デートの予行練習5
詩にゃんへのプレゼントも買い終え、ショッピングモールを一通り、見て回ることになった。
今、まりんと腕を組んで歩いている最中だ。
「奏、さっきのお店で色々買ってたようだけど、それを全部、詩子にプレゼントするつもり? 妬けるわね」
「まぁ、色々見てたら、どれも良く思えてきたからね、選択肢は多いほうがいいだろ?」
「……そうね、詩子を喜ばせないとね」
まりんは、俺の腕を少し引っ張る。
「なぁ、詩にゃんにプレゼントするタイミングっていつがいいと思う?」
「そんなのは最後に決まってるじゃない。余計な荷物持たせて、歩かせるつもり? デートでいきなり花束渡しきたら、配慮できない馬鹿って笑われるわよ」
「辛辣だな……詩にゃんはそんなことを言わないだろ」
「言わないわね。でも、デート中に色々、おもてなしするんでしょ? お土産はいつだって最後に渡すものよ。デートをしてくれたお礼ってことになるのかしら」
俺だってそう思うが、誰かに言われると自信に繋がるものだ。
「そうだな。一応、確認のために聞いてみただけだ」
「奏の慎重なところは好感を覚えるけど、詩子とのデート中に、『プレゼント、何を貰ったら嬉しい?』なんて聞かないことよ」
「いや、いくら俺でもそこまで……」
変に緊張して聞くかもしれない。
石橋でも叩いて渡るのが俺だから。
「うん、聞くね、たぶん」
「でしょ?」
ふふ、とまりんは笑う。
練習とはいえ、これはデートだ。
少しはまりんを楽しませる努力はするべきだが、どうしようか。
聞くのが手っ取り早く確実だが、それは悪手。
これはお祭りデートの予行練習だ。
場所はショッピングモールだとしても、本質は変わらない。
お店を回って、何かしら話題を振らないといけないわけだから、ウインドショッピングを学ぶ必要がある。
「次は、服でも見てみるか?」
「悪くないけど、聞き方」
「聞き方……」
「そこは可愛い君の可能性をもっと知りたいとか、言うべきよ!」
「恥かかせようとしてない?」
「少しは弱みを見せたほうが、心の距離って狭まるものよ」
弱みか……、たしかに、それは言えてるな。
人は強さに憧れて、弱さに共感する生き物だ。
共感すれば親近感が湧く。
憧れは期待感を生む。
ノーリスクなコミュニケーション。
変な話だが、弱さをさらすことが、人との中を円滑にする。
もちろん、何も出来ない人は嫌われるけど、それでも頑張る人には、応援したくなるものだ。
俺の弱み、ね……
上げるとするなら、人から裏切られたくないと思っていることだろう。
でも、まりんは、そのことを知っている。
なら、そうなった原因か?
そういえば、まりんには、俺の大失恋について話してなかったな。
わざわざ、話すことでもないから伝えてなかったが……
「また、ひとりぼっちの世界に入ってるわよ」
「悪い、腕を包んでる感触を全力で楽しんでた」
慌てて、出てきた言い訳が終わってた。
何言ってんだ、俺。
仕方ないだろ、さっきから、腕がハピネス状態なんだから。
まりんの弱みを見せろも相まって、ただの失言になっている。
「奏のエッチ」
そう言いながら、離すどころか、胸側に引き寄せるのはなぜでしょうか。
「ふふ、弱みを見せろと言った途端、素直になるのは、弱みと言えるのかしら?」
「ただの失敗だな」
「でも、心の距離は縮まる失言よ」
「知ってるか、そういうのは、もうスイッチがそこに用意されてるときに限るんだぞ」
「……奏のエッチ」
何で、顔を赤くしてんの、俺そこまで変なこと言ってないよね。
「私を失恋させるって忘れてないでしょうね。奏が私に惚れたら前提が崩れるのよ」
「俺は約束は守るよ。期待を裏切られる痛みはよく知ってるから」
草凪ソプラとの約束。
幼い頃に結んだただの口約束を八年間、忘れずに想い続けた結果、最悪な形で壊された。
その件に対しては、もう過去のことだ。気にしていない。
けど、その経験から学べたものは多くある。
約束の重さだ。
たとえ、口約束だとしても、約束は約束。
込められた想いが重いほど、破られた時のショックは大きい。
椿真鈴の本気に恋して失恋がしたい。
そんな悩みが軽い訳がない。
俺は詩にゃんが好きだ。
それと同じくらい、まりんも好きになっている。
今更、まりんを好きだと、本人に言ってどうする。
期待を裏切るだけであり、詩にゃんにだって失礼だ。
俺にとって、詩にゃんが一番であり、そうあろうとしてきた。
思考には気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉には気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動には気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣には気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格には気をつけなさい、それはいつか運命になるから
マザー・テレサの言葉だ。
「そういえば、話してなかったな。俺が他人に期待しなくなった理由を、聞きたい?」
「どうしたのよ、急に」
「いや、俺がまりんの失恋に協力しようと思った理由でもあるからさ、一応話しておこうと思って」
「そう、奏から自分のことを話したがるなんて、珍しいわね。好きな人の話なら、喜んで聞くわよ」
「明るい話じゃないんだけど、あと、面白くもない」
「ウェルカム・カモンよ。立ち話もあれでしょ、どこか、落ち着ける場所にいきましょう」
「そうだな」
急に話したくなった理由。
気持ちの整理というより、俺の覚悟の根源を知ってもらったほうがいいと思ったからだ。




