表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/133

元幼馴染の名前は草凪ソプラである5


 大体のことは泣けば許される。

 それを許されるのはいつも女の子だ。

 これが齢五歳の奏くんが知った社会の現実である。


 まぁ、簡単に言えば、世の中は理不尽だ、ということだ。


 満員電車で痴漢に間違われるのは、いつも冴えないおじさん。

 異性にモテるのは、いつだって外面の良い奴。


 銀髪ショートの美少女が、冴えないぼっちの俺の言葉で泣いたのなら、確実にぼっちのせいになる。


 中学時代、ロシア人ハーフに振られて、一途な男子生徒が、キモいやつに成り下がってたからね。

 心の底で、皆がそいつのことをそう思ってたんだろう。見た目が良い奴が正義だから、誰も擁護しなくなった。


 しかし、ここは『ぼっち』のテリトリー、自宅だ。

 俺の母親と姉が味方である。


「ほら、奏。無自覚であろうと、酷いことを言ったのは事実なんだから、謝りなさい」

 

 母さんの正論パンチ。


「かなで、アレだって、少しは反省してるとお姉さん思うのよ」


 天ネェも肩を持ち始める。

 なるほどこれが見た目の力。

 ブラコンの姉すら心を動かすパワーがあるのか。


「なぁ、天ネェ。弱みでも握られてんの?」

「え……なんのことかな、お姉さん、わからないな」


 なら、なんで目を横に逸らすんでしょうね。


「奏、話をそらさない。まずは謝るのよ。意見があるなら、それからよ」


 母さんの正論パンチ。


 迷惑をかけたなら、謝るのが礼儀だ。

 幼少期、姉さんが駄菓子屋で会計をせずお菓子を外に持ち出した事実を目の当たりにして、俺が怒られるのが一連の流れだった。


 だって、姉さんが「かなでが、かなでが……」って泣きだすもんだから、それで俺のせいになっていた。

 後になってから、言葉の続きが「かなでが喜ぶと思って」と知って、俺に頭を下げるのが俺の母さんだ。


 何が言いたいかと言えば、謝れば話が進むってことだよ。


「えっと、俺が悪かった。ごめんなさい、だから泣かないで」


 しかし、不本意で謝るというのは癪に障るものだ。

 姉さんの場合、自分の監督不足で納得できる。

 けど、今回に至っては、理由がない。


「カナデ、ソプラのこと、嫌い?」


 涙ぐんだ瞳で、庇護欲をそそるような仕草で、ソプラは聞いてきた。


「き、嫌いじゃないよ」


 好きでもないけど。

 ここで無関心、嫌いなんて言えば、母さんから雷が落ちるのは目に見えている。


「奏、あんまり意地悪なこと言ってると嫌われるわよ」


 もうすでに嫌われてるんですけどね。


「そうだね……」

 

 もう、「はい」しか許されそうにない。

 RPGの勇者になった気分だ。


「それで、その、詩子ちゃんと真鈴ちゃんって誰なのかしら?」

「私の妹達よ!」

「それは後回しだ。ソプラと俺の認識の齟齬を解消するべきだろう」

 

 いくらなんでも話が噛み合ってないからな。

 流石の奏くんもわかりますよ、それくらい。


「詩子ちゃんと真鈴ちゃんについて気になるけど、そうね、まずはソプラちゃんについてね」


 やっと、母さんは話を聞く態勢になった。


「中学の時に喧嘩しちゃったんでしょう? でも、家に招待したなら、仲直りをしたのよね?」


「喧嘩両成敗で、水に流した。これからは何の因果もない他人様ってわけだよ」


「……お母さん、聞き間違いかしら? 他人様?」


 母さんは理解できていないみたいだ。

 まぁ、詳しい経緯は話してないから、不思議に思うんだろう。


「それはそうでしょう? 告白をしたら絶縁を叩きつけてきたのは、ソプラの方なんだし……」


 朗らかニコニコ母さんのお顔。


「ソプちゃん、そうなのかしら? 」


 変化してないはずなのに、首を傾ける動作に圧を感じる。


「Да(はい)……」


 ソプラが蛇に睨まれた蛙のように動かなくなった。


「ところで、天音も、どうして視線をそらしてるのかしら?」


「私は関係ない、よ」


 お姉さんの一人称が私になってますよ。


「天ネェ、何か隠してるの?」

「それは……」


 俺と母さんが問い詰めるように目を細めて、天ネェを見る。


「ソプラ……奏に謝りたいって、アマネに相談しても、話を聞いてくれなかった。だから、ソプラ、謝れなくて……」

「ズルいわよ。まるでお姉さんが悪いみたいじゃない! 元はと言えば、アンタがかなでを傷つけるからでしょ。私はかなでを守ってるだけだもん」

「でも……話を通してくれてたら、もっと早く仲直りできた、よ?」

「どうかしら、また、かなでを傷つけるかもしれないじゃない」


 ばんっ、と、母さんが机を叩く。


「あなた達、落ち着きなさい。言いたいことがあるなら、一人ずつよ」


「はい」

「Да(はい)」


 天ネェとソプラは大人しくなった。

 

「まずはソプちゃんからね。奏と絶縁したってお話は本当?」


「Да(はい)……」


「どうして、そんなことを言ったの?」


 ソプラは黙り込んでしまった。

 チラチラと俺を見ている。

 なんだ、俺に聞かれたくない話なのか? 


「俺、邪魔みたいだから、部屋行ってるよ」

「あ……」


 なんたって俺は気の利く男だ。

 本人の前でまた『気持ち悪い』なんて言えないよね。

 ソプラは、その件を謝りに来てるんだ。

 本気で反省してるみたいだし、傷を掘り返すようなことはしたくないのだろう。

 

 それだけに、当時、相当嫌われていたわけだ……


 気にしても仕方ない。

 仲良くするつもりもなければ、敵対するつもりもない。

 今更、すれ違いでした。とか言われても困るだけだしね。


 まりんを失恋させてあげて、詩にゃんと恋人になる。

 何よりも優先すべきことが、今の俺にはある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ