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20.二人だけの反乱

 その時、ざわりと空気が変わった。


 音楽が止む。来賓の貴族たちの視線が一斉に一点へ向く。


 「……来るぞ」


 カイルが小さく呟いた。


 重い扉が開き、現れたのは、一人の男。

 静かな威圧感。場を支配する存在感。その全てを兼ね備えた男。


 その名は、

 シルトベルト帝国大帝、ビスマーク・ウルド・シルトベルト。


 ベールウェスト王国を滅ぼした張本人がそこにいた。

 歳の頃は五十代か。金色の目は猛禽類を思わせるほど鋭かった。

 髪は黒い。それが落ち着いた雰囲気を醸し出している。


 一目見た印象は、鷹だ。深紅のローブが帝王の雰囲気に彩りを添えていた。


 その姿を見た瞬間。


 「……あ」


 シルフィアの目が見開かれた。頭の中が真っ白になる。

 そして次の瞬間。


 「父ちゃんの仇ぃぃぃッ!!!」

 「やっぱりかぁぁぁぁ!!」


 カイルの叫びが虚しく響く。シルフィアが地面を蹴った。


 一直線。止まらない。


 「待てぇぇぇ!!」

 「待たねぇぇぇ!!」

 「喋るなって言っただろうが!!」

 「無理だ!!」


 カイルの背中から、エクリプスが引き抜かれる。


 「ちょっ——!?」

 『貴様、何をする!!』

 「戻してもらうぞ!!」

 「戻してない!!」


 そのまま——振り下ろした。


 ゴッ!!


 「ぐはっ!?」


 近くにいた帝国騎士が吹き飛ぶ。


 「おいそれ剣だぞ!!」

 『棍棒ではないと言っているだろうがぁぁぁ!!』

 「うるせぇ!!」


 シルフィアが次々と殴り飛ばす。


 ドレスが裂ける。肩が露わになる。


 「服ぅぅぅ!!」


 カイルが叫ぶ。


 「知らねぇ!!」

 「知れ!!」

 『下品だぞ貴様!!』

 「動きづれぇんだよ!!」


 布がさらに裂ける。


 ほぼ戦闘装備に近づいていく。


 「おいもう半裸だぞ!!」

 「だからなんだ!!」

 「なんでもある!!」

 『羞恥心を持て!!』

 「そんなもん戦場に置いてきた!!」

 「持ってこい!!」


 その時。ガシャッ、と音が鳴る。


 「曲者だ!取り押さえろ!」


 周囲を取り囲む無数の影。金色に輝く甲冑を身に付けた騎士たちだ。


 「……親衛隊か」


 カイルの顔が強張る。


 大帝の親衛隊は精鋭揃いだ。明らかに並みの騎士とは空気が違う。

 シルフィアを取り囲み、数で潰そうとしている。


 「生け捕りにしろ!殺すな!」


 親衛隊はシルフィアを捕らえ、拷問にかけて背後関係を調べる気だ。


 「いいねぇ」


 シルフィアが笑う。


 「強そうじゃねぇか」


 『本当に戦闘狂だな、貴様は』

 「当たり前だろ」


 一歩踏み出す。もう誰にも止められない。


 「来いよ」


 次の瞬間、激突。


 ドゴンッ!!


 衝撃が走る。


 一人、

 二人、

 三人。


 親衛隊が吹き飛ぶ。


 「おいおいおい!!」


 カイルが叫ぶ。


 「なんで押してるんだ!!」

 『意味が分からん』

 「最高だろ!!」


 シルフィアは笑う。完全にスイッチが入っている。


 「止めろぉぉぉ!!」

 「止まらねぇぇぇ!!」


 カイルはその場で固まった。


 「……どうする」


 視線が揺れる。目の前の現実。


 完全にアウト。

 任務的にもアウト。

 人生的にもアウト。


 シルフィアが捕らわれれば、背後関係を調べられカイルも同罪とされるだろう。そうなるとカイルの祖国、ジグムント公国にまで罪が及ぶかもしれない。


 シルトベルト帝国の属国とは言え、カイルの故郷なのだ。両親の顔が浮かぶ。もうここは正念場なのだ。


 シルフィアを捕らえるのに協力すれば、まだ助かるかもしれない。カイルは迷った。だが答えはすでに出ていた。


 「……」


 シルフィアが殴り飛ばされそうになる。


 一瞬。


 カイルが動いた。


 「……くそ!!」


 剣を抜く。

 聖剣セラフィクスが光る。


 「行くぞ!!」

 『やれやれでありんす』


 セラフィクスが楽しそうに笑う。


 『惚れた弱みでありんすなぁ?』

 「違う!!」

 『完全にそれでありんす』

 「違うって言ってるだろ!!」


 カイルが突っ込む。親衛隊の攻撃を受け止める。


 「お前一人で暴れるな!!」

 「来たのかよ!」

 「来るしかないだろ!!今さら関係ありませんでしたが通るか!」

 「いい判断だ!!助かる!」


 『愚かだがな』

 エクリプスが茶化す。


 「うるさい!!」


 聖剣と棍棒(魔剣)が並ぶ。


 「行くぞ!!」

 「おう!!」


 ドンッ!!


 カイルは帝国よりもシルフィアを選んだ。それが良いことなのか。悪いことなのか分からないまま。これはもう運命なのだと思っていた。


 二人が同時に踏み込むと親衛隊が弾かれる。


 「うおおおお!!」

 「おおおおお!!」


 『騒がしいな』

 『最高でありんす』


 会場は完全に崩壊していた。いや、戦場と化していた。


 「きゃあああああ!」

 「助けてくれえ!」

 「賊を捕らえろ!」


 悲鳴が上がる。

 破壊音がする。

 混乱が拡大する。


 「なんだこれぇぇぇ!!」


 カイルが叫ぶ。


 「反乱だ!!」


 シルフィアが即答する。


 「規模がでかすぎる!!」

 『たった二人だがな』

 『二振りもあるでありんす』

 「うるせぇ!!」


 シルフィアが笑う。


 「いいじゃねぇか」


 血が騒ぐ。


 「ここで終わるか、ここで始まるかだ」


 カイルは歯を食いしばる。脳裏を二人の兄の影がよぎる。実の弟が帝国に弓引いたのだ。ただでは済むまい。


 「……最悪だ。済まない兄上」


 それでも、剣は止めない。


 「付き合ってやるよ!!」

 「それでこそだ!!」


 聖剣と魔剣。


 二人と二振り。


 その反乱は、誰にも止められなかった。

読んでいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」


「続きが気になる!」という方は、


ぜひ評価をお願い致します。星ひとつでも構いません。お気持ちだけで結構です。


ついでにブックマークをして頂ければ、とても嬉しいです。


では、次回も、お会いしましょう!

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