第20話 微罪 世のため人のため、励ませていただきます(キリッ)
関所の責任者カンチェスター・ザン・ガリングの頼みはこうだ。
「《迷いの森》へ行かれるのであれば、範囲拡大の原因特定と解決にお力添えいただきたい」
「そんなまだ名乗りあってもいなければ許可書を持っているだけの人柄も分からない集団ですよ? 慢性的な体調不良には同情を禁じ得ませんが、こちらにも消耗品に限りがありますし目的や予定もありますので関所に長くお世話になるわけにはいきません。まずは詳細を聞きませんとなんとも言えませんね」
パルモルが即答した。こういう場面ではやはり商会を率いている人、という感じがする。
ガリングはパルモルの拒絶とも歩み寄りとも取れない言葉に目を伏せた。
「私はカンチェスター・ザン・ガリングです。許可書受領者についてはあらかじめ目を通していますので急いでしまいました」
「お気持ちはわかります。余裕がないんでしょう。私はカルシステン・パルモルといいます。パルモル商会を立ち上げておりまして、今回はこの先の集落へ販売と仕入れに行く予定です」
代表二人が名乗り合う。
次にパルモルはカスターを指した。
「彼が体調への影響に対抗する手段を持っています。遠征に際し雇った方で、冒険者です」
カスターは「うっす」と気安い挨拶で済ませてあとはふたりにお任せしますという態度を取る。でしゃばる必要もないのでこのくらいでいい。
ガリングも頓着せずに本題に入った。
ちなみに家主のタッドと呼ばれた男とその友人の清掃係はまだ同じ部屋にいる。
タッドの身体が辛かろうということで、セリアに二階へ行ってもらったところ玉手弾の効果が薄かったようですぐ降りてきたためだ。清掃係が強いてタッドをソファに横たわらせている。
ガリングが卓の上に両手を組んで前のめりに口を開く。
「まず経緯をお話しします。森に異変があったのは約三週間前。この関所は森への門を兼ねておりまして今回のような異変には最初に影響される場所です。我々は森の影響が関所の人間に現れた時点で、直ちに使いを王都へ向けて出しました。しかし王都から救援や調査隊が来る頃には今のようになっておりまして……物資自体は運ぶ人々が回復用品を消費しながら来ることができるのですが、調査隊のほうは優秀な人間が多いからなのか、あまりの体調不良にここまでたどり着けない現状なのです」
「それで回復用品が不足しているんですか」
「門番の態度が悪かったようで」
パルモルがはは、と笑う。そうして流そうとしたが無理だったようだ。
「私はそれに関してはちょっと把握していないんですけれども」
「それより、関所の皆さんは独力で調査を?」
「できるように進めています。比較的不調の軽いメンバーを集めて調査隊の編成まで終わったところで。まぁそれも日によって変わるんですけどね」
そうとう苦戦しているようだ。ガリングもお手上げだという風に笑みを浮かべている。そして話を一行への要求へ運ぶ。
「お頼みしたいのは、さきにも申しあげたとおりです。原因特定とその解決。パルモル商会の皆さんの懸念点である物資についてはこれから届く物資から必要な物を融通します。本来の日程に戻られる際にはいまお手持ちの物資の水準まで整えてから出発していただいて構いません。その頃にはここら一帯も通常に戻り、人も物流も戻るはずです」
「そうしていただければありがたいですが」
「ただの人助けでは弱いですか」
ここでパルモルも困ったように眉を下げた。
話し合いは頼みを引き受ける雰囲気に寄っていてここからは報酬の交渉だ、
「そうですね。物資を融通いただいても、日数が嵩めば赤字になります」
「そうですか……。こちらで出来ることは少ないですが、報酬については前向きに検討します」
ガリングがあっさりと報酬を匂わせる。
しかし続く言葉が問題だった。
「正直、いまはあまり先のことを考えられないので、少しの可能性にも賭けたいと思っています。皆も反対しないでしょう」
「そうでしょうね」
「これ以上を、と言われるとあとは、門番への制裁、家屋侵入、この二点について、解決をもって不問とするくらいしか」
パルモルはにこりとして頷いた。マロウを呼ぶ。マロウは前へ出ると、
「お引き受けしましょう」
了承を決定した。
「ありがとうございます。詳しくは明日、役舎で詰めましょう。九時ごろに広場へお越しください」
ガリングはそう言うとタッドに声を掛けてから役舎へ戻っていった。
パルモルたちも帰り支度を始める。
するとタッドが言った。
「皆さん、宿泊費がかかるでしょうからよければこの家を使ってください。人がいると僕も張り合いが出て助かるのでぜひ」
セリアもそれに便乗する。
「お言葉に甘えましょうよ! 宿に戻る間にまた具合悪くなりますし!」
こっちは欲にまみれている。気持ちは分かるが。
コンラートが笑顔でセリアとタッドに絡む。
「おふたりには魔力操作をお教えします。身につければ体調不調がマシになりますから」
「えっほんとに? ありがとうございます!!」
セリアがコンラートに抱きつく。
一行はタッド宅へ世話になることになった。




