第三話 入門試験者は皆年上
広場を包んでいた青い光がゆっくりと消えていく。
霊石はひび割れ、淡い音を立てながら砕け散った。
ついには辺りは静まり返り、誰も口を開かなかった。
【練気9層を突破】
修為、つまりレベルが上がって練気9層になったこと以外を提示するアルケミストを除いて。
そして当然と言うべきか、弟子たちは私ではなく、公孫羅を見ている。
判断を仰いでいるのだ。
私の方はと言うと、いきなり公孫羅から視線を離して、アルケミストが提示する青い幕、スクリーンを見てしまった。
(やば、バレたら」
公孫羅は穏やかな笑みを浮かべたまま、私へ歩み寄った。
「驚いているようだが、これは失礼した」
「はい。」(なんだ、反応からしてこいつにも見えていないのか。アルケミストは)
「君は玄天宗へ来る気はあるか。」
やっぱそうなるか、しかしこの異様にどこまで気がついたかが問題だな。
「何、慌てる事はない、宿慧にしろ、根骨にしろ、伝承にしろ。全て君のものだ。」
なるほど、宿慧(転生者)、根骨(体の才能)と、いろいろあてているようだが、あってずっぽなのだろうか。
(そこが心配な気もするが、この際、明らかに実力の差が大きい。すでに見切られて、資質を奪われたり、乗っ取られることだって致し方ない....)
私は一瞬だけ両親を見る。アルケミストのサポートを頼めない今、親にでも頼みたくなったのだろうか。
父は驚きながらも誇らしそうに笑い、母は涙を浮かべていた。
そうか、ここで断れば、この村で一生を終える、受ければ、修仙者としての人生が始まる。
きっとそう思われている。
(不安だ、不安だ、あれだけ前世は長生きしたのに、どうして私は...俺は怖いんだ、怖い...だろうか。)
前世なら迷わなかった、だが今は違う。
この七年間で、この村は私の故郷になっていた。
ならば
「……一つだけ、お願いがあります。」
「申してみよ。」
「父さんと母さんに、時々会いに帰りたいです。」
(提案、こちらが唯一向こうを試せるだろうか、そしてただそれだけじゃない、実際にこの場でいろいろ証明してもらう。)
「啊?」
その言葉に村人たちは嘆声をあげては顔を見合わせた。仙門へ入れば、凡人とは縁が切れる、そう思っていたからだ、しかもその上に条件を申し込むなど、福を逃す行為では。きっとそう思われているのだろう。
公孫羅は少しだけ目を細める。
「親を思うか。」
「はい。無情の道を行くと言うならば」
「修仙とは情を断つ道ではありません。」
遮るように公孫が話して私は思わず顔を睨むように見た心でも読んでいるか不安になっへしまった。
「修為が高くなれば、帰ることもできよう。」
「我が宗の弟子となるなら、年に数度は帰郷を許そう。」
「修行を怠らぬこと。それが条件だ。」
私は深く頭を下げた。
「いえ、誓いがほしいです、“大道”に対して。無事返してくれる、なんの誓約もなく、そして一年のうちに何度も帰らせる。」
“大道”に対する誓い、それはどんな実力の修仙者でも決して安くしてはいけないもの。
世界の根源にして頂点の49個の非人格的な至高の存在“大道”に対しての誓いは、違反をすればその者の修練上の理解を阻害する。
制裁ではないが、修仙者にとっては制裁より恐ろしい。かつて、ゲームの中では何かの手段で転生、復活などをしても消えない、だからプレイヤーの貿易者同士による誓約システムの一つにもなっている。
その瞬間だった。
今度は村人だけでなく周囲の玄天宗の弟子たちまでもが一斉に目を丸くし、そして当人の公孫羅は苦笑した。
「早い。まだ正式な入門も終わっておらぬと言うのだ。」
「公孫仙長」
「今は我を師兄とでも呼んでおけ。」
「まず誓いを」
「誓おう、大道に誓い、我を含んで玄天宗全てが全力で青牛村の李清雪の無事と帰還を。」
弟子たちがどっと笑う。
「師叔、珍しく困っておられます。」
「黙れ。」
軽く頭を叩かれた青年弟子は慌てて口を閉じた。
村にも笑い声が広がる、安心できそうです
張り詰めていた空気が少しだけ和らいだようで、少し嬉しい。
(誓いはした...俺の...いや、私の知る限り誓約はできたはずで...)
【誓約を検知】
(よっしゃあ!いいぞアルケミスト!!!お前が一番愛おしい!)
3日後。旅立ちの日が来た。
荷物といっても布袋一つ。
中身も変哲はなく母が縫ってくれた服に父が削ってくれた木櫛。そして、村医者の姜老から貰った薬草図鑑。どうにも秘伝の家宝らしいが、仙人の弟子になった誇らしい弟子にとってもらいたいようだ。
それだけだった。
母は最後まで泣いていた。
「ちゃんとご飯食べるのよ無理しちゃ駄目だからね、風邪をひいたら……。」
「母さん。」
私は笑った。
「仙人は風邪ひきませんよ。」
「あら。」
母も泣き笑いした。
父は私の頭へ大きな手を乗せる。
「強くなれ。だが、優しいままでいろ。俺は優しいお前を愛してる。」
「……はい。」
私は二人へ深く頭を下げた。
これが、この村での最後の日になるかもしれないなんてわけじゃないが、こんな優しい両親や医術の師匠がいて、離れるなんて。
そう思うと、胸が少しだけ苦しくなった。
村の外。
公孫羅が袖から一枚の木札を取り出した。
「起。」
短く呟く。
木札は空中で巨大な舟へ姿を変えた。
白い雲の上へ浮かぶ飛舟。
長さは三十丈ほどと言った。
9000丈か。
現代人ならば困る表記かもしれない。
しかし幸い、医術の学びで、姜老からの学んだ知識で大体の常識系はわかる、常識など。
(つまりこいつはでかい。)
【29970メートル】
ふわ〜と言うべきか、それは音もなくこちらへと向かう。
舟は何でやったかわからないが、空気が荒んでいたり、こちらに風も感じない。その正体はおそらくは何かの陣法やら結界か。
【結ばれし界を検知】
早速アルケミストに言われたヒントを頼りに見れば舟には青い紋様が刻まれ、それは、それはゲームの中で見たような文字が浮かんでいる光の幕、いわゆる結界が覆っている。
「……」
口を開けたまま固まってしまった。
近づけば近づくほど大きさに驚きを隠せない。
(でっか……ゲームじゃ背景だったけど、本物はこんな迫力なのか。しかし風も、突風が来ないとは...一体...動力源が気になる。)
スタ
弟子たちは慣れた様子で飛び乗っていく。
「乗るか。」
公孫羅が私へ手を差し出した。
「はい。」
その手を取る。
次の瞬間、身体がふわりと浮き飛舟へ降り立つ。
村がどんどん小さくなっていく中最後に振り返ってじっと見つめた
父と母が、いつまでも手を振っていた。
私も力いっぱい手を振り返す。
見えなくなるまで。
5日後あたりか広がる雲海を突き抜けた先は山だった。いや、山ではない。浮いている山
【山です】
「....何だ..と」
「つきましたよ、李清雪さん」
弟子の一人か、どうもよそよそしくこちらに敬語で話しかけてくる。
「ここですか。」
「我ら玄天宗が本山...ではなく分山だが。」
くる時に聞いたが、千丈を超える霊峰が七つ。それが
玄天宗の分山と呼ばれしもので、各地にあるらしい。
ちなみは本山は異界の中らしい。初代の祖師が切り拓いた小世界らしい。
(すごい)
見た目もすごく滝は空から流れ落ち。巨大な橋が峰と峰を繋ぎ雲の中を白鶴が飛び、空には剣や雲などを乗った修士たちが行き交うこともあれば、剣と一体化したように光となる存在もいる。そして山頂には巨大な宮殿群、あれが言われていた、大殿とかだろうか。
しかし何よりも霊気は青雲村の何10倍いや何100倍位濃いから、当然頭の中でアルケミストが騒ぎ始める。
【高濃度霊脈を検知。大型宗門を予測。】
【修煉効率予測:現在の38.6倍。】
【環境評価を極めて良好とする。】
「すご……。」
また思わず声が漏れた。
公孫羅が少し笑う。
「驚いたか。」
「はい」
(いやステータスが凄すぎてだが。)
「ここが玄天宗。」
「お前が今日から学ぶ場所だ。」
飛ぶ舟が巨大な広場へ着陸するとそこには既に百人以上の子供たちが集まっていた。
ぱっと見ると全員年上だ、10歳ほどの少年。13歳ほどの少女。十五歳近い...青年か。年齢は様々だ。
服装も違う。
豪華な絹を纏う貴族の子らしい人もいれば、武人らしく筋骨隆々な少年。商家らしい金糸の衣を着た少女。
しかし、ずいぶんと大胆なのか、好奇心旺盛なのか。10歳ほどの貴族の子らしい少年が近づいてこようとしてきた。
細身ながら姿勢の良い体躯に、淡い青磁色の絹で仕立てた円領袍を纏っている。
(いい服だな)
袖は広めにゆったりと落ち、裾と袖口には銀糸で雲鶴の文様が繊細に刺繍されている。
腰には玉を嵌め込んだ帯を締め、玉佩を下げて歩くたびに軽やかな音を立てる。
頭には玉冠か。
しかし私が公孫羅...すなわち彼らや私からすれば仙人当然の存在の隣にいるせいかすぐに彼の隣の女の子がその行動を止めた。
(ほほ、さては好感ありだな。)
まぁ、確かに顔立ちは整っており、眉は薄いが、瞳は澄んだ黒をして、頰にはまだ幼い丸みがあるから全体的に調和はあって、表情も落ち着いていて大人びている。
同じ年の少女なら惚れるでしょうね。
(その本人は)
少年の隣に立つ13歳ほどに見える少女は、慎ましさの少ない華やかさを持っていた。
表情が案外と自在にしていたから。
服装も人の表れというべきで、紅色の短めの対襟襦に、金糸と銀糸をふんだんに使った花鳥の刺繍が胸元と袖を彩る。
下には淡い緑の多層の馬面裙を重ね、裾には金色の雲紋が織り込まれ、歩くたびに布が優雅に波打つ。
金の掛かりはしそうな衣装で、商賈の家と見た。
パサ
(うぉおもしろ。)
初めて見る飾り気の多い仕様の服で思わずに見惚れてしまう。体の影響だろうか。
その肩には雲肩を羽織り、首元には金鎖や墜領、耳には小さな金環を着け、髪は双髻に結って銀の歩摇を挿している。
チャリンチャリンと歩くたびに小さな鈴の音が響き、ほのかに沈香の香りが漂ってくる。
【契約者はなぜアルケミストに文句を言いながら自分で】
(命令、お黙り)
しかし、自分で散々鑑賞して、今更だけど当然私のような見窄らしい村娘はほとんどいない、ここは定番のいじめでも来ないか心配するべきだろうか。
(しかしよく考えたら、超常のある世界なのに、なぜもっと発展していないんだ...?集団でコスプレ?)
当然、一番小さい私へ視線が集まった。
「え?」
「あの子……。」
「小さくない?8歳くらい」
「いや、もっと幼く見えるぞ。」
「本当に入門者か?」
私は少し居心地が悪くなり、公孫羅の後ろへ半歩隠れる。子供の扱いはどうも苦手なもんで。
だから甘えさせてもらう、師兄(兄弟子)よ。
それを見た彼は苦笑し、拂塵を動かし
「静かに。」
ここにいる子供たちへの言葉だ。
そしてそう言って、こちらが、ぽん。と頭を軽く撫でられる、なんとなくその仕草は、まるで少し年下の妹をあやす兄のようだった。
【推測:実際は祖父以上】
「安心しろ。」
「家柄も財産も関係ない、縁ありて...つまり見るのは才能、努力、そして心だけだ。」
広場の正面へ、一人の白髪の長老が現れる。
その声は宗門中へ響き渡った。
「うむ、玄天宗・新入門試験を開始する。」
「第一試験は根骨測定...すでに経験していると思われも多くいるはずだ、しかし修練の道は遠く、霊根だけでない。」
「第二試験は悟性について。」
「第三試験は、問心路。どれほどの硬い意志や悟りができるかだ。
「第四試験、登天階。」
「いかなる天才も、四試を越えねば我が門人とは認めぬ。師叔」
そう言って老人は公孫羅に手を突き出すような礼をした。結構身分が高そうだな、公孫さん、公孫仙長って。
「無量慈悲」
(う..いや...慈悲...?挨拶?)
公孫仙長の言葉に疑問を持ったまま、私も試験を受けることになった。扱いからしててっきり内定と思ったが、案外厳しいのかな。
「師妹よ、これは先行く道にいいことだ。受けるんだ。」
(なるほど、試練であるど同時に鍛錬でもあるのか...試練と鍛錬....試練....いやうまいダジャレでそうで出ない...モヤモヤする。)
もやもやを抱えたままに、ある意味定番の試練を受けていく事を決めた。なったか。
しかしこういう試練の場合すごい人は途中特別路線行き決定のはず
「師兄...箸で突かれたりするのでしょうか。」
箸。修行といったら箸でつつくとかお椀を被るとかでしょ
「無量慈悲、すべては己によるものさ。」
(.....なんかどうしてかインチキの人みたいに聞こえてくるこの人。)




