↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/37

第29話 戦利品お披露目 仕入れ目標の難易度高くね?

 マグノーに手を引かれて歩くこと少し。

 湧き水はすぐに見つかった。近くにあったらしい。


「全然気づかなかったな」

「うん」


 それもそのはず。

 ふたりの見つめる湧き水は水たまりにもならない程度のほんの些細な水源だった。

 水音もしない。


「魔力って、すげぇな」


 こんなものを見つけられてしまう。

 カスターは、固定する魔力操作と外の魔力を感じ取ることの二つをいずれ習得してやるぞ、と心中密かに決意した。


  あれ? 魔力がわかるようになったら玉手弾ももっと使いこなせるか?


「持って帰るもの決めようぜ」


 カスターは考え込み始める前に目的に意識を戻した。

 マグノーが頷いて離れようとする。

 カスターは慌てて追いかけた。


「離れたらバラバラに迷うかもしれないだろ。一緒に行こう」

「やけど、内緒やが」

「相手に見えないようにシャッと取ったらいいんだよ」

「むぅ……わかった」


 不満そうなのはなぜだ。

 カスターはマグノーの手を下から掴んだ。

 マグノーが湧き水を見る。


「水触りたい」

「あいあいさ」

「なん?」

「わかったよって言ったんだよ」


 どうでもいい事を言いながらマグノーが行くまま一緒に湧き水のそばにしゃがんだ。

 マグノーが指を出して岩と石のあいだから染み出る水にちょん、と触れる。

 次の瞬間にはその指がマグノーの口に含まれた。


「わ」


 目をくりくりさせて驚く。

 カスターは良くないものだったかと訝しんでマグノーの様子を窺った。

 マグノーがさっき舐めたほうの手をカスターの腕に置いて言う。


「兄やんもやって」

「えー? 美味かったとか?」


 言われたとおりに舐めてみる。

 口の中が仄かに暖かく感じられた。確かにこれは初体験では驚くな。

 水に触れる場所が後から熱を帯びる。

 口、喉、胃。

 飲み込んでから少し経つと身体が元気になったような気がした。


「これ、いっぱい飲んだらどうなっちゃうんだ……」

「な! こりゃええもんやが!」

「おう。ええもんだな」


  ……取扱注意としか思わん。


 こんなものに子どもを対面させてどうしようっていうんだろうな。

 マグノーはもうひと口舐めようとして手を伸ばしている。

 カスターはそれを止めて立ち上がり、マグノーの腕を取って吊り上げた。

 マグノーの立つ意思を確認してから腕を降ろす。


「面白くてもあんま口に入れないほうがいいぞ」


 そう言うと露骨に目を逸らされる。

 表情は気まずげだ。叱られたと思っている。

 それはわかるが言っておかないといけないことだ。

 カスターも気まずくなりながら発言を撤回はせずに一度周りを見る。


「他に気になるところは?」


 マグノーと繋いだ手をプラプラ揺らして怒ってないよーと念を送った。


「んや、もうええ」

「えっ! 俺まだなんだけど、ちょっと待って、すぐ決める」

「だっこ」

「は!?」


 持ち帰るものを探そうとあらぬ方向を見ていたカスターはバッとマグノーに視線を戻した。


「真っ青じゃん!!!」


 すぐに抱え上げる。


  えっとえっとすぐ帰ったほうが良いよなでも帰るって思ったら帰れないのかうわむずっ!!!


 足を出し引き、右往左往。

 カスターはマグノーをしっかりと抱きしめてぐるぐる回る思考に歯止めをかけようと唸った。

 落ち着くためにその場に座る。


「大丈夫だからな」


 マグノーの背をゆるくさすりながら目を閉じた。


  大丈夫だいじょうぶ……!


 ついでに自分にも言い聞かせておく。


 はー……


 息を吐いて魔力を均していく。イメージは湧き水。なんなら石。


  いや、湧き水を見つけたときのマグノーは森の魔力を感じていたから、自分の中よりそっちを見たほうが良いかも……


 カスターの左半身を撫でるそよ風。

 ふよふよとカスターの首元を擽(くすぐ)るマグノーの髪。

 カスターは左へ向けて歩き出した。

 湧き水へは魔力の流れに沿って歩いてきた。単純に考えて、帰りは逆だ。

 カスターは自分が持ち帰るなにかのことも忘れて、森の魔力の流れに逆らって歩いた。

 ところが、新たな問題に衝突する。

 途中で流れが変わったのだ。


「湧き水が複数あるってそういうことかよ」


 カスターは歯噛みして立ち止まった。

 ややもして新たな流れに乗ったら迷うと判断する。

 これはこれまでの旅人としての経験値だ。伊達に生き残ってませんから。

 よし、と息巻いて新たな流れと元の流れの境を縫うように歩く。

 元の流れの途切れるところでまた止まって辺りを見回した。


「あっち」


 弱弱しい声がカスターの耳元で響く。

 マグノーの指すほうを信じて直進した。



  ***



 棉が高く昇った太陽に照らされている。

 切り拓かれた《迷いの森》の、ぽっかり空いた棉畑。

 それを目にしたカスターは危うく気を抜きかけた。

 抱っこしているマグノーを揺すりあげる。

 ここはまだ森の中だ。

 カスターは棉畑を突っ切って、守りの家へ入った。

 水守が広場にいる。

 カスターたちを「おかえりなさい」と出迎えて、マグノーを引き取った。


「こんなになるなんて……なにか動揺するようなことがありましたか?」


 水守はマグノーの額や顔に触って体調を見ながらカスターに訊く。

 カスターは腕組みをして答えた。


「湧き水の効果が怪しかったんであんま口に入れるなと言ったらすぐ体調崩して」


 はた――思い至る。


  え、俺のせい?


 間違いを言ったつもりはなかった。しかし、それで体調を崩したのなら元も子もない。

 カスターは、なにを謝るべきか考えた。


「言い方が悪かったみたいで……」

「初対面でしたからね。こういうこともあります」


 水守は、よしよし、とマグノーを撫でた。

 広場の椅子に座る。

 ふう、と息をついて空を見上げた。


「ここは森が薄いのですぐ良くなりますよ」


 マグノーの回復をこの場で待つらしい。

 カスターは遠慮がちに隣へ座った。


 ガタンッ――!


 頭の後ろの森の建物からなにかの倒れる音がする。

 身体を捩じって窓から覗いてみるとコンラートがひっくり返っていた。


「えぇ……」

「一時間ほどあんな感じで」


 水守が愉快気に笑う。

 ティダが身体を細長くして左右にびろびろと揺れる。

 コンラートを挑発していた。


「……っ~~! ……っ」


 聞こえないがコンラートがティダになにか言っている。

 カスターから見えるコンラートはそれで最後になった。

 森の守り――ルゥワがカスターの覗いていた窓を開けてマグノーを一瞥する。


「体調が戻ったらボワへ」

「みんな首を長くしてるだろうね」

「えっ、ごめんなさい」


 カスターは二人に向けて手を挙げた。


「なにも持って帰ってません!」



  ***



 集落へ戻ると広場の様子が違っていた。

 高い棒が立てられ布が上端から地面まで広がりながら伸びている。

 そのようにして何本もの布が天幕のように陽を遮り、また華やかさをボワに増し加えていた。

 天幕の真下には白い布をかけられた舞台と台が設えられている。


「わぁ! うちの!?」


 集落の入り口からマグノーが駆け込んでいく。

 

「そ! お祝いやが!」

「外の飯もあるが!」

「見んうち背ぇ伸びたか?」

「そんな経っとらん!」


 マグノーは一瞬でボワの人々に馴染んでしまう。

 カスターはそれを見ながら、守りたちとコンラートと一緒に広場へ入った。

 舞台から少し外れた場所の東屋、の近くで手を振る人影はパルモルだ。

 馬車を持って来ている。


「祭りに便乗して出店できることになりました!」

「おお! 良かったっすね!」

「おや他人事。それでは困ります」


 普通に反応したらパルモルがスン、となった。

 「すんません」とうなだれる。失敗ってなぜか続いてしまうんだよな。

 コンラートが幌(ほろ)を捲(まく)った荷台を覗く。


「全部売るんですか?」

「料理も用意しています。食べ物で足を止めてもらって商品を見てもらう作戦ですよ!」


 興奮気味のパルモルから聞かされる作戦をコンラートは笑顔で聞いていた。

 両手にはティダが握りしめられている。

 ときどき動いて、あとは項垂(うなだ)れているので逃げられないようだ。乱闘が実を結んだようでなにより。

 対するカスターの手元にもヴィータが還(かえ)って来ていた。

 ふよふよふよ、と体表を波立たせながら大人しくしている。

 角が斜めに垂れているので酔っぱらった反動が来ていると予想する。


「お二人はどれが売れそうだと思います?」


 腕まくりをしたセリアが荷台を指して聞いてきた。

 カスターは「うーん」と悩む。

 ずっと見たいと思っていたのにいまこのときまで見ることができないでいたので不貞腐れる気持ちがちょっとあるのだ。


「俺たち商品をちゃんと見てないっすよ」

「いまから見てください!」

「やった!」


 カスターは邪魔が入る前に急げとヴィータをセリアに預けて荷台に乗った。


 まずは単信メールだ。


「カスターさん。その前にすこし良いですか?」


 パルモルだ。


「はい?」

「棉と森の関係は分かりました?」

「あ、えっと……」

「パルモルさん」


 カスターが言い淀んでいるとコンラートが割り込んだ。


「それについては私が聞いてきました」

「おお! どうでした?」

「森への対抗手段だそうです」


 カスターも商品を持ったままコンラートの調査結果を聞く。

 そもそもカスター自身が提起した疑問だ。大いに興味がある。


「『この地の棉は生命力が強い。その要因は森そのものである』。なので、ここから解釈すると、玉手弾と似たようなものなのかと思います」


 つまり、森で育った棉に付加されている生命力は結晶に宿るものとほとんど同じものだ、その棉で紡いだ糸、布は、玉手弾の散らして相殺するような不安定なものではなく、固定し持続させる鎧なのだと、そういうことだ。


  魔力も固定させる方向だったもんなー……


 カスターはすんなりと腹落ちした。

 持っていた商品を指先で撫でる。

 綺麗な曲線だ。単信メールである。

 パルモルがなるほどと考え込む。


「うまく仕入れられれば冒険者向けにも役人向けにも商品展開はいろいろありますね」

「仕入れられれば」


 マロウが荷物を運びながら水を差して行った。

 パルモルの眉が下がる。


「他に畑がなければ棉の栽培量はごく少量。わかってますとも!」


 最後はマロウへ向けての大声だ。

 パルモルは一声荒げて満足したのかカスターとコンラートに向き直った。

 なにを言うかと思えば今後の方針だ。


「《迷いの森》の集落ボア! この地の布を仕入れるための各種調整! やっていきましょう!!」

「諦めないんだ……。頑張ります!」


 カスターはひとまずやる気の有りそうな返事をする。そのために雇われてるんですしやりますよもちろん。

 商品鑑賞の時間が減るのが悲しいのもある。

 パルモルが握りこぶしを作って気合を入れる。よし、と。

 そして、踵を返して料理を作るシーラ目掛けて歩いて行った。


「良いものありました?」


 コンラートがティダを荷台の外に投げて振り返る。

 コンラートが動くと荷台がその場で揺れた。

 どこかからカラカラと音がする。なんだろ。

 カスターは単信メールを見せた。


「これは売れないでしょ」

「なぜ?」

「たぶん、これがなくてもわかる奴がいるから、かな?」

「そうですか」


 でも一応仕様は見ておく。通信距離は……町一個分。


「うわ、曖昧……。どこのメーカーだよ」


  パルモルさん、大丈夫か?


 カスターは人知れず心配を募らせた。


「発表がはじまりますよ!」


 セリアがヴィータを抱きしめて荷台を覗く。

 カスターは単信メールを元あったように仕舞ってから荷台を降りた。

 マグノーが壇の上に立っている。

 ポケットから出したものが台に置かれた。置く仕草をした。


「なん?」

「ほんにあるがや?」

「見えん」

「……空気か?」


 皆、戸惑う。

 ルゥワが簡潔に述べた。


「見に来るといい。触るな」


 水守が手表示で「どうぞ~」と舞台の前から台までを指した。

 誘いに応じて見た人は首を捻りながら戻ってくる。


「なんだろ」


 カスターはそわそわしながら正体の発表を待った。

 ボアの人々皆が見終わると水守が前へ出る。

 手を挙げると


 シン――


 と静かになった。


「はじめて見るよね。マグノーが持ち帰ったのは、湧き水の結晶です」


 ルゥワも言う。


「森の結晶の種だ」

「これを見つけるってことは、湧き水は本当に小さかったんだろうね」


 カスターはうんうん大きな身振りで頷いた。


「感度が良い」


  おぉ! ――拍手する。


 視線がカスターに集中した。拍手の文化がなかったっぽい。

 予期せず注目を集めてしまったので取り繕(つくろ)う。


「一緒に行ったんすけど、ほんとうに、岩が湿ってるくらいの湧き水でした!」


 瞬間、今度は集落が沸き上がる。

 長が舞台に上がってマグノーに棉を一株、進呈する。

 そして皆に言った。


「守りのつぼみよ!」


 歓声が上がった。


「ええぞ!」

「いっちゃん出来ええのやるわ!」

「次の実拾い一緒に行けるがや!」


  出来が良いのは布、実拾いは棉か木の実かな。いままで一緒に行けなかったんだから森に入るようなことだろうし木の実かな。


 カスターはとめどない思考を流しながら、口々にマグノーに話しかけるボアの人々と笑顔のマグノーを眺めた。



『《迷いの森》奥の集落ボア 調査レポート(4)

・湧き水へ行く試練について(経験含む)

 出発直前に《迷いの森》内に湧き水が複数あることを告げられた。

 ルールは3つ。

 なにも持ち込まないこと。協力すること。持ち帰るものは発表のときまで秘密にすること。

 手ぶらで行くことを余儀なくされたので手拭いを手首に巻いたが衣服の一部とされたのかお咎(とが)めなし。道中、役立ったので英断だった。

 森の魔力は湧き水へ向けて流れている。

 結晶は人の魔力から成るとは以前わかったことだが、今回の試練では新たに湧き水の結晶が結晶の種になるということがわかった。


・魔力操作

 この地の人々の魔力操作について。

 試練へ共に行くことになった少年マグノーによると、体内魔力を全身に均一に行き渡らせ揺らぎをなくすことで森からの干渉を防ぐことができるとのこと。

 実践してみたが、揺らぎをなくす行程の難易度が歩けなくなるほど高い。

 うまくなくすことができると自身の魔力が動かない分、森の魔力の動きや接触時の刺激を感じることができる。


・森と棉と布(コンラート調査)

 森が蓄積してきた人間の魔力が棉に宿る。

 森を切り拓き、棉を植えることで、結晶の原因となる人間の魔力すなわち結晶の素を棉に固定することができたことから栽培されるようになった。

 もとは結晶の生成数が増えすぎないための活動。

 栽培した棉から織った布が森の魔力に対して鎧のように作用したことは副産物的な反応だったといわれている。


 このことから、この地の魔力観は整え収め、維持すること、あるいは固定にあると考えられる。

 魔力操作も森と棉の関係も、果ては魔力が結晶となることも、行われていることは同じだからだ。』

 


『《迷いの森》奥の集落ボア 仕入れについて

・布

 この地の布は生活に欠かせないものである。

 第一に森への対抗手段として。

 《迷いの森》産の棉で織られた布であるというのがこの地の人々にとって死活問題にも等しい必需品なのだ。

 仮に代替の布を持ってきたとして、取引にはならないだろう。

 また、取引を困難にする要因として、その生産量もあげられる。

 現在確認できている棉の栽培地は《迷いの森》内、守りの家の周囲のみだ。

 立地からわかるとおり、棉の栽培は守りが行う生業のひとつとなっている。

 したがって、生産量云々の前に、栽培そのものがある種聖域と捉えられていることを否定できない。

 当地の布を融通してもらうには、ボアの誰かからでは負担が大きすぎるように思う。


 仕入れの際、話を通すべき人間は以下のとおり。

 長。守り。生産者(紡ぎ、染め、織り。加工品であれば加工者)。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。