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第31話 実交渉 失念と課題 商売ってどうやるんだ?

 守りと長に話をしに行くことを決めたパルモルは相談役のマロウも一緒に連れて行くことにした。

 残される面々にはこのように言う。


「ボアの人々には祭りの日に全商品見てもらったわけですが、今回うまくいったら持ってきた商品の中から良さそうなものを絞って提案したいと思っています。皆さん各々(おのおの)ボアの人たちと交流してきていますからその視点で選んでおいてもらえますか?」

「はい!」


 カスターはふたつ返事だ。予定もないし快く引き受ける。

 他のメンバーも異論ないようで、パルモルはうんうんと頷いて長の家へ出発していった。

 馬車は裏に停めてある。

 カスターがさっそく行こうとするとコンラートに呼び止められた。


「なんすか?」


 振り返る。

 コンラートの視線は下へ落ちた。ヴィータだ。


「あとで構わないのでヴィータさんをお借りしてもいいですか? ティダとも一緒に散歩へ連れ出そうかと」

「いいっすけど」


 コンラートはボアへ来てからよく散歩をしているがただの暇つぶしだと思っていた。

 わざわざヴィータも連れて行きたいとは。

 カスターが釈然としない顔をしているとコンラートはそれに気づいて笑う。


「主題ではないですが、いちおうスライム会の思惑もあるので。ヴィータさんとティダを連れ出すのはボアの方々にスライムに慣れてもらおうという考えからなんですよ」

「ああっ!」


 ポンと手を打つ。すっかり忘れていた。


「忘れてました」

「そんな気はしていました」

「俺もなんかやったほうが良いことあります?」

「会に提出用の調査書作成がカスターさんのお仕事なので、そちらをお願いします」

「了解ですっ」


 コンラートはスライムの普及、カスターは秘境調査の報告書作成。役割分担を決まったところで念願の商品鑑賞だ。


「んっふふ、気兼ねなく見られるぞぉ!」


 願わくば単信メールや流木オーナメントのような微妙なやつではなく、心躍るものがありますように。

 外へ出る支度を終えたシーラとセリアとも合流して揃って馬車へ向かった。

 宿を回り込んで裏へ行く。

 途中の木に馬のフリアとマージットが繋がれている。

 運動のために日に一度、マロウとパルモルが二頭を連れて集落前で乗り回している。

 在庫が置かれているのは二号車だ。

 セリアが最初に荷台へ上がった。中に入る前に腰に手を当てみんなに言う。


「私が出してきますから、皆で見ましょう!」

「説明や情報共有が一回で済みますね」


 コンラートが、いの一番に賛成してしまったのでカスターは鑑賞スピードをセリアに握られることになった。


 ひとつめ。

 セリアはガラス瓶を出してきた。

 ポーションや錠剤などの薬瓶、細工に富んだ香水瓶、動物の形の一升瓶など。

 ちなみに一升瓶は一.八リットル入る瓶だ。


「羽の生えた鹿の瓶はないですか?」


 瓶を見ながら訊くと皆がカスターを見た。


「なにかのお話に出てくる生き物ですか?」


 そう言われてカスターは気まずげに苦笑いした。


  そういえば誰にも話してないしレポートにも書いてなかったな


 そう思って羽の生えた鹿の正体を説明する。


「《迷いの森》に出る鹿のことらしいです。マグノーから聞いたんで、俺もマグノーも見たことないんすけどね」

「へぇ。《迷いの森》は動物の造形を変えてしまうことがあるんですね」

「いや、わかんないっすけど」


 あとから全然違うじゃないかと言われても困るので、いわゆる「知らんけど」を連発する。

 するとコンラートが、そういえば、と話しはじめた。


「ボアの最初の守りは魔力がなかったと言い伝えられているらしくて」

「わぁ、いいですね! 魔力がなかったら体調不良にならない!」


 セリアが心底羨ましいという声を出す。

 シーラが荷台に上がって幕の向こうへ行った。

 コンラートはそれを目で追いながら続ける。


「ボアの人々はあとから来た人たちで、初代の守りは彼らの生活基盤を築いたのち姿を眩ませた、と聞きました」

「初代が森に住んでいたところへ人がやって来て住み着いたから初代は生きていく術を教えたあとで出ていったってことですか?」


 シーラが改めて話を確認する。持って出てきた布物を荷台のへりに置いた。


「最初期の生活ってどんなものだったんでしょうか」

「そこまではわかりません。ただ、集落の様子からこの場所も森だったのだろうな、と思います」


 集落の様子、と聞いたカスターは魚の形の瓶を置いて、宿の向こう側にあるはずの集落へ目を向けた。

 セリアが声をあげる。


「切り拓いたって事ですか? 体調不良の中そんなことするなんて、大変そう……!」


 セリアは森が関わると一段と反応が良くなる。

 カスターはシーラの広げる布製品を眺めるまえにコンラートに話しかけた。


「守りの家も森の影響を受けてましたけど、集落はなんで影響がないんすかね? 初代がなんかしたってことになるのかな」

「さぁ、それも伝えられているものがあるのかないのか……。ですが、この話を聞いたとき、ボアの方々が守りを重視する理由がわかったような気になりました」

「俺もそうなりますわ」


 カスターはテーブルクロスを広げた。

 シーラが先の会話を参考にしたらしく、鹿の柄のクロスだ。縁取りが赤い。


「これ、良いんじゃないです?」


 カスターはみんなに柄が見えるように持ち直して身体の前に掲げた。


「第一候補ですね! この余空間ボックスに入れてください!」


 セリアが木箱を傾ける。

 カスターはテーブルクロスを折り目に合わせて畳むと木箱にインした。

 余空間加工されているボックスに入れると荷物が一つになる。

 男性陣に運ばせようという魂胆が丸見えだが賢いし、たぶん運ぶのはカスターとコンラートだ。


  ヴィータとティダにも手伝わせよう


 カスターは次の品が出てくるのを待ちながらセリアに要望を出した。


「本とかないんすか? 刺繍の図案集とか、楽しめるお話がたくさん載ったやつとか」

「ありますよ! でも図案集のほうは微妙です! ボアで暮らしてる人たちには刺さらなさそうで!」

「あー……一応見たいです。物語のほうはどうですか? 山とか湖とかが舞台のが良いと思うんすけど」

「建国記も良いのでは?」

「守りの家になかったすか? あそこの子ども、勉強するって言ってたし」


 コンラートに訊いてみる。

 するとコンラートは首を振った。


「守りの家の子どもたちは読み書き計算と植生しかやりません」

「そうなんだ」


 なんとも狭い範囲の勉強だ。


  守りのつぼみがそのレベルなら集落の子どもは?


 当然のようにそんな疑問も湧いてくる。

 カスターに図案集が差し出された。


「あざっす!」


 一目見て思う。これは無理だ。

 海由来の柄、モチーフばかりである。

 セリアが建国記と分厚い物語集を木箱へ入れた。


 次に皆の前に出された品は、楽器だ。


「え、良いじゃん」


 知らずのうちに口から出てしまう。

 置かれたのは笛と弦三本の弦楽器だ。

 カスターに楽器経験はないが、ボアののんびりした生活リズムに音楽はぴったりに思えた。


「誰か弾けます?」


 その場の皆が一様に首を振る。

 シーラが、


「パルモルさんとマロウさんは出来るのでは? 仕入れるくらいですし」


 と言うのでひとまず木箱に入れる。

 次だ。


「家庭用蓄熱石です!」

「採用!」

「蒸し器!」

「採用!」

「塩!」

「絶対いる!」

「望遠鏡!」

「井戸の整備に良さそう!」

「お薬各種!」

「それは長と守りに相談してからっすね!」


 このようにして次々に商品を仕分けていく。

 そして残り少なくなった。


「次はこれです! 自立型人形、その名も小鳥のピピちゃんです!」

「はい、用途は?」


 カスターはすかさず訊いた。

 ただのおもちゃかもしれないしそうではないかもしれない。大事なことだ。

 セリアは元気よく答えた。


「最初に起動させたときの第一声がそのあとのピピちゃんの用途を決定します!」

「刷り込みを模してあるんですね」


 コンラートが言うとセリアが頷く。


「はい! もし失敗しても大丈夫! ちゃんと修正できるように特殊な操作方法がありますからご安心ください!」


 カスターは再び「はい」と手を挙げて訊いた。


「ピピちゃんに監視系の仕事はさせられますか?」

「えっ」

「いや、森の脅威って変わらないんで、もし森で行き倒れそうになってる人を見つけられるんなら便利だなって」

「なるほど! わたし、売り子ではあるんですけど入ってきた商品について覚えて売り込むのが主な仕事なので、カスターさんが言っているようなことだとパルモルさんに聞いたほうが良いかもです! あとで聞いておきますね!」

「はい、お願いします」


 セリアはピピちゃんを木箱に入れた。


  ……ちょっと欲しいかも


 カスターは余空間に吸い込まれるピピちゃんを見て、一瞬そう思った。

 ので、聞くことは聞いておく。


「セリアさんすみません。ピピちゃんはどこの商品で、どこに行ったら買えて、金額はいくらですか?」


 コンラートが久しぶりに楽しいことに遭遇した、という風に表情を変える。

 セリアは記憶を探るように考えたあとで答えた。


「タントリリアを道なりに南下した山のふもとのブーリジアっていう町だったかな。工房直販(ちょくはん)で、値段は確か……三千くらい?」

「想像より安い! ありがとうございます!」


 お礼を言う。

 コンラートが、会話が切れたので話しかけてきた。


「買うんですか?」

「面白そうなんで覚えとこうと思って!」


 意図を答えながらメモ帳にさっき聞いた内容を書きつける。

 ブーリジア、楽しみだ!


 残りも終えて、候補品の入った木箱をカスターとコンラートが抱えようとしたところでパルモルたちの話し声が宿の中へ入っていった。低めの声なので良くない結果だったのかもしれない。

 セリアとシーラが先に戻り、カスターとコンラートは重くなった木箱を運ぶ。

 この余空間加工は中の全体重量すべてを免除してくれるやつではないらしい。


「変なところでケチるなぁ!」


 うんとこよっこい、と運んで宿内、玄関脇へ置く。

 重いものを持って疲れた手を振りつつ、方針第二弾発表のときと同じように食卓へ座った。

 パルモルが紙を一枚出す。真面目な顔だ。


「急に訪ねていったのでこれですべての意見が出たわけではありませんが、いまの時点での長のお考えは伺ってきました。まず、『布の追加生産はしない』とのことです」


 取引の対象に布を掲げていただけにはっきりと無理だと言われるとやはり落胆する。

 小さなため息が聞こえた。

 駄目なら次はどうするのか。

 カスターはパルモルの言葉を待つ。


「次に、それを受けてこちらで提案した、外の様子を知る人間をボアにも、という内容に対して、長は『それは願ったりだが行かせるとすればそれは希望者からではなく守りから出す』とおっしゃいました。我々でいうところの留学にあたる考えでしょう」


 金持ちの文化だ。

 一介の旅人カスターからはその例えは距離を感じる。

 パトロン付きの旅かガイド付きの旅行のほうが身近だ。


「商会としては、これは意義ある機会だと思います。ですが、来るのが守りだとしても見返りなしに、かかる費用を全額賄(まかな)うような慈善(じぜん)はできません。経験を重ね外を知り、価値を産み出す。それを結実の日まで待つほど悠長に構える余裕は残念ながらない。私はすべて伝えたうえで長にこう言いました。『布が難しければ別の、この地ならではのものを持って行きたい』」

「あとは明日以降に持ち越されることになりました」


 幸先が悪いのか、思っているより良いのか、よくわからない。

 皆もそう思っているのか黙っている。

 パルモルが立ち上がった。


「商品の選定は終わりましたか? 見てみたいです!」

「あ、はい」


 セリアが木箱に駆け寄った。

 パルモルが椅子を持って近くへ行く。

 マロウがカスターへ向けて卓を叩いた。


「カスターさんは明日、朝一で守りの家へ。染色をそこで行うそうです」

「わ、そうなんすね! メッセンジャーみたいなことさせてすみません」

「お気になさらず」


 マロウは必要なことを言い終わると木箱のほうへ行った。

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