第4章 『令嬢スイーツ刑事の華麗なる下剋上』 1.甘味の乱
本庁ロビーを出て佳祐がスマホを取り出した。愛美もスマホを取り出して着信やメッセージ等を確認しながら後をついて歩いた。佳祐がスマホを耳に当てながらタクシーを拾い、通話を終了して愛美に奥へ乗るようにエスコートした。運転手に『麴町のダイニング旬の菜々彩』と告げた。すると、あちこちで冬空を奪い合うようにライトアップされたイルミネーションの光が時折2人の横顔を照らしながらタクシーは走り出した。そして、車内で改めて佳祐に今日のお手柄を褒めてもらった愛美がようやく職務への充実感を嚙み締めていた。
店舗前に到着し、佳祐が運賃を支払った。タクシーを降りて暖簾をくぐり、店員に案内されながら個室へと向かった。座敷の入口で店員にコートを預けた2人はそれぞれの席に着いた。そうこうしていると店員と入れ替わりで佳祐の幼馴染みでこの店の大将でもある柿谷俊作38歳がニヤニヤしながら入ってきた。
「おっ、何だよ、やっと連れてきたか!? 彼女?」
「その“やっと”って……やめてくれよ」
「あっそう~、遂に彼女かぁ? こんばんは!」
「あっ、えっ、こ……こんばんは………………」
「へぇー、いつから?」
「えっ…………あっ、えっと……」
「……部下だよw そうやって勝手に決めつけるから困っちゃってんだろ!」
「あれ、なんだ、そうなの? 部下なの?」
「あ、はい。初めまして、二階堂と申します。神谷主任にはいつもお世話になっております」
「あら、ホントに部下なのね? なぁーんだ、つまんねぇ~なぁ。おいっ、マジでつまんねぇ~ぞ、佳祐!」
「うるせぇーよ! 腹減った、何か出して。あと、俺ビール……。あ~、二階堂は? 何飲む?」
「あ、じゃぁ、私は烏龍茶で……」
「あれ、一緒に(お酒)飲まないの?」
「あっ、えっと……」
「烏龍茶なっっ! 俊作、烏龍茶でいいんだっ! そして、丁重に扱え。ご令嬢だっ」
「えっ、そうなの? あっ、だから個室なわけね!?」
「別にそうじゃないw 俺ら残業でクタクタの腹ペコなわけ。静かに食べたいから。マジで早く何か持って来て!」
「おう、了解! あら、そう……ご令嬢なの……、姫は何がいい? 鰤の幽庵焼きあるから……旬の野菜の味噌汁と一緒に定食にする?」
「えっ、定食があるんですか?」
「うん出来るよ! 裏メニューだけど」
「裏メニュー? 食べたいですっ!」
「おおぉっ、裏メニューでときめくご令嬢、可愛いじゃん! んじゃ、ちょっと張り切って用意してくるわ! じゃ、佳祐もそれな。少し待ってて」
俊作が準備のため部屋を出ていった。待っている時間を使って愛美は連絡を入れたいところがあると言ってスマホを取り出した。一件目の連絡は自宅で帰りを待つ住み込みの使用人川田響子へのメールであった。送信し終わると、次は“詫びショコラ”を片手に自撮りして中下宛に返信を送った。
「もしかして、みのさんに?」
「はい」
「何て入れたの?」
「あぁ~『ありがとう! From:お手柄苺娘』って入れて、ドヤ顔スタンプも足しておきました!」
「うん、上出来だ!」
「ありがとうございます」
「そうそう、ちょっと1個確認したいんだけど……聞いていいか?」
「はい、何でしょうか?」
「今日の一連の流れってさ、計算済み?」
「計算?」
「……確かさ、資料で大学時代に犯罪心理学専攻って記載があったし」
「あぁ~っ、えぇ~~っと、それはですね……期待させて大変申し訳ないんですけど、何となくで専攻しまして……気がついたら卒業していまして……」
「そうなの? んじゃ、小楠の心理が読めてたわけじゃないのね?」
「読むも何も……ですね。ん~ん、犯罪心理学を専攻したのは、単純に有利だと思ったんです。あの……この際なので警視庁目指した本当の動機、カミングアウトしていいですか?」
「おう、むしろ聞きたいw」
「想像つくと思うんですが……、とりあえず、試験受けて合格したら頑張って出世して……父の不正の1つや2つ見つけて突き付けて自由を勝ち取る目的のためだけに入りましたっ、正義感とか地域や国の安全なんて二の次です、すみませんっ! 正直に話したので私への人事評価下げないでくださいねっ!」
「マジか?」
「はいっ。マジですw あっ、でも、職務はちゃんと全うしますのでっ!」
「んーん、…………うーーーーん、二階堂、面白いなw」
「そうですか? 私は切実です。…………まぁ、そういうわけなので……主任も私の父のことで……もしも何か発見されたり、ご存知なことがありましたら真っ先に私に教えてくださいねっ!」
「んーん、熟考いたしまぁ~すw じゃ、ホントに今日のパフェとか弁当の件って作戦でも何でもなかったわけね!?」
「はい。…………あのですね、主任……ちょっといいですかっっ?」
「あっ、はい、どうぞ」
「フンっ、いいですか? 想像してくださいっ! 毎朝毎朝あの満員電車に揺られて通勤して、やっとの想いで新宿駅に着いて、今度は改札口までのあの雑踏の中をかき分けて歩くこと徒歩10分です。来る日も来る日もお悩みのお客様のご要望に神経すり減らして丁寧に対応をして肌トラブルへのアドバイスをしたり、フェイシャル・エステの手技を施したりして人様のお肌にダイレクトに触れるという繊細さを必要とする勤務内容なんですよ。時には酷いクレームだってあると思うんです。様々なことに追われてクタクタになって彼女は1日を終えるんですよ」
「あっ、小楠の話ねw」
「えぇ、そうですっ。……しかもですよ、たまたま運悪く質の悪いホストに騙されたことで脅されて毎月のお給料まで奪われ続けて……。顔だってやつれてるように見えました。それでも彼女はめげずに節約して切り詰めて頑張って生きていて、自分の生活だけでも本当は精一杯なのに、好きな人のことまで守ろうって必死になって……ルールを犯してしまった職場にも怯えながらの勤務なんです。そんな恐怖の毎日に耐えながらずっと働いてきたんですよ。その上、職場から目と鼻の先にあるって分かっているあの映えるパフェをですね、毎日毎日内側の自分が一生懸命脳みそに話しかけて説得をして欲望の思考を制御するんです。パフェ店舗入口に吸い込まれそうな気持ちを押し殺して毎回あの道を素通りしなきゃならない女の子の気持ち、……考えたことありますかっ!?」
「あっっ、あっ、……ありません、すみません。何か想定外の展開でして……」
「…………サラッと韻踏んでます?」
「フフッ、あっ、…………踏んでませんw ……すみません! ……たまたまなんです、本当ですっw」
「えっっ、今の、もう完全にそっちに寄せていってますよね?」
「あっ、バレた?」
「………………(少し溜めて)そんなんされたら……こっちもアンサー……しておくべきか凄く迷うんだから、Yeah~」
「……フフフw やるねぇ~、……えぇ~、上司の精一杯のラップを軽く超えてくるの、やめてもらっていいすかっ?」
「すみません……そこそこ負けず嫌いなんで。…………で、話、戻していいですか?」
「あっ、はい、どうぞw」
「ふぅ~っ、とにかく…………年頃の女の子がスイーツを何日も何日も耐えるって……拷問でしかないんです。糖分不足で慢性疲労や身体の機能の低下また判断力の欠如によりミスを引き起こしたりイライラが発生したり……。大袈裟ですけど……それが作業効率や生産性の低下を引き起こすなど現代社会に様々な影響を与えたりもするんですよ。私は、栄養不足で困窮した目の前の一人の女性の命を純粋に救いたかっただけです。あまり糖不足を甘く見ないでくださいね、乙女にとって……社会にとって、糖の不足は世界規模で死活問題なんで……宜しくお願い致しますっっ!」
「あっっ…………」
「えっ? 何ですか? あっ、もしかして韻踏んじゃってましたか?」
「踏んでない、踏んでないw ん~ん、いや、何でもない……。えぇ~っと……うん。何となく、重要な社会問題だってことは良く分かりましたw」
「あっ、いえ、こちらも……あの、色々と取り乱しまして…………なんか、すみません。……ご清聴ありがとうございましたw」
「うん、んーん…………なんか、もうスイーツ大臣ラッパーだな」
「…………あ~、部下なりに場の空気を読んでアンサーしただけでして……。勤務時間外の空間での上司との距離感や空気感を私なりに考えて…………精一杯トライしてみただけでして。あの、『超えてくる』って言い方をされたので、良い返しが出来たんだと受け止めさせていただきますが…………何も上司を超えようだなんて思ってませんので……あの……スイーツ大臣のみ謹んで拝命いたします!」
「フフフッ、やっぱ楽しいわ、二階堂愛美w 完全なクール系だと思ってたけど、違ったのねw」
「あぁ~、学生時代の友人から『そこそこノリを大事にするといいよ』って学んだので」
「ふ~ん、エリートの娘なりに苦労してきたわけね……」
「まぁ……多様性です!」
「あぁ~、俺さぁ……その……甘い物で説教されたの人生で二度目だなw …………あっ、ごめん、説教って言っちゃった。撤回w 力説で」
「……大丈夫ですw あっ、私……その方と……絶対仲良くなれる気がしますっ!」
「う~ん……だろうなw」
完全にハートを撃ち抜かれた佳祐は、落ち着かない心を鎮めるために『夜勤メンバーに連絡』と言って席を立った。向かった先は俊作がいるカウンターだった。
イラスト・・・描けないのでAI様にお願いしております・・・。が、時々『画のタッチ』が変わったり『あれ?これ愛美?』や『あれ?これ佳祐じゃないかも?』となっているときがあるかもしれません。修正依頼の難しさと奮闘していて、執筆どころじゃない・・・というほど大変な時が多いです。が、いつもご訪問いただきまして本当にありがとうございます(*‘∀‘)




