムです」


 門番は当たり障りのない笑顔でカスターを足止めする。カスターからは見えないが、門番の手元が動いて、紙が擦れる音がした。


  なんかまずいことが起こった気がする。


 カスターはスライムを腹に抱えて待った。ちょっと撫でる。


「登録されていませんね。これからですか?」

「登録?」

「ご存じない?」


 互いに見つめ合う。

 門番が呆れ顔でカスターを事務所に入れた。

 事務所から奥へ通されて別の門番に引き継がれる。案内されたのは狭い部屋。

 カスターは椅子へ、スライムは東海鋼製の籠に入れられて鍵を掛けられてしまった。机に置かれる。

 抗議しないのはまだそのときじゃないからだ。彼らは横暴ではないし、ちゃんと話ができそうな雰囲気なのが大きい。なんせ、スライムを入れるのもカスターにやらせてくれたんだから。

 門番は扉を閉めて、対面の椅子に座った。


「お忙しいところを引き留めてしまってすみません」

「いえ」


 腰の低い門番だ。カスターはそこに驚いた。


「まず確認なんですが、お名前と登録番号をお願いできますか?」

「はい。カスターです。番号は935668」

「……はい、ありがとうございます。ではお尋ねしますね。こちらのスライムですが、どのようにテイムされました?」

「えっとぉ……お茶で」

「お茶」

「はい。熊系の内臓を入れたお茶をかけてこねこねしたらテイムできました」

「それは、奇抜な方法ですね」


 門番が「ほう……!」と驚きながら紙に書き込みをする。

 テイム方法に関してはカスターも驚いているので誰が聞いても驚くだろう。

 スライムを心配して様子を見ると、スライムは籠のてっぺんまで身体を持ち上げようと試みていた。途中で脱力してぽよよんと表面が波打つ。


「ではもうひとつ。スライムのお名前はスライムでよろしいですか? どうやらテイムに関してあまりご存じでないようなので初回限定、ということでこちらで登録しようかと」

「えっ、いいんですか? ありがとうございます! 名前、えっ、どうしよう、考えたことなかったな」

「お付き合いは長いんですか?」

「3週間くらい? です」


 また書き込まれた。


  聞き出すの上手いなぁ。


 カスターは呑気に感心した。それより名前だ。

 うんうん唸って考えていると門番が助け舟を出してくれる。


「出会った場所とか、テイムした時の気持ちから考えると良いかもしれません」


 そう言われてカスターは当時のことを思い出そうとした。

 出会った場所は丘の草原。テイム時の気持ちは、死ぬな、である。

 改めて振り返るとスライムに関してはずっと「死なないでくれ」と思ってるな、とカスターは心中で笑った。


「じゃあ、ヴィータにします」


 意味は生命だ。ストレートなほうがいい。

 門番は紙とタグにそれぞれ名前を書くと、タグのほうをカスターに渡した。あとなんか細長い赤のブレスレット。手首に巻かれる。


「タグのほうは識別札です。町に入る前に装備させてください。こっちは、研修を受けなさい、というやつですね。勝手に取ったら警邏がやってきますから素直に受けてください。場所はギルドです」

「はい。えっと、札はどうやってつけましょう?」

「そうですねぇ。難しそうですよね」


 スライムを挟んでふたりで、うーん、と考えた。

 門番がスライムを籠から出す。カスターは試しに札をスライムの体に当ててみた。


「これつけなきゃいけないみたいなんだよぉ」


 とお願いする。

 手を離すとぱさりと落ちた。ですよねーと思いながら拾う。いや、言ってたかもしれない。

 門番が困った顔をした。


「野生ではない、というのが見た目で分かればいいので……しめ縄みたいにするとか」


 ものすごく困らせてしまっている。

 カスターは恐縮して、アドバイスは全部試すことにした。ズボンのベルトを外す。

 スライムに巻きつけてキュッと縛る。

 スライムはもにもにと座り悪そうに伸び縮みしていたが、やがて落ち着いた。


「いけそう!」

「よかった! では、こちらにサインを。お送りします」

「はい!」



  ◇◇◇



 カスターは町に入ったその足でギルドへ向かった。

 依頼完了報告と素材の提出、報酬の受け取りをする。あと研修。

 カスターから事情を聞いた受付のお姉さんは目を丸くした。スライム捕獲機改良版のときとは別の人だ。


「研修を受けていなかった……?」

「はい。実は」

「由々しき……いえ、すぐに手配します。受講中はお仲間はお預かりしますね」


 お願いします、とヴィータを渡す。

 お姉さんはヴィータを抱えた。


「テイムしてから3週間でしたっけ? 詳しい資料は研修で渡されると思いますけど、違反金の徴収があるので」

「えっ! そんな、手持ちないです!」

「研修明けのお仕事を見繕っておきますね」


 いったいどんな仕事を紹介されるのか。カスターは聞く前に研修室へ連行された。

 1対1で行われた研修の内容はこんな感じ。

 テイム登録のやり方。ギルドか役所へ行け。

 識別用装備義務について。野生と間違われて退治されないように必ずつけろ。

 仲間モンスターと一緒に利用できる店舗情報。店舗に表示されてる。マークはこれ。地図もある。街の案内所は冒険者が行ったらびっくりするから避けること。

 罰則について。違反しないように気をつけて。

 最後に、カスターのスライム特化で色々と相談に乗ってもらえた。主には装備についてだ。


「スライムですよねぇ。あんまり取り扱われてるイメージないなぁ」


  なんか、駄目そう。


「そんなにマイナーなんですか?」

「医療用が多いので。しかも、さっき見てましたけど進化してますよね。カタログを見た感じもほとんど需要がないみたいで」

「そうですか……」


 カスターが落ち込むと研修を担当したお兄さんが慌てて付け加えた。


「識別札は、認可を得ていたらなんでもいいので! もしやる気があれば開発するのも手かな、って思います」

「めっちゃお金かかりますよね」

「ですね、すみません。こっちでも情報収集してなにか分かったらご連絡します!」


 お兄さんは一番最後にカスターからブレスレットを取って送り出した。

 受付のお姉さんがカスターを呼ぶ。

 カウンターで弾むヴィータとその横に紙が3枚。カスターは自分の両頬を包み込んで紙を見た。


「日当で違反金を賄える依頼を選んでみました。少ないんですけど選んで行ってきてください」

「はい。これにします」

「はい、受理しました。お気をつけて」


 カスターが歩き出すとヴィータが床に飛び降りてカスターを追う。

 カスターはヴィータが追いつくのを待ってギルドを出た。

 選んだ依頼は『農園の植え付け作業(単日)』。報酬は違反金を払っても夕飯が食べられるくらい。

 今から行って明日の昼過ぎまで働けば終わりだ。カスターは昼飯代わりのジャーキーを噛み噛み農園まで歩いた。


『ギルド支給品 余空間仕様の腰提げポーチ [総合評価3.0]

  良くも悪くも支給品、という感じです。

  一言目からこんな風に言うと良くないでしょうが、特徴がない代わりに致命的な欠点もとくには見当たりません。とはいえ、個人利用となると仕切りがないことや革の質感など気になる点はあります。

  しかし、ギルド支給で用途が限られている状況であれば特に便利にする必要もないかと思います。

  ただひとつだけ、ハンモックと生ものを同じ空間に入れなければならないのは少し嫌です。

  解体系の依頼では撥水加工の袋なんかを持参するのが良いと思いますが、マナーの悪い方もいるのでそれだけでは対策しきれない面もあります。

  諦めて気にしないか、どうしても衛生面が気になる方はお泊りセットを別途用意すべきかと。

  私は直近で、あるモンスターと戦い装備をほとんど全ロスしたので選択肢がありませんでしたが、一番いい利用の仕方は、依頼関係品と私物をきっちり分けることだと思います。


  ここまでケチをつけるようなこと書き連ねましたが、貧乏冒険者の立場からは感謝しかありません。

 貧乏人にとって余空間加工のポーチが使える機会はこれしかありませんし、熊系素材5頭分を抱えて山中を歩き回り町まで帰るのはポーチなしには成し得ないことです。とても助かりました。

  皆さんも知っての通り余空間加工は特殊技術で高価です。

  それを支給品というかたちで冒険者たちに一時とはいえ提供できているのですから不便は当たり前と捉えるのが貸し出しを受ける冒険者のマナーなのかもしれません。

  冒険者の日々の活動を支えてくださっているギルド職員の皆さまへこの場を借りて感謝申し上げます。これからもよろしくお願いいたします。』

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