草凪ソプラはペットになる1
詩にゃんとのハッピー通話タイムを邪魔されてしまった。
「ソプラはペットだから、何をしてもいいよ」
「アンタは八木家に滞在している間はペットだからね。お姉さんによしよしされてなさい」
「Не надо(必要ないよ)、カナデだけのМилашка(可愛い子)だもん」
天ネェが嫌がる猫を抱きかかえるように、後ろからソプラを拘束して、頭を撫でている。
いや、マジでどういう状況だよ。
自己完結型の二人だけで説明できると思わない。
ここに母さんがいれば、まだ、話になったんだが……
面白がって、二人を俺に押し付けたか?
「まず、八木家のペットってどういうことだ?」
「ソプラはカナデと一緒にいたいから、愛してくれなくても、Обожаю(たまらなく大好き)だから」
「アバジャーユが何か知らんけど、説明になってないね」
天ネェに視線を移す。
「天ネェ、どういうこと?」
「中学時代にコレが、かなでに『気持ち悪い』って言ったのは、勘違いというか、誤解というか。本人も後々になってね、間違いだったって、自覚したみたいで、謝りたかったみたいなの」
「それで?」
「かなではすぐ逃げるから、お姉さんに話を通して欲しいって、コレは何度も頼んできたの」
ソプラの呼称がコレになっている理由のほうが気になる。
いや、今はソプラがペット志望の理由だ。
「……天ネェは誤解だったって知ってたってこと?」
「知らないよ。お姉さん、もうぷんぷんだったから、全力で『気持ち悪い』から話しかけないでって、追っ払ってた」
天ネェはソプラの体を、まだ撫で回している。
気持ち悪がってるというより、可愛がってるように見える。
「それが後ろめたいから、ソプラを可愛がってるの?」
「今、八木家のペットになったんだから、お姉さんは全力で好きになる努力をしてる途中なの!」
「ソプラは、カナデだけでいいよ!」
どんな会話をしたら、ここまで状況がぶっ飛ぶんだよ。
話の内容をほとんど理解できなかったぞ。
「それに、かなではもう、大丈夫だよね?」
天ネェは少し寂しそうな、それでいて嬉しそうに笑みを浮かべた。
中学時代のソプラによって、発症した『ひとりぼっち症候群』のことを言っているのだろう。
命名したのはまりんだけど、一言で言い表せる造語で割と気に入っている。
他者からの縁を遠ざけて、誰からも裏切られない環境を作り、独りになる臆病者が患う病気。
今の俺には、契約で結ばれた縁がある。
契約は便利な言葉だ。
行動全てを契約履行で置き換えることができるから、そこに俺の意思はない。
破綻しても契約違反した者のせいになる。
裏切りが嫌いな俺には適している。
ただし、詩にゃんに対する愛情は本物だ。
きっと、本物だ。
……本物だよね?
頰を赤らめて、チョコバナナを頬張る姿を想像する。
詩にゃんボイスで『メェー君と行っちゃいましたね』と再生しよう。
俺は、詩にゃんと夏祭りを過去形にしたい。
「……ああ、俺はもう大丈夫だよ」
推しへの愛が、酸素ボンベになってるから息ができる。
天ネェがソプラを遠ざけていたのは、俺のためだ。
今の俺なら、ちゃんとそと向き合えると判断してくれたのだろう。
「コレも反省してるみたいだし、あんまりにも可哀想に思えてきたから、八木家に関わるときは、私達に可愛がられることで話がついたわけよ」
「マーマも、カナデも好きだけど、アマネはウザい」
「何がウザいよ、お姉さんだって、可愛げのない妹なんてお断りよ」
「なら、離してよ」
「離したら、アンタはかなでに甘えるでしょ!」
「Да, именно(当然よ)!」
天ネェはソプラをしっかりと後から抱き込み、ほっぺをスリスリしている。
八木家の家訓は「可愛いは正義」だから仕方ない。
こんなに険悪なのに、イチャコラしてる画になることあるんだね。
「それで、どうしてペットな分け?」
「もう、奏には大切な女の子がいるから、コレに入る隙間はない諦めてって言ったら泣き出したのよ」
「ソプラ、泣いてないもん」
「泣いてたわよ。そしてたら、母さんが、『家にいる間はペットになって可愛がってもらったら?』って言っちゃて……」
「ペットなら、カナデはソプラを見てくれるかなって……」
頬を赤らめて、ソプラは上目遣いで俺を見る。
原因は母さんにあったようだ。
「極論が過ぎる!」
「ソプラマーマにちゃんと、Хорошо(了解)してもらったよ!」
ハラショーは知ってるぞ。
了解とか分かったとか、ロシア語のOKに当たる言葉だ。
「Договорились(よろしくね)、にゃんにゃん」
ロシア語と日本をごちゃ混ぜに喋る、銀髪碧眼の美少女が両家公認のペット枠に収まったみたいです。




