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第12話 試行錯誤と迫りくる税金 次はどこへ行こうかなぁ!(汗)

 タントリリア西側の住宅街、窓辺に花の咲き誇る一軒家。

 通りから見える庭は広く、芝が青々としている。


「実験はどうだった?」


 リオールの家だ。

 庭から柵越しに話しかけられる。


「激しいところから取るほど威力も上がるっぽい」

「自然の摂理まんまじゃん」


 リオールは笑いを軽く含んだ相槌を打つ。


「ヴィータは中だよ」


 と玄関を指してカスターを招いた。

 応じて玄関扉を潜るカスターを追い越して「おやつ食べる?」と言う。「やった」と喜ぶとリオールは台所へ立った。

 玄関から三歩ほど歩くとすぐに大きな部屋が現れる。台所はその部屋の左奥の角にあり、カウンターを挟んで四人掛けの食卓が置いてある。カスターはそこへ座った。


「あれセディのところにもあった」


 カスターの視線の先にはカモメの羽の壁掛けがある。リオールがおやつと飲み物をお盆に乗せて向かいに座った。


「去年みんなで作ったんだ。老人会主催で子どもも呼んだりして」

「ふーん」


 カスターは適当に反応を返しておやつを口にした。薄い生地が何層にも重なった柑橘パイと苦みの強いカフェオレだ。美味い。

 飲み物を飲んで一息つく。身体を捻って室内を見回す。


「ヴィータは?」

「二階。衝立(ついたて)の向こうに階段があるよ」

「おー、庭から見えてた」


 カスターの真後ろに階段がある。あいだに衝立があって座った状態では見えない。しかし、外でリオールと話したときに窓から見えていたので改めて確認するまでもなかった。


「セディから貰ったやつ見せてよ」

「うん」


 カスターが円筒と本体をテーブルに置くとリオールはさっそくそれを手に取った。カスターはパイを食べながらリオールが観察するのを眺める。


「使ってみていい?」


 円筒を手にそんなことを言うので「壊すなよ」と念押しして使い方を教えた。「ありがとう」と言われて悪い気はしない。

 リオールはその場で円筒の蓋を開けた。ポケットからスポイトを取り出し、カフェオレを入れる。カスターは目を丸くした。


「リオール。リオール? 汚れないのか?」

「汚れたら洗うよ」


 事もなげに言ってのける。さらに、


「自然由来だけって言ってたけど、それって対象範囲が広いってことだよね。人間から出た魔力じゃなければいいって事でしょ? コーヒーは植物だし水は言わずもがな。ミルクは牛。微妙なのはミルクだけかな。これだけ動物由来だから」


 と室内庭側に向けて引き金を引く。ポシュン、と音を立てて魔力が飛び出た。カスターはリオールの考察と実行の速さに驚くばかりである。

 窓の前の床に当たり逆さまの円錐(えんすい)状に魔力が広がる。円形に落ちてぬかるみになった。リオールが近寄って触る。


「あ、床も溶けてる」

「え!?」


 カスターも行って触ってみる。どろどろしていてちょっと冷たくて……うん、正真正銘ぬかるみだ。床に当たるはずのところも柔らかい。リオールを見るとハンカチで手を拭っている。


「土属性判定ってことかな」

「……さぁ?」

「カスターは魔法は知らない感じ?」

「俺、魔法適性ないから、あんまり勉強もやってない、かも。それより床……」

「いいよ、あとで直すから。ミルクなしバージョンもやってみていい?」

「どうぞ」


 あわや弁償か、と内心どぎまぎのカスターに対して、リオールはまるで困ったことでもないと言うような態度だ。リオールの第二弾がぬかるみの傍に着弾する。

 結果の見た目はほとんど同じだが、リオールが手をついて体重をかけても沈まないので床は無事らしい。


「動物由来は被害を拡大させる、と」


 呟いて「うん」と頷く。


「人間に当てたらどうなると思う?」

「どっちを!?」


 恐ろしいことを聞く。カスターはもうヴィータをこいつに預けるのはやめよう、と思った。弱いスライムを何匹も飼育して生かしているから大丈夫だろうと思っていたがこの発想をするやつの傍にヴィータを置いておけない。


「せめて魔物に当てたらってことにしてくれよ、なんで人間なんだ」

「普通に生活してる人にとって脅威なのは魔物より人間なんだよ」

「過剰防衛」

「つまり、一弾めのことを言ってるわけだ。これは動物由来を混ぜたせいで起きたエラーだと思うよ。繰り返したら薬莢か本体かが壊れるかもね」


 触らせてくれてありがとう、と返される。カスターの手が土まみれだったのでハンカチもくれた。


「いろいろ試してみたらいいよ。僕もまだやってみたいことは思いつくけどこれ以上は壊しそう」

「もう貸さないからな」

「そんな顔しないでよ。次にやるときは自分で調達するから大丈夫」


 リオールがテーブルへ戻るのをカスターはジト目で追った。リオールがカフェオレを飲み干し食器を流しに置く。


「ヴィータの所へ行こう。ちょっと面白いことになっててね」

「危ない事じゃないだろうな」

「人様のスライムに酷いことはしないよ。実験するときは許可を取ります」

「当たり前だ」


 カスターからリオールへの信頼度は少し下がった。


  ***


「この部屋にいてもらってるんだ」


 ヴィータがいるという部屋の前、のっぺりしていて鍵穴もない扉の前でそう言われる。どこにも隙間がないのは脱走対策だろう。カスターも経験があるからこれについてはよくわかる。「引き戸だよ」カスターは戸を右に開けた。

 床を端から端まで覆う絨毯(じゅうたん)がまず目に入る。色はブラウンとペールオレンジで、細かな模様が施されている。壁は木、照明ははめ込み。凹凸少なく設計されている。床にお茶とほぐしジャーキーとナッツと金平糖が転がっている。

 室内にはヴィータのほかに三匹のスライムがいた。


「進化させようと思ったら弱らせて僕が飲んで、飲んだスライムの好物を摂取し続けないといけないんだっけ?」

「俺はそうだったけど」


 ヴィータがスライムたちを避けてカスターの元までやって来た。持ち上げると頬を両側から挟まれてお茶を見させられる。リオールがお茶を覗き込んでメモを取っている。


「なに?」

「いやさ、ヴィータはお茶が好きみたいだけどその好みについてなにに反応しているのかっていうのが気になってさ。作ってみたんだ。面白い事っていうのはそれね」


 渡されたメモには素材名とその横に○×がついている。

 フルールとメンダーのブレンドティーの中身だ。


「メンダーさんのお茶をヴィータがくれたのか?」

「淹れてくるねって言ったら預けてくれたよ」

「なるほど」

「面白くない?」


 リオールが察しの悪いカスターに痺れを切らしてメモを指差す。フルールの薬草、熊胆。メンダーの回道粉(ふいだおふん)。いずれも丸だ。

 回道粉とは高性能ポーションの素になるものだ。東海鋼の産地でもある地域独自の処方で詳しい中身は門外不出とされている。

 

「メンダーさんのお茶は装備を決めてから出てきたんだよな……」

「ってことはわざと同地域にしてるのかな。個人的には回道粉の中身が知りたいところだけど売ってないんだよね」

「おう……」

「メンダーさんは人間相手だとふっかけてくるからなぁ……」


 嫌な流れだ。


「リオール」


 カスターはリオールを止めた。


「そろそろ帰ります」

「まだ僕がブレンドしたお茶の話までいってないんだけど」

「いや、もういい」

「ヴィータお好みのお茶ができたらタダであげるよ? 代わりにちょっとやってもらいたいことが」

「回道粉が手に入ったらくれって言うんだろ? そっち方面に行く予定ないし調べるだけなら他の方法もあるだろ。ポーションから結晶化させろよ」

「ポーションの再結晶がどれだけ大変か」

「知らねぇ~」


 カスターが帰ろうとするとリオールがしっかりと扉を閉めてから追いかけてくる。


「とにかくさ。ヴィータは明らかに回復効果のある素材に反応してるみたいなんだ。だから、お茶じゃなくてもそれこそポーション系をそのままでも好きかもしれないよ。それと、ヴィータから出てくる分泌液なんだけど」

「なに?」

「濃縮ポーションかもしれない」

「なんでそうなんの?」

「普段から回復効果のあるものを常飲してるんだから可能性あるでしょ」

「まぁ……」


 カスターは腕の中でぷよぷよとしているヴィータを見た。


  回復薬の塊……。


 よこしまな考えが脳裏に浮かぶ。即座に打ち消して、まずは自分で試してみないとわかんねぇわ!、と考えを改めた。


「回道粉のことは本当に、手に入ったらでいいから」

「わかった。結局手に入らなくても文句言うなよ」

「ありがとう!」


 喜んだリオールにビタミン剤を渡された。二枚貝の小物入れに入ったやつ。無駄にお洒落だ、と小物入れを手の中でぐるり回して見るとリオールが「タントリリアのお土産ものだよ」と教えてくれた。


  ***


 西側の住宅街から東側の港地区へ。

 カスターは宿に戻る前にギルドへ顔を出した。


「すいませーん。ちょっと頼みたいことがあるんですけど」

「はい。ギルドへの依頼ですね。一番窓口へどうぞ」

「はーい……」


 カスターは冒険者証を一番窓口の人に提示した。


「《アーイン》のチラシとか広報誌とか、受け取り資料の中に追加してもらえますか?」

「はい。……手続き完了です。以上ですか?」

「はい、ありがとうございました」

「あ、少々お待ちを。警告が出ていますね。あと十日で滞在一ヶ月だそうです。納税額は1,200ゴールド」

「……高くね?」


 テイムの罰金と同じくらいだ。普通初月は500いかないくらいなのに。思わずヴィータを抱きしめてしまった。むにょん、と上下から出てくる。顎にヴィータのツノがぶつかった。


「払えそうになければ三日前までに街を出てくださいね」

「はい……」


 肩を落としてギルドを出る。まだ日はあるし、とこの日は宿へ帰った。

 部屋でベッドに寝転がり呟く。


「やっぱりギルドでなにか依頼見とけばよかった……!」


 そしてそのまま寝た。現実逃避だ。



『タントリリア《とまりぎ》下の市場 ケヴィンの屋台天ぷら  [ 総合評価5.0 ]


 市場で買った食材を揚げてくれる屋台です。滞在中物凄くお世話になりました。市場購入食材だけでなくお客さんの持ち込みも受け付けているからです。その場で揚げるのでで(・)き(・)あ(・)い(・)はありませんがその分値段が安い。

 店主のケヴィンさんに安価な理由を聞いてみたところ、「仕入れが材料三つだけだから」とお答えいただきました。実際は薪代もかかっていると思います。魔力を込めるタイプの蓄熱石だと火力が足りないので。もちろん私の知らない性能の良い蓄熱石があるのかもしれませんが。


 肝心の天ぷらに関しては「中はふんわり、外はさくさく」といった具合でとても食べやすいです。

 なぜかといえば調理法にコツがあるようで、揚げる前に一度食材を蒸すのだそうです。

 蒸すにはものによって時間は様々ですが長くて三十分でしょう。その間に市場を見ることもできますし、蒸しあがってしまえば衣をつけて完成まで一瞬です。

 屋台から離れる場合は番号付きのブレスレットを渡されます。食材が油に入る前にブレスレットが光りますのですぐにわかります。

 料金には天ぷらにつける塩やソースなど調味料も入っているので食べ歩きにも向いています。


 ただし、店主のこだわりとスペースの問題で一度に大量に調理することは難しいとおっしゃっていました。出来立てを食べてもらいたいと。

 ですので、行ってみようかな、という方はお気をつけください。

 まじで美味しいのでおすすめです。』

 

 

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