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推しと夏祭りとチョコバナナ1

 

 ソプラがどんな懺悔をするかは知らない。

 言葉にしないと、スッキリしないこともあるんだろう。


「ソプラ、俺はもう全部忘れるから、気にしなくていいよ」


 俺のせいで罪悪感を感じてるなら、解消してあげるべきだ。


 颯爽さっそうとリビングから立ち去り、自室へと戻る。


 これで少しは話しやすくなっただろう。

 俺みたいな気持ち悪い奴に罪悪感を覚えてくれたのなら、それで十分だ。


 昔みたいには戻れない。

 

 ソプラの懺悔は母さんと天ネェが聞いてくれる。

 二人から許しをもらえば、ソプラも晴れやかな気持ちで前を向ける。


 俺も過去を振り返らず前を向こう。

 それを証明するためにも、『ひとりぼっち症候群』を完治させるべきだ。


 夏祭りに詩にゃんを誘うこと。

 それが第一歩だ。


 俺はスマホを取り出す。

 俺と詩にゃんは友達だ。

 連絡手段は当然ある。

 毎日ボイスチャット開いて会話しているくらいだ。

 

 いつも、まりんが話題を振って、俺が話に乗って、二人で詩にゃんをからかう。みたいな役割分担になっている。

 

 さて、誘う方法は二通り。

 メッセージで聞くか、通話を繋いで聞くか。


 文字で伝えるのは心理的ハードルが低い。

 通話なら、声と声のやりとりだから、心理的ハードルは高い。


 いざ、二人きりで話すとなると、迷うものだな。


 メッセージでポンっと、終わらせるのが簡単だ。

 簡単なだけに、俺の気持ちが軽いと思われないだろうか不安になる。


 だったら、通話をすればいいんだが、二人きりだと意識すると緊張する。


 いやね、前までならそんなことなかったよ?

 でも、友達であり、推しだったときの話だ。

 好きな異性に昇格した今、普通に緊張する。


 ボイスチャットは、俺たちのオープンチャンネル、通話はプライベートチャンネルだ。

  

 落ち着け、八木奏。

 何を躊躇っているんだ。

 

 詩にゃんを祭りに誘う、それだけだ。


 拒否されることを恐れているのか。

 それとも、より親密になることに怖気づいているのか。

 どちらにせよ、臆病者のすることだ。


 ソプラだって勇気を出して、謝りに来たんだ。

 過去のトラウマは清算された今、何を怯える必要がある。


 そうだ、楽しいことを考えよう。 

 例えば、浴衣姿の詩にゃんが、チョコバナナを頬張る姿を想像して……

 

 おい、チョコバナナ、そこ代われ!


 俺はチョコバナナが食べ物であることを証明するためにも、詩にゃんに通話することにした。

 

 ロジックがバグっている自覚はあるが、ノリと勢いが大事だ。恥ずかしがるのは何時いつでもできる。


 プルルルゥーと着信音が鳴り、通話が繋がる。


『――も、もしもし、メェー君。どうしたの?』


「尊い……俺、チョコバナナも一緒に愛すから」


『チョコバナナのアイス?』

 

「あ、いや、気にしないで、詩にゃんにチョコバナナを食べてもらいたいなって思っただけだよ」


 詩にゃんに『メェー君』と呼ばれただけで、心が洗浄されて、本音が溢れてしまった。


『私、チョコバナナ大好きですよ!』

「もう一回言ってもらっていいですか?」

『え、チョコバナナが大好きです?』

「あと、もう一回だけお願い、詩にゃんはチョコバナナが〜」

『大好きです?』 


 大好きいただきました。ごちそうさまでした。


『メェー君?』

「詩にゃんがどれくらいチョコバナナが好きか、確認したかったんだ。ありがとう。俺も大好きだよ」


 チョコバナナありがとう! 

 君は推しに大好きを言わせるための魔法のワードだ。俺も大好きだぞ。


『ふぇ……あ、チョコバナナ、チョコバナナは甘いですもんね』

「だからさ、今度の土曜日にある夏祭り、一緒に行かない?」

『行きます。行っちゃいます!』


 今度、同じ言葉を言ってもらう、頬を赤らめた詩にゃんを想像するのを忘れずに……他意はないよ、本当だよ?


「詩にゃん、ありがとう。一緒にチョコバナナ食べようね」

『は、はい!』

「…………」

『…………』


 どうしよ、チョコバナナマジック消えた瞬間、沈黙したんだけど。


『あ、あのメェー君、その、リンちゃんは――』


 ――バタンと大きな音を立てて、自室の扉が開かれた。

「Это несправедливо(不公平よ)! ソプラもチョコバナナ食べたい!」

「ちょっと、今はお取り込み中よ! かなでの邪魔なるわ!」

「あらあら、奏は罪な男ね、お母さんどうすればいいのかしら?」


 姉と母親、元幼馴染が、部屋の前に立っていた。


『メェー君、どうしたの?』

「悪い、また連絡するから、もう切るね」


 通話を切る。


「ソプラもカナデと夏祭り行きたい!」

「お姉さんの方がもっと行きたいわ!」

「お姉さん、買い物に行くから、あとは頑張りなさいね」


 母さんはそう言って、部屋から離れる。

 天ネェとソプラは何か言い合っていた。


 ソプラの懺悔タイムは終わったのだろうか。

 随分と仲が良くなっているみたいだ。


「で、ソプラの話は終わったの?」

「Да (はい)、ソプラはカナデのペットになりました」

「コレは八木家のペットになることで、お姉さんは手を打ったわ」


 この人達は、何を言ってるんだろうか。


「えっと、ペットって何? ポリエチレンテレフタレートの略?」


 ペットボトルの材料に当たる樹脂の名前のことだ。


「ワンちゃんやネコちゃんのことよ」

「Да (はい)……うへへ」


 天ネェがソプラに抱きついている。

 天ネェはソプラに、良い印象を持ってなかった気がするけど、本当に何があったんだ?


 

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