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デートの予行練習3

 

 食べ物をお互いに食べさせる。

 アイス棒で一度経験済みだ。

 それに動揺はない。


 けど、その一段上のコミュニケーションがあるとは思いもしなかった。


 口周りについた食べ物を拭う。

 日常生活において、親が子にする動作だ。


 下心を隠して、善意で触る行為。

 ある一定上の好感を持てる相手からなら、不快にもならない。

 恋仲であれば、ドキドキするイベントになる。


 まりんの変態的な思考のせいで、舐め取るなんて更に上のステージまで見せられてしまった。


 いや、見てはないんだけどね。

 2だとか3だとか、ゴッドだとか、俺の知らない世界を見せてきそうで怖い。


 正直、このステージからは、相手から軽蔑さるリスクが潜んでいる。


 まりんが、俺に選択肢を三つ用意した。

 ハンカチ、指で拭き取る、舌で舐め取る。

 これで舌で舐め取るなんてしてみろ、きっと軽蔑されるだろう。

 軽い気持ちでできることじゃない。


 俺の詩にゃんの気持ちを試しているに違いない。

 仮に詩にゃんに舌で舐め取るなんてしてみろ、上手くいけば大成功、失敗すれば嫌われる。

 詩にゃんの好意を信じないとできない行為。

 もはや告白も同然だ。


 パチンっ、と額に軽い痛みが走る。


「奏の悪い癖よ。また、考え事してるわ。目の前の女の子をエスコートする気があるのかしら?」


 デコピンをされたみたいだ。


 まりんは食べかけのイチゴ生クリームクレープを、俺の口元に差し出してきた。


「ほら、奏の番よ。口を開けなさい。私のイチゴを食べさせてあげる」


 間接キスはもう経験済みだ。

 そこまで抵抗はない。

 クレープを一口だけ口に入れる。

 イチゴはそこまで酸っぱくなかった。クレープに合うものを食材に使っているのだろう。


 口元にクリームがついたから、拭おうとした時。


「奏、口元の生クリームは私が拭ってあげるわ」


 次は私が拭う番よと言わんばかりに、やる気に満ちている。


「目を閉じてくれないかしら?」

「なんで?」

「目の前にいるのは詩子だって、奏がイメージするためよ。だって予行練習なんだもの」


 たしかに、詩にゃんにしてもらえた時、変に動揺して情けないところは見せたくない。

 イメージトレーニングをするわけだな。


 言われた通り、目を閉じた。


「じゃあ、するわよ」


「俺も大丈夫だ」


 脳内でメェー君と呼ぶ詩にゃんをイメージする。

 ……可愛いけど、本物には到底及ばない。

 いや、それでいい。

 本物の詩にゃんが一番だ。

 

 息づかいが頬に当たる。

 

 まりんのフェイントだな。

 それくらいで動揺すると思うなよ。


「じゃ、綺麗にしてあげる」


 吐息交じりの声が耳元を掠める。

 

 布が口元を撫でる感触。

 ハンカチで拭いたのか、人のことをヘタレと呼んだ割に、恥ずかしかったのか?


 そんな油断を抱いた次の瞬間、柔らかい感触が口元を撫でた。指じゃない平らな何か。


 慌てて目を開けると、ベロを出してまりんがご満悦だった。

 

「あの、まりんさん、俺の口元が湿ってる気がするんだけど」

「満点だったでしょ?」

「少しは……人目を気にしてくれよ」


 まりんは美少女だ。

 人の目を引く。

 人前で、イチャイチャするカップルに注目が集まっていた。


 手を抑えてキャーと騒ぐ女性達に、俺に殺意を飛ばしてくる中年、最近の若者はやーねとコソコソ話をするおばさん連中……


「ほんの一瞬よ。誰も文句なんて言わないわよ」

「結構な数に見られてるぞ」

「……公序良俗に反してたかしら?」


 ちょっと恥ずかしそうに、まりんは口を隠す。

 俺には大胆なのに、人目は気にするようだ。


「舐め取るのは……危ないんじゃない?」


 まりんが照れるものだから、俺も恥ずかしくなってきた。

 というか、よく人目がある場所で、舌で舐めるなんてできるものだ。


「そうね、でもドキドキしたわよ」


 惚けた笑みを向けた恋する乙女が目の前にいる。

 

「そうか……」

「奏はこういうことされるのは、初めてかしら?」

「小さい頃に天ネェが、よくしてきたくらいだな」

「ブラコンのお姉さんに、初めては取られてたわけね、残念」

 

 まりんは残りのクレープを、味わい始める。

 俺も自分のクレープに口をつける。

 

「……奏は、キスはしたことあるの?」

「唐突だな……」

 

 俺のファーストキスは……


「子供の頃のはノーカンですか?」

「どれくらい子どもかによるわね」

「5歳くらいだったはずだ」

「よく覚えてるわね。記憶に残るほど日常的だったのかしら?」

「八木家のペットを自称してた女の子いたろ? あれ、昔、仲良かった子なんだよ。小さい時、遠くに引っ越したんだ、その別れ際にされたような気がする」


 昔の出来事の記憶は曖昧だ。

 もしかしたら俺の思い違いかもしれない。


「奏って、意外とモテる?」

「中学まではモテてたぞ」


 正確には、ソプラに告白して大粉砕して、全てに対してやる気がなくなるまでだけどね。


「ふ~ん、そうなの、奏の初めては、意外と少ないのね」

「何で拗ねてんだよ」

「別に、拗ねてなんかないわよ」


 テーブルの下から、俺の足を蹴ってるよね?


「でも、家族を除けば、初めて女子の指を口に加えたのは、まりんだけどね……」


 バスケ部エースとのフリースロー対決の後、まりんから角砂糖を食べさせてもらった時のあれが、俺の初めてと言えるだろう。


「私も、口に入れた男の子は奏が初めてよ」


 お互い、視線が合わない。

 気恥ずかしくなってしまった。


「そういう意味じゃ、口元の生クリームを舐め取られたのも、まりんが初めてだな」


「そうなんだ。ふ~ん」


 まりんは、髪の毛をクルクルと弄り始める。

 その顔は若干嬉しそうに見えた。

 

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