第八話 最初の合格者
その体には黒い靄が半身を隠すようになっていた。
黒い靄はやはり彼が手に持つ環首刀から出ている、体まで伸びている。
まるで生きている影が楚昊の左半身を覆い、動くたびにわずかに蠢く。
袁天術くんはまだ左手を揉みながら、涙をぽろぽろと零していた。
「晋陽……本当に痛い……手が……っ」
しかしその涙の隙間から、金色の瞳が鋭く楚昊を射抜く。
「くっ!?」
そんな彼と目を合わせた楚昊は急に目をつぶった、石灰や砂でもかけられたように。
「あちゃー目撃術ってやつ....」
(...?目撃術)
「ふぅ」
余裕は消えていない。しかし苦しそうな吐息からして痛みも本物のようだ
けどむしろ、痛みをきっかけに本気の層が剥き出しになっただけみたい
「下郎が……我の手を傷つけて……許さん」
次の瞬間、袁天術の姿が消えた。
いや、消えたのではなく、あまりにも速く動いたのだ。霊気の流れからて、それは己の体を動かした結果ではない。
【剣気を身に纏いつけその剣気を発射して速度上昇】
(なるほど、自分から飛ぶ..というよりは自分を発射したとでもいうべきか。納得)
もとよりボロボロで散乱している擂台だった地面がが鋭い剣気に割れ、黒い靄を纏った楚昊の眼前に、すでに彼袁天術手が伸びていた。
「っ……!」
環首刀が横に薙ぎ払われる。
黒い靄が刃と一体になって弧を描き、袁天術の胸元を狙った。楚昊、彼は袁天術に少し劣るが、なかなかの反応をしていた。少なくともこの内門候補者の中で一二を競えそうな上位陣だ。だが問題なのは袁天術が彼より明らかに修為が上だった。
(練気...7層...いいや、8層はくだらない。それ以上か?!)
当然手が軽く刀を弾く。
しかし金属と肉がぶつかる音はなく、霊気が直接ぶつかる鈍い衝撃だけが響いた。
流石に袁天術も今度は霊気を隠す寸法をやめて、剣気で体を守りとしたのか。
見えない攻撃、予測しにくい攻撃が意味をなさない時には、近接戦闘を取ると言う判断の速さ。
ガキンッ!
楚昊の体が後ろに弾かれる。
足場はすでに木の根と泥でぐちゃぐちゃだというのに、袁天術は浮かびながらまるで今いる場所が平地でもかというように追撃していく。
手刀、肘、膝。
なんの変哲もない基礎的な攻めが、楚昊のあらゆる防御を強引にねじ伏せていく。
「遅い」
「甘い」
「力がない」
短い言葉が、打撃と同時に降り注ぐ。相変わらずに喋りながらに戦うことが好きな袁天術くんである。
楚昊は黒気を纏った刀で必死に受け流すが、そのたびに腕が痺れて肩が軋む。
五行の主旗を切り替えようとしても、近接では余裕がない。
土で足場を固めようとすれば、袁天術の蹴りが先に石畳を砕く。
水で感知を広げようとして、この距離ではその瞬間に手刀が喉元まで迫る。
(……力の差が、はっきりしすぎている)
私の頭の中でアルケミストが淡々と数値を更新していく。
【近接戦闘解析中 袁天術:基礎体術・霊気運用ともに優越 楚昊:黒気による瞬間的防御のみ有効 五行陣旗の有効射程は拒否 光の体現結界も剣気が破壊 現在勝率推定 12%以下】
「く……っ」
楚昊の口から、抑えきれない呻きが漏れる。
黒い靄が半身を守っているせいで致命傷には至らないが、その靄自体も徐々に薄くなっていく。
環首刀が飲むように吸収していた無色の剣気も、今やすでに限界を迎えて、吸収はほとんど尽きていたのだ。
しかしそれでも袁天術は泣きながら、容赦なく攻め続ける。
左手はの腫れも剣気を纏えば引っ込み、押さえつけたのか、あるいはすでに再生したのか、どちらにせよ楚昊の刀を弾きながら、楚昊の体勢を崩して追い込む。
「太虚無相 虚実相返」
「ガッ!」
「陰陽転化 白虹日を渡る」
袁天術は再び唱え始めていた。
「幽は顕に入り 顕は幽に帰す」
斬ッ
「色は空に帰し 空は形を生ず」
そして唱えるたびにその攻撃は重くなり
「無より来たり 有を断つ」
「空華」
そう言い、袁天術はただ構えた。
楚昊の体からまだ微かに黒い靄があってそれが衝撃を拡散させるが、それでも体がくの字に折れて石畳に膝をついた。
すぐに立ち上がろうとするも、倒れてしまう。
「終わりだと言っただろう」
周囲の外門弟子たちからも、内門候補たちからも、もはや声が出ない。
さっきまで五行の巧妙な運用にざわついていた空気が、完全に沈黙に変わっていた。
圧倒的な力の差を前にして
袁天術は今度は口から何かの霊気の波動を出したにすぐない。
(しかし目に、口..全身のどの場所でも兵器化していると言うのか)
楚昊は環首刀を握りしめたまま、上を見上げる。
それで黒い靄が半身どころかもう片方側まで広がり始めているのに、それでも袁天術の圧力は微塵も揺るがない。
しかしながらどれだけ剣気を打ち込まれても、たとえ五行陣旗の結界を砕かれたとしても、楚昊の体には決定打は未だに来ていない。
袁天術が、ゆっくりと右手を上げて、印を結んだ
次の一撃で、決着をつけるつもりなのだろう。
「蜜水……まだか」
涙を拭いそう言い。
「...今更まだかよ」
「やっとか、無口なやつめ、力量さを知ったか。そういえば一言残させてやろう、族の果報にこの場所に。」
「泣き虫だバー!」
「有無相生 難易相成」
「起相——杳曚」
袁天術、彼はこの時どう考えているだろうか。
きっと勝つことでいっぱいだと、そんな顔をしていた。
「真似させてやろうお前の小細工だったのを、結界を、その派生を...それにある全てを」
(見えざる理と身体を一致させる、目の前の敵にはそんな価値がある。)
その硬さ、力量に敬意を示す。
己が全ての霊気を拡散させる、形がないものになる。
だがそれが目的ではない、形こそない。
しかし限界を作る、辺域を作り出す。
とこまでも霊気を伸ばして、作り出す。
「おい、あれ!?」
「剣気がきえ...ぐっは!!」
「違うな、どこまでも全てが剣気だ。遠い向こうを見ろ、淡い光の線を、そしてその周辺を見ろ。膨大すぎる細い霊気をならばしている証拠だ。」
その全てが剣気である。
剣気を拡散して、己の気配を隠す。
(楚昊、こやつのように。)
「あっ..あっ...が」
「それ以上は動くない、傷口が」
「丹田か...もはやしまいだな」 「だな兄者」
「剣気に剣気を隠すのか、無数の剣気を張り巡らせて...」
袁天術は楚昊のように自身の霊気を張り巡らせていた。しかし霊気を練り上げてできたより上位の殺傷力がある、“剣気”
それを何か外力に頼るわけではなく彼がどう年齢層いや、同じ境界にいる存在と比べて、甚大な霊気の貯蔵量があるからだろう。
だから、一気に剣気を放出して、感知を破壊すると同時に、どこからも攻められるようにしている。
張り巡らす剣気は彼から出ているからだ。
楚昊の外力を使った半自動と違い、思い通りに動かせるのが、修行者、修仙者の持つ得意点
(これじゃ、楚昊にとって躱しようも、防ぎようもない、必中の技...)
「だ..」
(であってるか?アルケミストくん?)
「褒めてやろう、まだ動けそうなことを、なんて硬い。」
「あっ...来いよ」
「だがその口が一番硬いようだな、せっかく褒めたんだ。もう十分だろうに。」
「ビビるな」
「…?」
「こっちにいくら剣気を当てても無駄だからだろう。」
「その奇怪な剣を持ったあとは確かに硬くなっただから寄せ集めた、どこからでも打てる、最速最大の、剣気を撃つだけのために、剣気だけの空を作り上げた。」
「だが」
「だがしかし、その口からの言葉はもはやいらない。」
「そちらが、地形を変えるなら、我は、天をも変える。」
【空間に剣気を張り巡らすこと 楚昊の地形変化より上との発言 不可解】
(なるほどそうか、剣気を張り巡らせることであたりに充満させたその剣気を寄せていけば、最大火力を置くことはできる。)
【認識:半径膨大な区域】
(つまり飛ばす必要もなく、その場に置くようなもので、区域内を自在にして。さらには気配も気づかれにくく、あらゆる方角から瞬発的に着弾するわけか。)
【....饒舌 長文 】
(いや...ま)
「そして修為もこちらが上だ、諦めろ。」
「えへ、へへへへアハハハハ、バカだぜあんた。」「イラつくな、騒ぐな、喚くな。鬱陶しい。」
後追いのような発言だった。
袁天術はすぐに言葉を返して手をかざし、指差す、その人差し指を合わせて。
そうしてこう言う
「傲世一剣!」
絶え間のない剣撃でも打ち破れない相手に対してさらなる大技を仕掛ける予告であった。
【練気11層の反応を検知】
空間に満ちていた無数の細い剣気が、一斉に収束する。淡い光の線が幾重にも重なり、やがて何も写さない空が楚昊の頭上に現れた。
練気十一層の密度を帯びたその刃は、ただの技ではなく、空間そのものを圧するような威圧を放っていた。
【出力推定 万剣斉発を大きく上回る 約27倍】
「終わりだ」
袁天術が静かに言い放つと、巨剣が落ちた。
楚昊は動かなかった。
環首刀を構えるでもなく、五行の主旗を切り替えるでもなく、ただその場に膝をついたまま、黒い靄に半身を包まれてそれを見上げていた。
何かを思っているようで。
「ッ....」
(……やはりか)
心の中で、彼は静かに頷いた。
(やはりだ。修行はともかく、功法も秘術も法宝も、何もかもこちらが上だ)
斬撃が降り注ぐ。
最初の一撃で体が大きく揺さぶられ、次の一撃で姿勢が崩れる。
立て続けに体内に残る剣気がまだ消えていないと言うのにさらに続く剣気が、楚昊の体を何度も押し潰すように襲いかかった。
防がない彼と違い黒い靄が自動的に衝撃を拡散させようとするが、完全には防ぎきれない。
しかし楚昊は苦悶の声を上げなかった。
むしろ、その瞳の奥で静かな納得が灯っているようだった。
小さく呟く声は、誰にも届かなかった。
彼は防がなかった。躱さなかった。ただ受けた。
降り注ぐ剣気の一つ一つを、体で受け止めた。
そしてその瞬間から、変化が始まる。
石畳の隙間から伸びていた無数の白い根が、一気に活性化し楚昊の体に絡みつき、揺らいだ姿勢を支える。崩れた均衡を強引に立て直していく。
据え置きされた剣気は、体内まで及び、防御を貫いていくならば、防御をも捨てる。
捨てて取る行動は一つ。
根は彼の体を縫うように絡み合い、仮初の支えを形成する。
だがそれは回復ではない。あくまで「形を保つ」ためのものだ。
傷口に相当する箇所は土の属性で覆われ、泥が表面を固めるように広がる。
止血と形状維持だけ。傷そのものは残ったままだ。
(五行相生……火生土、土生金、金生水、水生木、木生火)
楚昊の中で、静かに輪が回り始める。カウンターのための輪廻を。
【五行の輪転 発動確認】
主旗はもはや一つに定まっていない。赤・青・黄・白・黒と五色の光が彼の体表を高速で循環し、一つの属性が次の属性を生み、生んだ属性がさらに次を生む。
今まで外に影響させていた五行を今度は自分だけを影響させるようにした。その気を内側へと充填させた。
輪廻の連鎖が、損傷した体を形として固定し続け、外から加えられる力——袁天術の剣気そのものが、この輪転の燃料となっていた。
━━破壊と再生
楚昊が霊気で育てた植物たちが剣気の純粋なそれで破壊されて、霊気に還元される。小さな種子が大きな果実へと変わるように。
重ねる外力がなければ成立しない秘術。
環境なくしては成り立たない秘術。
楚昊はきっと思っている、彼こそ一手上をいっていると。
相手が強ければ強いほど、攻撃が激しければ激しいほど、輪転は加速し、体の形を強引に維持する。
「何を……?」
この時彼は不思議と思った。最初は体格差があって近接戦を恐れた相手も、力や速度が彼より劣ってしまえば、怖いものはもうなし。
剣気を体にうまく纏い、遠くのなく、近くもない距離に変えて黒い剣にさえ触れないようにした。
無事なはずだ。もう何もかも
しかし、今彼の顔には明白な恐怖の情緒が表れている。
斬り捨てたはずの体が、根と土と黒い靄で無理やり形を保っている。
体勢が大きく崩れていても、楚昊は完全には倒れない。むしろ、剣気を受けるたびに根がさらに密になり、体を擂台に縫い付けていく。
「無駄だ。いくら繋いでも、いずれは——」
袁天術が再び指を弾く。
【傲世一剣:体内に直接剣気を当て込む 外からの侵入ではない 大量に置いた剣気を使い体内に存在する剣気を起爆】
楚昊の体が再び大きく揺さぶられる。
根が引きつり、土が剥がれ落ちるが、そのたびに新たな根が伸び、新たな土が湧き、やがて根など植物が彼の体を覆い尽くし始めていた。
特に左手は、ほとんど木に埋もれて指の形すら判別しにくいほどの、植物そのもの。
それを袁天術が、再び印を結ぶ。
「まだ足りぬか。ならば——」
今度楚昊の内側から無数の細剣が全方位から同時に襲いかかる。刺し傷、切るのがダメならば、刺す。
しかしその瞬間だった。
ほぼ木に埋もれた左手が、ゆっくりと上がった。
根を押しのけ、泥を払いのけ、血に塗れた指が、環首刀の柄に伸びる。
楚昊は、刀身を覆っていた黒い靄に、その手を添えた。霊気を大量に回しながら。
断ッッッ
袁天術はすぐにそこに剣気を集中させた。
だが、予想外のことが起こった。
黒い靄が、まるで意思を持っていたかのように、一斉に刀身から剝がれ落ちる。
吸い込まれていた袁天術の剣気ごと、黒い塊となって地面に落ち、消えていく。
残されたのは、むき出しの環首刀。
その刀身に、無数のひびが入っていた。
キィィィ……ッ!と高い音を立てて、ひびが広がる。刃が割れ、持ち手から刃先の先端まで亀裂が走る。そして——中から、何かが顔を出した。
漆黒の、細い、長い針のようなもの。
楚昊がとった動きはどうやら囮のようであり、もはや五行の回転に耐えられることにない状況であったため、わざと、その圧力全てを剣に回すために、袁天術の気を引いていたようだ。
結果、環首刀の内部に隠されていた、真の刃のようなものが、あるいは、環首刀そのものが、ただの鞘だったのかもしれない。
轟ッ
ドンと言う音と共に巨大な爆発は起こった。
まるで今までの剣気を全て吸収したような威力で確実に自分と同属性だった、あたりに配置されていた小さな剣気全てを破壊していく。結界もどきを破壊していく。
当然その大元の袁天術にも向かう。一瞬で。
爆発の衝撃が擂台を中心に広がった。
石畳がめくれ上がり、木の根が引きちぎられ、泥が吹き飛ぶ。
黒い針のような刃から放たれた、これまでの剣気をすべて飲み込んだような衝撃波が、一瞬で空間を埋め尽くし袁天術の体が真後ろに吹き飛ぶ。
剣気で身を守っていたはずの防御が、まったく意味をなさなかった。吸収されていた自分の剣気ごと、同属性として中から破壊されたのだ。
「ぐっ……!」
着地した瞬間、彼の服がはらりと裂ける。
袖が裂け、襟元が破れ、腰の布が乱れ、今日のためにきた母が選んだ袍が、黒い煤と泥にまみれてぼろぼろになった。
袁天術はしばらくその場に膝をついたまま、動かなかった。
次の瞬間、顔を上げた。
涙が、堰を切ったように溢れた。
「ッッ……よくも、よくも我が母上からの服を、よくも……!」
声が裏返る。
さっきまでの余裕も、剣気の威圧も、すべてが泣きじゃくりの中に溶けていく。
「ううぅ……晋陽、やつが、やつがいじめてくるぅ……!」
「元宝!」
擂台の下で見ていた弟子たちが、一斉に息を飲む。
しばらくして誰かが小さく「嘘だろ……」と漏らした。
袁天術は涙を拭うとその瞬間、空気が変わった。
擂台全体を圧するような、濃密な霊気が噴き上がる。
練気11層を遥かに超えた気配。1層……いや、それ以上の気配が
「許さん……許さんぞ……!」
袁天術の瞳が、金色からさらに深い光を帯びる。
まるで目の中に剣気が、いや、剣そのものがあるように。
斬 斬 斬 斬
剣気が再び空間に満ち始め、今度は先ほどとは比較にならないほどの殺気を孕んでいた。
しかしその気配が完全に膨れ上がる前に、擂台の上空から静かな声が落ちてきた。
「そこまでだ」
低い、しかしはっきりと通る声。
蕭潮。この試験の裁断のその人が、いつの間にか空中に立っていた。
白い長衣を翻し、片手を軽く掲げただけで、袁天術の膨らみかけた霊気が一気に収束する。
まるで蛇口の水をせき止めるように、簡単で優雅な動きだった。
「蕭仙長……!」
袁天術が涙声で振り返る。
蕭潮は静かに頷き、二人を見下ろした。
「実力は、充分に見た」
蕭潮の声が、淡々と続く。
「だからやめろ。」
袁天術が、さらに涙をこぼしながらも、小さく頷く。
「……はい、ひぅ……」
蕭潮が、軽く手を振る。
「二人とも、合格だ、しばらく体を癒せ。時期に入る師門の兄弟子たちが迎えにくる。内門のも大衆殿ではない、五代弟子だ。」
「五代弟子だと...?!あの蕭長老ですら四代弟子だぞ」
「そもそも、内門じゃないぞ、あれじゃ、蕭長老らのような真伝、以下には最上位でここ二甲子ほどはもうきていない。」
「そうだな...百と半ほどか」
「とは言ってもまだ弟子だ、ここであまり驚くべきでない。公孫真人と蕭長老の前だぞ。」
「はっ...ありがとう...ございます。」
楚昊は、まだ膝をついたまま、環首刀の残骸の漆黒の細い針で体を支えていながら返事した。
黒い靄はすでにほとんど消え、体を支えていた根もゆっくりと萎れ始めている。
心の中で、アルケミストが淡々とその情報を更新する。
【戦闘終了 推測 袁天術が力を隠しているように、おそらく、楚昊にもまだ隠しの可能性が高い】
袁天術は、まだ涙を拭いながら、ボロボロの服の袖を握りしめていた。
「晋陽……母上の服、破られちゃった……」
「うん、うん、痛かったね。怖かったね」
一方で楚昊が、ゆっくりと立ち上がると袁天術が、涙目で彼を睨む。
「……次は、絶対に許さんからな」
楚昊は、何も答えなかった。
彼は、漆黒の細い針から再び黒煙が巻き上がり、環首刀に戻ったのを見て静かに懐に収めた。
「うぉお!すごいぞ二人とも、なぁ兄者
「そうだな」
「練気十二層か....っ」
(すごいのを見た。しかしこれは悟りとでも言うべきだろうか...まさか)
【築基に入門しています】
(境界がさらに上がっている、言うとすれば今までは体の方だったが、突然頭の奥で何かが割れたような不思議な感覚がしたと思えば...力が湧き出て...きますね...)
【おめでとうございます】
(...?アルケミストも性能上がってきた?)
「次、李清雪、孫火旺」
「はい」
どうやら修繕は、簡単にできていた。
何かをしたようには見えないが、土砂まみれの場所は最初の姿に戻っていた。
(いくよ、アルケミスト。待ち時間はもうないみたいだけど。)
【はい全力でサポートいたします】




