第六話 万剣斉発
大会開始の前夜である。
私は内門試験者へ仮の宿舎に割り当てられた部屋の中で、ベットに胡座をかいて座っていた。
「きれい....」
窓の外を見ると、玄天宗の山々は夜になっても沈まない。いくつかの峰が空に浮かんだまま、淡い金色の光を纏って静かに漂っている。太陽はとっくに稜線の向こうへ落ちたはずなのに、山肌はまるで昼の残り火を蓄えたように煌びやかに輝き、谷を埋める霧までが薄く光を反射していた。霊気が濃いこの地では、夜もまた別の昼なのだ。
(……すごいな。ゲームの背景じゃ、ただのエフェクトだったのに)
それにもっと特別なのがたくさんだった。
霊気が濃いこの地では、夜でも明るいこと以上になんだが、やはり霊気が気になる。
その感覚はまるで空気が重く、肌にまとわりつくようだった。
站椿の余韻がまだ身体に残り、経脈の奥で微かな熱が巡っている。
(明日、擂台……か)
アルケミストは妙に静かだった。きっと先ほどの透明な武将の件で困っているのだろう。
今、珍しく沈黙を続けている。
その本人?はというと。
あの姿は今も視界の端にいる。ガラスのように透き通った明光鎧をまとった男。
私の前世の顔に少し似ているのに、体格は明らかに違って肩幅が広く、胸に護心鏡が二枚並び、札甲にある飾りが風もないのにわずかに揺れている。
【……解析....依然として不能】
(わかってるよ)
私は軽く息を吐き、目を閉じた、浮遊する山々の光が、瞼の裏にまで薄く差し込んでいる気がした。
光は絶えずに進むように、事情は起こり続ける。
そして私のいる場所からは見えない、かなり遠い場所で、別の出来事が起きていた。
いや正確にはわからないわけじゃない、こうして今これを話している前にも、すでにいくつかは知っていた。
いいえですね。
なぜならば私の神識と呼ぶべき透明な彼が消えたと思えば、どこかへ飛んでいたんだ。
飛び出したのを見て、目では見えないが感覚は共有している。
(しかし、なんだろう。霊気とかで大まかは知れるか...やっぱり声とか無理だ。)
後になって知ることになったが、玄天宗の外門山門から、さらに下った山道の遠く夜気に白い霧が立ち込め、松の影が歪んで見えた。
そこは雲までにある端側。
頭上を見上げれば、浮遊する峰々が今も淡く輝き、谷底まで微かな光を落としている。それが太陽なき今を照らすもの
その光の中に、二人の男が立っていた。
どちらも二十代半ばに見えるが、肌は日焼けで浅黒く、筋肉が隆々としている。
一人は黒い短衣に虎の模様をあしらった帯を締め、もう一人は白い長衣に龍の刺繍を施していた。
「龍虎門、王黒虎」
「同じく、王白龍」
黒衣の方がそう名乗ると、白衣の方が軽く顎をしゃくった。二人の背後には、蛟と名を記した小さな旗が、夜風に揺れている。
門を守っていた外門弟子が、警戒した面持ちで前に出た。玄天宗は参拝しにくる来客拒まずであるが
「夜分に何用だ。宗門大比の前夜、部外者の立ち入りは——」
「部外者か」
王黒虎が低く笑いそして言う
「我らはただ、伝言を届けに来ただけだ。玄天宗に人がくるなら、善は全て同一とみなす。そうでなければ、打ち返すまでだ。蕭潮ならそう言うはずだ」
間も与えずに続けて王白龍が言う。
「つまり我らは善意の存在だと言うことだ。仲良くしよう」
その言葉の意味を、外門弟子はすぐには理解できなかったらしい。首を傾げかけたところへ、別の声が割って入った。
「……ほう」
影の中から、蕭潮が歩いてきた。彼はいつものように簡素な灰衣をまとい、手には何も持っていない。だがその足取りは静かで、まるで地面を踏んでいないかのようだった。浮遊する山々の光が、彼の横顔を冷たく縁取っている。
「龍虎門が、わざわざこの夜に」
「これはこれは、冰帝」
王白龍がひょいと前に出た、しかし、白い衣が夜風に軽く翻るのがある。
本来霊気で衣を動かさないものが多いが、彼はカッコつけたがりだった。
「我らの頭領、翻江蛟のが一人そっちの小僧——楚昊に用があるが、連れて帰りたいだけだ。邪魔はせぬ」
公孫羅は小さく首を傾げた。まるで興味のない虫を眺めるような目だった。
「楚昊は、すでに玄天宗の内門候補だ。親類おろか、門下生でもない者たちが、善は全て同一とみなすわけもない。つまるところ勝手に連れて帰れると思おうたか」
「そうか」
王黒虎が歯を見せて笑った。
「つれないな。我らはただの使者だぞ。旦那の機嫌を損ねたら、どうなるかわかってるから勘弁だ。」
そんな浮いている口調に老人は答えなかった。
ただ脅しを見せた。
「それが要らぬ、邪魔だ。」
怒りを含めた声でそう伝える。
「あ?!殺されてぇのか老耄」
しかし激昂を見せる王黒虎よりも王白龍の方が、さきに動いた。
「待て、小虎……なるほど。話が通じぬなら、少しばかり力を見せてやろう」
彼が右手を上げた。掌が夜気を切れば、淡い青色の光が出ては風が渦を巻く。
そこから薄い刃のような風が、蕭潮の胸元へ向かって飛んぶんだがそれは、届く前に霧のように散った。
“風神掌”
老人は指一本動かしていない。ただ、視線をわずかに落としただけだ。
「……これか」
蕭潮の声は低かった。
「翻江蛟の名を借りて、この程度のものを見せるとは。帰って伝えよ。楚昊に用があるなら、少年がお前たちと同じ境界の時に来い。今は——帰れ」
「あ?」
王黒虎の顔が、一瞬だけ歪んでは何かしようとした。
だが王白龍が彼の腕を握り引いた。
「……わかった。つれないものだな、おい小僧は門下生でもないのに」
「まったくだ。それに我ら同じ境界など」
「楚昊をあまりみくびるな、三十年河東、三十年河西、少年貧しを侮りなかれ...小流氓どもが」
「....」
二人はそれ以上何も言わず、光らぬ山道を降りていった。彼らは雲の中に飛んんで行き、その背後での旗だけが、風に煽られて小さく揺れている。
霊気で突風などの揺らめきを防いでいるのだった。
「ゴッ!ぷー!」
彼が彼らに与えた傷のことしたりしてたようで蕭潮は彼らを完全に見えなくなるまで立っていた。
そこで王白龍が倒れそうになるのも見た。
それから、独りごちるように小さく呟いた。
「……重瞳子....か」
その声は、浮遊する山々の光の中に溶けて、誰にも届かなかった。
——私は、その出来事を知るには、まだ時間が少しいるものだった。
ただ、窓の外で浮遊する峰々が、いつもより少しだけ強く輝いた気がした。
経脈の奥で、微かな熱がまた巡る。
何かの霊気かと、そう思っているとしばらく静かだったアルケミストが珍しく声を出してきた
【遠方霊気衝突を検知】
(……何があったんだ?)
【不明】
思わず目を細めた。
「ん?」
透明な武将は、相変わらず右肩の後ろに佇んでいる。明光鎧が、浮遊する山々の淡い光を受けて、ガラスのようにきらめいていた。
それはいいとして、いつ戻ってきたのかわからない。
凄まじい速度というべき。
それにもさっきからポーズを取っているわけで、いまいちなんなのかよくわからない。
(……しかし明日か)
楚昊と袁天術の初戦。そして、私自身がどうなるのか。
考えてしまう
だってこの光で眠れないから、浮遊する峰々の光は、夜になっても沈まない。まるで、この宗門が昼を捨てて夜を選んだかのように。
(当然か、修行で霊気取り込むと“打座”で必要ないもんな、睡眠)
私は深く息を吸い、站椿の姿勢を思い出しながら、ゆっくりと目を閉じた。
あれも修行法だと思う故に、しばらくはそれで霊気を取り込んでいこうと。
しかし、明日、擂台の上で何が起きるのか、やはり気になる。例えばどこまで戦わせるのだろうかということ。
(まさか...死をもってとか....?ないか)
とやかく考えていたせいか大会当日の朝は、予想していたよりも早く訪れた。
窓の外の浮遊する峰々は、夜の間ずっと淡い金色を放ち続けていたが、東の空が白み始めると、その光は徐々に薄れ、代わりに色褪せてきたと気がつく。
それは霊気であり、今までは山々の真ん中にいたが、今度はそれが山肌を這うように流れ始めた。
「....ネオン...いわゆるパンク...?」
眠ることが必要ないから私は相変わらずに頭の中でいろいろ考えていた。
しかし昨夜の遠方での霊気衝突のこと、アルケミストはそれ以上何も語らなかった。
【……解析継続中、異常値は検出されず】
(ごめんごめん、責めてる気じゃないんだ、ありがと。わかったとりあえず、今日は擂台だ、いこ)
仮の宿舎を出ると、すでに何人か内門試験者たちが山道を歩いていた。
(しかしよく考えたら十二名って結構多いかもな、ひろすぎる場所だから気づかなかったけど。)
こんな暢気な私と違い誰もが緊張した面持ちで、言葉少なく、ただ目的地へと足を運んでいる。
いやおそらくは緊張だけじゃない。
だって霊気が濃いこの地では、呼吸をするだけでも経脈がわずかに震えるからだ。
おそらく入門者の誰よりも高次元の私がそうならばきっとそうだ。
カタ
「おおお...」
戦闘の場、試験の場所は、玄天宗の中腹に位置する「観斗台」と呼ばれる場所だった。
広大な石造りの円形舞台が、浮遊する峰々の影を受けて静かに広がっている。
周囲には、観戦用の石段が幾重にも積み上げられ、すでに外門弟子や内門候補たちが席を埋め始めていた。
空気そのものが張り詰めている。
(ところでこの観客者数からして同門ないはそこまで身分で推したり、いじめはなさそうで嬉しいですね)
私は見渡しながら割り当てられた、別に特殊じゃない観戦席に腰を下ろした。透明な武将は相変わらず右肩の後ろに佇み、明光鎧を光らせている。その姿は周囲の者には見えないらしい。時折、視線を感じる弟子もいたが、すぐに目を逸らした。
(……今日は、楚昊と袁天術の初戦に...なりますか)
擂台の中央に、一人の白衣の老者が立った。灰白の長髪を後ろで結び、手には簡素な竹杖を携えている。声は大きくはないが、霊気に乗せて場内の隅々まで届くように調整されていた。
「本日、内門試験の第一戦を執り行う」
老者の声は静かで、しかし芯があった。世俗の歓声を煽るような調子は一切ない。ただ、事実を淡々と告げるのみだ。
「対戦者は、袁天術、楚昊」
名前が告げられた瞬間、観衆の間に小さなざわめきが走った。
そこで袁天術の名は、すでに多くの者の口に上っていた。
「妙剣の名を持つ袁家の....しかし袁天術ってなぁ....
「俺も思ったんだが、あのわがままなぼんぼんか...」
無色化形の剣気を操る彼はおそらく実力者だと。
(わがまま...?)
【母をママーと呼称する可能性大 結果 胡椒で交渉】
(....何言ってんの?)
【.......】
やがて、擂台の東側から一人の男の子が姿を現した。
袁天術だった。
(しかし同年代の子よりは随分と細いような....功法のせい...?)
体型もそうだが見れば見るほど気がつくものがある。
まず昨日見た時とは、明らかに違う。
上等な絹を使ってる長衣は昨日もそうだが、今度の淡い金糸で雲と龍を刺繍されたそれは光を受けるたびに微妙に色を変えるもの
(なるほど、ぼんぼんですね)
腰には精巧に彫られた玉佩が三つぶら下がり、歩くたびに澄んだ音を立てる。
いや演奏というべきか、まるで笛の音だ。
指には細い銀の指輪が二本、そして頭には昨日よりも遥かに豪奢な玉冠が乗っていた。
冠の中央には、小さな宝石が嵌め込まれ、微かな光を放っている。
そしてやはり武器は持っていない。手は空のままだ。
彼がゆっくりと擂台に上がり、観衆の方を一瞥した。表情は穏やかだが、その目には明らかな余裕が浮かんでいる。
「蜜水はどこじゃ。」
これから敵を目にするものに聞こえない言葉に場内は驚く声がちらほら。
「戦場において血の水こそが最後の息にて飲むものぞ!」
中にはこんな変な声もあったが、思わずこの人を入れて欲しくないと願ってしまった。
「ちょ、兄者やめろよ」
いや多分もう外門弟子
「何を、やつのような泣き虫と知られるものは」
「ちょ子供が泣くのは普通」
「蜜水はどこじゃ」
「もーうダメよ元宝、いくら守りの法器を身に付けても、傷ついちゃ嫌だから、集中して。」
続いて、西側から楚昊が現れた。
衣装変わらずに黒い短衣、革の腕当て。腰の後ろに環首刀のような形の武器を差し、背中には五色の陣旗が小さくまとめられていた。
(しかし驚くなぁ...みんなどう思うだろうか。)
顔立ちは年相応の童顔、しかし体格は明らかに肉付きのいい引き締まった青年のものだ。
楚昊は何も言わず、ただ静かに東を向いて立った。
「蜜水」
蕭潮の声が袁天術を止めるよう。
「双方、礼を」と
袁天術は礼儀を弁えているようの正しい姿勢で会釈した。
楚昊はただ短く頭を下げた。
「ルールは簡明である、擂台より落ちた者、意識を失った者、あるいは自ら敗北を認めた者を負けとする。また悪意を持つ過度な殺傷は禁ずる。ただし、本気の技を封じることはせぬ。双方、心得よ」
「おおぉ...」
思わずに声が出てしまった。
かなり視線が集まるが別にルールに驚いたわけじゃない。
そうすぐに説明した。
簡単にいうと透明な武将の姿あれがさっきからうろうろと飛び出しているからさ。
(何あれ)
【ビビビ】
アルケミストは沈黙したまま、解析を続けているらしい。しかし人の言葉で発したビビビは解析の音なのだろうか...冷やかしに聞こえなくもないはずだ
「水は本より色無く、其所に月は本より形無しか。
しかし我が思考こそ来たる時には影無く、去る時には跡無し。」
「....?」
楚昊はいきなり詩でもし出した袁天術に困ったような顔を浮かべて見ていた。
「風情なきものめ、神遊六合 剣化虚無 去!」
“去”の言葉瞬間、彼の周囲の空気がわずかに歪んだ。
目には見えないが、感知すれば霊気が刃のように凝縮され、形を成さぬまま宙に浮かんでいるのがわかる。
両の指を合わせて差した方向に何か現れたに違いない。
(無色化形剣気。確かそう言っていた。)
対する楚昊は動かない。虚無の剣が見えないからだろうか。ただ、背中の五色の陣旗に軽く手を触れただけだった。
両者共に戦闘の拮抗状態だ。
しかしここで一つ思うことがやはりある
(……開始のゴングは....ありませぬ...うぬ)
シュン シィイン
袁天術が放った無色化形の剣気が、形を成さぬまま楚昊の周囲を静かに取り囲む。
見る者のほとんどはただの風だとしか思わなかったが、私やここにいる玄天宗関連のような霊気の感度が高い者ほど、その刃がどれほど鋭く、どれほど容赦ないかを知っていた。
なぜならば経脈の奥で熱がざわめいた。
(……しかし...形なくても霊気でバレるならば...なぜ透明である必要が....)
対する楚昊は指で背中の五色の陣旗に触れた
次の瞬間、旗がひとりでに展開した。赤、青、黄、白、黒——五色の光が渦を巻き、小さな結界のように彼の周囲を守る。
「陣法か」
誰かが小さく呟いた。外門弟子たちの間で、ざわめきが広がる。
こんな玄天宗の弟子ですらない者がいきなり陣旗を使うなど、誰も予想していなかったらしい。
袁天術は微笑んだ。優雅で、どこか憐れむような微笑みだった。
「面白い。しかし術ばかりにしか見えない、所詮は凡俗の小技よ」
彼が右手を軽く振ると、無色の剣気が一斉に加速した。
(無色透明...おおぉ、そういえば読んだあの漫画の現代最強キャラの四文卓もそんな防御もってた!)
「....うむ、鋭利じゃが...蕭長老、やはり蔵鋒閣はいかがか」
「む?」
思わずに聞き耳を立ててしまう言葉を耳にする
(何か言っていますな...まさかこれは勝敗というよりは、過程を見て場所が決まるわけ...か?)
推測をした、勝敗は必要かもしれないが適正の判断もあるかもしれない。
例えば今、結界に衝突した瞬間、五色の光が激しく揺れる。
火花ではない。霊気がぶつかり合う際に生じる独特の響きだった。
音ではなく、空間そのものが軋むような感覚。
観衆の中には、思わず耳を塞ぐ者もいたがそれでは甘すぎます。
(沈黙な彼は思っていたよりも強引なタイプか....)
そう、楚昊くんは一歩も引かない。
本来迫り来る無数の攻撃を回避する方が正しいはずだった。形読めないものに対しては。
未熟か、いいえ
陣旗を操る手つきは未熟だが、守るは的確だった。
必要な箇所を守っている、まるで、誰かに教えられたわけでもないのに、身体が覚えているかのように。
(……直感...かなぁ....それとも、何か別の)
「去!」
(それにこの剣気...最初は霊気を隠せないのは大きなミスと考えてしまったが...)
【ビ 無数に張り巡らしている】
(そう、それ、霊気を全方位においてしまっているから、逆にせめてがわからない、だから本来は最善の手段である身を固めてくる攻撃を防ぐこともできない。)
アルケミストが久しぶりに反応した。
【形なきもの 大幅な攻撃範囲 功法解析率:33% 最適対策法となる功法を製作中】
(わかった。)
楽しみで仕方がない、アルケミストどうやらあの両者が扱う技よりもすごいものをくれるみたいだ。
そしてその喜びが伝わっているせいかわからないが透明な武将が、私の右肩の後ろで微かに身じろぎした。
いや、まさか、戦いたいわけですか?
(残念ながら、技はまだゆえ)
残念、そう思わせるような戦いがそこにある。
両者の攻防が絶え間なく続いていた。
「去!」
「っ!」
村で普通の子供たちの喧嘩をいくつか見てきたが、みんなすぐに息を散らすのが普通だった。
しかしこの二人は違う、未だに呼吸せずに戦っているようで、本当にゆっくりと自分のペースを保ちながらの戦いをしている。
袁天術の剣気は、四方から飛んできては時に伸びるように、時に針目を潜る糸のように攻めている。
そんな攻撃でなされた大嵐の中楚昊は陣旗で防ぎ、時折環首刀のような武器を抜いて打ち払う。
彼の旗もそうだが、その刀もただの刃ではない。切っ先から微かな黒気が滲み、接触した剣気を溶かしていく。
「何だ、その刀は」
袁天術の表情が、変わった
楚昊は答えなかった。ただ、刀を構え直してはさらに攻撃を防いだ
「ふっ……面白い」
袁天術がそういたらどこからか澄んだ音が立っては、彼の周囲に薄い金色の光膜が広がる。
「ならば、力を見せてやろう。万剣!」
次の瞬間、無色の剣気が一気に密度を上げた。
霊気がそこに集まっているからだ。
もはや何もないはずなのに目に見えると錯覚して、もしかしてはと、空間が歪むんでいるようだ。
おそらくは、多すぎる数の透明な刃が居場所無くして、無数に重なり合い、楚昊を八方から包囲したかのようだった。
「斉発!」
“万剣斉発”という技
今思い出してもその技を例えるには難しく、いうとすれば、死角を消して与えない技であった。
事実その技は
「くっ!」
「おおぉ」




