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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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殺気をつまみに

 グレイが冒険者になったのは二十代前半の頃の話だ。

 それから五十の頃まで冒険者を続けていたことになるので、実に三十年現役で冒険者であり続けたことになる。

 その間に知り合った冒険者たちは数知れず。

 ただしグレイは序盤にそれなりに気が合ったと思っていた仲間に金を持ってとんずらされて以来、継続的なパーティを組んで活動したことがなかった。

 いい顔をして近づいて暗殺を狙ってくるような輩もいたので、冒険者になってすぐに人間不信になったことは、グレイにとって悪いことではなかったのかもしれない。


 王宮では友を失い、兄に裏切られ、その兄と父を殺し逃亡。

 遠い隣国で冒険者になったかと思えば裏切られ、頻繁に暗殺者や襲撃者を返り討ちにする毎日。

 その頃のグレイの精神は荒みに荒み切っており、誰一人話しかける者はいないほど常に不機嫌であった。一言目には「話しかけるな殺すぞ」、二言目はなく拳が飛んでくる、いかれた暴力冒険者っぷりだった。


 そんな当時のグレイに話しかけてくるのは、裏稼業の住人か、腕に自信のある馬鹿のどちらかくらいであったが、そのうちそんな馬鹿共もいなくなり、グレイは本当にたった一人で体を鍛え、飯を食らい、酒を飲むだけの毎日を過ごしていた。

 冒険者としての階級は高くないくせに、裏稼業の馬鹿共を返り討ちにしまくったせいで、毎日暮らすだけの金には困っていなかったのだ。

 依頼を真面目にこなしている時よりも金があったのは皮肉なものである。

 当然その頃は【青天の隠者】なんて大人しい名前では呼ばれていなかったが、グレイはそんなことは知らない。


 そんなグレイの下に、ある日突然現れたのが、エルフの女冒険者メナスであった。

 メナスはその頃すでに名を知られた冒険者で、腕にも自信があった。

 故郷のエルフの森が大変なことになっていると聞いて、生き残りの捜索をしてから、ハルシ王国へ赴き、そこでスペルティアが無事に暮らしていることを確認し、数年ぶりに帰ってきたのだ。

 すると昔なじみの冒険者やギルド関係者が、口々に最近やばい奴がいるというではないか。

 それを聞いたメナスは、なるほど、どれどんなものかと見に行ってみることにした。

 悪意はない。

 もし話せる奴なら荒れている理由を聞いてやろうかなとか、皆に迷惑をかけるならお仕置きしたほうが良いかなとか、そんな程度の、本当に興味と善意だけでやってきたわけである。


 メナスはギルド直営の酒場のカウンターへやってきてすぐに、異様な雰囲気に気が付いた。

 普段はカウンターに綺麗どころの女性が立っているはずが、今日は強面の冒険者上がりの男が静かに直立している。

 冒険者には男が多く、カウンターはそんな彼らから気持ちよくお金を搾り取るための場所であるはずなのだ。メナスにとっては別にカウンターの中にいるのが、男でも女でも関係はないのだが、とにかく異様な状態であることは確かだった。


 そしてカウンター席にいるのはたった一人。

 薄汚れたローブに、フードを被り、背中を見ただけでも鍛え抜かれていると分かる体つき。もう数カ月酒浸りだと噂を聞いていたが、それは酒におぼれている人間の背中ではない。

 さて、どんな奴なのだろうと、メナスは刺激しないように足音を立てずに近寄ってみる。するとある場所までたどり着いた瞬間、突然その男が立ち上がり、ぎろりとメナスのことを睨みつけてきたのだ。


「足音を消して近付くな、殺すぞ」


 びりびりとした殺意が伝わってきて、その言葉に嘘がないことがメナスにはすぐにわかった。

 それから間合いを軽く測ってみたところで気が付いたことは、グレイが立ち上がったその距離が、自分の細剣の攻撃範囲ぎりぎりであったということだ。自分でも改めて意識せねばわからぬような間合いを、初見の、しかもずっと背中を向けていた男が感覚だけで把握して、警戒して立ち上がったのだ。

 野生の獣や魔物にも勝る察知能力。

 もはや神がかり的といってもいいほどの反応に、メナスは内心舌を巻いた。


 素直に足音を消すのをやめて、両手を挙げたまま近付き、隣に座ってカウンターの中にいる男に酒を頼む。

 メナスは隣からびりびりと伝わってくる威嚇と殺気をつまみに、その日は過去に味わったことのないような刺激的な酒を楽しんだ。


 三日ほどそれを繰り返して四日目、ついにメナスは隣に座ってグレイに話しかけてみた。


「私はメナスというのだが……」

「話しかけるな殺すぞ」


 聞いていた通りの返事と、ついでに殺気が飛んできてメナスは辛うじてのけぞるのを堪えた。

 メナスは自らが非常に整った容姿をしている女性である自覚があったし、自分ならあるいはと思っていたが、グレイは容赦なしだった。逆にそれが面白くなったメナスは、話しかけることはいったん保留して、翌日以降もグレイの隣で酒を飲み続けた。

 人とエルフは生きる時間が違う。

 メナスだからこそできる持久戦であった。

 グレイが嫌がって河岸を変えようとも、それを見つけて隣に座りにいくこと数カ月。

 その間幾度かグレイが襲ってきた者を返り討ちにする場面を見かけたりもしたが、メナスは一切態度を変えずに付きまとった。

 周りから様々な噂をされたが、メナスは気にも留めていなかった。

 エルフのくせに冒険者になるという、ありえない選択をする変わり者なのだ。

 メナスの好奇心は人の数倍旺盛で、怖いもの知らずなうえ無鉄砲なところがあった。

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― 新着の感想 ―
エルフの冒険者はこんなんばっかりなのか? と別のところのエルフ冒険者を思い出すが、アレよりはだいぶんマシだな、と思い直すなど…
エルフの忍耐力すごい
メっちゃん良いな
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