表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の血を引く花屋は、花を守りたいだけなのに世界を救ってしまいます  作者: momotarou


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/15

第14話 隣国の花畑が困っていたので、ゴーレムを投げました

 その朝、ロゼッタ花店の前で、町の人たちが話していた。


「隣の国で、古いゴーレムが動き出したらしいよ」


「ゴーレムですか?」


 私は白百合を整える手を止めた。


「ああ。ヴァルトリアの山の方で眠っていたやつだって話だ。それが急に歩き出して、花畑を踏み荒らしてるらしい」


「花畑を」


 私は顔を上げた。


 花畑が踏まれている。


 白い花も。

 黄色い花も。

 赤い花も。


 土に埋まっているかもしれない。


「確認しに行かないと」


 私がつぶやくと、ロゼッタさんが額を押さえた。


「ミリアちゃん。隣の国だよ」


「はい」


「遠いよ」


「はい」


「今、行く方法を考えた顔をしたね」


「しましたか?」


「したよ」


 私は少し考えた。


 遠い。


 走ると時間がかかる。

 馬車でも遅い。


 でも、クロさんなら早い。


 私は胸の奥に意識を向けた。


 言葉というより、気持ちを送るように。


 クロさん。


 聞こえますか。


 花畑が困っています。


 少しして、遠くから返事のようなものが伝わってきた。


 みりあ。


 花、こまってる?


「はい。とても困っています」


 ロゼッタさんが目を丸くした。


「ミリアちゃん、誰と話してるんだい」


「クロさんです」


「どこにいるんだい」


「たぶん、空です」


 その時、王都の外から大きな翼の音が聞こえた。


 ばさり。


 ばさり。


 町の人たちが一斉に空を見上げる。


「ドラゴンだ!」


「王都の上にドラゴンが来たぞ!」


「あれは、クロさんじゃないか?」


 黒い翼が、王都の上空を大きく旋回していた。


 でも、降りてこない。


 王都には屋根が多い。

 道も狭い。

 人も多い。


 クロさんが降りたら、たぶん屋根が壊れる。


 それは困る。


「クロさん、そこで待っていてください」


 私は店の前に出た。


「ミリアちゃん?」


「行ってきます」


「どこへ」


「花畑です」


 私は地面を蹴った。


 体がふわりと高く上がる。


 下で町の人たちが声を上げた。


「飛んだ!」


「花屋の娘が飛んだぞ!」


 私は屋根より高く跳び上がった。


 クロさんが近づいてくる。


 みりあ。


 のる?


「はい。お願いします」


 私はそのまま、クロさんの背中に着地した。


 クロさんは少しだけうれしそうに鳴いた。


 いく?


「はい。ヴァルトリアの花畑へお願いします」


 クロさんは大きく翼を広げた。


 次の瞬間、王都の風が大きく揺れた。


 王都の屋根が下に流れていく。


 城壁が遠ざかる。


 山が近づく。


 クロさんの背中は大きくて、温かい。


 私は鱗にしっかりつかまった。


「急がせてすみません」


 いい。


 花、こまる。


 たすける。


「ありがとうございます」


 クロさんは、ぐるると小さく鳴いた。


 しばらく飛ぶと、遠くにヴァルトリアの山が見えてきた。


 山裾には、広い花畑が広がっている。


 でも、その一部が荒れていた。


 土がえぐれている。


 花が倒れている。


 そして、畑の真ん中に、巨大な影があった。


 ゴーレムだ。


 石でできた体。

 太い腕。

 岩のような足。


 一歩動くたびに、花畑の土が沈む。


 白い花が土に埋まる。

 黄色い花が倒れる。

 赤い花が踏まれる。


「ひどいです」


 私は胸の奥がきゅっとなった。


 クロさんが低く鳴いた。


 ごーれむ。


 花、ふむ。


「はい。止めます」


 上から見ると、投げる場所が分かった。


 少し離れたところに、花も畑もない岩場がある。


 あそこなら、花を踏まない。


「あそこです。花のない岩場があります」


 クロさんが、そちらへ首を向けた。


 あっち。


「はい。あそこへ投げます」


 クロさんが少しだけ目を丸くした。


 なげる?


「はい」


 私はクロさんの背から飛び降りた。


 風が耳元を通り過ぎる。


 地面が近づく。


 ゴーレムの足元へ降りた瞬間、私は両手を伸ばした。


 私はゴーレムの足をつかんだ。


 重い。


 とても重い。


 けれど、ここに立たせておくわけにはいかない。


「花を踏まないでください」


 ゴーレムは答えない。


 古い石の体が、ぎしりと音を立てる。


 私は足に力を入れた。


 土が沈む。


 花畑の端が揺れる。


「いきます」


 私はゴーレムの足を持ち上げた。


 巨大な体が、ゆっくり傾く。


 農家の人たちが遠くで悲鳴を上げた。


 でも、今は止まれない。


 花のない方。

 畑のない方。

 岩場の方へ。


「えい」


 ゴーレムは大きな弧を描いて飛んでいった。


 どおん。


 遠くの岩場に落ちた音が、山に響いた。


 岩場に落ちたゴーレムは、しばらくぎしぎしと動いていた。


 けれど、やがて静かになった。


 花畑には、もうゴーレムの影はなかった。


 しばらく、誰も何も言わなかった。


 風だけが花畑を通っていく。


 私は踏み荒らされた花畑を見た。


 全部は守れなかった。


 でも、まだ残っている花も多い。


「よかったです」


 クロさんが空から降りてきて、私の近くに首を下げた。


 なげた。


 ごーれむ。


 とんだ。


「はい。飛びました」


 クロさんは岩場を見て、それから私を見た。


 みりあ、すごい。


「クロさんも教えてくれて助かりました」


 ほめた?


「はい。ありがとうございます」


 クロさんは少しうれしそうに喉を鳴らした。


 ごろごろ。


 その時、後ろの道から馬の音が聞こえてきた。


 何頭もの馬が、こちらへ近づいてくる。


「ミリア!」


 レオンハルト様の声だった。


 レオンハルト様、アルフォンス殿下、ヴァレリウス王が、騎士たちと一緒に花畑へ駆けてきた。


 三人は、花畑と、岩場と、私と、クロさんを順番に見た。


 そして、遠くの岩場に転がっているゴーレムを見た。


 アルフォンス殿下が最初に口を開いた。


「投げたね」


 レオンハルト様が額を押さえた。


「投げましたね」


 ヴァレリウス王は、岩場の方を見たまま低く言った。


「ゴーレムは、投げるものではない」


「でも、花畑にいましたので」


「だから理由になっているようで、なっていない」


 レオンハルト様が私に近づいた。


「怪我はないか」


「はい」


「クロに乗って飛んでいったと聞いた」


「はい。早かったです」


「そういう問題ではない」


「でも、花畑が困っていたので」


 レオンハルト様は何か言いかけて、踏み荒らされた花畑を見た。


 そして、まだ残っている花を見た。


 深く息を吐く。


「……助かったのは事実だな」


「はい」


 ヴァレリウス王は黙って花畑を見ていた。


 踏みつけられた跡。

 倒れた花。

 まだ残っている花。

 泣きそうな顔で花を支えている農家の人たち。


 私は近くの花にしゃがみ込んだ。


 茎が倒れているものもある。


 花びらが汚れているものもある。


 でも、根が無事なものは多い。


「水をあげて、倒れた茎を支えれば、元気になる花もあります」


「本当かい?」


 農家の人が駆け寄ってきた。


「はい。全部は難しいですが、まだ助かる花があります」


 農家の人たちの顔が少し明るくなった。


 その時、畑の向こうから三人の男の人が走ってきた。


 見覚えがある。


 白百合を買った人。

 黄色い花を買った人。

 大きな鉢植えを買った人。


 ヴァレリウス王の密偵だった人たちだ。


 三人は花畑を確認し始めた。


「白い花の区画は、まだ根が残っています」


「黄色い花は少し倒れていますが、茎は折れていません」


「こちらの赤い花は、支えを立てれば戻るかもしれません」


 ヴァレリウス王がゆっくり振り返った。


「なぜお前たちは、花畑の被害確認ができるのだ」


 三人はまじめな顔で答えた。


「ロゼッタ花店で学びました」


「また花屋か!」


 山に声が響いた。


 アルフォンス殿下が腹を抱えて笑った。


 レオンハルト様は目を閉じていた。


 私は少しうれしくなった。


「お花を覚えてくださったのですね」


 三人は少しだけ気まずそうにした。


「少しだけです」


「白百合は扱いに注意が必要です」


「鉢植えは水をあげすぎない方がよいと教わりました」


「はい。大事です」


 ヴァレリウス王は頭を抱えた。


「私の密偵が、花畑の手伝いをしている……」


「よいことだと思います」


「お前はそう言うだろうな」


 ヴァレリウス王は疲れたように息を吐いた。


 それから、私を見た。


「なぜ助けた」


「花畑が困っていたので」


「ここは、ルミナリアではない」


「はい」


「私の国だ」


「はい」


「それでも助けたのか」


「花畑なので」


 ヴァレリウス王は、しばらく黙っていた。


 眉間のしわはある。


 けれど、前より少しだけ浅く見えた。


「……そうか」


 小さな声だった。


「ミリア・ノクス」


「はい」


「礼を言う」


 私は少し驚いた。


「はい」


「驚くな」


「すみません」


「謝るな」


 ヴァレリウス王は、ふいと顔をそらした。


「花畑が残った。それは、悪くない」


「はい。よかったです」


 クロさんが横で、ぐるると鳴いた。


 よかった。


 花、のこった。


「はい。クロさんもありがとうございます」


 私はクロさんの鼻先をそっとなでた。


 ごろごろ。


 大きな喉の音が鳴る。


 ヴァレリウス王はそれを見て、また少しだけ後ろへ下がった。


「……そのドラゴンにも、あとで礼を用意する」


 クロさんの目が丸くなった。


 れい。


 ほめる?


「たぶん、褒めてくれるのだと思います」


 ごろごろ。


 クロさんはうれしそうだった。


 アルフォンス殿下が笑いながら言った。


「伯父上、ついにドラゴンにも礼をするのですね」


「黙れ、アルフォンス」


「花屋とドラゴンに助けられる隣国の王。なかなか珍しい光景です」


「黙れと言っている」


 レオンハルト様は、私を見て少しだけ表情をゆるめた。


「ミリア」


「はい」


「次からは、せめて行き先を言ってから飛んでいけ」


「分かりました」


「本当に分かったか」


「たぶん」


「たぶんじゃない」


 私はうなずいた。


 夕方。


 ロゼッタ花店に戻ると、ロゼッタさんが店先で待っていた。


「ミリアちゃん」


「はい」


「隣国のゴーレムを投げたって聞いたよ」


「はい」


「花畑は?」


「全部ではありませんが、たくさん残りました」


「そうかい」


 ロゼッタさんは、ほっとしたように息を吐いた。


「それなら、よかったよ」


「はい」


「でもね、ミリアちゃん」


「はい」


「隣の国でゴーレムを投げる花屋なんて、普通はいないよ」


「そうなんですか?」


「そうだよ」


「でも、花畑にいました」


「それは分かるけどねえ」


 ロゼッタさんは少し笑った。


「まあ、花が残ったならいいかね」


「はい」


 その夜。


 私は店先の花を整えながら、ヴァルトリアの花畑を思い出した。


 踏まれてしまった花。

 まだ残っていた花。

 花を支えていた農家の人たち。

 花のことを覚えてくれていた密偵の人たち。

 そして、礼を言ってくれたヴァレリウス王。


 ルミナリアの花も、ヴァルトリアの花も、咲いている時は同じだ。


 どこの国でも、花は花だ。


 残ってよかった。


 助けられてよかった。


 私は白百合の向きをそっと直した。


 やっぱり私は、花屋が好きだ。

ポイントを入れていただけると、大きな励みとなります。

https://ncode.syosetu.com/n2477md/

こちらの作品もおもしろいと思います。お読みいただければ有難いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ