デートの予行練習2
俺とまりんの関係性について、それは契約を結び、目的のために手を取り合った協力者だ。
人との接し方は関係性によって決まる。
友人に対する接し方、家族に対する接し方、他人との接し方。
関係が変わるということは、その人との関わり方が変わるということになる。
俺が詩にゃんと恋人になり、まりんはその事実を突きつけられて失恋する。
それが最終目標だ。
今はそのためにお互い行動している。
その目的が果たされた時、俺とまりんの関係性はどうなるのか。ただの他人に戻るのか、それとも友人として関係を続けていくのか。
どう変化するかなんて、今の関係性がわからない以上、答えようがない。
契約なしで俺は椿真鈴をどう思っているのか。
行動力が凄くて、いつも楽しそうに俺らをからかう女の子。
「ぼっちは孤独の中でしか息ができない。でも、誰かの孤独に寄り添えば、ぼっちでも息ができる」
椿真鈴も『ひとりぼっち症候群』だ。
失恋しないと自己の存在証明が出来ない。その孤独を抱えていた。
勝手な推測だが、俺がその失恋に協力したから、詩にゃんとも友達になれたんじゃないだろうか。
「俺は接し方を変えるつもりはない。まりんが居るから、安心して詩にゃんに恋できるんだからな」
俺と詩にゃんが、もし恋人になったとしても、それは変わらないはずだ。
まりんが俺の腕を強く抱きしめる。仄かに香る花の匂い。腕から感じる温かい重さを、改めて意識してしまう。
「私の悩みを孤独と捉えるのは誰でもできそうだけど、寄り添うなんて言葉は、本当の理解者にしか出ないと思う……」
それは買いかぶりな気もするけど。
まりんは儚げに笑みを浮かべていた。
「私は奏が男の子として好きよ。いつでも振られる覚悟だからね」
迷いの無い、真っ直ぐな眼差しをしていた。
それはつまり……
「ふふ、驚いてるの? 可愛いわね」
悪戯にしては、たちの悪い冗談だ。
けど、まりんが恋心に嘘をつくとも思えなかった。
「さぁ、仮にもデートよ、練習だろうと本気でやるわよ」
「お、おう……」
突然の告白に、思考が一瞬だけ止まってしまった。
本気で好きになると宣言していたのだから、いつか来るとは思っていたが、今、来るとは思わないだろう。
「まずはどこから回ろうかしら? 奏の大好きなチョコバナナのクレープでも食べに行く?」
「そうだな」
クレープ店へと足を運ぶ。
その間、俺は簡単な相槌しか打てなかった。
横で楽しそうに好きな人とデートの練習をしている女の子を、振らなければならないといけない。
余計なことを考えそうになる。
まりんは本当に失恋がしたいのか。
まりんが好きになったのは、期待しない男だ。その前提を崩すわけにはいかない。
それでも、その結末が本当に幸せなのかと考えてしまう。
「奏、隣にいる女の子を無視して考え事してるでしょ、減点よ」
「あ、いや、悪い。余計なことを考えてた」
「良いこと、奏が考えるべきなのは目の前の女の子だけよ。練習だとしてもよ」
目を細めて、可愛らしい睨めつけ。
まりんは今を本気で楽しんでるように見える。
俺の思い上がりかもしれないけど、そう見えた。
俺はまりんを選ばない。
その未来でも、今と同じように接する。
ぼっちは孤独の中でしか息ができない。
☆★
フードコートでクレープを買い、俺達はテーブルに着く。
「甘い、やっぱりクレープはイチゴ生クリームだと私は思うわ!」
まりんはクレープを頬張り、頬に生クリームをつけていた。
俺はもちろんチョコバナナだ。
酸味のある果物は柑橘類以外苦手だ。
だが、今回はチョコバナナの下見ならぬ、下味をするべくチョコバナナクレープにした。
期間限定でホワイトチョコバナナものがあったから、それにした。
「チョコバナナも悪くないんじゃない?」
苺って一個食べると満足するんだよね。でもバナナって何個でもいけるくらい、くどくない。
「そうなのね、せっかくだし、奏のバナナを一口ちょうだい」
綺麗な歯並びを見せつけられた。
「ほらよ、俺のチョコバナナはどうだ?」
「奏のバナナは美味しいわよ?」
中々に挑発的な言い回しだ。
白い生クリームと白いチョコ、まりんのお口周りを汚しているから、思春期センサーに引っかかる。
「もう少し、食べ方どうにかならないのか?」
話題をそらすか。
「奏、これはデートよ。女の子が好きな人の前で、隙を見せてるのよ。わざとに決まってるでしょう。どうするかわかるでしょ?」
「ハンカチで抜き取る?」
「及第点ね。模範解答は指で拭き取り、口にする。満点は舐め取ることよ。答えは教えたのだから、選ぶのは奏よ。本番失敗しないように頑張らないとね」
練習でできないことは、本番でできないと言いたいみたいだ。
指でまりんの口元のクリームを拭き取り、俺の口に運んだ。
「奏のヘタレ。そんなので詩子を満足させられるのかしら」
「模範解答だから良いだろ……俺は本番に強いタイプだ」
「へぇ~、詩子からの報告を楽しみにしてるわよ。詩子にもそれとなく期待を煽っておくからね」
どうやら、本番では舌で舐める場面から逃げられないみたいだ。




