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師匠が最強すぎる  作者: 不病真人


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9/9

第九話 武将呂布衣

擂台の石畳が、まるで何事もなかったかのように瞬時に復元されていく。

先ほどの死闘の傷跡すら残さぬ術式の精妙さに感嘆の息を漏らしていたのも束の間、擂台を管理する審判の声が響き渡り、観客席の温度が一気に跳ね上がっていた。どうやら余韻に浸る暇もなくこちらの注目の戦いが始まってしまったらしい。


どっとくる歓声の中擂台の中央に立つのはいいが

、正直なところやめてもらいたいと思った李清雪であった

(きびしんだよね、視線当てられると、塩試合怖いし)

対するは荒々しい霊気を全身から滾らせる孫火旺

対峙した二人の間合いは10歩。先手を取ったのは孫火旺だった。

(近すぎじゃ)


 「随分と余裕な顔をしているね」


 「あ、やっべ」


 「勘違いしているみたいだから言っとくけどこっちが勝者だから」

出会っていきなりの勝利宣言。

そういうと孫火旺はすぐに攻勢に出た。

「祖先の霊、ここに来たれ——炎祖顕現(えんそけんげん)!」

孫火旺が両掌を打ち合わせ、唱えると、足元の石畳の隙間から赤黒い火が噴き上がった。それゆえに擂台の空気が爆発的に膨張し、熱波が観客の弟子ら最前列まで押し寄せる。

「うこおお」 「ぎにやあ」 「ほぉ!うまこれ焼き加減最高じゃん」

一人何か焼いて食べる奇怪な動きをしていたものもいたが大抵はその火力に押されていた。

「いやまじうまいな、この...ん?」 「いい加減にしろ鄭冨貴」 「いやだってマジうまいし、猛獣の幻影なんかより食いもんは」

 「シャオ!」

赤黒い炎の渦の中で、猛獣たちの幻影が次々と実体を帯びてゆく。

太い四肢を持つ炎虎、歪んだ角を戴く炎狼、そして翼を広げれば十尺を超える炎鳥——。

太古の猛獣を模した炎の群れが孫火旺の背後に狂暴な陣を敷き、一斉に咆哮を上げた。その熱気で周囲の空間が歪み、視界が陽炎のように揺らめく。

「焼け尽くせ! 灰も残すな!」

(この人の先祖...獣なの?妖怪ってやつ...?)

パチンっと

孫火旺が指を弾いた瞬間、炎獣たちが一斉に跳躍した。正面から猛進する炎虎、低く地を這うように側面から肉薄する炎狼、そして死角である上空から急降下する炎鳥。三方向から迫る炎の奔流は、李清雪の退路を完全に塞ぎ、呑み込もうとしていた。


対する李清雪は回避動作すら取らなかった。ただ、ほんのわずかに右手を前へと差し出す。

【新奥義】

しかしそれは擦りもしなかった、いや正確には完全にすり抜けをしてしまった。

(間抜けめ!)


(当たらない?!)

【攻撃貫通を検知すぐに防御を】

アルケミストの提示のそんな瞬間、彼女の周囲に透き通るような白銀の光が凝縮した。いや、凝縮したと言うよりは転送、展開された、何かが突如出てきた。近づいてきたのだった。

光は急速に高密度な質量を持ち、精巧な鎧の輪郭を描き出す。現れたのは、一人の武将の幻影であった。

「え?」

全身を包む明光鎧は、磨き抜かれた水晶のように透明でありながら、内部を巡る霊気が淡く神々しい光を放っている。彼その人だ、李清雪の前世の顔をしている変なおじさん

丁寧に整えられた口髭な人

(……えっ?)

驚いて彼女の眉が微かに跳ねている。それも当然で彼女が展開しようとしたのは本来なら防御に特化した単純な霊気障壁のはずだった。少なくともまずそれでその後にまた新技を繰り出すはずだった。

しかし現れたのはこの武将。


 「....」


戸惑う彼女の意図を完全に置き去りにして、透明な武将は無言で前へと踏み出すように飛び出した

そこへ炎虎が牙を剥き武将の頭上に襲いかかった——次の瞬間であった。

閃光。

武将が手を振るった軌跡すら見えなかった。ただ、一筋の透明な光の線が空間を切り裂いたかと思うと、正面から迫っていた巨体な炎虎が頭頂部から真二つに両断されていた。

幻影とはいえ絶叫すら上げる暇すらなく炎虎が幻影は爆発的な衝撃波とともに霧散する。

散った赤黒い火の粉が武将の明光鎧に降り注ぐが、鎧の表面に触れた瞬間、光の波紋に吸収されるように痕跡もなく消滅した。

「……なッ……!?」

孫火旺の目が驚愕に見開かれる。祖先が交渉し、師に迎えた仙家たちの霊気を宿した炎虎が一撃で破壊されたなど、絶対に信じがたい光景だった。


「ッッ!」

同時に驚くものもまたいた。蕭潮であった。

孫火旺の功法は契約、ずばり特殊な修行を経てきが動物などの霊体、彼らは“仙家”と呼んで彼らとの契約を締結することで、自分にない力を借りている。

だから

(本来ならば、この等級の修士の霊気は効かぬはず...やはり特殊だ。李清雪よ)

【対象を検知 通常の霊気に対する抗性が高い】

(つまり、私の技が効かないはず...だがあの透明さんが効いた...)


「祖霊が」

しかし、異常事態はそれだけに留まらなかった。

李清雪自身が驚きに目を見張り、右手を引こうとしたその瞬間、彼女の意志とは無関係に、武将は側面から迫っていた炎狼に目もくれず、地を蹴ると襲い掛かるそれをぶつけて粉砕し、一気に孫火旺本人の死角へと回り込むようにし始めたのだ。

勝手に動いている。李清雪の指示や霊力誘導を待つどころか、戦場全体の配置を瞬時に読み取り、最も効果的な制圧の戦術を自律的に選択して動いているのだ。

(いや、もとより支配できてはいなかった...けど)

「ふざけるなッ!」

孫火旺が狼と共に牙を剥き、炎を纏わせた拳を振るう。

どうやら召喚物にだけ頼る存在ではないようだった

炎にて武将を迎撃すべく、散りかけた炎狼の残光を強制的に再凝縮させ、武将の喉元へ噛みつかせようと放った。

 “朱明”

だが、朱明と言う技が作り出す狼の牙が届くことはなかった。

「——!?」

武将が、いつの間にか炎狼だった存在でできた炎幕の真上に現れていたのだ。それは空中で半身を極限まで捻り、落下の勢いを全て乗せた透明な拳を、槍のように突き刺していた

正確無比に突き立てる。

ドスン、と重い衝撃音が響く。

槍先が炎の核(コア)を正確に貫通した瞬間、炎幕の中にいた狼の幻影は足元からかけて亀裂し、一瞬で全て崩壊した。

撃沈、轟沈などの言葉では生ぬるい、完全なる消滅。

虚構を現実が貫いた。本来ならば届かぬはずの攻撃が届いてしまった。


あまりの強さと無駄のない洗練された動作に、観客席からは悲鳴に似た歓声が上がった。

「……なんだと……!?」

孫火旺は歯を食いしばり、顔筋を痙攣させた。

だが決してそれは恐怖や不安余りしての失墜行為ではない

見ると冷や汗が顎をたどり、足元の焦げた石畳に落ちて蒸発する。

彼は体内の霊力を狂おしいほどに絞り出し、祖先の霊へとさらに深く接続した!

だがそれは決して消耗などではない。彼の霊気はほぼ霊たちのを消耗する種火となり、実際にはそれほど消耗していない。むしろ召喚できた霊体の霊気を吸い込んで、無限巡回に近いことになっている。


「恭、出でよ! 柳家三郎!」

擂台の赤黒い炎がドロリとした粘度を持ち、巨大な大蛇の姿をとって蠢き始めた。

太さは大木の数倍ほどもあり、擂台の半分を覆いつくすような巨躯。

炎の蛇王は鎌首をもたげると、絞め殺そうと胴体をくねらせて襲いかかる。

捻じ曲がる勢いでこの霊体は体を浮かばせていく。推進する

だが武将が、まるで最初からそこにいたかのように、蛇の尻尾の付け根の死角に忽然と出現した。

大蛇の速度をも無視した武将は、体を回転させて踵落としをする。

まるで巨大な透明の戦斧のように足を容赦なく振り下ろす。

 断ッッ!


「うが!」

断絶音とともに蛇王の胴体が容易く切断された。悲鳴を上げる大蛇の頭部が苦悶に狂い狂乱して李清雪へ突進しようとするがガァァァン!と衝撃波が吹き荒れ、弾き返されて炎の激流となる。

それが孫火旺の足元へ逆流して石畳を黒く焦がす。


「なぜだ……! なんで俺の炎が、我らの力があんな妙な幻影に一切届かない!?」

後退を余儀なくされた孫火旺は、自らの全身に炎の鎧を纏い、もはや自ら打って出るほかないと前線へ跳躍した。

遠距離の霊体が明らかに弱手、相性が悪いという状況ならば彼は、肉の体、実を持つ自分ごと行こうとした。

虚に対する実から、実に対する虚となる。

肉の体は少なくともあの透明なものより幾分、上と思ったからだった。

【霊体の後続は肉体より弱いでしょう攻勢はきます】

果たしてそれはどちらが上となるか。


 「うぉおお!恐怖こそ雅!!!」

炎を纏った拳が残像を描き、武将の体へ連打される。


拳の音は突風を纏いして擂台が鳴る。熱風が観客席の帳を内側へ押しては石畳の目地が飴色に滲んだ。


 「ッッ!」

 驚愕


明光鎧は砕けない、透明なその曲面が炎を受けずに滑らせる!

奔流は鏡に当たった陽のようにはねて、李清雪の足下へ届く前に擂台の縁で霧散した。

武将は一歩も退いていない。

かの髭。冷えた瞳。

しかし同じ顔を、李清雪はつい先刻まで五体十分な分に夢想していた。

結果

(こんな肩幅広くない....)

前世での姿に似ているとしても呼び出されたのは、壮躯すぎる存在。

五体すらをも武器に変えてしまう大刀も槍も斧もない。あるのは獅子をも屠れる四肢と華美にして頑丈な甲冑

だがそんな相手を前にして孫火旺の頬が、歓喜で割れた。

彼は凶悪すぎる精神の持ち主か。

「受け流しか。鏡は、一点を通せば割れる!」

印が細くなるように五指を槍の形に揃え、掌心の炎を限界まで絞った。

 “恒燠”その技━━空気が悲鳴を上げ、紅い一点が生まれる。紅蓮なる爆槍が直進のはずのそれが、武将の拳に塞がれるもかすめた瞬間、液体のように折れ、鞭へ姿を変えた。次にあるはずもないが穂先のような何かが柄へ絡んで敵の肘を焼こうと締め上げる。見た目は形なくして形はある。

変化するから武器であり、次には蛇だった。

だが瞬きして形を変える敵に、武将は反撃をする

相手の力の向きのまま自身の肘の関節よりだけ先半回転させる。

そうして武将の自らの熱を内側へ集め、熱同士にて対抗させる。

だがそれを見た孫火旺はさらに笑った。

勝機だと思った。火の術はいくらでも彼の方が上だからだ。

霊根が“鶉火離”の彼にとっては、火そのものが彼だ。

“柳は鶉火である”━━そうというから。

石畳に赤熱の輪が刻まれ、鞭は自分の火で自分のしなりを失い、炭の筋になって散った。

【戟絡・返纏】

(え..?)

【孫火旺の火を止めた技です 今の当機にはそれが分析できます】

締めた者の力で、締めたものを返す。

あたりにある環境へ熱などのものを霊力を介して伝達させる。だが決して反撃技と言うではない

読む、かけられた相手は読まれた、というより、技の変わり目を待たれていた。防御技というべき

すでに構えているような技。盾を持っているような技

爆槍が鞭へ変わる一瞬、蛇のように映る時に霊気の密度が落ちる。武将はその谷間だけを使った。己が体の一部を捨て身にして大地を盾に移せるように。

強い形を強い形で殴っていない。

変化の継ぎ目を、相手の手に壊させている。

壁に槍剣等を当てたとは同じ



 だが後続はくる、孫火旺の次は炎そのものが体へ沈んだ。拳にあった火の残像が消えて炎が皮膚へ吸い込まれていく。すれば肌の上に鱗状の赤が盛り上がり、肩から腕へ、腕から胴へ、熔けた鉱を流し込んだような鎧が組まれる。

関節などの空きもない。

ならばどうやって体を動かす

それは炎そのものが節を持って動く。

髪は燃え、瞳の中に小さな太陽が二つ灯った。

完全なる火そのものへの変貌

“業火纏身・燎原鎧”

踏み込みが変わる。それは焦土の歩法

踵が石を溶かし、溶けた石を蹴り、飛沫が短い槍になって飛んだ。だから地面が抉れる、焼け焦げてしまう。

武将の兜の横を、熔岩の滴がかすめるも先ほどまでの滑らせが、ここでは遅い。

盾が反撃すらできないほどの熱量に接近され、熱を分け与えられ、明光の表面に薄い虹が走った。

充分すぎる熱量が通っていく。全身が火そのものだからだ。だから熱は切れることもないし途切れたり、あるいは弱くなるもしない


 裂!

鎧が、初めて熱を内側へ通す。

李清雪の喉が鳴った。ひび、だ。

彼女にも当然その反応は来ていた

胸甲に、髪の細さの亀裂が走っている。そこから溢れたのは液体など、ずばり血液等ではなく純白の光だった。だから傷がよくわかる。攻撃が効いているという様子がよくわかる。

けどそれだけじゃない。

ぶつかり合う中で断裂する部位は増えるこそするものの完全に砕くことなどはなかった。

事実今度に武将が選んだ技は衝撃を外へ返すのではなく、内側で割り、熱の芯を逸らして消す。

だからしばらくして孫と李の両者は気がつく。亀裂は弱点に見えて、実は排熱の口だった。

燎原鎧の拳がその亀裂を狙って落ちた。

武将は亀裂を守らない。手を振って、作り出す攻撃の跡は戟、その中央月牙の付け根が見えた。それは炎鎧の鎖骨にある見えない折り目を一寸だけ突いた。外見に継ぎ目はない。あるのは息を吸うたび炎が逆流する霊気の折り目だけだ。全身を鎧にした者は息の通り道を消せない。

呼吸は免れない。息をまだするならば誰しもそうだ。

動けるように世俗と違う鎧、関節の逃げ道を作り出せたとしても、少なくとも練気の階層においては息をしないでは長くはやれない、まして高速な戦いで。

彼らはまだ息を欲する。

そこで熱が空気を蒸発させた、故にその排気口に気がつけた。故に空気の交換を熱流が築かせたのだった。

武将の傷跡での排気口に接近してきた孫火旺の、彼の弱点たる排気口を探り当てたのだ。

 

 【截脈・寸封】

 (...?)

 【とでも名づけましょうか?】

“截脈・寸封”により“燎原鎧”の左肩が音を立てずに剥がれた。炎が散る、というよりは炎が鎧でいることを忘れただの火に戻って床を焦がす。

固体から気体へと変貌したように。

孫火旺は下がり剥がれた肩を新しい炎で縫い直そうとして、しかし縫えなかった。寸封は傷ではなく、霊気を通さないように乱す攻撃技だった。

しかし剥がれた炎は孫火旺の背後へ回った。

やがてはその両肩から吹き上げた。


 「来!」

翼になる

鳳の輪郭を持った炎の双翼だ。だが羽ばたきは飛翔のためではない。

右の翼は炎を押し、左の翼は炎を引く。

向かい風と追い風が同時に武将を叩き、滑らせる角度を奪っていく。鏡は、光が一方から来なければ反射のしようがなかった、そんな翼の根は髪の炎が繋がり、孫火旺の姿はもはや半ば人で、半ば燃えさかる鳥の虚になっていた。

 「毘縷具陀盧倶(ヴィルグ=ダルグ) (翼ある者の咆哮)」

“鳳炎翼・交風”

彼は今きっとこう思う

(どっちへ滑っても、もう片方に焼かれるぞ!!)

だが武将の鎧がそこで一度、性質を変える。

鏡面だった透明が細かな稜を持った。

そんな稜に一筋の炎が鎧に触れた瞬間赤が帯のようにきれいに分かれ、熱の乏しい光の筋になって左右の闇へ散った。

拡散するそれ。

分光。相反する風は相反するせいで一つの炎としてまとまる密度を失っている。

台風の中心が弱いように、無数の突起は反対の向かい風の間にできる動力を破壊させた。

灼熱を消していない。灼熱が一つであるとなるように鎧の稜でほどいた。まるで大嵐が低気圧へと変わるように、勢いは解かれてしまった

【明光・稜鏡】


 (さっきから元気だね)


ほどけた翼の根へ左右の翼を結ぶ一本の火脈を叩いて撓ませた。交風は左右が同時に生きて初めて成り立つ。根を撓ませれば、右が強まった拍子に左が遅れ、遅れた翼が本体の背を焼いた。孫火旺自身の炎が、孫火旺の鱗を一枚内側から焦がす。

「っ……あつ!!」

怒声とともに結んでいた印が勝手に開く。


擂台の熱気が揺れ、孫火旺の姿が溶けた。

炎が鱗へ、腕が長くしなやかな胴へと背中から薄い膜の翼が広がる。左右と頭上、そして正面——四つの頭部が同時に、同じ濃さの炎を牙に宿して浮かび上がった。ここにて一人の術者が、翼ある蛇の群れへと四つの頭が抱えて、呼吸を揃えて落ちた。

「芸達者だなぁ、それ負けフラグだよ」

(雑魚敵みたいな人の形をしていない変身は負けの前提ッ!」

李清雪の言葉に応えるように武将は受けないただ、戟を縦に立てるようにして目を閉じた。

(でも2対1で行っていたが、まさか頭数を増やすとは)

しかし李清雪は不思議と安心していた。彼女の霊が向こうより遥かに強く、彼女が向こうの肉、孫火旺より遥かに強くあると思っているだろう。

そうして武将が先に行き蛇の右の頭部だけを斬った。

刃は空を切って炎の蛇が嗤う。

四つ頭の妖が三十六式もの通りを見せる。

手応えがない。李清雪の足が先に床の一点を踏んでいた。

踏んだ先にあるのは影だ。四つの影のうちに一つだけの光源と角度の合わぬものがあった。

半拍ほど遅れていた。熱は分け与えられても、影は光源に忠実だ。

虚は熱を持たぬ。

突が遅れた影の主の踝を打つ。四つの頭部のうち三体が炎の膜を残して消え、残ったのは本体の足が打ち止められる。


轟ッ!

(霊気が効いた感じがしない、けど肉体の打撃はうまくいっている...!)

翼ある蛇の姿は力の複製ではなかった。熱を分けた代償で本体の接地が細っていた。武将は数を崩さず分け前の薄い場所だけを突いた。

縫い止められた踝を孫火旺は炎ごと引きちぎるように踏み直した。それは痛みより読みを嫌う顔だった。


(見るな。測るな。距離ごと焼け。)

それが孫の思うこと

印が今までで最も静かに、中指一本を己の眉間へ押し当てる。

世界が赤く反転した。

擂台が溶け、石畳の枚数が嘘になる。

3歩の距離いや遠くて5、6、7か、人の腕だとそれほどしか長さはない。だが今その腕が届く範囲は十倍に伸び、伸びた先で急に腕の内へ縮む。

灼炎の回廊とでも呼ぶべきか、攻撃ではないが何か熱いものができた。

それは炎の巨人を呼ぶ前の、空間そのものを炎の揺らぎにした技だった。巨腕の予兆が、歪んだ空の向こうにすでに肩を出している。見える巨体はまだ虚で、しかし虚が近いのか遠いのか目が信じられない。


対して李清雪も、守りへとその指の先が円を描きたがっている。

武将はそんな円を足先に真似て描いた。

床を一周する。大きくはない。自分の歩幅だけを囲うそんな尺だった。

回廊が距離を嘘にしても尺の内側では一歩が一歩のまま残る。この範囲内ならば守り切れるとしている。

そのはずだ

武将は空にいる巨人を見ない。

ただ、方円、尺守で答えを。

嘘の広さには、本当の一歩で答える。一歩ずつ李清雪と歩んだ道幅だけを信じた。


「来ッ!」

眉間の前で結ばれていた印が炸裂して、背後の虚が天井を肩で押した。

片腕を上げるだけで大きいことがわかること。

そんな焚天の如しくある虚影な焦獄の巨人。

あれは孫火旺の闘気を空に描いた巨大な通い路だった。翼も鎧も分身もこの通い路へ流れ込んで、一つの外付けの霊気貯蔵の役割を担って彼を強化していく。なぜなら孫火旺の体は巨人の腕の付け根にへばりついていた。

炎の鱗が腕の根元に食い込み、熱の大元となって巨腕を支えている。

巨大な影でもっとも濃く実体を持っているのが腕であった。

そして巨人の片腕が振り下ろされるたびに孫火旺の体から炎が流れ込み、質量を増していく。翼も鎧も四つの頭も、すべてがこの一点に収束していた。

「来ッ……!」

孫火旺は歯を食いしばり、炎の翼を背中で羽ばたかせた。腕の根元から掌へと一気に駆け上がる。

すると炎の爪が巨人の肌を抉り、熱の梯子を作っていく。登る 登る 掌の中心まで到達した瞬間、孫火旺の体が炎の芯となった。

翼を左右に広げて紅蓮の拳を真下へ向けて加速する。巨人のもう一方の腕も同時に振り下ろされる。

ついに巨人が完成し、二つの影が李清雪の頭上を完全に覆った。熱波が石畳を抉っては観客席の最前列まで風圧が叩きつけられる。

「来ッ!」それは灼熱の咆哮だ。

この一撃で終わらせる。炎の全てを乗せた全力の落下が来る!

李清雪は動かなかった。動かなくてよかった。武将がすでに動いていた。

透明な明光鎧が、一瞬だけ光を放ち武将は右足を少し後ろへ引き肩の角度を変わる。次の瞬間——。

武将の体が地面を蹴った。

両足が同時に石畳を砕いて体ごと真上へ跳んで、炎の奔流に向かって一直線に突き上がる。両手を体の前で合わせて掌を外側へ向けたまま、空中で押し出すような構え

【方円・尺守】

床に描いた小さな円が光の輪になって浮かび上がる。輪の内側だけが炎の奔流を拒んだ。

武将は空中で両手をさらに押し出した。

光が爆ぜた。

明光鎧の表面に走っていた無数の稜が一斉に外側へ向かって開く。かつて鏡面だったものが一瞬で万本の刃に変わる。だけどもこの刃は斬らない。受け止め、指すだけ、今は敵の防御が硬い故に少しでも柔なうちでも狙っているからだ。

【あれは子供がよく遊ぶ積み木のおもちゃと同じ、別名対人用罠型玩具のそれですね】

(踏むと足の指がタンスにぶつかるくらい痛いやつね)

巨人の巨腕がそんな刃の網に触れた瞬間——。

質量の炎が細かい光の粒子へと分解されていった。巨大な腕が肘から先まで粉々に砕け散れば、今度は衝撃波が内側へ収束する。

しかし内部への攻撃が主要でも擂台が沈み込むほどの勢いはあった

なら轟沈か、否、左腕のもっとも先では孫火旺がいた。

孫火旺の拳が網をすり抜けようとした。

だが彼の攻めを前にしても武将の体はさらに加速する。

空中で両の拳を前に突き出すと体ごとぶつかるように、透明な拳が炎の芯——孫火旺に向かい、正確にぶつかった


正面からぶつかりあう両雄

ドォォォン——!!

炎と光が交錯する。

孫火旺の紅蓮の拳が武将の透明な拳を押し返そうとする。熱波が周囲を焼き、石畳が震え、一瞬、少しだけ両者の拳が拮抗した。


 「ああああああ!」

 「うわあぁ!」

だが——。

武将の拳が、正面から押し切った。

孫火旺が持ち堪えてのは一瞬に過ぎない。

透明な拳が炎の塊を内側から割り裂くように突き進む。孫火旺の拳が指の付け根からして砕け散るように炎の鱗が剥がれては熱が抜け、拳にある全ては押し潰された。

音が消えた。


 「丸焼けだ!俺の食いもんが!...なんて威力だっ...ッ!」

衝撃波が内側へ向かって収束するように孫火旺の体が、空中で止まった。

自身の動力と反対の力が体内でぶつかっているからだ。

だから炎の翼が根元から同時に散った。炎の鎧が内側から崩れる。

そうして鱗が剥がれ、熱が抜け、最後に残ったのは、ただの人間の体だった。

そんな普通の体ごと後方へ押し出すように武将の拳に乗せられたまま、擂台の端まで運ばれていく、空中で。いかにも激しく傷を負うだろう

飛んだままに擂台の端まで運ばれた孫火旺は、石畳に背中から落ちた。動きはない。

超常的な姿には炎の守りがあったからこそ刃を凌いだ、万をも超える数の。


(なぜだ...なぜ刃如きに....!)

少年は思い返していた。かつての疑問を

彼ら修行者は皆人を超えていくと思った。

だから代々師事してきた、祖に聞いた。

彼の師に。

「なぜ我らは腹を切られた程度が傷だ?内臓が不合理ではないか?ならばなぜ人の形、生霊の姿を残す?」


「...よく聞く小僧だな」


「いえ、内臓を増やして、骨を変えていけばいいのではないか。」


「ほう、だがお前の境界では無理だ」


「修練で材質だけではない、人の形を昇華させる。今は無理でも霊で虚影を作れば意思のままにできる!!」

そういうと孫は上を見上げた


「俺は、俺は、俺はたとえ切られようが何があろうともその意思で気絶しない、倒れない。絶対に反撃する。」


「...ならば覚えておけ。その時までに今を」


武将は空中で一度だけ体をひねり、両足を揃えて着地した。

明光鎧も静かに光を収めていって上にあった稜は消え、再び鏡面の透明に戻る。武将は円の中心で、両足を揃え両手を体の横に下ろした。

着地点まで計算済みだった。始終その円の中で全てを終われせた圧倒的な力。

頭を少しだけ下げたがそれが礼のようにも、あるいは確認のようにも見えた。


次の瞬間、どっと歓声が爆発した。

「終わった……?」 「一撃で……?」 「あの炎が、全部……」 「巨人....?」 「あれはいったい……?」「焦げてもおいしい」

審判の声が、熱気の中を切り裂く。

「勝者、李清雪!」


歓声の中で孫は思っていた

(反撃どころじゃない感覚。熱い、痺れる、これが刃....これが………られる....ためになった....次に....必ず....)

思いながら意思は混沌になる。

その表れに口で「あ、ず....」と孫火旺は朦朧な言葉を吐きもするがやがてそれもすぐに途切れ、静かになった。


「ふふん」

(圧倒的な勝利、たっのしい〜♪)

【おめでとうございます】


 「しかし...大丈夫...?武将が結構やったけど、こっちもそれに合わせちゃったし...」


 「問題ない、勝負をすると言っても入門試験だ」


 「そうか」


(しかし、あれだなんか英雄のシルバーマンの人工知能並みに賢くなってる...?ねぇアルケミスト?)

【お褒めいただいて光栄です どころで武将の方を武将と呼ぶだけでは少し故障しにくいと思います いかがなさいますか】

 「うーん」

 (.......)


(呂布衣で)


【武将━━呂布衣】


(...とこんな感じでアルケミストのデータは完成されるみたいです...人工知能ってやつ...?意外にも全部知ってるわけじゃないし...一体全体なんだろう、だい!)

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