第19話 思わぬ足止め お手当って出ますか?
カスターとコンラートは前途の目途が立ったと喜んで報告に戻った。
「カスターさんが玉手弾というアイテムを持っていまして、自然のものを用いてそのものの持つ効果を引き出すという道具です。扱いの難しさからすぐに製造が取りやめになりましたが今回はそれが役に立ちました。体調不良に関しては玉手弾で解決します。具体的に説明しますと、森に入る前に採取した日光を含む空気を玉手弾から発射したところ光が霧散後我々に引き寄せられてきました。そのことから森の反応として、人間に引き寄せられる性質があることがわかりました。次に森の空気を発射したところ、一度目はなにもなく、二度目は森に入る日射しに応じた光が生じました。森の外からの空気と比較しますと引き寄せられて来ないという違いがあったので試しに私が護符を作成しました。森の影響下にあるときはままならなかったのですがこのときは問題なく完成させられたので、玉手弾使用後の環境が森の外と同じになっていると結論付けました。森のなんらかの因子に対し同等のものをぶつけることで相殺できたものと考えています。ですので結論としては、体調面に関しては解決しました」
コンラートが説明する。
商会側からは素直な「おおー」という感嘆の声と拍手が返ってきた。
パルモルが笑顔で言う。
「その玉手弾というのを実演してみてくれますか?」
「了解です!」
カスターはさっそく玉手弾に円筒を装着した。中身は帰りに採取したものだ。いまや三つの円筒はすべて森の空気が入っている。
人に当たっては大変だ。床に向けて発射口を向け、引き金を引く。
発射と同時にサァ――と風がそよいだ。
着弾。
床から天井へ空気が膨張し、逆巻く風によって髪が煽られる。窓ガラスがカタカタと音を立てるがなんとか割れずに堪えた。
静寂がキィン、と耳につく。
つかの間の不快感ののち、フッと呼吸がしやすくなった。
「おお、楽になりました!」
パルモルが興奮した声をあげる。
マロウも身体の動きを確かめながら、
「読んではいましたが、嵌まるとすごい道具ですね」
と褒める。
カスターはそれより、発射後の作用が違うことに困惑していた。衒いなく言えば――
――怖い。
いつか事故りそうだ。
不調の緊張から解放された面々はカスターの心中に気づかない。安堵の空気が部屋に満ちて彼らの顔に笑顔が浮かんでいた。カスターは円筒を本体から外してそれぞれを仕舞う。
そのとき部屋の外から足音が近づく音がした。部屋の戸が叩かれる。
「はーい」
パルモルが返事をすると宿の清掃係が顔を覗かせる。
「すごい音がしましたけど、大丈夫ですか?」
関所の門番は最悪だったが中の人は親切だ。
「ちょっと実験をしていて。体調はいかがですか?」
コンラートが問いかけると清掃係は目を丸くした。
「あれ……そういえば」
清掃係は不調が重くなかったようだ。
「よかった」
けれどコンラートを無視して慌てだした。
「友人が本当に酷くて、ほとんど食べられてないんです。これは様子を見に行かないと。失礼します!」
低頭。横様に廊下を向いて扉も閉めずに駆けていった。
「心配ですね」
シーラが言う。
カスターはおずおずと手を挙げた。
「友人さんの居場所がどこか知りませんけど、玉手弾の範囲までは確認してないので……さっきの人途中でまた具合悪くなるかも」
「なんですって!?」
パルモルがガバッと立ち上がった。
全員に向けて言う。
「自分たちのせいで体調不良者が出るのは森の効果を加味しても話が変わってきます。彼について行きますよ! 範囲がわからないので集団行動! カスターさんは玉手弾を使いつつ範囲も見てください」
「はい!」
セリアも叩き起こされて全員すぐに部屋を出た。
受付で清掃係の友人の居場所を聞き、あとを追いかける。
関所内の広さは集落というほど広くもない。
所狭しと施設が並び、役舎と兵舎官舎が最も幅をとっている。あとは訪れる人々の用を足すために必要なものとそれらを支える人たちの家があるのみ。
広くはないが建物の中に入られると姿は見えない。
一行は清掃係の友人がいるという官舎裏の家を目指す。しかし両門が見える広場を横切る僅かのあいだだけでその歩みは妨げられることになった。
セリアが泣き出したのだ。
「気絶させてください……!!」
症状が最も重かったセリアだ。悪化するのも早い。
カスターはその場の空気を円筒に入れ直した。
空気の入った円筒は二つ余っていたが宿での結果を見てなんとなくそうするのが良いと思ったからだ。
撃つ前に息を吐く。
広場の土に着弾した空気は足元にそよ風を起こすのみで激しい反応は見せなかった。
ほっとしてみんなと一緒にセリアの様子を見る。
「私、悪い病気になっちゃったんですか?」
「なってないよ。森の特性で人間が弱るんだ」
パルモルが答える。
セリアは「でも私だけじゃないですかぁ……!」と身体を抱きしめて納得していない様子だ。
マロウとシーラがふたりがかりでセリアに経緯を説明する。
落ち着き始めたのを確認してから移動を再開した。
***
清掃係の友人がいるという家の戸を叩く。
しばらく待っても返事はないし戸も開かない。試しにノブを捻ってみるが音を立てるだけだった。
「ゆっくりきたのに彼が来ていない、ということは」
パルモルは来た道を振り返った。首を伸ばして遠見をする。
そんなパルモルにマロウが物憂げな様子で提案した。
「行き違いは避けたいが二手に分かれるのは難しい。中で待たせてもらうのが良いかと」
コンラートが口を挟む。
「私が探しに行きます」
「お願いします」
みんなの話がまとまった。
課題はあとひとつ。家主が応じるかどうかだ。
マロウが戸を叩く。
「すみません! ご在宅ですか!?」
しばらくそのように働きかけるが反応はない。
一際強く力を込めてダン、と拳を戸に打ちつけたところでカスターはマロウの隣に並んだ。
「ヴィータ、鍵開けてくれ」
両手にヴィータを乗せて鍵穴に近づける。
ヴィータは素直に身体を穴にぴとりとつけた。
カチッ
戸が開く。
「中の人の状態を聞いて心配だから早く行きましょう」
カスターは自分への言い訳も兼ねてみんなに声をかけると自分から家に踏み入った。
「お邪魔しまーす」
「ご友人が心配されてましたよ」
「ポーション持ってきました」
皆口々に言い訳しながら入ってくる。
それを聞きながらカスターは部屋の中の空気を採取して撃った。
誰も触れていない玄関が閉まってコンラートを閉め出す。変化はそれだけだった。
マロウたちは二階へ向かっている。
まじで予想つかないな
そう思いながらカスターも後に続いた。
「いました」
二階の一室の扉を開け放した廊下でシーラが言う。
他の部屋を見ていたマロウやパルモルもそこへ集まった。セリアはリビングにいる。
「勝手に入ってすみません」
パルモルが、眠っている家主に話しかけながらベッドのそばの椅子に座る。
ポケットからポーションを出して蓋を取るとマロウが家主の身体を支えて口を開けさせた。
飲ませ終わるとふたりで家主を抱えてリビングに移す。
「森の空気を相殺しているなら二度目は相殺を打ち消すことになると思います」
とパルモルが予想したからだ。
運んでいる途中で家主が目を覚ます。
「え!?」
飛び上がって驚いていた。そりゃそうだ。共感しかない。
「まあまあ」
パルモルがそう言いながらがっしりと家主を掴む。
食べられていないところにこの異常事態。身体は大丈夫だろうか。心配だ。
カスターは押し入りの一号目であることを無視して家主の身を案じた。
リビングに家主を座らせ説明を終える。
「なるほど」
家主は椅子に体重を預けた姿勢で目を閉じた。
「すみません。刺激に触れることが少なくなっていたので疲れてしまって」
「お構いなく。寝転がってもらっても良いので」
「それは流石に」
家主とパルモルが会話する。家主が穏やかな人で助かった。
カスターは追加でポーションを出そうと思って鞄を漁る。それが手に触れて「お」と思った。
「ビタミン剤がありますけど飲みます?」
「ありがとうございます」
どっちだ。
カスターはメモ用紙を破ってビタミン剤を三粒その上に置いた。いるかいらないか曖昧ならいるほうと受け取る。特にこんなときには。
家主がビタミン剤を手に取る。
玄関が開いた。
「タッド!」
清掃係が家主に駆け寄る。
玄関にはコンラートと身なりの良い男がひとり。カスターたちへ向けて会釈をした。
「状況を変えた皆さんに頼みがあります」
関所の責任者がそこにいた。




