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第27話 森の守り 通過儀礼 え、俺も?

 昼食を終えたカスターたちは長(おさ)の家へ向かう。


「カスターさんのレポート、あれあり得るかもなって思いました! 子どもたちの布の質が違いすぎますもん!」


 そう言うのはセリアだ。カスターが昼食の席で公開した調査レポートの話をする。

 パルモルがセリアとカスターを順に見て言う。


「僕はもっと商売っ気のある内容を知りたいんですけどね。そんなに違うんですか?」


 商会長はレポートの内容に不満があるようだが話自体には興味を持ってくれているようだ。良かった。

 カスターは昼に持ち出した自分の布の話で説明しようとした。


「俺の糸はぼこぼこですけど、回数を重ねるとやっぱり上手くなるので、そういう糸のところを服に使うんじゃないかなと思います。十分な糸が用意できる頃には綺麗に作れるようになってるだろうけどそれ以前の糸の部分もあるからいろんな糸が混ざってそれなりの布になるんじゃないすかね」

「それがまた可愛いんですよね!」


 セリアが子どもたちを思い出してか破願で同意する。

 カスター的には可愛いというこの感性は分からないが自分の意見に好意的だと嬉しいものだ。

 まあ結局は、


「実物を見たほうがわかりますよ。パルモルさんは品を見る目があるでしょ」


 実物を見たらわかる、という部分でマロウが頷く。後半は反応なしだ。

 パルモルのほうは最後まで聞いてから満更(まんざら)でもなさそうに笑みを浮かべた。


「それはまあ」


 長の家へ着く。

 扉を叩くまでもなく長は家の前にいた。

 玄関前なのか庭なのか曖昧な境界に椅子を置いてお茶を飲んでいる。

 隣には仏頂面の男。


「はあ」


 守(も)りはパルモルたちが挨拶をできる距離に来ると先んじてため息をついた。


「いや悪いね。こいつぁは昔から不愛想で」


 長が腰を上げながら弁明する。

 敷地の入り口で立ち止まった一行の許(もと)へ歩いてくると守りも後に続いてやって来た。


「そこまでではない」

「えぇ、そうですね。ボアを楽しんで、と言っていただきましたよ」

「なんとっ」


 コンラートが擁護すると長が目を丸くする。

 長がこの反応では、守りの不愛想加減は筋金入りだ。

 カスターは半歩、守りへ近づいた。


「すみません。守りも糸紡ぎや機織りをするんですか?」


 尋ねて守りと目が合った瞬間、背後から腕を引かれる。

 引いたのはパルモル。

 カスターを後ろへ追いやって二人に挨拶をした。


「この度は集落内を案内していただけるということで! とても楽しみです」

「いや昨日までの話をこっちでも聞きまして。説明が必要そうなとこだけ共成りしようかと思案したんですわ。ちょっどこの守りもな来る日取りで、よいよい時期やがで!」

「……そぉーですか! なんともっ、良い思いさせていただいて!」


 長の訛りは感情の高ぶりに合わせてきつくなる。

 パルモルは誰が見ても脳みそフル回転だ。


  会長も大変だなぁ


 カスターはポケットに手を入れて他人事のように二人の会話を眺めていた。

 カスターの隣ではセリアが「どこに行くんだろう」とそわそわしている。

 コンラートがなにか言いかけて意識をセリアへ遣った隙に、ぬるんと出てきたティダに身体をまさぐられて断念する。


「ちょっとティダ」


 小声で抗議する声に全員の視線が集まった。

 コンラートはティダを引き剥がそうとするがティダの身体はコンラートの指を器用に避ける。その様さながら水を掻くよう、といったところだ。


「緑のほうは?」


 守りがカスターに話しかける。


「ヴィータです。あれ、言ってませんでしたっけ?」

「それはいい」


  訊いてきておいてなんだそれ


 釈然としない。カスターは冷静になるまでの一拍をおいて答えた。


「あそこで伸びてるやつです」


 さっき歩いてきた道を指す。

 道のわきの草原と道の境に長く伸びて脱力しているヴィータがいる。ヴィータはここへ来てから暇を持て余しているのだった。お茶を飲むときとティダと絡むときしか元気じゃない。


「動かないな」

「暇なんすよ。寝てたりして」

「寝ていて暇と思ったことはないな」

「ん?」

「どうした」

「いや……」


 会話がかみ合っていない、ということに気づいて戸惑った。


  どこからだ?


 思い返して特定して言いなおす。


「暇だからいま寝てるんじゃないかなー? って」

「ああ」


 納得したのか会話が噛みあっていなかったことへの気づきなのかよくわからない曖昧な相槌が返ってきた。

 カスターは続けるのを諦めて深追いせずに話題を変える。


「今日は俺たちだけじゃ入れないところに入れるって聞きましたけど」


 守りがカスターを見る。目が合った。いや、覗き込まれている。急に怖……。


「誰から聞いた?」

「え、コンラートさん」

「こちらの女性たちからお聞きしました」


 いつの間にかティダから解放されたコンラートが言い訳染みたことを言う。

 守りは「そうか」とだけ言った。

 コンラートが困り顔で薄く笑う。

 これ以上付き合っていると身が持たない。カスターは視線を逸らして仕切り直しのために深く呼吸した。

 長とパルモルが歩き出す。


  ***


 長の家のある丘を下り右へ曲がる。つまりは崖が目指す場所だ。


「この地の水事情について、これが結構えらい技使っとりまして」


 そう言って見せられたのは、崖に沿って設けられた柵の向こう側、集落から崖下の湖まで直下に伸びる管だった。

 長はその管の先端に取り付けられたレバーに触れて皆を振り返った。


「井戸です」

「井戸!」


 カスターは崖の縁に立って下を覗き込んだ。

 ここまで来ると、流石にそばに立ったときほどではないが、湖に落ちる滝の水音の圧が身体を打つように感じられるほど身近になる。なにしろ滝の規模が他と違う。

 逆に飛び込んでみたいと思うような雄大さだ。


 井戸と呼ばれた管は崖に張り付くように下へ下へと伸びる。

 直下とは言ったがよく見れば崖の其処(そこ)ここに池があり、管はその池を経由して湖へ至っていた。

 長がレバーを上下に動かす。

 すると各池に波が立ち、レバーのそばの水口から水が溢(あふ)れ出た。

 溜める容器のない水はそのまま排水口へ流れ込む。


「いま流れた水は集落の水汲み場に行きます」

「この距離をポンプひとつで汲み上げるとは! 魔法を併用されているんですか?」


 パルモルが喰いついた。


「いやそこまでは把握しとらんですね」


 長の返答はあっさりしたものだ。パルモルが肩を落とす。

 カスターはレバーに近寄った。


「俺もやってみていいですか?」

「どうぞ」

「わー、ありがとうございます!」


 カスターは場所を譲られるとさっそくレバーを上げて下ろそうと力を込めた。


「お、だいぶ固い」

「ぐっと、思い切って」

「はいっ!」


 長が隣で励ます。独特の距離感だ。

 カスターはほとんど力任せにレバーを下げた。

 少しの間をとって水が流れる。長が操作したときよりも水量が少なかった。


「慣れないと難しいでしょ。だから水守はみんなから頼られるんですよ」


  森と別に水の守りもいるのか……


「力自慢ってことですか? そりゃ頼りますよね。……どのくらいの頻度で水汲みに来るんですか? 定期的に来ないと水汲み場の水枯れちゃいますよね」

「大体一時間に一回の見回りで、状況に合わせて。雨水(あまみず)も別で溜めてるんでね」

「雨水は畑とかですか?」

「そうそう。さ、次に行きますか」

「あ、はい」


 長が動くと、思い思いに見学していたみんなも動き出す。

 次は、


「次は話にも出た畑を通って守りの家です! 外れにあるんでしゃっと行きますよ!」


 長とパルモルが並ぶ。

 一番奥にいたカスターは頑張らずに最後尾からついて行くことにした。コンラートがセリアやシーラに道を譲ったので隣同士になる。

 最前列ではパルモルたちが歩きながら話しはじめた。


「集落の大事な人たちの家にお邪魔してしまっていいんですか?」

「ええんです。今日ぉは守りがおるんで」

「素直に観光する者はめったにいない」


 長と守りが二人して肯定する。

 守りの言葉が肯定に当たるかは微妙なところだが。

 パルモルは前向きに解釈したようではにかんだ。


「ひとりでここに来ていたら、きっとここまで見せてもらえなかったでしょうね」


 カスターの隣でコンラートもご満悦である。


「こういうの好きなんすね」

「はい。未知のものが解(わか)るようになるのがなんとも言えず楽しくて」

「あー、それは分かります」

「対象は違いそうですけどね」

「コンラートさんは人とかのひっくるめたやつでしょ」

「ご名答です。カスターさんは道具か、見えるものですね」

「見えないものだけだと迷子になるんすよね」

「それは皆同じだと思いますよ」

「ですかね」


 カスターたちは話しながら周囲を見る。昼を過ぎたばかりで日射しが一番強いが進行方向は北なので眩しくはない。

 集落内の人々はその日の仕事があるようで、しかしそれに追われているわけでもない。

 東屋組も幼い子供らもそこにいなければいけないわけではなく、人の行き交いは緩やかに集落に活気を与えていた。

 森と集落のあいだの草原に子どもの群れが見える。

 長は広場をまっすぐ進み、集落を出た。そこから守りが前へ出て案内役になる。

 守りからパルモルたちに説明はない。長がわずか前を歩くようになったパルモルに声をかけた。


「守りらの家は森ん中にあるんですわ。棉畑も一緒にで世話ぁも守りらが」

「自分たちで栽培している訳ではないんですね」

「野菜やらはこっちでやっとるんです」


 パルモルが目を丸くして驚くと長は集落と守りとの分担を話す。

 カスターもへぇ、と聞くが、それより聞きたいことが胸中に生まれる。先頭の守りと最後尾のカスターでは話ができないのでここでは聞かないが隙あらば聞きたい。森と棉との関係に関することだ。

 森に入る。

 見るからに完全に森だ。石積みの目印も布も紐もない。

 そして《迷いの森》の効果もそのままだった。


「あ、やだ」


 セリアが身を守るように腕組みをして深呼吸する。

 それを見てカスターも数日ぶりに自分の魔力を意識した。

 ヴィータがカスターの両肩の上で踊る。


「ご機嫌だな……」

「ティダは私の背で泳いでいます」

「は?」

「平泳ぎのような動きを」


 スライムの冷たい身体が自分の背で動いていることを想像するとなんだか嫌な感じだ。擽(くすぐ)ったそうで。


  なんつーか


「ヴィータとティダって全然違いますよね」

「それはもう」


 コンラートは居心地悪そうに自身のうなじを撫でつけた。

 先を歩く守りが話す。


「棉だ」


 声のとおりすぐに森が開けて広い棉畑が姿を現した。

 パルモルとマロウの反応は弱い。

 森を歩いたのは僅かの距離だが久しぶりの強制体調不良に気力をやられたという感じだ。

 長はパルモルたちの様子を窺って「ほう」となにやら感心している。


「うちらとは程度が違うってぇホントなんですねぇ」

「現地民強しですか」

「違うぞ」


 発言は長、パルモル、守りの順だ。

 守りは同行者の体調不良をものともせず畑の只中へ入る。

 ヴィータがカスターの肩から地面へ落ちると守りの目がそちらを向いた。


「まだ熟していない」


 ヴィータはワイングラスを回したときのワインのように身を揺らしながら前へ進み、ほどなくしてカスターの上に戻ってきた。


  なにかやろうと思ったけどやっぱりやめました、みたいな?


 カスターたちは棉の花と実が混ざる中を道に沿ってまっすぐ歩いた。

 畑仕事をする人間はいまの時間はいないらしい。

 集落では滝の音が大なり小なり聞こえていたのがここでは聞こえないことに気づく。

 畑中央の守りの家は存在感十分だ。

 森の中とはいえここ一帯は拓(ひら)かれているので家に着くころには森の影響はほとんど感じられないほど薄くなる。

 パルモル、マロウ、シーラの魔力操作未習得三人がほっと息をついた。

 守りが門を潜るのについて行く。

 二階建ての建物が四角の形に広場を囲んでいる。家というより学校かなにかの施設を彷彿(ほうふつ)とさせる構造だ。


「右が水、左が森、正面がその他だ」


 守りが簡潔に説明する。その他とは?


「その他でなしに見習いとか言いようあるが」


 長が守りを諫める。


「学校的なもんですか?」


 カスターは建物を見上げながら訊(き)いた。

 守りの答えはやはり簡潔だ。


「それ以前だ」

「学ぶより前って事っすか? じゃあ守りの一族とかそういう感じで? 子どもがまとめて育てられる場所って感じですか?」


 カスターが負けじと問いを連発すると守りは面倒そうな顔をして森の建物に歩き出した。


「中から繋がっている」

「見に行っていいってことっすか!」


 カスターは守りを迷いなく追いかける。

 コンラートが「流石です」と言うとパルモル商会の皆が頷いた。


  ***


 正面、その他の建物の一階。

 その一室に木製のベッドが八台、二列に並んでいる。

 子どもが三人臥せっていた。


「それ以前」


 戸口から守りが言う。

 確かに学ぶ以前の問題だが流石に情がなさすぎないかと思う。


「これは、森の影響で?」

「守りは敏感な傾向がある」

「なす術なしなんですね」


 カスターが部屋を一往復するあいだにパルモルと守りがそう話していた。

 長が部屋の中を見て子どもたちの身を案じる。


「はよ慣れてもらわんと気ぃ揉みますわ」

「慣れの問題じゃないと思います」


 カスターがこう言うと長は困り果ててしまった。

 コンラートが守りに話しかける。


「セリアさんも敏感な方ですが、魔力操作でしのげています。良ければ」

「必要ない」


 バッサリ切られた。

 コンラートがカスターを見て小さく首を振る。

 揉めないための判断だ。カスターはそれがわかってしまったので一旦冷静になろうと黙り込んだ。

 廊下の向こうから青年がやって来る。

 カスターたちがやって来たのとは反対側から来たので水守と予想した。水盆を持っているし服も紺だし。

 彼は笑顔で皆に声をかけた。


「こんにちは。お客さんですよね、集落でよく見かけてますよ。長とルゥワも」


 やっぱり水守っぽい。

 パルモルが応える。


「こんにちは。お邪魔してます」

「ええ。子どもたちに水を飲ませるので」

「あ、すみません」


 カスターは水守に道を開けた。

 守りが廊下から水守に話しかける。


「減っているが」

「ああうん。明日か明後日かなぁってくらいになってるよ」

「希望は?」

「みんなを待ちたいって。ひとりは怖いよねぇ」

「そうか」


  何の話だ?


 カスターたちはいきなり始まった内輪の話に顔を見合わせた。

 長が説明してくれる。


「ここよりさらに奥に湧き水があるんです。見習いになる前にそこを目指して行ってなんか持ち帰ってくるのが必要なんですわ」

「なにを持ち帰るんですか?」

「子によって違っとってな、葉っぱやら枝やら水やら……結晶んときは集落で祝ったりもしましたな」


 ボアの人間が注目するイベントのような側面もあるんだろう。長は嬉しそうだ。

 カスターはそんな長に身を寄せた。


「その湧き水ってやつは部外者立ち入り禁止なやつですか?」

「行くだけならいいですよ」


 用事を終えた水守が水盆を脇に持ってカスターを見下ろす。

 守りが顔を顰めた。


「スライムは置いて行け」


 どんな考えでそうなったのかわからないようなことを言う。

 みんなを待ちたいと言った子の節目の日取りは明日になった。


  ***


 《迷いの森》中の湧き水まで行くならば、相応の用意が必要だ。

 カスターは集落へ戻るパルモルたちと一緒に帰ろうとした。

 しかし水守が笑顔でカスターに水盆を押し付ける。


「まぁまぁ、ちょっと手伝ってくださいよ」


 森の守りがカスターの上からヴィータを引き剥がす。

 カスターはギョッとして森の守りを見た。


「なんでスライムを掴めるんですか!?」

「掴めないものなのか?」


 守りは不思議そうにとろんと蕩(とろ)けるヴィータを眺める。

 コンラートが手を叩いて、


「凄いことですよ。私にも教えてください」


 と守りににじり寄った。

 ティダのこれまでの行いを思い返せばコンラートの心中察するに余りある。ティダからすると脅威だろう。

 カスターは、いまからティダの妨害がはじまるぞ、と予想した。


 案の定だ。

 ティダの赤い身体がコンラートの顔面をバチンと音を立てて覆う。

 コンラートは喋る間もなく顔面をこねくり回された挙句、なにをされたのかむせかえった。


「赤いのは嫌そうだが」

「気にしないでください」


 コンラートはティダからそこまでされても教えてもらうつもりだ。

 ティダはコンラートの両頬を挟んで変顔をさせたうえその頭をグイグイと揺らした。


「もしものときのためにそういうの必要だって」


 コンラートがもごもごと喋りにくそうに主張する。

 ティダはコンラートの抵抗しない手を持ち上げて揺らしたあと、コンラートの頭の上で丸い形を取り戻した。どうやら折り合いがついたらしい。

 水守が手を挙げて注目を集める。


「うちに大人数は泊められませんから、長、お客さんを連れ帰ってください。こちらのお二人はそれぞれやることができたようなのでお泊りです」

「え!?」


  明日また来るんじゃ駄目なのか!?


 守りが窓の外を見る。


「送ってこよう」

「うん、ふたりはこっちで案内しておくよ」


 水守は守りからヴィータを受け取ると、カスターから水盆を取ってヴィータを入れた。

 パルモルたちは「もう見学は終わりなのか?」と戸惑った様子で守りについて行く。

 カスターは水守に連れ去られるヴィータを追って水守の建物へ向かって歩き出した。

 コンラートもあとからついて来る。


「明日は森に持ち込めるものはなにもありませんからね」

「はぁ、はい」

「一緒に行く子と協力するのは良いです」

「はい」

「持ち帰るものは帰ってくるまで内緒にしてください」

「わかりました。……あれ?」

「カスターさんも参加者扱いなんですね」


 水守はガラリと扉を開けて、部屋中央の机上に水盆を置いた。

 机上にはほかにも水盆が並んでいる。

 部屋奥の扉から別の水守が出てきて水盆を壁沿いの台のものと取り換えた。こちらは水が入っている。

 ヴィータが水盆から出ないので壁沿いに運んだ水守が困っている。

 こちらを振り返るがカスターたちをここまで連れて来た水守は、


「染めの茎と葉を煮だしてあげて」


 と言いおいて部屋を出た。


「いやいや返してください」


 カスターとしては当然こうなる。


「寝る前にはお返ししますよ」


 水守は階段を登ってその他の建物へふたりを導いた。



『《迷いの森》奥の集落ボア 調査レポート(3)

 長のご厚意で分かったこと、まとめ。

・守り

 森と水の守りが存在する。

 水の守り。

 集落で消費する水を管理している。大部分は崖下の湖から汲み上げる。

 まだ水汲み場は見ていないが、湖から汲み上げた水は水路を用いて無駄にならないように集められていると察せられる。

 他に、雨水も活用しているらしく、こちらは主用途が畑だ。

 森の守り。

 説明が少なくわかっていることは少ないが、森内で生成される結晶のことや森の仕組みと拡大の要因を知っていたことから森を管理していると思われる。

 守りの家までの案内や関所との関係も加味すると水の守りは集落内部、森の守りは森とそれより外のことを司っているのかもしれない。


 守りの段階。

 守りになる人間は森の影響を特に強く受ける傾向にあるようだ。

 推察するに集落までは森の影響が及ばない以上集落の子どもたちは一度は守りの家に行くことになるのだろう。

 最初の選別がそこで行われ、森の影響に慣れるまでを床に臥し、回復したら見習いになるためまた森に入る。無事に帰ってきてやっと見習いだ。

 このとき森に入った子どもはなにかを持ち帰ることを要求される。

 ただし、ただ持ち帰ればいいのではなく、湧き水のある場所までは行かなければならないらしい。

 《迷いの森》の人を迷わせる性質を思うと、目的地のあるこの試験まがいの行事は難易度が高い気がしてならない。


・棉

 守りの家の周囲に棉畑がある。

 集落の皆が糸を紡ぎ布にするための原料が守りの管轄であるということだが、《迷いの森》で育てられているというのはなにか大切な意味があるのだろうか。

 この意味によって、この地の人々が糸や布に抱いているものの正体がわかるだろう。』

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