第18話 対抗策究明 ガラクタの逆襲
「没収されないうちに飲んでください」
パルモル商会の四人とカスター、そしてヴィータは宿に駆け込むなりコンラートからポーションその他を配布された。
「ティダはいいんですか?」
「さっきので良くなりました」
やっぱりなにかしたんじゃないか
カスターは口の中の瓶口にカチ、と歯を当てた。
ティダは部屋の中を飛び跳ねている。道中と比べて明らかに活力が満ちている。
ポーションを掲げて飛び回り配布してくれるのでやさしい。
コンラートが上体を屈めてパルモルに伺いと指示を出す。
「パルモルさん。私のポーチは余空間加工がされているので少しいただいておいても良いでしょうか?」
「どうぞどうぞ、役立ててください」
「皆さんもお持ちであれば回復系はそちらに。体調が良くなっても森に居続けるあいだは意味がありませんから隠し持っておきましょう」
「では調べられないものがいいですね。余空間イン余空間でいきましょう」
ふたりが話しているあいだにも周りはポーションを呷る。体調不良だからとはいえだらっと壁に凭れたりセリアみたいに寝ているのがいたり、事情を知らずにこの現場を見たら治安最悪の酒盛りだと思うだろう。
かく言うカスターも人のことは言えない。空にした瓶を床に置く。項垂れてため息をついた。体調がそれなりになったら出発だ。
そのときシーラが立ち上がった。目を向ければ彼女の周りにはポーションの瓶が四つある。だいぶ飲んだな。
「己の言動を反省してきます」
バタンッ――。
シーラはどこか急いだ様子で出ていった。
なにが起きた?
カスターは部屋の中を見渡した。
マロウは椅子に深く腰掛け腕を揺らしながら天井を見ている。パルモルは苦笑して「気にしなくていいのに」とさらにポーションをひと口。コンラートは変わらず。パルモルが指定した袋に回復用品を次から次へと入れている。
みんなの様子を見たらなにかわかるかもしれないと思ったがまったくわからなかった。
「ヴィータさん。もしものときのためにいくつか持っておいてもらえますか?」
コンラートがヴィータの前にポーション三つ、薬草五束、毒消し二つ、栄養ドリンク四つを置いてお願いする。シーラのことはなかったことにされていた。
ヴィータはというと、コンラートとの間合いを測るように左右に何度か動いたあと、身体を盛りあげて止まる。
「もしものときが来なければ自分のものにしていいですから」
それを聞いてか聞かずかヴィータは膨らませていた身体を萎ませて目の前の品々を取り込んだ。
***
体調が戻ったカスターとコンラートはまず門番を兵舎に送り届けてから森に出た。
《 迷いの森 》本体ではなく、さっき通ってきたダンジョンがある側の森だ。
門番には宿を出る前にコンラートが懇々と説教をしたそうで、これからの勤務態度がよくなるだろうと言っていた。
「冒険者に『無法地帯』だなんて言うからですよ」
と言うが、コンラートの冒険者へのイメージはどうなっているんだろうな。
「無茶する人いますもんね~」
と言っておいた。本音は「人間性によるんじゃね?」なんだが敢えて諍う必要もない。
カスターたちはひとまず道が見える場所に逸れて立ち止まった。
ここに着くまでに、互いに思いついたことをやってみましょう、と話している。
コンラートから。
「護符を作ってみます。魔力を使うので魔法を使うときと同じような反応になると考えています」
そう言うと短冊を出して線を引く。途中で顔を顰めて書くのをやめた。薬草を噛む。
次はカスターだ。
「……薬草の飴ちゃんとか良くね?」
「急ですね」
「確かに」
「カスターさん」
コンラートがカスターの様子を観察する目をして呼ぶ。と同時にヴィータが口の中に入って液体を流し込んだ。ヴィータを腹の中で育てたことを思い出して身震いしてしまう。ヴィータの端っこがてろんと垂れるのが視界に入った。
「ああっ! ごめんヴィータ、きもいとか思ってないから!」
ぎゅっと抱きしめるが角はカスターの頬をグイグイ押した。そのままコンラートに言う。
「すみません、コンラートさん。ちょっとおかしくなってたみたいです。飴ちゃんはまたの機会に」
「んっ……ふふ。没収されにくそうで良いですね」
「そうなんですよー……いまあったら良かったなって」
「以上ですか?」
「いや! 魔力ってことなら玉手弾です! まだ試してない!」
「はい。では」
どうぞ、と片手で示される。
カスターは玉手弾に日光の円筒を装着した。構えて撃つ。
ぶわっ――光の粒が、カスターとコンラートの前に広がる。キラキラしていて綺麗だ。
ほう、と見ているとその光の粒たちがふたりに纏わりついてきた。
「まぶしっ」
思わず目を瞑る。隣からコンラートの「おお、すごい」という声が聞こえた。
さらに続けて、
「うーん……自然の魔力が人間に寄ってくるんですね」
と言う。
カスターはそういえば、と思い出して関所に入る前の気づきを述べた。
「フリアとマージットは体調に変化なしっぽかったからあれじゃないです? 動物は無事とか」
「そういえばそうでしたね。なるほど」
瞼の裏が暗くなる。光が無くなったようだ。ゆっくり目を開けて瞬きをする。
ホッ、と息を吐いてコンラートを向いて待つ。なにか考えがありそうだ。
その視線に気づいたコンラートがカスターに目を向ける。アルカイックスマイルを浮かべたあと口を開いた。
「私は魔力を引っ込めていますが、玉手弾の光は寄ってきました」
「っすね」
「はい。ですから森が反応しているのは人間そのものということになりませんかね」
「おぉ? じゃあ……対策は無理、ってことに……?」
「いえ、人間を自然だと思わせられれば良いと思います」
「ほーん……」
言うは易し行うは難し、では?
「自然が難しければ動物でも」
「言ってることはわかりますけどぉ……」
カスターはもちろん、コンラートにも具体的な策はないらしい。一瞬シーン、と静かになった。
コンラートが困り顔で提案する。
「とりあえず、出来ることをすべてやってみましょうか」
「じゃー、森の空気で撃ってみようかな」
さっきまで日光が入っていた円筒に森の空気を入れて撃つ。
なにも起こらなかった。
「あれ?」
もう一度やってみる。
今度は薄くキラキラと光が散る。
しかし、
「寄ってきませんね」
「ですね」
結果を観察していたコンラートがなにか思いついたふうに短冊を取り出した。
しばらく護符の線を書いて、やがてやめる。それを持ってカスターに見せに来た。
「完成させられました。勝手に起動もしません」
「はぁ……」
「わかりませんか。森の外とほとんど同じだということです」
カスターが驚くとコンラートが今度はちゃんとした笑顔で頷いた。
「先に進めるかもしれません」




