第7章『聴取』1.絶対に拒否出来ない出頭要請
【前回までのあらすじ】横浜中華街でのひとときを経て、恋人同然の距離まで急接近した佳祐と愛美。しかし、余韻に浸る間もなく次なる潜入捜査が幕を開ける。ターゲットはエリートの息子・今井悠紀。ドラッグが蔓延する別荘でのパーティーに潜入した愛美だったが、狡猾な今井の罠にかかり絶体絶命の危機に! 救出に向かう佳祐の前に立ちはだかるのは、事件の影か、それとも愛美の父でありSAT総司令官の慶一か!? 二人の運命を揺るがす、怒涛の「聴取」が始まる――。
とあるエリートの息子
今井悠紀
(いまいゆうき)と
その仲間たちによる
性犯罪疑惑が
別件の被疑者の供述により
浮上したことで
中心人物とみられる
今井が主催する
ホームパーティーへの
潜入捜査が決まった。
関東近郊の一棟貸の別荘にて
男女数名で
BBQをして過ごす
という内容であった。
現場には、
愛美と明日香と
その他数名の
別班女性メンバーが
潜入することになった。
飲物には
危険ドラッグが
仕込まれている可能性もあり
愛美が
用意されていた飲み物を
なかなか口にせず
警戒して過ごしていたところ
今井がそこに目を付けた。
「真美ちゃん(愛美の仮名)
お酒飲まないの?
まだ焼けるまで
時間かかるから
向こうで飲みながら
2人で少し話さない?」
そう今井が声をかけて
シャンパングラスを2つ持ち
愛美を
プールサイドへと誘った。
明日香たちは、引き続き
テラスで過ごしていた。
しばらくして
女性捜査員の一人が
意識を失ったのか
倒れ込んだ。
それを見て
仲間の男の一人が
こう言った。
「おっ、効き始めたかな?」
それを聞いた
他の残りの仲間たちも
嬉しそうに笑い出した。
倒れた女性捜査員を
男の一人が抱きかかえて
室内へと運び込み
寝室へ消えた。
明日香が
残りの男性陣に
倒れた仲間の女性のことを
心配そうに聞くが、
男たちは
平然と食材を焼き続けて
“大丈夫だよ”の一点張りで
誤魔化して笑っていた。
が、しばらくして
先程の女性捜査員から
超小型無線通信機で
『寝室、ドラッグ出ました!
男も拘束中につき、
至急応援願います』
と全捜査員に声がかかった。
それを聞いた本部が
現場捜査員に
突入の指示を出した。
実は、
寝室に運ばれた
女性捜査員は
飲食物を
口にしていたと見せかけ
トラップを仕掛けたのだった。
今度は寝室で
意識が戻ったと見せかけ
自分を運んできた容疑者が
追加でドラッグを
飲ませようとして
誘ってきたところで
男を拘束しながら
応援を待っていた。
一方の愛美は
今井が
『プールサイドで』
と言いながらも
さり気なく誘導して
皆の居るテラスから
かなり離れた死角に
連れていかれた状況だった。
佳祐が突入の手前で
今井と二人きりの愛美に
無線で即時に指示をした。
「二階堂! バレるなよ、
直ぐにそっち向かう……」
愛美は、
髪を耳にかける形で
さり気なく
無線機を叩いて
了解の合図をした。
そして、
突入した捜査員が
BBQエリアの今井以外の
容疑者たちを確保し、
潜入捜査員の
明日香たちの無事も確認した。
テラスの
屋根付きBBQエリアと
寝室では騒ぎとなり
捜査員の手が及ぶ寸前に
仲間から
メールを受信した今井が
状況を把握して
愛美のことも
“恐らく刑事だろう”
と察した。
メールを読み終えた今井は
逃亡するのかと思いきや
そんな素振りも見せずに
すんなりと
愛美に向かって
両手を突き出して
『あんたも警察なんだろ、
手錠……どうぞ』
と言って
逮捕を覚悟したような
様子を見せた。
今井に
腕を出された愛美は
ジッと見つめて
固まって迷っていた。
2人の会話が
聞こえた佳祐が
愛美に言った。
「二階堂、
トイレだって言って
今すぐヤツから離れろ!」
その時――――、
強い風が吹いた……。
愛美が
目にかかった髪の毛を
咄嗟に払おうと、
手を
顔に持っていった
彼女の動きで
今井は
自分が逮捕されるのかと
勘違いした。
「……なわけねぇ~じゃんw
捕まんね~よ、俺は」
そう言いながら今井は
隠し持っていた
スタンガンで
愛美を感電させて
プールに突き落とし
捜査員が近づくまでの
時間稼ぎをするようにして
茂みに隠していたバイクで
逃亡した。
現場へ突入した佳祐は
メインの現場を
皆に任せて
愛美がいる死角エリアへと
真っ先に向かった。
水面へ
激しく打ちつけられて
水底へと
沈んでいく瞬間の
愛美を見つけて
佳祐は、
今井を追うこともなく
直ぐにプールに飛び込んだ。
愛美の体を捉えて
抱きかかえて
急いで水面まで引き寄せ、
仲間の捜査員と共に
皆で愛美の体を引き上げて
プールサイドに移動させた。
佳祐が
愛美の意識や
呼吸を確認して
肩を叩きながら
何度か名前を呼んだ。
「二階堂っ!
おい、二階堂っ、
愛美……愛美…………」
声をかけながら
心肺蘇生と
人工呼吸を
数回繰り返した。
すると、愛美が
意識を取り戻した。
佳祐が
愛美を抱きしめながら
そばにいた捜査員へ
別荘内にあるタオルを
可能な限り
持ってくるよう指示した。
「……すみません、
……取り逃……がし…………」
「あ~、いい、いい、喋んな。
西野たちが追ってる。
…………怖かったな」
佳祐が声をかけながら
愛美の体をさすり続けた。
そして、
明日香も駆けつけた。
「愛美……、大丈夫?
すみません、主任。
あたし、あの時、
一緒に行けば良かった……
ごめん、愛美……」
「明日香、出入口に
車回してきてくれるか?
あと、ここからの指揮を
みのさんに任せるから」
「はい! 了解です」
捜査員の一人が
室内からタオルを
たくさん持って来て
佳祐に手渡した。
佳祐は
直ぐに愛美を
タオルで包んで抱き上げ
別荘の出入口まで移動した。
明日香が
捜査車両を回してきて
佳祐が愛美を乗せた。
そして、中下に
残りの指揮を頼んで
愛美を病院まで
連れていくことにした。
病院に到着して
一通り検査を済ませ
処置室で安静にしていた
愛美の横で佳祐が
ずっと付き添っていた。
しばらくして
スーツを着た数名の男性陣が
やってきた。
突入時に
ウェアラブルカメラ
(身体装着型カメラ)で
撮影された
映像データを持参した
捜査本部の
上層部メンバーを含む
数人であった。
そのうちの一人は、
なんと……
愛美の父親の慶一だった。
「警視正、
娘さんはこちらです、どうぞ」
その会話で佳祐が
愛美の父親だと気付いて
慌てて挨拶をすると、
上層部の男性陣の一人が
手のひらで
“かしこまらなくていい”
というジェスチャーをして
愛美の無事を確認した。
問題ないことが分かると、
即座に聞き取りを始めた。
聴取の理由は、
被疑者の今井が
愛美を襲った直後に
バイクで逃走したが、
焦って
コントロールを失って
転倒したところを
西野たちが緊急逮捕し
現在、取り調べが
行われているとのことであった。
そして、
今井の愛美への行為が
傷害罪だけでなく
殺人未遂罪も
成立する可能性があり、
今回の容疑に加えて
立件するためであった。
慶一の部下が
タブレットで
映像を見せながら
聞き取りを続けた。
映像の後半で
佳祐がプールに飛び込み
救助して
“応急処置をした場面”
を見た愛美は、顔が固まった。
聴取が済み、
慶一が部下へ
『先に行って待っていてくれ』
と言って車へ向かわせ
自分は残って
愛美に声をかけた。
「大変だったな……。体調は?」
「……うん、
たぶん……大丈夫…………」
「んん……」
そして、
愛美から視線を外した慶一が
佳祐を見ながら言った。
「お前かっっ?
娘の唇を
2度も3度も弄んだのは!?」
と娘の命を救った佳祐に
礼を言うかと思いきや、
開口一番、“別”の聴取を始めた。
佳祐と愛美が
“何故、知っているのか?”
という表情で目を合わせて
言葉を失っている。
慶一は、更に話し続けた。
が、様子がおかしい。
張り込みの時のkissの件で
嫌味を言い続けるものの、
表情が何故か
非常に優しく穏やかであった。
そして、やっと
佳祐に対して
娘の命を
救ってもらった礼を言うと
今度は
“課に話を通しておいた”
と言って、
残業なしで二人に
退勤を言い渡した。
佳祐に各手続きを終えたら
娘を家まで
送ってやって欲しいと伝え、
椅子から立ち上がった。
病室から出ていこうと
ドアに向かって
歩き出したのだが、
急にくるっと振り向いて
佳祐を見ながらこう言った。
「……今夜うちで
食事でもしようじゃないか。
何か外せない
用事でもあるか?」
「あ、いやっ、無いですが……」
「じゃ、決まりだっ!
先日(の張り込み)
の件も含めて
ゆっくり話でもしようw
では、後程……」
「あっ、はいっ。
おっ、お疲れ様です……」
「お疲れ!」
愛美に目配せで
出ていくことを告げ、
2人に
含み笑いを見せながら
病室を去っていった。
愛美は、改めて
命を救われたことへの礼を
佳祐に言うのだが、
ややぎこちない。
佳祐も
慶一に頼まれた
愛美の着替えを渡しつつも、
しどろもどろで
手続きに行くことを告げる。
それぞれが
帰宅の準備を始めながら
…………2人は思った。
『………………事件だっ!』
【作者より】
毎回作品だけでなく、
執筆する私自身も
日々様々なことに奮闘中で、
更新が遅れることもしばしば……。
それでもこうして
読みに来てくださる皆様、
本当にありがとうございます!
皆様の応援が、
愛美と佳祐の物語を紡ぐ
大きな力になっています。
さて、次のシーンは
二階堂家へ佳祐が出頭(?)
雲の上の存在の警視正でもあり
愛美の父親でもある慶一が
強烈な隠し球を出してくる!?
でございますわよ……。
次回も
どうぞお楽しみに ♥
To be continued…case:7-2『聴取』勾留延長?




