デートの予行練習1
まりんとのデート予行練習。
何事も練習とつければ、心理的ハードルを下げることができることに気づいた。
練習は本番を成功させるための布石だ。
詩にゃんに隠れて、他の異性とお出かけというのは、罪悪感を覚えるけど、練習だからと言い訳をする。
するとあら不思議。もっと罪悪感を感じることになる。
だが、詩にゃんとのデートを失敗させないための講習だと思えば、どうにか納得することができた。
「カナデとデート、Я рада(嬉しい)」
「ソプラちゃん、かなでのデート相手はまりんちゃんよ。邪魔しないようにね」
なぜか、ソプラと天ネェが同行することになった。
まぁ、正確には勝手についてきた。
「奏、いくら練習とはいえ、他の女性を連れてくるなんて、減点ものよ」
いつも明るく元気に笑顔、小悪魔フェイスでからかってくる女の子が、冷めた視線で俺を見る。
なんなら、まりんから初めて白い目で見られたまでもある。
「普段の破天荒な笑顔も素敵だけど、怒った顔も可愛いよ」
とりあえず、褒めてみた。
アドバイス一覧を文章でまとめてもらい、その中の一つを実践した。
さり気なく、褒めろということだ。
例えば、食べてる姿が可愛い、とか。
一緒にいると落ち着く、とか。
また、一緒にお出かけしたいね、とか。
好意があることを伝える。
相手もその気なら、嬉しいことこの上ない。
逆なら、気持ち悪いだけだ。
「……褒め言葉を言い逃れに使われて、喜ぶ人がいるのかしら?」
「残念ながら、八木家には居るんだ」
チラリ、天ネェに視線を向ける。
「お、お姉さんは気にしないでいいからね。かなでは真鈴ちゃんとデートを楽しむのよ。お姉さん、ソプラと買い物に来てるだけだから」
「Да(はい)、ペットのソプラはアマネと買い物します。邪魔しないから、次はペットのソプラに首輪をつけて散歩して下さい」
「それはお姉さんがしてあげるから、行くわよ」
「カナデがいい!」
「我儘言わない!」
天ネェはソプラを引っ張って、ショッピングモールの人混みの中へ消えていく。
影から俺のデート予行練習を見学でもするつもりなんだろう。
「奏、ペットのソプラちゃんとは、一体どういう関係なのかしら?」
まりんは営業スマイルならぬ美少女スマイル(作り物)で笑顔を作っていた。
「さぁ……ソプラは、うちの母さんとお姉さんで提携してるから、俺は管轄外なんだよね」
「奏の意思じゃないって、言いたいわけね」
「当たり前だ。俺は詩にゃん、一筋だからな」
「ふ~ん……私は奏の何になるのかしら?」
「ビジネスパートナー?」
「堅苦しいわね。もっと素敵な響きがいいわ」
「素敵な響きってなんだよ、失恋相手とか?」
まりんは、悪巧みをするように笑う。
「そうね、恋人は詩子の枠だから、愛人とか?」
「失恋が前提だから愛人ってことか、笑えない冗談だね」
まりんは俺の腕を抱き寄せる。
右腕が挟まれた。天ネェで慣れているとはいえ、心拍数が上がるもんだな。
「私が隣で愛をささやき、奏は詩子に恋心を燃やし続ける。どうかしら?」
「それ、まりんの愛情を燃やして、詩にゃんの恋心に火をつけろってことか? 俺が最低な奴になってるんだけど……」
「少しでも詩子への想いに手を抜いて、私に惚れちゃったら、全ておしまい。私たちの関係は、奏が私に恋心を抱かしないことが前提で始まっている。初心を忘れないための良い案だと思うけど」
俺がまりんに恋をすれば、全ての前提が崩れる。
それはまりんに対する裏切りであり、詩にゃんに保証した「奏は裏切らない」の前提も崩れる。
「初心を忘れないって点は同意できるけど、詩にゃんに失礼じゃない?」
「今さらだと思うけど……そうね、詩子を巻き込んでる以上、最大限の敬意は持つべきだったわね」
俺達の計画において、絶対的な被害者は詩にゃんだ。
まりんは失恋したくて、詩にゃんを利用しているとも言える。
俺は青春したいから、詩にゃんの推し活をしてたらガチ恋勢になった。
始まりは正直、清々しいものではない。
けど、その繋がりを軽視しているわけではない。
俺達のグループの頂点は、誰が何を言おうとも詩にゃんだ。
極端に言えば、詩にゃんが嫌だと言えば、駄目なことになる。
隠し事をしていることは悪いと思っている。
俺達の関係の土台であり、それを受け入れてもらえなければ、この関係が壊れるレベルの地雷だ。
明かせるわけがない。
だから、俺達にとって詩にゃんが正義だ。
「今のところは相棒ってところね。それで我慢するわ」
「我慢するって……」
「奏の愛人が駄目なら、詩子と愛人関係になるわ!」
愛人宣言って、そんなに目を輝かせて言うものだっけ?
「詩にゃんと愛人になって何をするつもりだよ」
「詩子を愛して、愛してもらう」
詩にゃんを愛するのはもうできてるから、あとは愛してもらうだけか。
「それに、独占欲を刺激するのは、いつも他の相手がいる時よ。私ならライバルとしてちょうど良いでしょ!」
「結局、まりんの愛情が俺の恋心の燃料になってるんだけど……」
「私は二人の恋のキューピットよ。愛情でも何でも使うべき、それに詩子が私を愛人として受け入れてもらうことが前提だから、不道徳ではないでしょ?」
不道徳とは……
相手の同意があれば、道徳違反ではないと言うつもりか、そうなの?
「そもそも、まりんは失恋したいんだろ?」
「……そうよ。でも、奏は私を振ったあと、同じように私に接してくれるのかしら?」
ショッピングモールを男女が二人腕を組んで歩いている。
端から見ればただのカップル。
話している内容は、愛人やら失恋やら、明るい内容ではない。いつも楽しげに笑っている女の子が、不安げに顔を曇らせていた。
椿真鈴は失恋がしたい。
それは今も変わらないはずだ。
それでも、繋いだ手を切られたくないと、そう訴えかけてるように思えた。




