第6章『師走の嵐も接近中・横浜中華街で人気スポットを網羅せよ』1.オレの○○○に手を出すなっ!
【前回までのあらすじ】愛美の愛車“ロードスター”で主任の佳祐を自宅へ送る途中でお台場海浜公園へ寄り道した夜。2人で歩いた展望デッキで、佳祐はついに彼女を横浜デートへと誘う。急接近する2人が向かったのは横浜中華街。しかし、甘い予感に満ちた休日には、ドキドキのハプニングが待ち受けていた――。さりげなくエスコートしてくれる佳祐に対し、愛美の心はどう揺れ動くのか?
2人の休日がやってきた。
激務の師走を前に
リフレッシュしようという佳祐の誘いに愛美が応えた形だった。
佳祐は“横浜”としか言ってなかったが、
愛美が“パブロフのパウンドケーキ”と“占い”を口にしたことから、
2人の今日の行き先は自動的に“横浜中華街”に決まっていた。
中華街の東門・駐車場に到着すると、
2人は車を停めて歩き出し、会話を弾ませた。
「主任、運転……全然大丈夫でしたね!」
「んーん、ちょっとドキドキしたけどね」
「私……
自分の車の助手席でエスコートされるのなんて初めてです!」
「そうなんだね!? 横浜は?」
「前に響子さんと……、あっ、あの……お手伝いさんの」
「いるって言ってたね」
「はい、なんか“お手伝いさん”って感じじゃないので……
いつもの呼び方でつい…………。
あの、度々口にするかもしれませんので」
「うん、覚えておく。響子さんと来たんだね?」
「あ、はい!」
「で……たくさん食べたわけね」
「はいw で、『お家でも食べたいね!』ってなって、
たくさん買ってクタクタになって
夕飯も買ってきた小籠包になって」
「中華三昧ね!」
「はい。だから、その時は……ロードスター、
ややテンコ盛りで帰りましたw」
「アハハ! じゃ、今日は考えて買い物しないとな!」
「今日はそこまで買いませんw」
「了解! さて、ご要望はございますか?
まず、食べ歩きからでよろしいでしょうか?」
「あっ、はいw」
「なんか欲しいものあれば言えよ!」
「じゃ…………五目肉まん!」
「よしっ、じゃっ、それ行こう!」
「はいっ!」
東門横にある北京飯店で愛美のリクエストに応えて
佳祐が“五目肉まん”を買ってあげた。
佳祐は少し物色して開華楼の食べくらべ串にした。
「なぁ、二階堂なら、
この4つシューマイのうち……どれが好き?」
「私ですか? ん~ん……、トマト……かなぁ?
でも、エビも捨てがたいです! ん~ん、迷いますね!」
「なるほど……、じゃ、その2つ……やるよ!
俺だけ臭うと悪いから口臭罪の連帯責任……お願いしますっ!」
「…………共同正犯と……犯人隠避罪……?」
「フフッ。で、先日は
“イレギュラー泥棒”もやらかしてるので…………実刑ですねw」
「やめてくださいっ! こんな可愛い子たちをネタに使ってw」
「広げたの、二階堂だからなw」
と、佳祐が1つ目のシューマイを食べて
2つ目を愛美に差し出した。
そして、重罪を覚悟して愛美は
2つ目と3つ目のシューマイをもらうことにした。
愛美は五目肉まんを半分に割って差し出し、
佳祐もそれを喜んで受け入れた。
佳祐は思った……。
『…………うっ、……何食べても美味い……楽しい!』
この後、喉を潤すため“タピオカミルク”を買って2人で飲んだ。
佳祐は進んで甘いものを欲しがるタイプではないのだが、
愛美の好きなものにとことん付き合った。
「さて、アレの前に……何か他に見なくていいのか?」
「ん~ん、じゃ、ちょっと小物を見たいです!」
「ここ入ってみる? パンダまんもあるぞ!」
「もう食べ歩きはしばらく大丈夫ですw
……少し、見ていいですか?」
「おう、見ようぜ」
「……パンダがいっぱい! 何か買っていこうかな……」
「おっ、これどうだ? 被って帰れば……中華街名物被り面!」
「やめてくださいっ!
新手の強盗だと思って……響子さん、ビックリしちゃいますw」
「あぁ、じゃ、これ……響子さんにお土産で買ってく?」
「チャイナドレスですか?
前に来た時、確かに買うかどうか悩んでましたねw
でも、着ていく場所が無いわ! って言って
結局やめてましたから買いません!」
「んじゃ、パンダのスリッパは?」
「ん~ん、踏むのかわいそう! って言いそうだな」
「違うぞ、これ二階堂が好きそうだなぁって」
「嫌いじゃないです。が……、
私も背中を踏んでるような気持ちになっちゃうタイプでして……
履けません。ん~ん、私が今日この横浜に来て
楽しかった想い出に何か小ぶりで1つ…………。
あっ、これいいなぁ!」
「しおりか……。本、よく読むのか?」
「まぁ、それなりに……ですね。
読書の時に挟んで想い出すことにします。
何色にしようかなぁ?」
「じゃ~ん! 中華街だから、赤だろっ!」
「いいえ、パンダは笹が好きだから緑ですよ!
繫栄の緑にします!」
「じゃ、両方ね。貸して……」
佳祐は、愛美が握っていた緑のしおりを掴んで、
自分が選んだ赤のしおりも一緒に持って
『支払いしてくるから待ってて』と伝えてレジに向かった。
愛美は、佳祐がずっと
手厚くもてなしてくれることに対して
少々の戸惑いもあったが、
ふわふわした心地良さを感じていた。
父親から恋愛に過剰な干渉をされてきたことで、
異性にここまで至れり尽くせりで
優しく対応されるという経験が無さ過ぎたからだった。
そして、彼女の目に映るもの全て、
何もかもが色鮮やかであった。
「さぁ、では……“例のもの”行きますか?」
「はい!」
「イートインとテイクアウト、どちらになさいますか?」
「あら、いやですわ。どちらもいたしますわよ!」
「ハハハ! 国民の死活問題の解消ですね……承知しましたw」
パウンドケーキ専門店“パティスリー・パブロフ”元町本店に到着した。
平日ということもあり、長い時間をかけて並ぶこともなく席が空いた。
店員に案内された席はエレガントな空間で赤を基調とした部屋だった。
「何にする?」
「ん~ん……、私はプリン・アラモードにします!」
「パブロフ・セット……色々ついてくるみたいだぞ」
「テイクアウトして自宅でゆっくり食べます!
ここでは、このグラスでしか味わえない
マスカルポーネクリームや苺や
チョコレートの贅沢な層を楽しみます!」
「じゃ、俺がこの
パブロフ・セットにするから食べたいものがあればやるよ!」
「えっ……、いいんですか?」
「おう、スイーツ研究会……開催しますか?」
「はい! では、千代田区代表である
ミス・ストロベリーが品評いたしますっ!」
2人は“プリンアラモード”と“パブロフ・セット”を注文した。
待っている間にも会話は弾んだ。
「おう、そうだ、占いの予約時間は?」
「14:00~と15:00~です」
「当たるのか?」
「当たるんですよ!
響子さんが前に占ってもらった時に“性格”とか“離婚歴”とか
全部的中して2人で目を見開いてw」
「へぇー、響子さんってバツイチなんだね?」
「あ、そうなんです。ちょっと残念な方との……」
「残念って?」
「……DVだったそうです。
亡くなった母と響子さんが親友だったんです。
で、事情を知った母が父に頼んで助けてあげたそうで。
前向きなバツイチですね」
「ふ~ん。お手伝いさんとして来た流れは?」
「母の法事でよく私のことを面倒見てくれたんです。
母と親交があった間も可愛がってくれてたそうで……。
で、父が出世と共に忙しくなって、
私も懐いていたこともあって
響子さんに声をかけて来てもらったんだそうです」
「響子さんは、お子さんは?」
「それが……授からなかったそうで……。
だから、父が頼みやすかったのだと思います」
「そっか……。だから、お手伝いさんって感じがしないわけね!」
「そうなんです! もう育ての母のような……。
ちなみに……前に占ってもらった時、
亡くなった母のことも言い当てたんですよね……。
だから今日は、私の未来を聞きに……」
「占い、すげぇーな」
「……お待たせ致しました」
注文したスイーツがやってきた。
説明を受けて店員が去ると、
2人で楽しみながら少しずつ食べ始めた。
「このプリンアラモード、
数量限定で卵もオーガニックなんですよ!
……あの、食べてみますか?」
「おう、ちょーだい」
「私好みの固めプリンなんです!」
「だなっ! うん、美味い。クリームも、うんうん!」
「あっ、ベリーベリー」
「ん、これ? ……じゃ、食べるか?」
「いいんですか?」
愛美は、プリンアラモードを
自分が使っていたスプーンで一口あげた。
そして、佳祐も愛美が欲しがったベリーベリーを
『スプーンじゃ無理だろw』と言って食べさせてあげた。
「やっぱ、苺娘なんだなw」
「えぇ、そうです。
だって、苺の糖度と濃厚さが最も際立つ美味しい時期に
母が私を生んでくれましたので」
「フフフ……、いつなの?」
「バレンタインデーです!」
「なるほどね、じゃ……これもいっとくか?
茶色いやつ。チョコかな?」
「ショコラオランジェットだ!
ありがとうございます!」
佳祐は、バレンタインデーだと聞いても
関心を持つような様子は一切見せなかった。
それもそのはず、愛美の誕生日を知っていたからであった。
が、あえて聞いてみたかった。
バレンタインデーだと言ってくれれば、
ベリーベリーに引き続き、ショコラのケーキも
口に運んであげる口実ができる……そんな計算からだった。
理由はシンプルで、口にスイーツを運ぶと、
仕事中には決して見せない
満面の笑みで食べる彼女のかわいい顔を
じっくり見つめる権利を自動的に得られるからであった。
また彼女も『私ばかり食べることになっちゃうので……』
と言ってプリンアラモードの下層部の
苺のコンフィチュールやチョコレートのスポンジ部分を
お返しにくれるので、スイーツを乗せた
互いのスプーンとフォークの掛け合いを
コッソリ堪能していた。
それよりも一番動揺したのは、
愛美のほうからプリンアラモードを
“アーン”してくれた瞬間だった。
もちろん……、大人の装いで
動じない冷静な品格を保ってはいたが、
内心は嬉しさが込み上げていて胸がいっぱいであった。
少しして愛美のスマホに連絡が来た。
最初に利用する予定の占い師からであった。
どうやら、愛美の前の枠がキャンセルとなったため、
早めに来れるならば来てほしいという話であった。
佳祐は
『土産用のパウンドケーキは俺が買っておくよ。
後で店名と場所送って』と言って、
愛美に占いの店舗へ先に行くように促した。
愛美は店員に事情を伝えて、
自分だけ先に店を出ることにした。
そして、ここまでの支払や
ガソリン給油などを全てしてくれた佳祐に
感謝の気持ちを込めてスイーツ代を支払って出ていった。
一軒目の占い師の鑑定を終えた愛美。
なかなか佳祐が現れないため、
メッセージを入れてみるが既読にならない。
連絡を入れても繋がらない。
実は愛美とは逆に、今度は佳祐が
仕事上の外せない連絡が入って、通話が長引いていた。
愛美はしばらく待ちながら先程の鑑定内容メモを
もう一度じっくり確認しようと思い、
近くの公園へ移動していたその時だった……。
「Excuse me! You have a great vibe. Do you speak English?」
(すみません! 凄く良い雰囲気ですね。英語話せますか?)
「A little bit, yes.」
(少しなら、はい。)
「I just thought you looked really nice.
Actually, I'm trying to find a cool bar around here,
but it's tough. Come have a drink with me?」
(君のこと、凄く素敵だなって思ったんだ。実はこの辺で
良いバーを探してるんだけど難しくて。一緒に一杯どう?)
「No, thank you. I'm going to get my fortune told now.」
(いいえ、結構です。これから占いに行くので。)
「Oh, fortune telling? That can wait. Just 10 minutes?」
(へえ、占い? そんなの後回しでいいじゃん。10分だけどう?)
「I'm so sorry! I'm actually on a date, and I'm heading back to him.」
(ごめんなさい! 実はデート中で、彼のところに戻るところなんです。)
「I feel like I'd really regret it if I missed this chance to meet you.
Could we just get a coffee together?」
(君とのこの出逢いのチャンスを逃したら絶対に後悔すると思って。
カフェでお茶するだけでもどうかな?)
「No, he's already waiting for me. I really have to go.」
(ダメです、もう彼が待っているので。本当に行かなきゃ。)
外国人男性のナンパであった。
断っても逃げても後をついてくる。
愛美は、佳祐のスマホにもう一度発信するものの、
連絡がつかない。
困りつつも人気のないところへは行ってはいけないと思い、
警戒しながら元の占い師の店舗付近へ戻った。
すると、佳祐が愛美を見つけて駆け寄った。
「知り合いか?」
「違います……
ずっと逃げても逃げてもついてこられて……」
佳祐が外国人に話しかけた。
「Sorry, she’s my wife. Don't touch her.」
(すまないが、俺の妻だから手を出さないで)
「Oh, sorry man! Beautiful wife!」
(おっと、ごめんよ! 綺麗な奥さんだね!)
外国人が言い訳してる間に
佳祐が愛美のおでこに軽くkissをした。
愛美はドキドキした……のだが、嬉しくもあった。
「すまん、仕事の電話が長引いて……。
本当申し訳ない」
「いえ、ありがとうございました」
「いや、ダメだな。
中華街での別行動……危ないなぁ。
本当申し訳ない。何もされてないか?」
「あっ、はい。大丈夫です。
本当に……助かりました」
「うん。次の占いの時間は?」
「そろそろ……ですね」
「じゃ、向かおうか」
「はい」
二軒目の占い師のもとへ向かった2人。
すると……
「あっ……」
「ん、どうした?」
「ブロンド・ガイとの再会が早過ぎますw」
「フラフラしてんなぁ。
手当たり次第に声掛けてんのかな……」
と佳祐が話してる間にも、
ずっと先程の外国人の視線を浴びていた愛美が警戒して
――佳祐の腕を掴んだ――
そして、そのまま
腕を組んでしがみついた形で歩き続けた。
佳祐は自分の腕を掴まれ、一瞬ハッとしたが、
直ぐに状況を理解して、
愛美が自分のことを頼ってくれたことが嬉しくて
ブロンド・ガイの出来事をむしろありがたいとも思えていた。
二軒目の占い師の店舗に到着した。
佳祐が『俺も一緒に入っていい?』と
占いに好奇心を示してきたので、
愛美はニヤッとしながら先に入るよう促した。
鑑定ルームに入ると高齢の男性占い師が待っていた……。
【作者より】
毎回作品だけでなく、
執筆する私自身も日々様々なことに奮闘中で、
更新が遅れることもしばしば……。
それでもこうして読みに来てくださる皆様、
本当にありがとうございます!
皆様の応援が、
愛美と佳祐の物語を紡ぐ大きな力になっています。
さて、食べくらべ串のシーン
実はこれ、
とんでもない(?)伏線になっております……。
次回、いよいよその「真意」を回収いたしますので、どうぞお楽しみに ♥
To be continued…case:6-2『アレの伏線回収を致しますっ!』




