第17話 ポーションと冒険者のお仕事 俺、魔力あったんですね!(喜)
森の中。
夏の盛りだがカスターたちから見える景色は木々の葉が日光を遮り薄暗く、それが逆に「いまは成長するときだ!」という植物の生命力を感じさせる有様だ。おまけに枝から垂れる葛の勢いが凄まじい。
カスターとコンラートはロープを持って商隊について行く。ロープ戦法はひとまず有効だ。少なくとも一ヶ月前までは《 迷いの森 》範囲外だったあたりなので普通に道があるが。
ひと区間約一〇〇メートルでロープを樹に括りつける。四回繰り返して単純計算四〇〇メートル。
そこへシーラが荷台から顔だけ出した。
午前は仕事に集中すると宣言していた彼女だ。異常事態である。
「気分が……」
「ポーションは飲みましたか?」
「飲みました」
馬車の間で交わされる会話を経てマロウが大きく振り返った。
「セリアさん」
二号車の荷台に向けて声を掛ける。同時に緩やかな速度でマロウの御する二号車が止まった。
合わせてカスターたちも歩を止める。
遅れて前を行く一号車も止まる。
コンラートが前を気にしながらカスターを向いた。
「カスターさんは大丈夫ですか?」
「ちょい熱っぽいくらいです」
実はそうなのだ。
意識ははっきりしているから許容範囲としている。
「さすが丈夫ですね」
「むしろよわよわなんじゃ……最初に調子崩してるわけだし。コンラートさんは元気そうですね」
コンラートは目を細めて照れたように笑む。
「私は大丈夫ですが、ティダが辛そうです」
コンラートが言うとおり、ティダはコンラートの肩の上でとろとろになっていた。
意識するとヴィータが気になってくる。
ぎゅっ、と抱きしめてみるといつもより柔らかい気がする。しかし角がふんふん動いているので元気そうではあった。
マロウが御者台から降りて荷台に乗る。
パルモルも様子を見にやって来て荷台を覗く。
「マロウ、セリアは大丈夫そう?」
「いや、どうだろうな……揺すっても起きません」
「ポーション効かないのかな」
「飲むと一時的によくなりますよ」
ふたりが心配していると一号車から声を割り込ませてシーラが歩いてくる。
パルモルは彼女のそばへ駆け寄りいつでも支えられるようにした。
マロウは荷台から降りてコンラートを見る。そのあとカスター。
「おふたりから気づきはありますか?」
コンラートが軽く手をあげるとポーチから護符を出した。みんなに見せる。
ボロボロだ。
「私の魔力を込めている護符です。森に入ってすぐ使い物にならなくなりました」
「それは……森が魔力に反応しているということですか」
「というよりは、護符の印象では私の魔力が反応したような感覚でいます。普段は護符を起動するのにこう……」
パン、と手を打ち合わせる。あいだに挟まれた護符は端が千切れて落ちた。
「刺激を与えるんですが、この有様ですから」
「……ふむ。他には、カスターさんはありますか?」
マロウがカスターにも問うたところでパルモルが加わる。シーラは二号車の荷台に座っていた。中を覗いている。
パルモルが話に入った。
「魔力を込めたということはコンラートさんにも魔力があるんですよね? 元気なのはなぜでしょう?」
「ああ、それは」
コンラートが笑む。
「自分の魔力を奥に集めているからかと」
「魔力操作ですか……」
マロウの顔がどんどん険しくなっていく。カスターにはちょっと深刻さがわからない。
「えっとぉ、マロウさんとパルモルさんには魔力はない?」
「ありますよ」
おや?
「でも元気そうです」
「そこはほら、リーダーと顧問なので」
「やせ我慢、ですね」
パルモルが答えてコンラートがまとめた。マロウがため息をつく。
「一度整理した方が良さそうですね。全員の体調不良の程度と進むかどうか」
「はい」
一同は二号車荷台の周りに集まった。
元気なコンラートはひとり外れて立つ。みんなの話が聞こえて一号車も視界に入る位置だ。抜かりない。
マロウが、シーラの代わりに全員分にお茶を淹れる。全員に行き渡ってから集会が始まった。
カスターはマロウから紙とペン、下敷きを渡される。書けってことだな。
「パルモル」
マロウが名指しで聴取する。
「はい。パルモルは頭痛と目の奥がぼんやり、そして全身の倦怠感です」
「シーラさん」
「つわりです」
「……つまり?」
「こみ上げる吐き気、感覚過敏、共感以外の問いかけに苛立ちを感じます」
「ありがとうございます。セリアは昏睡。マロウは関節痛と喉の渇き、末端の震えです。カスターさん」
カスターは急いでみんなの症状を書きつけた。
マロウの名指しという聞き方はいちいち誰が話しているかを確認せずに済むので書きやすい。
「カスターは熱っぽさです」
「コンラートさんは元気、ということでよろしいですね?」
「はい」
書き終えると同時に自分の症状を共有するが特に反応されないままマロウが話を先に進めた。腕組み、そして眉間に皺を寄せる。
「仮説。症状の重さは魔力量に比例する」
「僕とマロウだけを見るとね? 他の人たちはわからないよ」
格好よく仮説を述べたマロウにパルモルが突っ込んだ。マロウが馬車に寄りかかる。
「カスターさんはどう思います?」
「え!? 俺ですか? そうだな~……俺は魔法適性ないのは確実なんで、うーん……」
悩んでいるとコンラートがぐるりと首をまわして周囲を確認したあと近くまで来る。
「魔力量を図りたいんですか?」
「はい」
「玉手弾っていうんでしたか? 使えませんかね。タントリリアを出る前に読んだんですよ」
「そうなんですか! ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げたついでに玉手弾を手に持つ。空の円筒を掌にのせてみんなから見えるようにした。
「いやコンラートさん。入れられるの自然由来限定なんですけど」
「あぁ、そうでした。すみません」
妙案かにみえた玉手弾は空振りに終わった。
***
パルモル商会の馬車が二台、森の中の道を進む。
一号車を元気なコンラート、二号車の手綱をカスターが握っている。
各馬車の荷台には男女に分かれて二人ずつ乗っていて徒歩の人間はいない。森に入ってからの結果を受けてのパルモルの決定だ。
《 迷いの森 》の範囲が広がっていなければ何事もなく到着する予定だった関所へ向けて強行する。本来の《 迷いの森 》前へ。
あ~……座ると怠くなってきた……
カスターは低い背もたれに凭れて薄めで景色を眺める。フリアは元気そうだなぁ。
……動物はセーフってことか?
頭の中にぼんやりと考えが浮かんでは消える。鞄からメモ帳を出して広げた。手元を見ずに書きつける。
そんなことをしているうちに関所に着いた。
——門。
コンラートが馬車を止めた先に門がある。
カスターたちがやって来たほうの門も《 迷いの森 》側の門も開け放たれているが、門番はいるらしい。
「ポーション、薬草、その他回復用品を回収しまーす」
待て待て、絶対おかしいだろ。
カスターはハラハラとコンラートの動向に注目した。どうなるのかまったく予想できない。だってコンラートは柔和に見えて意外と意地が悪いんだから。どっちが発揮されるんだ。
「お疲れ様です。どういうことかお聞きしても?」
「あれ、聞いてない? 《 迷いの森 》の範囲拡大で対応が追いついてないんだわ。無法地帯よ」
「それと回復用品を回収されることとなんの関係が?」
「役人の言うことは聞いとけよ」
門番の態度が悪すぎる。
カスターは玉手弾を構えた。中身はカラモド退治の前に採取した日光だ。
「ティダ」
コンラートの声がして、門番が倒れた。
「えぇ……」
カスターはドン引きである。
「カスターさん。この門番も体調不良だったようですね。介抱しましょうか」
「本当に体調不良でした?」
「はい。目の前で倒れました」
「はーい……」
コンラートが門番を御者台に載せて馬車を動かす。
体調不良者四人を宿に届けたら、カスターとコンラートの冒険者二人は《 迷いの森 》の攻略法を探す手筈だ。さぁ、頑張るぞ!
二台は無事に関所へ入った。




