16.シルフィア、帝都をゆく
シルトベルト帝国の帝都シルトベルン、その街は全てが巨大だった。
巨大な尖塔がいくつも立ち並び、そこに取り付けられた硝子が太陽の光を宝石のように反射させている。
美しく壮麗な眺めだった。
街の中央には巨大な彫刻が施された噴水と池があり、その周りには広大な中央広場がサークル状に広がっている。
彫刻のモチーフは、シルトベルト帝国大帝ビスマークだった。噂によれば、ビスマークは千年を生きると言われていたが、帝都の民が彼の姿を見ることは滅多になかった。
そして、その広場から大通りが東西南北に伸びていた。その大通りには、人の通りが朝から晩まで、絶えることがない。
大通りの東の端には、巨大な宮殿・黒曜宮が建ち、シルトベルト帝国大帝ビスマークが政治を取り仕切っている。
この街全体を、これまた巨大な城壁が取り囲み、一つの城塞都市として形作っていた。何もかも、シルフィアの想像を超える街であった。街の直径がどれ程あるか見当もつかない。
その巨大な帝都の雑踏の中にシルフィアはいた。
あのカイルという聖騎士の名前を出すと、帝都にはすんなり入城できた。
しかし、しかしである。問題はそこからだった。
人、
人、
人、
帝都の雑踏は人の波が無限に続くかに思われた。
「人の波に酔いそうだぜ。気分が悪い」
『この軟弱者め。気合が足りん』
「で、エッくん」
シルフィアは、腕を組みながら雑踏の中を歩く。
「帝都に来たはいいが、これからどうする?」
『それを我が聞きたいのだがな?』
「そうだな。まず強ぇヤツと戦いてぇな」
『なっ!? 自分の立場が分かっているのか!お前は逃亡者だぞ!』
「この帝都で一番強いヤツは誰だ?」
『それは……シルトベルト大帝に決まっておろうが』
「じゃあ決まりだな」
即答だった。
「手近な強いヤツから倒していけば、いつか大帝に会えるだろ」
『脳みそまで筋肉か貴様!!』
通行人が振り返るレベルの大声だった。
『大帝の強さは、お前の言う強さとは別物だ!』
「細けぇことはいいんだよ」
『根本的なことだ!!』
言い争いながら辿り着いたのは――冒険者ギルド。理由は強いヤツがいそうだから。それだけだった。
ギルドの扉を蹴り開ける。
バン!!
冒険者たちの、値踏みをするような視線が、一斉に集まる。
「何だ。ガキか」
全員の目がそう語っていたが、シルフィアは、気にせずカウンターへ直行した。
「おう」
受付嬢に向かって親指で自分を指す。
「強えぇヤツと戦える仕事、ねぇか?」
沈黙――次の瞬間。
ドッと笑いが起きた。
「ははっ!聞いたか今の!」
「嬢ちゃんが強ぇヤツだってよ!」
「帰って飯でも作ってろ!」
ざわざわと嘲笑と罵声が飛び交う。
その中から、一人が立ち上がる。
大柄な男。バルド。
「……おい、嬢ちゃん」
ギロリと睨む。
「男に生まれ変わってから出直しな」
シルフィア、即答。
「あんたみてぇに弱そうなヤツじゃ話になんねぇよ」
一瞬で場の空気が凍る。
「……何だと、このガキ。冒険者ランクは何だ?言ってみろ!」
「冒険者ランク?何だそれ?」
「てめぇ!ふざけてんのか!?」
ガチャリ。
バルドが剣を抜く。気の短さでは、シルフィアといい勝負のようだ。
「おいおい、やめとけよバルド」
「嬢ちゃんを泣かすんじゃねえよ」
「Aランクのお前相手じゃ勝負にならねえよ」
「その嬢ちゃん、どう見てもFランクじゃねえか」
何人かが止める。
しかし、周囲は完全に観戦モードであった。
「お嬢ちゃん、背中の大剣、飾り物かぁ」
「やれやれ!」
「面白くなってきた!」
さすがにエクリプスも止めてきた。自分たちは逃亡者なのだ。余計な騒ぎは起こしたくはない。
『おいシルフィア、やめておけ』
「なんでだよ」
『ここで騒ぎを起こせば――』
「関係ねぇ」
シルフィアは背中のエクリプスを引っ掴む。
『こら貴様!抜け!せめて抜け!!』
「こんな雑魚、これで十分だ」
『我は棍棒ではない!!』
バルドが剣を抜き、一歩踏み込む。完全に頭に血が上っている。
「死ねやァ!!」
剣が振り下ろされる。
――ガンッ!!
シルフィアはエクリプスでそれを受け止める。そのまま、
ブンッ!!
横薙ぎに一閃した。
ゴインッ!!
「がぁっ!?」
鈍い音がして、バルドの巨体が宙を舞い――
ドォォォォン!!
そのまま、床に叩きつけられた。
沈黙。
「……え?」
誰かが呟く。バルドは動かない。一撃だった。
『……だから言ったであろうに』
「やっぱ筋肉は裏切らねぇな」
シルフィア、ケロッとしている。
冒険者ギルド内がざわつく。
「今の何だ……?」
「剣じゃねぇ、殴ったぞ……?」
「Aランクのバルドを一撃だと?」
その様子を――奥から一人の男が面白そうに見ていた。
ギルドマスター・ドレイク。
腕を組み、ニヤリと笑う。
「……なるほどな」
ゆっくりと前に出る。
「お嬢ちゃん」
シルフィアが振り向く。
「なんだ?」
「強いヤツと戦いたいんだろ?」
「おうよ」
即答。ドレイクは口角を上げる。
「それなら、いい仕事がある」
一拍。
「強いヤツが大勢いる場所で、戦ってみる気はないか?」
「へぇ」
シルフィアの目が光る。
「どこだ、それ?」
ドレイクは、さも楽しそうに言った。
「地下剣闘場だ」
『……我は嫌な予感しかしないのだが』
「いいねぇ」
シルフィアはニヤリと笑う。
「そこ、行くわ」
「まずは、冒険者ランクの登録からだ」
こうしてシルフィアの復讐の第一歩が始まったのである。
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