表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/48

第43話 接続

討伐隊に加わるための、3日の猶予。その一日目は、最悪だった。


CTの相手を、何人か、紹介された。付与の神力を持つ者、物を強化する者。神影が、相性のありそうな相手を、選んでくれたらしい。だが――。


誰と組んでも、まるで、繋がらなかった。


俺が、火を出す。相手が、その火を、自分の神力に乗せようとする。だが、何も、起きない。火は、ただの火のまま。相手の神力と、混ざることも、繋がることも、なかった。


「ダメだな……相性が、合わないみたいだ」


何度目かの失敗の後、相手の生徒が、首を振った。


俺も、同じことを、感じていた。CTは、稀にしか、成功しない。相性のようなものが、ある。そして、俺は、その相性を、誰とも、見出せずにいた。


一日が、終わった。あと、二日。焦りが、込み上げてきた。このままでは、何も成せないまま、後方に、戻される。会長に近づく機会も、消える。


その夜、俺は、なかなか、眠れなかった。



二日目。


「今日は、こいつと組んでみろ」


神影が、連れてきたのは、一人の少女だった。


気だるそうな顔で、髪を、無造作に束ねている。明らかに、やる気のなさそうな表情で、大きなあくびを、一つ、した。


「はあ……付与するだけって聞いたのに。なんか、仕事が、増え続けるし」


少女は、ぼやいた。


「なんか、変な技術が出たせいで、やることが、無限に増殖してるって、どういうこと……?」


「城井。仕事だ。やれ」


神影が、ぴしゃりと言った。


城井、と呼ばれた少女は、面倒くさそうに、こちらを向いた。そして――俺の顔を見て、少し、首を傾げた。


「……あれ?」


「?」


「君、もしかして……トウマ?」


俺は、その名に、はっとした。下の名前で、呼ばれた。なぜ、こいつが。


「俺の名前を、知ってるのか」


「やっぱり! 私だよ、城井。小学校、一緒だったじゃん。覚えてない?」


城井奈々未。その名前を、頭の中で、探る。


小学校。確かに――いた気がする。同じ学年に、城井という名字の子が。中学では、別だった。だから、深い付き合いは、なかった。だが、存在は、知っていた。クラスは、違ったかもしれないが、同じ学校の、顔見知り。


まさか、こんなところで、会うとは。



「うわー、懐かしい! こんなところで、会うなんてね」


城井は、さっきまでの気だるさが、少し、薄れた顔で、言った。それから、俺を、まじまじと、見た。


「でも……あれ?」


城井は、不思議そうに、首を傾げた。


「トウマって、そんな感じ、だったっけ?」


俺は、その一言に、内心で、固まった。


そんな感じ。城井の記憶の中の、俺。それは――小学校の頃の、俺だ。中学で、潰される前の。あの頃の俺は、明るくて、よく笑って、誰とでも、話せる子供だった。


だが、今の俺は、違う。無表情で、感情を、顔に出さない。人を、信じない。城井は、その変化に、気づいた。昔の俺と、今の俺が、一致しない、と。


「なんか、もっと……明るかった気がするんだけど。気のせいかな?」


城井は、軽い調子で、言った。深い意味は、なさそうだった。ただ、率直に、感じたことを、口にしただけ。


だが、俺には、それが、突き刺さった。


俺は、どういう顔を、すればいいのか、分からなかった。



不思議な、感覚だった。


俺は、ずっと、感情を、顔に出さずに、生きてきた。中学の、あの時から。どんな相手にも、表情を、消して、対応してきた。神影にも、会長にも、平らな顔で。それは、俺の、鎧だった。


だが、城井の前では、その鎧が、機能しなかった。


城井は、「壊れる前の俺」を、知っている。明るかった頃の、俺を。そんな相手の前で、今の無表情を、貫くべきか。それとも、昔のように、振る舞うべきか。


過去の自分と、現在の自分の、どちらで、対応すればいいのか。分からなかった。


こんな感覚は、初めてだった。アリシアや、未玖の前では、自然と、素が出た。だが、城井は、違う。もっと、直接的に――俺に、「昔は違ったよね」と、鎧の存在そのものを、突きつけてくる。


どういう顔をしたらいいか、分からない。そんなことで、戸惑っている自分が、いた。


だが――。


逃げるわけには、いかなかった。


俺は、城井と、CTを、成立させなければならない。そのためには、心を、開く必要が、あるかもしれない。CTは、神力を、繋げる技術。信頼の、要る連携だ。心を開かない奴に、誰が、信頼を、置ける?


逃げて、距離を取れば、CTは、永遠に、繋がらないかもしれない。


俺は、決めた。少しだけでも、こいつに、心を、開こう、と。



「城井」


俺は、言った。


「こんなこと言っても、返事に困るだろうけど」


城井が、きょとんと、こちらを見る。


「色々、あってな。昔とは、変わった。それは、認める。でも、今は、その話は、できない」


俺は、できるだけ、率直に、言った。過去を、語る勇気は、まだ、なかった。中学で、何があったのか。なぜ、変わったのか。それを、話すことは、できない。だが、誤魔化すのも、違う気がした。


だから、「変わった」という事実だけは、認めた。そして、「今は話せない」と、正直に、言った。


「で、本題なんだけど」


俺は、戦術の話に、移った。


「CTの基準は、城井で行う。俺が、城井を、背負って走る。能力の付与は、城井が行う」


「……は? 背負う?」


城井が、目を、丸くした。


「ああ。炎の付与は、持続しない。だから、最前線の戦闘員、一人一人の武器に、その場で、付与して回る必要がある。だが、城井が、走り回って付与すると、移動だけで、体力を、消耗する。スタミナが切れたら、付与も、できなくなる」


俺は、続けた。


「だから、移動は、俺が引き受ける。城井を背負って、走る。城井は、付与だけに、集中すればいい。これは、城井が付与するための、エネルギーを、余計に消耗しないための、合理的な戦略だ。これで、問題ないか?」


それは、前線を、駆け回るための、最適な役割分担だった。城井の体力を、温存し、付与の回数を、最大化する。



城井は、しばらく、俺を、見ていた。


俺が、過去を語らず、戦術の話で、誤魔化していること。それを、城井は、見抜いている顔だった。


そして、城井は、ふっと、笑った。


「……わかった」


気だるげな、だが、どこか、優しい声だった。


「聞かないで、ってことか」


俺は、何も、言えなかった。図星だった。


「いいよ。今は、聞かない」


城井は、肩を、すくめた。それから、こちらを、まっすぐ見て、言った。


「でも――いつか、話してよ」


その言葉に、俺は、胸の奥が、わずかに、緩むのを感じた。


城井は、追及しなかった。俺が、何も語らないこと、戦術の話で、逃げていることを、察した上で、引いてくれた。「今は聞かない」と。そして「いつか話してよ」と、扉を、開けたまま、待つ、と。


深入りせず、でも、見捨てず。面倒くさがりの、こいつなりの、寄り添い方だった。


「……ああ」


俺は、頷いた。


「いつか、な」


そう言えたことが、自分でも、少し、意外だった。いつか、話す。そんな約束を、誰かと、交わすなんて。



「じゃ、やってみますか」


城井が、立ち上がった。


「背負われるのは、ちょっと、恥ずかしいけど。まあ、合理的なら、仕方ないか」


俺は、火を、手のひらに、灯した。城井が、その火に、自分の神力を、重ねる。付与の、神力を。


一日目は、誰と組んでも、繋がらなかった。火は、ただの火のまま。何も、起きなかった。


だが――今度は。


火が、揺れた。


俺の火と、城井の付与の神力が、触れ合う、その境目で。何かが、繋がろうと、する感覚があった。一日目には、まるでなかった、手応え。


「あれ……?」


城井が、目を、見開いた。


「なんか、今……繋がりそうな、感じ、しなかった?」


俺も、それを、感じていた。


完全には、まだ、繋がっていない。だが、確かに、糸口が、あった。俺の神力と、城井の神力が、混ざり合おうとする、その入り口が。


なぜ、城井とは、繋がりそうなのか。


俺は、ぼんやりと、思った。


一日目の相手とは、ただ、能力を、ぶつけ合っただけだった。心は、閉じたまま。だが、城井とは――わずかでも、心を、開いた。「いつか話す」と。逃げずに、向き合った。


CTは、相性。そして、その相性は、もしかしたら――心を、開けるかどうか、なのかもしれない。


心を開くことが、文字通り、神力を、繋げる。


そんな気が、した。



「もう一回、やってみよう」


俺は、言った。


「ああ。なんか、いけそうな気がしてきた」


城井も、さっきより、少しだけ、前向きな顔に、なっていた。気だるさは、相変わらずだったが。


俺たちは、何度も、CTを、試した。火を出し、付与を重ね、繋げようとする。少しずつ、その手応えは、確かなものに、なっていった。


まだ、完全では、ない。実戦で、使えるレベルには、達していない。だが、糸口は、確実に、掴んでいた。


その日の、終わり。神影が、様子を、見に来た。


「どうだ」


「繋がりそうです」


俺は、答えた。


「まだ、完全じゃないですけど。城井となら、CTが、成立しそうです」


神影は、少し、意外そうな顔を、した。それから、俺と、城井を、交互に、見た。


「……そうか」


その目には、いつもの、探るような色が、あった。なぜ、一日目は誰とも繋がらなかったのに、城井とは繋がるのか。神影は、その理由を、考えているようだった。


だが、俺は、何も、言わなかった。心を開いたから、などと。そんなことは、言えるはずも、なかった。


「明日が、最終日だ」


神影は、言った。


「明日までに、実戦レベルに、持っていけ。できなければ、お前は、後方に、戻す」


「分かりました」


俺は、頷いた。


明日。最終日。そして、その先に――結界使いとの、戦いが、待っている。


俺は、城井を、見た。気だるげに、あくびをしている、小学校の、同級生。


まさか、こいつと、組むことになるとは。そして、こいつとなら――繋がれる、かもしれない。


人を信じない、と決めた俺が。少しだけ、心を開いて。その結果、誰かと、繋がろうと、している。


それが、戦いのためなのか。それとも、もっと、別の何かのためなのか。


俺には、まだ、分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ