第21話 ミーティング 俺のレビューの読者が増える
ガリングがパルモル商会に接触した翌日、九時。
パルモル率いる商隊はその構成員セリアをタッドの家に置いて待ち合わせの広場へ到着した。
家を出る前にタッド宅の空気を新たに相殺しているため、外に出なければしばらく大丈夫なはずだ。加えて昨夜、コンラートがセリアとタッドに魔力操作の基礎を教えている。森の影響を抑えるまではいかないが一刻も早く自分たちでも対処できるように、留守番をしているあいだにも二人には新たな修練課題が課されていた。
カスターも護符を作れるようになるために魔力操作が必須なのだが影響の大きいセリアやタッドより優先されるほど喫緊の動機でもない。
カスターは魔力操作は一旦脇に置いて、森の問題解決に集中しようと決めていた。
シーラには二人の世話を任せている。
カスターたちが広場につくと、役舎からガリングを先頭に調査隊が出てきた。
「パルモル商会の皆さん。招集に応じてくださってありがとうございます。《迷いの森》拡大の対策会議ですが、対抗策実演はやはり外でのほうが環境も近いと判断してまずはここからはじめます。調査隊の紹介はそのあと会議室で行いましょう」
「これはこれは、歓迎いただいてありがとうございます。我々の道具が皆様のお役に立てればこれ以上のことはありません。ではさっそくお求めに応じまして実演いたしましょう。玉手弾です!」
カスターは円筒に空気を採取しなおして構えた。
言っておくが、パルモルと打ち合わせなんてしていない。
内心「えぇっ!?」という驚きでいっぱいだ。紹介が立派すぎる!
とにかくいまは撃つ!
引き金を引くと細かな光がパチパチと激しく明滅しながら地に到り、着弾点から広く渦を巻いて風が広場を一周した。
まだ人が集まっていないときに採取したほうがよかったか……。
カスターはまだはっきりとは言語化できないまでもそんな風に思った。
調査隊の感触は良い。
彼らは広場に突然発生した突風の様子を見に出てきた人を誘って広場に入れる。それから体調を聞いたりなどして効果を確かめていた。
「派手ですね。範囲が非常にわかりやすい」
ガリングがパルモルに話しかける。
カスターは思わず割り込んだ。これ以上評価を上げられると困る。
「毎回撃つたんびに違うんですよ! 今回は反応が大きいほうで、一見何も起こってないように見えることもあるしそよ風だけのときもありますし!」
「毎回違う? それはおもしろい」
カスターはちょっとは警戒して欲しくて言うのだがガリングはむしろ興味を惹かれたようだった。
やってみたいとか言われたら責任持てないぞ!
「会議! しましょう! ほら、俺たち皆さんのことまだなにも知りませんし!」
「そうですね」
パルモルがカスターに同調する。
ナイス、パルモルさん!
商人だから損得勘定の感度が高い。マロウさんに鍛えられているということだろうか、もともとか。わからないがとにかく助かった。
「みんな、会議室だ。部屋もこうしてもらおう! エイ老、いまは一時的に広場は森の影響を受けない。来られる人を集めて体験してもらってくれ」
「ほうほう! なんか調子が良いと思ったら……わかりました!」
ガリングは調査隊に呼びかけ、エイ老と呼ぶ壮年の男に後を頼むとカスターたちを役舎の会議室に案内した。
着くまでにパルモルとガリングが話す。
「いやぁ、あんなに大々的に紹介してもらえるとは思っていませんでしたよ。善行は隠れてやれという言葉もありますからね」
「昨日、報酬を考えると言ってしまいましたから。商会の皆さんのこれからの働きに見合った価値をお返しするにはこのくらいは必要です」
「きちんと考えてくださっているようで、ありがたい限りです。どんな報酬がいただけるか、楽しみにしていますよ」
カスターがなんの気なしに聞いているうちに会議室に着いた。
部屋に入る間際にパルモルが最後の雑談のひとつとして、
「エイ老の『老』っていうのはなにか役職名ですか?」
と訊く。これにはカスターも聞き耳を立てた。
「町長や村長のようなものです。普通に呼べば関所長となるのでしょうが、私と混同して捉えられてしまうので」
「なるほど、いろいろですね」
雑談らしく深堀りはしない。
カスターも納得だ。通り抜けたり寄ったりするだけの旅人たちには関係ない話でもある。
調査隊の構成員にはまだ決まった役割がないらしく、名前だけの紹介だった。覚えられるわけないだろ。
必要になったら直接聞こう
カスターは覚えようとするのを早々に諦めた。
会議が始まる。
開会宣言後すぐマロウが手を挙げて皆に紙を配った。
「カスターさんが過去に玉手弾について書いたものです。参考までにどうぞ」
タントリリアを出る前に書いたレビューだ。いつの間に用意したんだ。
カスターは気恥ずかしい気持ちで会議参加者を見渡した。
パルモル商会との顔合わせ時にも読まれたが今回は約九人がカスターの目の前でレビューを手に取っている。
いつもはギルドの情報共有ファイルに挟んだり、調達するときに利用したお店に渡したりで公開しっぱなしなのだ。目の前で読まれてその場で反応が返ってくる状況に慣れていない。
カスターは手元のレビューに目を落とした。
『魔道具メーカー カッター社 玉手弾(旧式) [ 総合評価3.7]
こちらは船と船との連絡手段として使われていた信号弾だと聞いています。
私が譲り受けたのは旧式モデルで、約四〇年ほど前に現役で使われていたそうです。
まとめるためにメーカーの方から話を聞いてきました。
それによると、旧式が使われていた期間はわずか五年ほど。自然由来の魔力を使用する都合で威力にムラがあり、事故件数が無視できない件数だったためと判明しました。
確かに、信号弾としか考えていなければこの上もなく扱いにくい代物だと思います。ですが、私にくれた人は「空に打ち上げるだけだから」と深刻には考えていないようでした。色がわかればいいのだと。
しかしメーカー側のお話では、現場からの苦情がままあったようだと聞きました。
くれた人の詮索はしないでおこうと思いますが大切にしていたのは間違いないようで、三〇年近く経っても使えるレベルで整備されているのは珍しいそうです。
さて、私のほうでもこの玉手弾なるものを試してみました。
まず構造についてですが、サイズはさておき魔力を込める円筒と実際に打ち出すための装置とのふたつの部品から成っておりまして、円筒には自然物をそのまま入れる仕様となっています。
私は水で試してみることに決めて、「水たまり、噴水、濁流」の三種の水を採取しました。
海に向かって打ち出して分かったことは、自然界にあって強い力の働いている物ほど魔力になったときに威力も強く打ち出されるという事です。
ちなみに打ち出された魔力はコントロールできない魔法という感じでした。活かし方は不明瞭です。
他に、その場にあった空気を打ち出したときには光の膜ができて目隠しのようになりました。これは使えそうだと思いましたが使う場面が来なければいいと思います。ピンチな状況という事でしょうから。
また、メーカーさんのお話にもあったとおり玉手弾の欠点は予測ができないことでしたが、友人がカフェオレとコーヒーで試したときには結果に類似の点があった為、採取の際の条件をうまく固定できればもしかすると引き出したい効果が出せるようになるのかもしれません。
それにしても自然物だと難しいのでしょうが……。
ある意味職人芸が必須の道具のような気がします。
興味のある方は船に携わる方から譲り受ける方法が確実かと思います。試用に際しては完全自己責任ですので、譲ってくださった方にクレームを入れるのはお控えくださいますと幸いです。
心底腹が立ったという方はメーカーに返却してくださいますと他に事故に遭う方も減りますのでそのようにお願いいたします。これはメーカーの方からのお願いでもあります。
現行の玉手弾(名称:信号弾)は円筒に入れる魔力を専用のカートリッジ式にしたので信号弾としてしか使えないようです。』
会議に使われると知っていたらここに追加で「動物と人間由来の魔力は厳禁です!」と書いている。
自分のレビューを読み返してカスターは、広場で反応が大きかったのは人が多かったからだとの考えに辿り着いた。
つまり、採取した空気中に人間の呼気が混ざっていたということにならないか。
いや、森のなにかが人間に引き寄せられて森の濃度が高くなっていたからか……?
カスターはムムム、と眉間に皺を寄せて考えてみた。
「この、カフェオレとコーヒーの結果についてもっと詳しく聞きたいんですけど」
調査隊の一人がレビューを指してカスターに言う。
カスターは答えた。
「これを試した人は、カフェオレを自然物と動物性に分けて考えました。カフェオレの材料はコーヒー豆、お湯、ミルクです。カフェオレとコーヒーの類似の結果はぬかるみでした。ミルクの有無での違いは床が溶けるか溶けないかでした」
「そ」
カスターは隊員の言葉を遮った。
「森での経験を加えてもう一度考えると、もっと細かく分類すべきだと思います。例えば水は自然そのものですがお湯にするときには火の要素が加わります。更にどうしても人の手が不可欠なことから人由来のものが入っている可能性を否定できません」
隊員は言葉を引っ込めてレビューを持ちなおす。けれど言葉では降参を示した。
「……ええと。どう考えていいかわからなくなりました」
そこへガリングが言葉を差し挟む。
「まだ屋内での玉手弾を見ていない。それを見てからまた考えたいと思います」
「はい。皆さんは慣れっこかもしれませんが我々はまだ日が浅いので実はちょっと、限界です。カスターさん、早く撃っちゃってください」
「あ、はい」
カスターは部屋の空気を採取しながら環境を観察した。
会議室自体は十五人収容程度の広さ。いま居る人数は自分を含めて十人。体調不良になりにくい人間が大半だけど、森で光の粒子を観察したときにはコンラートにも引き寄せられていたから体調不良の原因っぽいと考えがちの人間の魔力はあまり考えなくてもいいかもしれない。やっぱ素直に人数か。さてどうなる?
カスターは玉手弾を撃った。机があったことと座っていたことから今回は天井へ。
あ、試してないパターンだ……方向的には信号弾に近いかも。そういえば本来の用途で使ってみたことなかったな。
天井に着弾した魔力はそこを中心にして弾けた、ように感じた。風も起きなかったし目に見える変化があったわけでもないが……。
着弾点の真下にコロン、と珠が落ちる。青みがかった碧。
なにかが生成されるのは初めてだった。
ヴィータがぴょーんと飛んでこの珠の上に乗る。
後にはなにも残らなかった。
「ヴィータ!!?」
カスターは戻ってきたヴィータを揉み込む。
「そんなわけわからんもの! ぺっ、しなさい!」




