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13.ベールウェストは、ここで終わらん

 戦場は、すでに炎と怒号に包まれていた。


 「押し返せ!数にビビるな!筋肉は裏切らん!!」


 アーサー王の咆哮が響く。


 「鍛えれば鍛えるほど、人間は強くなる!前へ出ろォ!!」


 「うおおおおおっ!!」


 ベールウェスト兵が応じる。対するは、シルトベルト帝国軍。


 数で圧倒していた。


 「散開しろ!囲め!」

 「囲ませるかよォ!!」


 最前線を、赤い影が駆け抜けた。


 「どけどけどけぇぇ!!」


 シルフィアだ。


 赤い髪をなびかせ、一直線に突っ込む。


 手にしているのは――抜かれていない魔剣。


 『シルフィア!我は剣だ!叩くな!』

 「うるせえエッくん!」


 ゴォン!!


 魔剣エクリプスが、鎧ごと兵士を吹き飛ばした。


 『ぐあああっ!』

 「やっぱ筋肉は裏切らねえな!」

 『それは我の台詞だ!』


 エクリプスが怒鳴る。


 『せめて抜け!我は棍棒ではない!』

 「これで十分だろ!」


 再び、ゴンッ!!


 『やめろォォォ!!』


 帝国兵の悲鳴が上がる。


 「なんだあいつは!?」

 「赤い……悪魔だ……!」


 恐怖が伝播する。


 シルフィアは笑った。


 「いいじゃん、その名前!気に入った!」

 『気に入るな!!』


 エクリプスの怒声を無視して、さらに踏み込む。


 「次ぃ!!」


 ゴンッ!!


 『ぎゃああああ!』


 だが――。


 『……数が多すぎる』


 エクリプスが低く言う。


 前方にも、左右にも、後方にも。


 帝国軍が押し寄せていた。


 「シルフィア!一度下がれ!」


 遠くから、アーサーの声。


 だがシルフィアは止まらない。


 「まだいける!」

 「無茶だ!囲まれているぞ!」


 帝国軍の包囲が狭まる。

 槍が突き出される。


 「チッ……!」


 シルフィアが弾き、殴り、蹴り飛ばす。


 だが――数が減らない。


 「くっ……!」


 そのとき。


 「……そろそろ、頃合いでしょうか」


 静かな声が、戦場に紛れた。

 シルフィアの動きが一瞬止まる。


 「……あ?」


 振り向いた先。

 そこにいたのは――宮廷魔導士マーリング。


 「……お前、何をして――」


 次の瞬間。


 帝国軍の一部が、迷いなく王都の方角へ動き出した。

 隘路の抜け道を利用して王都に迫る。

 もちろん抜け道をシルトベルト帝国軍に教えたのはマーリングだ。


 「進め。王都は手薄だ」

 

 マーリングが淡々と告げる。


 「な……?」


 シルフィアの目が見開かれる。


 『裏切り……か……是非もない』


 エクリプスが吐き捨てた。


 「おい、待てよ……!」

 「相変わらず、君は理解が遅いですね、シルフィア王女」


 マーリングは振り返りもしない。


 「戦いは、筋肉だけでは勝てないのですよ」

 「ふざけんな!!」


 シルフィアが叫ぶ。


 だが、帝国軍はすでに流れを変えていた。王都へ――一直線に。


 「王都が……!」


 遠くで、アーサーの声が響く。


 「全軍、退け!王都へ戻るぞ!!」


 ベールウェスト軍が動く。


 だが、遅い。


 抜け道を利用して背後に回った帝国軍が、ベールウェスト軍を包囲する。


隘路が逆手に取られてしまった。分断するはずが、分断されてしまっている。


帝国軍はすでに王都の門へ迫っていた。


 ――数で押される。

 ――内側から崩される。


 「くそっ……!」


 シルフィアが歯を食いしばる。炎の向こうに、王都の城壁が見えた。王都の民間人はアーサー王が早めに避難させておいたが、逃げ遅れた民衆もいるはずだ。


 『……籠城だな』


 エクリプスが低く言う。


 「完全に、追い込まれた」


 シルフィアは拳を握った。


 「……ぶっ飛ばす」


 その目は、まだ死んでいない。


 「大帝も、裏切り者も、全部まとめてぶっ飛ばす!」

 『だから我を剣として使えと言っておる!!』


 戦火の中、二人の声がぶつかる。


 そして――


 ベールウェスト王国軍は、籠城戦へと追い込まれた。



 ◆



 籠城してから三日目。

 城壁の上から見える景色は、変わらなかった。


 黒い鎧。

 黒い旗。

 黒い波。


 「……減らねえな」


 シルフィアが吐き捨てる。これまでに数回、打って出たが、シルトベルト帝国軍の数の前では戦果もはかばかしくなかった。


 『当たり前だ。向こうは補充される側だ』


 エクリプスが冷静に返す。


 『こっちは減る一方、最初から分かっていたことだ』


 城内は静まり返っていた。

 怒号も、士気も、もう削り切られている。


 「食い物は?」

 「尽きた」


 「水は?」

 「最低限」


 「……そっか」


 シルフィアは舌打ちした。

 その背後で、アーサーが口を開く。


 「十分だ」


 重く低い声だった。


 「よく持った」


 その一言で、すべてが決まる。


 「これより――討ち死にとする」


 誰も反論しない。できない。アーサーは続ける。


 「城内の爆薬をすべて集めろ」


 シルフィアが振り返る。


 「……は?」

 「中庭のダンジョンごと吹き飛ばす」

 「自爆かよ」

 「そうだ」


 迷いはない。


 「帝国には、いやビスマークには何一つ渡さん」


 エクリプスが小さく笑う。


 『ようやく面白くなってきたな』

 「お前は黙ってろ」


 シルフィアが肩で担ぎ直す。


 「でも悪くねえ。死ぬにはいい日だ」


 ニヤリと笑う。


 「最後にでかいの一発、ぶちかましてやる」


 準備が進む。火薬が運び込まれる。

 静かに、確実に終わりへ向かっていた。


 ――その時。


 「来ます!」


 外から衝撃音。


 『……早いな』エクリプスが呟く。


 城壁の一角が崩れた。


 「弱点を突かれたか」


 アーサーの目が細まる。


 「マーリングッ……!」


 シルフィアが歯を食いしばる。脳裏をマーリングの笑い顔がよぎる。


 次の瞬間。


 帝国騎士たちが雪崩れ込んできた。


 「突入!」

 「制圧しろ!」


 「行くぞォ!!」

 「チッ、来やがった!」


 シルフィアが前に出る。だが――。


 「シルフィア」


 アーサーが呼ぶ。一瞬だけ振り向いた、その瞬間。


 ドンッ!!


 「――っ!?」


 腹に衝撃。

 息が詰まる。視界が揺れる。


 「な……に……」


 アーサーの拳だった。


 「お前はまだ死んではならん。お前には役目がある」


 崩れ落ちるシルフィアを、片手で掴む。


 「な……んで……だよ……」


 意識が遠のく。


 「魔剣エクリプスと共に生きよ」

 『我を道具として扱うなと言っているだろうが……』


 エクリプスが低く言う。だが、その声は静かだった。


 アーサーはシルフィアを抱えたまま走る。中庭へ。


 古井戸の前で止まる。


 「……シルフィアを頼んだぞ」

 『言われんでも、分かっておるわ』と、エクリプス。


 そのまま――


 ドサッ!


 古井戸の中へ突き落とした。


 「父……ちゃ……」


 声は届かない。闇に落ちていく。アーサーは振り返らない。


 背後では、帝国騎士が迫っていた。


 「王を見つけたぞ!」

 「囲め!」


 アーサーはゆっくりと立つ。


 「……兵たちに伝えろ」近くの兵に言う。


 「投降しろ。無駄死には許さん。帝国軍は騎士道を重んじる、むやみには殺すまい」

 「ですが――」

 「命令だ」


 短く切る。


 兵は歯を食いしばり、頷いた。走り去る。

 アーサーは一人、中庭に残った。


 積み上げられた爆薬。足元のダンジョン。


 迫る敵。


 「来い」


 静かに構える。


 「筋肉は裏切らん」


 拳を握る。


 「最後までな」


 帝国騎士が飛び込む。


 その瞬間――アーサーは起爆装置に手をかけた。


 「ベールウェストは、ここで終わらん」


 ――閃光。そして轟音が響き渡る。


 城ごと、大地が揺れた。すべてを飲み込む爆発。


 煙が上がる。崩れ落ちる王城。


 その中心に――アーサーの姿は、なかった。


 生きているのか。死んだのか。

 それは、誰にも分からなかった。

読んでいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」


「続きが気になる!」という方は、


ぜひ評価をお願い致します。星ひとつでも構いません。お気持ちだけで結構です。


ついでにブックマークをして頂ければ、とても嬉しいです。


では、次回も、お会いしましょう!

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