第27.5話 ティダ
開け放しの窓から吹き込む風が廊下を通り抜ける。
突きあたりのサンルームを兼ねた共有スペースに胡坐をかいて座る人影がひとつ。
外を向いていて顔は見えないが背格好でわかる。
――コンラートだ。
守りの家に泊まることになったふたりは、その他の建物の二階に部屋を用意されていた。
コンラートの左膝の陰からティダの丸いシルエットが覗く。
「コンラートさん」
呼びかけるとコンラートの頭が半回転、こちらを向く。
カスターを認めると顔面に微笑みが浮かんだ。
「こんばんは」
「なにやってんすか?」
「ティダに食事をやっていました」
コンラートが身体をずらして自身の右側にカスターの座る場所を作る。
カスターはそこへ座ってティダへと視線を落とした。
コンラートの向こう側に彼の伸ばした人差し指を包むティダの赤い身体がある。
コンラートの血を飲んでいるのだ。
「テイムに自分の血を使ったんすか?」
「と、聞いています」
カスターはコンラートの言葉をどう受け取っていいものかわからず眉間に皺を寄せた。
思いつく限りの意図を思い浮かべると考え事をするとき特有の上目になる。
コンラートが後ろに片手を突いて上体を傾けた。ティダに吸わせている人差し指をおちょくるように動かしてティダを弄ぶ。
「そのときの記憶がないんです。幼かったので。死にかけていたらしいのでそのせいでしょうね」
「じゃあ……親御さんびっくりしたんじゃないですか? 息子が急にスライムを連れてきたんだから」
「私が運ばれるほうでしたけどね」
「あぁはは……たしかに」
直前に死にかけだったと聞いていたのにテイムしたら全回復、みたいなことを言ったなと思うとカスターは俄かに顔が熱くなってしまって、照れ笑いでごまかそうとした。
コンラートが付き合いで笑んでくれる。面白がっているだけかもしれない。
「カスターさんはどうしてこちらに? ナイフや玉手弾の整備はいいんですか?」
「使ってないんで、ま、今日はいいかなって。置く前にひととおり見ては来たし明日は出番なさそうだし。部屋にいてもヴィータ居ないし。お見舞いも……あんま知らないやつが行っても良くないし」
手でパタパタと顔を扇ぎ熱を冷ましながら忙しく答える。
コンラートはカスターに目を向けず、ティダの様子を見ていた。
「では、夕涼みですか。じつは私も、森のほうの守りが捕まらないので習うに習えず……暇を持て余しています」
言いながら前のめりに手を伸ばす。
卓上の蝿入らずを取るとそこから軽食と酒が現れた。
「頼んで作ってもらいました。食事は森、お酒は水の守りの方が担当しているそうです」
「へぇ、そこにも分担があるんすね。でも俺、酒はちょっと……」
「そうでしたか。残念です」
コンラートが徳利に触れようとする。するとティダがべちんと音がするほどの勢いで床を叩いた。ティダはいつも表現が強い。
カスターが驚いてそちらに顔を向けると視界の端でコンラートが揺れる。
「入れるだけ。食事中には飲まないから」
ティダは、信用できないとでも言うようにコンラートの口を覆う。絶対飲ませない構えだ。
コンラートは目を細める。そして機嫌よくお猪口に酒を注いだ。
温度を押さえた風が部屋と廊下を通り抜ける。
カスターは水差しからコップに水を注ぐとコンラートのお猪口へ向けて傾けた。
コン、と乾杯の音が鳴る。
「ここが森の中じゃなかったら護符を教えてもらったのに」
「あはは、ブレませんね」
ティダが食事を終えてコンラートから離れる。
ふたりは杯を傾けた。




