18.誕生パーティー潜入作戦を考えろ
「世界がおかしくなっている」
シルフィアの疑惑は、“謎の影”との戦いで確信となった。
剣獣王ライオネスが“謎の影”と相打ちとなった試合は、結局お流れとなってしまった。
観客から犠牲者が出てしまったのだ。当分の間は試合は行われないだろう。
ドレイクも事件の処理で大わらわだった。第一皇女リリスの誕生パーティーへの潜入は別の手を考えるしかない。
そして、拳獣王ライオネスの遺言も叶えてやりたかった。
ライオネスから預かった赤い宝石のペンダントをじっと見る。これが何を意味しているのか分からないが、一族の呪いを魔剣エクリプスで断ち切ってほしいと言っていた。
シルフィアには、分からないことだらけだった。
「で、なんで俺が、屋敷でまでずっと面倒見ることになってるんだ……」
カイルは額を押さえながら言った。
目の前では、シルフィアが豪快にパンをかじっている。
「だってよ、お前んとこが一番安全そうだったし」
「理由が雑すぎる!」
『当然であろう。貴様は運が悪い』
エクリプスが鼻で笑う。結局、拳獣王ライオネスのことはカイルには黙っていることにした。だが、いづれはバレるだろう。
「うるせぇぞ、エッくん」
『エッくんではない!!我は魔剣エクリプスだ!!』
『扱いが雑なのは事実でありんすなぁ』
聖剣セラフィクスがくすくすと笑う。
『貴様は黙っていろ元妖精王!!』
『今でも妖精王でありんす。兼業でありんす』
「ん、何だ妖精王って?」
『そのうち、分かるでありんす』
「はいはい、落ち着いて」
カイルは深くため息をついた。目の前の三者三様がうるさい。
「とにかくだ。シルフィア、お前は今、剣闘士として登録している」
「ああ、そうだな」
「大方、日銭稼ぎながら、復讐の機会を探してるんだろ」
「そうだな。強いヤツ倒してりゃ、そのうち当たるだろ」
シルフィアがけろりと言う。
「当たらない可能性の方が高いんだが……」
『論理的には無謀の極みだな』
「細けぇことはいいんだよ」
カイルはまた頭を抱えた。
その時。
シルフィアが急に顔を上げた。
「なあカイル」
「なんだ」
「面白ぇ話聞いたぞ」
「ろくでもない予感しかしないが」
単刀直入に聞いてみる。
「帝国の第一皇女、リリスの誕生パーティーがあるらしいな」
カイルの動きが止まった。
「……ああ。あるな」
「十五歳だっけか?」
「そうだ。大規模な式典になる」
「でよ」
シルフィアがにやりと笑う。
「大帝も顔出すかもしれねぇんだろ?」
空気が一瞬で変わった。カイルの表情が引き締まる。
「……どこでそれを」
「噂だよ。剣闘士の控え室、情報回るの早ぇぞ」
嘘はついていない。ドレイクから聞いたことは言わないが。
『雑多な環境だが、情報網としては優秀だな』
エクリプスもそれに合わせる。嘘はついていないのだ。
「で?」
シルフィアはパンを飲み込む。
「行きたい」
「……は?」
「誕生パーティーだよ。出たいんだよ」
「出られるわけないだろ!?」
カイルは即座に否定した。
「貴族の社交場だぞ。身分が必要だ」
「あるじゃねぇか。ベールウェスト王家の王女だぞ」
「ない」
「ある」
「ない!」
『子供の口喧嘩か貴様らは』
エクリプスが呆れた声を出す。
「じゃあどうすんだよ」
シルフィアは腕を組む。そして、じっとカイルを見る。
「お前、出るんだろ?」
その一言でカイルは固まった。
「……ああ、出るな」
「だよな。属国とはいえ王子様だもんな」
「それは……そうだが、元王子だぞ」
「細けぇことはいいんだよ」
カイルはシルトベルト帝国の属国、ジグムント公国の第三王子だ。
その事実をシルフィアに語ったことを後悔した。
「じゃあ簡単だ」
シルフィアは指を立てた。
「一緒に連れてけ!」
「無理だ!!」
間髪を入れない答えだった。
「あまりにも危険すぎる!」
「大人しくしてりゃいいんだろ?」
「お前が“その言葉”を言う時が一番信用できないんだが!?」
『正論だな』
エクリプスの適格なツッコミが入る。
「大人しくするよ」
「しない」
「する」
「しない!」
「するって言ってんだろ!」
バンッとシルフィアが机を叩いた。完全に子供の喧嘩だった。
カイルが思わずたじろぐ。
「いいかカイル」
シルフィアは真っ直ぐに言う。
「大帝が来るかもしれねぇんだ」
「……」
「ここ逃したら、次はいつだ?」
カイルは言葉に詰まる。
『合理性は……あるな』
「おい!エクリプス!」
『だが成功率は低い。リスクも非常に高い』
「それでもだよ」
シルフィアは笑った。
「あたしの国をぶっ潰した本人の顔を拝んでおきてぇ」
その目は笑っていなかった。
「チャンスってのは、掴みに行くもんだろ」
「お前は指名手配されているんだぞ」
「先日の剣闘場での騒ぎを忘れたのか」
シルフィアがカイルを見つめる。
「それでもだ。それに顔を見るだけだ」
静寂――
カイルはしばらく黙り込んだ。
シルフィアの瞳に睨まれると弱くなる自分が情けない。
「……条件がある」
「お?」
「絶対に騒ぎを起こすな」
「おう」
「勝手に動くな」
「おう」
「戦うな」
「……」
「今の間はなんだ?」
「いや、その」
「戦うな」
「……善処する」
「ダメだ!!」
『信用が皆無であるな、無理もないが』
エクリプスのツッコミが入る。
「大人しくするって言ってんだろ!」
シルフィアが食い下がる。カイルは深く息を吐いた。
「顔を見るだけだぞ」
「分かったてば!」
カイルは少しためらってから、意を決して言った。
「……婚約者、という形なら通せる」
「お、いいじゃねぇか」
「よくない!!」
カイルは顔を覆った。
「俺の立場がどうなると思ってる……」
「細けぇことはいい」
シルフィアがいつもの調子でさらりと言う。
「よくない!!」
「いいから行こうぜ」
「行かない選択肢をくれ……」
カイルは、いやな予感しかしない。
『諦めろ。我らは既に巻き込まれている』
『楽しみでありんすなぁ』
「セラフィクスまで乗るな!」
カイルは、天井を仰いだ。
「……本当に大人しくするんだな?」
「する」即答だった。
カイルは、しばらく見つめる。
「……分かった」
「よっしゃ!」
「ただし、婚約者としてだ。余計なことはするな」
「任せとけ!」
「不安しかないんだが!?」
シルフィアはもう立ち上がっていた。
「よーし、パーティーだな!」
『……破滅の匂いしかしないのだが』
『最高でありんす』
「誰か止めてくれ……」
カイルの嘆きは、誰にも届かなかった。
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