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第13話 旅支度 官道ルート希望です。

「ひと月あたりの一時滞在税高すぎません?」


 カスターが愚痴っているのは最早(もはや)朝の恒例となった老人会だ。誰にともなく口に出した愚痴だったが軽食や飲み物を用意している人々のうちカスターの近くにいた女性が応答してくれる。


「いくらだったの?」

「1,200ゴールドでした」

「え、高いの?」


 女性は首をひねる。カスターも女性の反応を不思議に思って彼女を見た。老人会にいるにはまだ若く見える人だ。グリーンのノースリーブワンピースに赤のヒールを履いている。


「滞在税だけでしょ?」

「他の町では500以上取られません」

「そうなんだ。人に困ってないからかなぁ」

「でしょうね」


 助言も益体もない会話が続くことにわずかに苛立つ。こっちは気が気じゃないんだぞ……。


 ちなみにセディからは「良い仕事はないのかい?」と聞かれ、老人会のあとで見に行くんだと返せば「そうかい。良いのがあればいいね」と会話が終わった。魔力発射装置でうやむやになった未払い分を請求してもいいが必要に迫られてからの請求では無心しているような気持ちになって悲しくなるので言い出しにくい。

 リオールが耳聡く聞きつけて口を挟んだ。


「スライム会の仕事はしないの? ヴィータは人気だからすぐ稼げると思うけど」

「ヴィータを金儲(かねもう)けに使うのは違うだろ。福祉が目的なんだから」

「ふーん。じゃあ積極的にはやらない感じなんだ」


 女性からも言われる。


「割り切ればいいのに」


 というかこの人は誰なんだ。もやもやしていると、女性とリオールの間からお婆さんが顔を覗かせた。


「カスター。サンドイッチとカナッペどっちにする? 院長先生もあっちで選んで」

「はーい。ありがとうございます。マーヤさん」

「……院長先生」


 院長先生と呼ばれた女性はマーヤ婆さんの指さすほうへ行ってしまった。リオールも離れようとしている。カスターはリオールの腕を掴んだ。


「あれ誰?」

「院長先生だよ。お医者さん。時々顔を出して雑談していくんだ。それよりマーヤさんが待ってるよ」

「あ、多いほうでお願いします」

「ヴィータと分けるんだね?」

「え、ちが」

「いいんだよ、多めにしておこうね」

「うっ……ありがとうございますぅ」


 ヴィータと分けあうことが決定した。嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちになる。


 老人会では毎日班分けをして大体五人程度のグループを作って交流する。

この日カスターが割り振られた班には院長先生がいた。自己紹介のときに「はじめましてさんとは話すことにしてるのでこの班にしてもらいました」などと言う。仕組まれていた。席も隣同士だ。間にヴィータを置く。


「カスターくん。このまえの識別札のレビューをモーゼフが見せてくれたよ。テイムされたスライムの情報が出るのは初だからあれは良かった。なにが良いかって、識別札が手に入るところがこの街しかないってところよね。テイムする側からしたら違反金を取られるリスクを抱えるってことだからやめとこって思う人のほうが多いよ。テイムして違反金払ってスライム医療をするより正規の医院で治療してもらったほうが安上がりだし患者の独自治療が抑止できればこっちとしてはとっても助かる」

「はぁ……そこまで考えてないですけど」

「読んだ人がどう思うかって話よ」


 怒涛の語り。

 ヴィータはカスターのサンドイッチからきゅうりだけを抜き出して取り込んでいる。まったく障壁になってくれない。カスターはきゅうりが抜かれたサンドイッチを口に入れた。そしてそのまま喋る。


「そっすね」



  ***


 朝食ついでの老人会を終えたカスターはギルドへやって来た。

 院長先生から「治療が必要な事態(じたい)になったらぜひうちの医院へ!」と渡された名刺の角を丸めながら呼ばれるのを待つ。

 目的は五番窓口。対応内容は依頼マッチング。

 自分で依頼を探すのが面倒な人や初心者、仕事の方向性や向き不向きをよくわかっていない冒険者にとってありがたいサービスだ。

 今回カスターは金策か街を出るかで迷っていたので相談したかった。


「なるほどぉ……ふたつの選択肢の間で揺れ動いているんですね」

「そうなんです。滞在税がなければもうしばらくは街を出ようと思ってなかったと思うんですよ」

「ですが税は税なので」

「わかってますよ! 違反はしません。ただ、街に残るか一度出るかを決めかねているんです。なので、それぞれを選んだときのシミュレーションをさせてもらえませんか」

「おぉ、そういうことですね! ではまず滞在を継続するほうからやってみましょうか。報酬額1,200ゴールド以上の依頼を並べると……」


 カスターを担当してくれているお兄さんが席を立って棚からファイルを持ってきた。インデックスには報酬額別のタグが付いている。

 やはり滞在税に苦しむ冒険者がそれなりにいるようだ。だってわざわざ報酬額でまとめてあるんだもの。

 お兄さんがファイルから依頼書を抜き出して机に並べる。


「カスターさんのこれまでの受注履歴から類似の依頼を出してみました。いかがですか? ちなみに一回で稼ごうと思うとどうしても重めの内容になってしまうので、他の冒険者さんの傾向としては軽めの依頼を複数受注というのが多いですね。1,200ゴールド以上の依頼でおすすめなのはこれなんですけど」


 と示されたのは『ダンジョン地図製作の資料提供。第五階層。報酬1,400ゴールド』である。


「……準備は自前ですよね」

「もちろん」

「複数受注にするとどうなります?」

「となると……」


 お兄さんがファイルの表紙側のページを捲る。


 待っている間にタントリリアの滞在税がどれほどの物価なのか一度おさらいしておこう。

 カスターが街に来てすぐのころに手を出した港警備の日当が800ゴールド。

 一日の食事を素直に外食すれば800から1,000ゴールド。

 警備の日の昼飯は賄(まかな)いが出ていたので食費にかかる金額は朝と夜の二食。カスターは飲食店などの店に入らず食費を抑えていたが、加えて宿代が出ていって実質の稼ぎは多くて320ゴールドだった。しかし三週間の継続で滞在税6割免除の特典がついていた。

 当時はピンと来ていなかったが今ならわかる。あの職場の慈悲深さが。


  滞在税の金額を確認しなかったのがなぁ……。


 己の迂闊さを後悔するカスターの前に五枚の依頼書が置かれた。


「カスターさんに合っていそうで経費もかかりにくいものを選びました」


 どれどれ、と眺める。


 『墓参り。海辺の洞窟にあるんだけれども悪路なもんで自力じゃ行けそうもない。おぶって連れて行ってほしい。報酬400ゴールドとお弁当』

 『市場調査。指定の飲食店で食事をして感想を教えてください。飲食代はこちらで出します(領収書必須)。報酬300ゴールド』

 『武器試し切り。製作者が戦闘不得手(ふえて)の為。詳しくは直接お話しします。報酬300ゴールド』

 『道の草抜き。魔物が出る地域の道沿い(1キロ程度)に草抜きをお願いしたいです。こちらで確認できている出没する魔物のランクはC~Dランクです。報酬200ゴールド』


「五つ目の依頼はギルドからです」

「え」


 『掲載(けいさい)依頼の品質調査。要注意案件ファイルから受注ー調査ー達成(合法であれば)ののちギルドに報告書提出。調査段階で明らかに違法と認められるものについては直(ただ)ちにギルドに報告願います。一件あたり報酬500ゴールド』


 カスターは机上(きじょう)の依頼書数枚を指さした。


「つまり? これ全部」

「掲載するのが初めての依頼者の依頼も含まれるので必ずしも危ないということもないんですよ。こちらの意図としては、依頼者と冒険者が安心して利用できるようにと思っています」

「受ける人いるんですか?」

「信頼できそうな冒険者の方に直接お願いしています。なので実は悪い人でした、となると僕が危ないんですけどね。カスターさん、真面目そうだなぁと思ったので」


 にこにこしているお兄さんをよそにカスターは考えた。ちょっと整理したい。

 まず報酬について。受注した依頼が合法だったらその依頼の報酬にプラスで調査報酬500ゴールドがもらえる。違法だったら、ギルドへの報告のタイミングとか最終的に逮捕(たいほ)するなら怪しまれないようにしないといけないし判断することが増えてしかも報酬は調査報酬のみになる、のか?

 負荷が増えてそれはちょっと重くね?


「とりあえず保留で。街を出るほうも考えたいです」

「もちろん。すべて検討しましょう」


 お兄さんは広げていた依頼書を一旦脇に避けた。


「では、街を出る場合のカスターさんの展望などありますか? このルートがいいなぁとか。護衛(ごえい)の依頼を受けることになると思うんですけどついて行くのは輸送隊か商隊か個人かなど。あとは、チーム制かそうじゃないかもありますね」

「うーん……」


 考えることがいっぱいだ。


「特に行きたい場所があるわけではないんですよね。面白そうなところへは行きたいと思いますけど、あまり普及してない珍しい道具があるところとか、限定販売品があるところとか」

「地域色の強い所がいいんですね。特に道具系」

「はい」

「でしたら商隊は良いと思いますよ。仕入れしながら国内を巡るので面白い物もありそうです」

「ですね」


 荷台いっぱいの物品……想像してみるとわくわくしてきた。ただ稼ぐより楽しそうだ。


「そっちで」


 お願いします、と言いかけたところでお兄さんが事務のお姉さんに話しかけられた。お兄さんは「すみません」とカスターに言ってからそちらに対応する。

 手紙を渡されたようだ。お兄さんはそれを読んでから戻ってきた。

 手紙の文面をカスターに向けて置く。困惑気味の表情だ。


「パトロンがいらっしゃるならおっしゃっていただかないと……」


 初耳である。

 カスターは驚きながら手紙を手に取った。


   ◇◇◇


冒険者ギルド タントリリア支部 御中


拝啓 盛夏の候 ギルドの皆々様におかれましてはご清栄のこととお慶び申し上げます。

 さて、この度スライム学会へ新しく冒険者の会員が加入いたしましたのでお知らせしたく、筆を執(と)っております。

 当該会員の情報は以下の通りです。


  記


 ○名前 カスター

 ○冒険者登録番号 935668


  以上


 また、お手数ではありますが、カスターさんがギルドを利用した際に伝言をお願いしたく思います。

   秘境をお忘れなく  とお伝えください。


追伸 スライム学会はタントリリア医院と提携し、来夏からスライム浴を足湯式で試験運用いたします。

 暑い季節にスライムの涼は格別です。クーポンを同封しておりますのでぜひご利用くださいませ。


スライム学会会長 モーゼフ


  ◇◇◇


「これがパトロン?」

「困ったときに頼る先があるということですから」

「なるほど……」

「お手紙の内容を踏まえて依頼を選んでみますね。秘境を通る商隊なら小規模ですがむしろ品物は希少品揃(ぞろ)いかと」

「はい!」


  護衛の報酬、秘境調査の800ゴールド、希少品。最高じゃないか!


 そして提示された依頼書は二枚。南方面と中部方面へ行ってタントリリア周辺まで折り返してくるふたつのルートだ。


 南方面。『護衛。ひたすら南下して岸壁の集落まで。最終目的地は情報規制アリ。ストレス耐性があり口の堅い方を求めています。道中の食費、宿泊費はこちらで持ちます。報酬15,000ゴールド』

 折り返しルート。『護衛兼開拓員募集。最終目的地は聖都スージリア。タントリリアで仕入れた海の品々を森奥の集落に運んで売ります。その後、現地の品々を買い付けて聖都へ運びます。我が商隊も初めて行く集落ですので人と接することに抵抗がなく、商隊のメンバーともうまくやっていける自信のある方が望ましいです。野営の際は個別テント配布、道中にかかる諸経費(集落滞在費除く)は請求しません。集落へは仕入れができるまで滞在予定です。拘束期間未定の為、報酬額30,000ゴールド』


 カスターは迷わず決めた。こういうのは最後は文面の好みだ。


「護衛兼開拓員ほうでお願いします!」

「はい。……手続き完了です。良い旅立ちになりますように」

「ありがとうございます!」


 お兄さんがスタンプを押した依頼書を処理中のファイルに綴じる。カスターはお礼を言って立ち上がった。お兄さんが「あ」と顔をあげる。


「出発前に今後の方針をスライム学会に報告したほうが良いかもしれませんね」

「そうですか? じゃあ、そうします」

「はい。お疲れ様でした」


 カスターはその足でリオールの家へ向かった。



『魔道具メーカー カッター社 玉手弾(たまてだん)(旧式)  [ 総合評価3.7]


 こちらは船と船との連絡手段として使われていた信号弾だと聞いています。

 私が譲り受けたのは旧式モデルで、約四〇年ほど前に現役で使われていたそうです。

 まとめるためにメーカーの方から話を聞いてきました。

 それによると、旧式が使われていた期間はわずか五年ほど。自然由来の魔力を使用する都合で威力にムラがあり、事故件数が無視できない件数だったためと判明しました。

 確かに、信号弾としか考えていなければこの上もなく扱いにくい代物だと思います。ですが、私にくれた人は「空に打ち上げるだけだから」と深刻には考えていないようでした。色がわかればいいのだと。

 しかしメーカー側のお話では、現場からの苦情がままあったようだと聞きました。

 くれた人の詮索はしないでおこうと思いますが大切にしていたのは間違いないようで、三〇年近く経っても使えるレベルで整備されているのは珍しいそうです。


 さて、私のほうでもこの玉手弾なるものを試してみました。

 まず構造についてですが、サイズはさておき魔力を込める円筒と実際に打ち出すための装置とのふたつの部品から成っておりまして、円筒には自然物をそのまま入れる仕様となっています。

 私は水で試してみることに決めて、「水たまり、噴水、濁流」の三種の水を採取しました。

 海に向かって打ち出して分かったことは、自然界にあって強い力の働いている物ほど魔力になったときに威力も強く打ち出されるという事です。

 ちなみに打ち出された魔力はコントロールできない魔法という感じでした。活かし方は不明瞭です。

 他に、その場にあった空気を打ち出したときには光の膜ができて目隠しのようになりました。これは使えそうだと思いましたが使う場面が来なければいいと思います。ピンチな状況という事でしょうから。

 また、メーカーさんのお話にもあったとおり玉手弾の欠点は予測ができないことでしたが、友人がカフェオレとコーヒーで試したときには結果に類似の点があった為、採取の際の条件をうまく固定できればもしかすると引き出したい効果が出せるようになるのかもしれません。

 それにしても自然物だと難しいのでしょうが……。

 ある意味職人芸が必須の道具のような気がします。


 興味のある方は船に携わる方から譲り受ける方法が確実かと思います。試用に際しては完全自己責任ですので、譲ってくださった方にクレームを入れるのはお控えくださいますと幸いです。

 心底腹が立ったという方はメーカーに返却してくださいますと他に事故に遭う方も減りますのでそのようにお願いいたします。これはメーカーの方からのお願いでもあります。


 現行の玉手弾(名称:信号弾)は円筒に入れる魔力を専用のカートリッジ式にしたので信号弾としてしか使えないようです。』

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