23.新メンバーが帝国第一皇女リリスだった件
「で、どこ行くんだよ」カイルが歩きながら聞く。
「決まってる」シルフィアは即答した。
「まずは、どうしても行かなきゃいけない国があるんだ」
「どこだそれ?」
「獣人族の国だ。ある獣人との約束を果たさなければならない」そして、拳獣王ライオネスとの一件をカイルに話したのであった。当然、カイルは怒った。
「そんなことは聞いてないぞ! どうしてそんな大事なことを黙っていたんだ!」
「怒ると思ったからだよ!!」シルフィアは逆ギレした。そして、胸元から紅玉の付いたペンダントを引っ張り出した。
「こいつをその獣人国ガウルに届けなきゃならない。一族の呪いがどうのこうの言ってたが、戦士の最後の頼みだ。聞き届けてやりたい。それに獣人国と言えば……」
「腕か」カイルが思案深げに言う。
『そうだ。五族協定通りならな』
エクリプスが低く言う。
『我が鎧の腕部は、獣人族が保管している』
「じゃあ決まりだな」
シルフィアが笑う。
「ぶん取りに行く」
「その言い方なんとかならないのか!!」
「違うのか?」
「違わないけど違う!!」
『本質は合っているな』
「乗るな!!」
カイルは周囲を警戒する。
「……問題はそこまでどう行くかだ」
「普通に行けばいいだろ」
「バカ言うな!戒厳令の中だぞ!」
「……あー」
シルフィアが空を見上げる。遠くで鐘が鳴っている。
「完全に包囲網だ」
『見つかったら終わりでありんすな』
「既に終わりかけてる!!」
その時。
「そこの二人!止まれ!!」
声が響いた。カイルの顔が引きつる。
「……見つかった」
「早ぇな!!」
振り向く。おびただしい数の追手だった。
「逃げるぞ!!」
「おう!!」
二人が同時に走り出す。
「囲め!!」追手の声が四方八方から聞こえる。
「囲まれてるぞ!!」
「突破する!!」
「脳筋!!」
『いつも通りだな』
「黙れ!!」
シルフィアがエクリプスを構える。
「ぶっ飛ばすぞ!!」
『だから棍棒では——』
ドンッ!!
シルフィアが衛兵を横殴りする。
「ぎゃあああ!!」
不運な衛兵だった。骨の一本や二本ではすむまい。
「だからそれやめろ!!」カイルが頭を抱える。
「数が多すぎる!!」
「関係ねぇ!!」
「ある!!」
その時。ヒュッ、と風が走った。
「……?」
次の瞬間。
追手の足が止まる。
「なっ——」
「……消えた?」
追手たちの視界から、二人の気配が消えてしまったのだった。
「いてて、どうなってるんだ……?」
カイルが周囲を見回す。さっきまで追手に囲まれていたはずだが、二人の足元から、いきなり地面が消えてしまったのだ。シルフィアとカイルは地下に落下したようだった。
どうやら地下道のようだ。帝都の地下にこんな場所があったとは。
「いててて、急に地面がなくなったな」シルフィアは左右を見回す。真っ暗だ。
静寂。
さっきまでの追手の気配が嘘みたいに消えている。
「こっちですわ」
鈴を鳴らすような可憐な声に振り向く。ランプが灯される。そこにいたのは——
「……誰だ!」とシルフィア。
「……その声は……まさか」カイルが固まる。
そして。
「姫様!?」
「ごきげんよう」
優雅に一礼する少女。
シルトベルト帝国の第一皇女リリス・フォン・シルトベルトその人であった。
「な、な、な……」
カイルの口がパクパクする。頭の中が混乱していた。
「こんな所で、何してるんですか!!?」
「クスッ……城を抜け出してきましたの」
事もなげに言う。帝都中には脱出用の地下道が蜘蛛の巣のようにある噂は知っていた。しかし、一部の特権階級しか知らないはずだった。
「軽い!!」
「大丈夫ですわ」と、にこりと笑う。
「追手は少しだけ誤魔化しておきましたの」
「少しってレベルじゃない!!」カイルは額を押さえた。
シルフィアが首をかしげる。
「誰だこいつ?」
「皇女殿下だ!!」
「は?」
「第一皇女だ!!」
「……マジか?」
「マジだ!!」
シルフィアがじっとリリスを見る。
リリスも見つめ返す。
沈黙。
次の瞬間。
「……いい筋肉してますわね」
「だろ?」
「惚れ惚れするほどの上腕二頭筋ですわ。一見、華奢なようで引き締まってらっしゃる」
「おっ、分かるか」
なぜか二人の会話は成立していた。シルフィアにとっては仇敵の娘である。祖国ベールウェストを滅ぼした帝国の姫である。にも関わらず、十年来の友人と再会したようであった。
「はっ!?」
カイルが我に返り叫ぶ。
「どこ見てるんですか、姫様!!」
カイルの動揺をよそに、二人の会話は弾む。
「腕のラインがとても綺麗ですわ」
「分かってるじゃねえか、お前」
「鍛え方が実戦寄りですわね」
「そうなんだよ」
「最高ですわ」
「いいだろ」
二人はガッチリと握手した。
「なんで通じ合ってるんだ!!」
『類は友を呼ぶ、だな』
「納得するな!!」
リリスが一歩近づく。
「お姉さま」
「ん?」
「わたくしもご一緒してよろしいですか?」
「いいぞ」
「軽い!!」カイルが絶叫する。
「ダメに決まってるでしょう!!」
その声にシルフィアが言い返す。
「なんでだよ」
「なんでって!!」
カイルは頭を抱える。
「相手は皇女殿下だぞ!?」
「関係ねぇだろ」
「ありまくりだ!!」
「わたくしは関係ないと思いますわ」
「本人が言わないでください!!」
リリスは楽しそうに笑う。
「だって、お姉さまの旅ですもの」
「そうだな」
「だからなんで話が進むんだ!!」
『もう手遅れであるな』
「止めろよ!!」
『筋肉の旅、楽しみでありんす』
「そんな旅じゃないだろ!!」
シルフィアが歩き出す。
「行くぞ」
「ちょっと待て!!」
「お供いたしますわ」
「増えたぁぁぁ!!」
カイルの叫びが虚しく響く。
それでも、三人は止まらない。
「まずは獣人族の国ガウルだな」
『腕でありんす』
『我の腕だ』
「だから棍棒だろ」
『違う!!』
「いいじゃねぇか」
「よくない!!」
騒がしいまま、三人と二振りは、その場を後にした。獣人国ガウルを目指して。
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