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元幼馴染の名前は草凪ソプラである4


 俺の母親は、ソプラが俺に酷い言葉で傷つけたことを知らない。単純に振られた程度の認識だ。


 だから、家にソプラが遊びに来たことに、すごく喜んでいた。


「ソプちゃん、久しぶりね。最後に会ったのは5歳の時よね」


「はい、お久しぶりです」


 ペコっ、と頭を下げるソプラ。


 家に招待した後、母さんも話がしたいということで、ソプラをリビングに案内している。


「奏と喧嘩して疎遠したって聞いたんだけど、仲直りできたのね」


 女っ気がない息子が、女の子を家に上げたということで、テンションが高い。

 詩にゃんとまりんのことは話してないから、相当嬉しいのだろう。

 俺と目が合うたびに、母さんはニマニマと笑みを浮かべていた。


「お母さん、その子と奏はもう他人よ。今日は暑いから家に招待しただけよ」


 天ネェはツンっとした態度でいた。


「天音、どうしたの? いつもなら、大型犬みたいに、尻尾を振って大人しくないのに、喧嘩でもしてるの?」


 母さんが、知り合いを家に連れてくると、天ネェはいつも元気に挨拶する。

 お客さんにお子様も一緒だったなら、お姉さんモードで対応する。


 動物に例えるなら、たしかに大型犬だな。


「お母さん、お姉さんは、もう少しお姉さんだよ!」

「一人称がお姉さんの人がお姉さん?」


 まるで背伸びしてるお子様を見るように、母さんは微笑む。


「とにかく、涼んだなら早々にお帰りしてもらうからね」

「せっかく、久しぶりに遊びに来たのよ。もうちょっとお話したいわ」

「じゃあ、私は奏と部屋に行ってるから。お二人はゆっくり、してね!」

「何をそんなに怒ってるのかしら?」


 母さんはソプラの頭を撫でている。

 

「その、ソプラがカナデに、酷いこと言って喧嘩しちゃって……」

「だから、疎遠になっちゃったんだね。分かるわ。私も小学生の時、些細な喧嘩で疎遠しちゃった子がいたわ」


 俺の母親は天ネェと同じで、コミュ力は高い方だ。


 母さんは友達が沢山いるイメージがあった。その分、疎遠になる関係性の人もいるのは自然か。

 

「でもね、勇気を出してお話をしたら、元の仲良しに戻れたわ。ソプラちゃんは頑張ったわよ」


 母さんは、誰かと重ねるようにソプラを見る。


「Спасибо(ありがとう)……」


「やん、ソプラちゃん可愛いわ! 娘に欲しい」


 ソプラは借りてきた猫みたいに硬直する。

 母さんはソプラに向かって、大好きホールドしていた。


「お母さん、娘ならお姉さんがいるわ!」

「天音も可愛い娘よ。でもね、可愛い娘は何人いてもいいのよ!」


 可愛いは正義が、我が家の家訓だ。

 

「お姉さんは認めない!」


 不貞腐れた天ネェは俺に抱きついてきた。


「かなで、お姉さん、間違ってないよね?」


 天ネェは小言で聞く。


「そうだね……」


「安心して、詩子ちゃんと真鈴ちゃんなら、大歓迎よ!」

「――ばっ、声が大きい」


 ほら、母さんが俺を見てるじゃん。


「詩子ちゃんと真鈴ちゃん?」

「天ネェの友達だよな?」


 天ネェが合わせてくれることを期待して、俺は問いかける。


「私の未来の妹達よ!」


 高らかに宣言した。


 ぱちぱちと、瞬きをして母さんが俺を見る。


「それは、奏と関係があるのかしら?」


「当然よ。お姉さんが認めた、奏の恋人候補なんだから!」


 さて、俺は散歩の続きにでもしてくるか。

 そう思い、さっと立ち上がる。


「奏……お母さん何も聞いてないんだけど?」


「天ネェのいつもの冗談だよ」


「ブラコンの天音が、そんな冗談言うわけないでしょ!」


 さすが母親、よくわかってらっしゃる。


「お母さんに秘密なんて、ズルいわよ!」


 目をキラキラさせていた。


「その子たちは可愛いの?」

「当然よ。お姉さんが認めたんだから!」


 八木家の女性陣がはしゃぎだした。

 ソプラが不安そうに俺を見ていた。


「ソプラ以外のМилашка……いるの?」

「なぁ、さっきから言ってる、その『ミラーシュカ』って、どういう意味なんだ」


 たぶんロシア語だよな。

 

 ソプラはぷくーと頬を膨らませる。


「私との約束は、覚えてないの?」


 ソプラとした約束といえば、幼い時にした福の神と、中学の時に一方的に言い渡された絶縁宣言。

 思い当たるのはこの二択だ。

 さて、普通に考えれば、福の神だと思いたいけど。一度は絶縁された身だ。

 思い違いをしないと決めたばかりでもある。


「あれだろ、気持ち悪いから二度と話しかけないでってやつ」


 まぁ、これを約束というかは謎なところだ。

 大方、謝りに来たけど、調子に乗るなと言いたいんだろうか。

 それとも……

 どちらにせよ。もう他人だ。はっきりと、縁を切ったほうがいいだろう。


「安心しろ、今更福の神の約束なんて、持ち出したりしないから」


 これで、晴れて遺恨も消えていると証明できたはずだ。

 俺は敵じゃない。

 これでソプラも今夜はぐっすり寝れるな。夜も眠れない敵を作らないのが、平穏な生活には必須だもんね。


「うぅ、……ひっく、ぐす……」

 

 嬉しさのあまり泣き出したのか、それにしては嬉しそうには見えないんだけど。


「奏、いくらなんでもそれはないと、お母さん思うわ」


 母さんはソプラによしよし、俺には汚物を見るような視線を送っている。


「お姉さんも、アレに、もう少し優しくしても、大丈夫よ」


 子供のように泣き出ずソプラを見て、天ネェからフォローを入れられる。けど、呼称はアレだった。


 別に流したいわけじゃなかったんだけど……これって俺が悪いのか?



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