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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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ストーカーのストーカー

 メナスはある日を境に、妙な輩に付きまとわれるようになった。

 殺気は感じないのだが、付きまとわれているのは分かる。

 昔から勘違いした冒険者に付きまとわれることの多かったメナスは、またかと思いそれをスルーしつつ、毎日のようにグレイに付きまとっていた。

 構図で言うと、グレイのストーカーであるメナスを、何者かがストーカーしている形である。何ともどうしようもない。


 ただ、毎日のように付きまとわれると流石に鬱陶しくなってきて、メナスは決着をつけてやろうと、あえて袋小路の道を進んで、自ら追い詰められてみることにした。

 そこで、メナスはついにストーカーと対面することになる。

 姿を現したのはきわめて普通の男で、待ち構えていたメナスと目が合った瞬間「あっ」と声を上げておどおどし始める。

 これはやはりただのストーカーであったようだと、メナスは困り顔で声をかけてみた。


「近頃ずっと私の後をつけてきていただろう? 何が目的だ?」

「あの、その……実は、メナスさんに渡したいものがあって……」


 男が懐に手を入れながら近づいてくる。

 殺気などかけらもなく、悪意など一つも感じない動作であった。

 そうして近寄ってきた男は、懐から手紙のようなものを取り出す。


 古風に恋文か、とメナスが苦笑したところで、男は手首をさっと返して何かを投げつけてきた。瞬間、メナスは首を傾けて飛んできたものを避けつつ、細剣を抜き放ち男の心臓を一突きにする。

 最後まで殺気のない攻撃であった。

 目で確認してからの回避と反撃。

 飛んできたものは僅かにメナスの首元をかすり、直後ぐらりとメナスの視界がぼやける。

 まずいと思った瞬間、メナスは細剣を捻り、目の前にいる最後まで殺意も悪意も表さなかった男の心臓をかき回した。

 男が倒れたのを確認して、メナスもその場に膝をつく。

 とてもではないが、朦朧とする意識を保ってはいられなかった。


 ひどい頭痛と手足のしびれと共に目を覚ましたのは、夜半のことだった。

 メナスが最初に感じたのは、酷い血の臭いであった。

 体を動かすのもやっとで何とか目を開けると、目の前には見慣れた広い背中があった。


「馬鹿が……」


 振り返りもせずにグレイが呟く。

 声をかけようとしても掠れて出てこず、ひゅっと息だけが漏れ出す。


「俺に付きまとってるからそうなる」


 グレイの正面には、メナスが仕留めた男以外の死体がいくつも転がっていた。

 今の状態を前向きにとらえるのであれば、意識を失って倒れているメナスの下に、グレイが心配をしてやってきて、次々とやってくる刺客を殺していたということになる。

 メナスは笑おうとして、表情が上手く動かぬことに気付き、それから急激に眠たくなって、また意識を失った。意識を失う直前、舌打ちが聞こえたような気がしたが、メナスはなぜかその音に少し安心していた。


 メナスがなんとか動けるようになったのは、朝になってのことだった。

 また死体が数個増えていたが、気にしても仕方がない。

 壁に手をついて何とか立ち上がったメナスは、かすれた声でグレイに声をかける。


「肩、貸して……」

「勝手に歩け糞ストーカーが」


 こんな状態にもかかわらずとんでもない暴言である。

 しかしメナスは思わず笑ってしまい、カラカラになっていた喉のせいで酷くせき込んだ。

 グレイは振り返ってメナスを呆れた顔で見つめる。


「……話しかけるな、殺すぞ、って言わないの?」


 グレイは嫌そうに顔じゅうに皺を作ると、メナスを無視して歩き出す。

 メナスもその後に続こうと、壁を頼りに数歩進み、すぐに膝をつくことになった。

 まだ足も言うことを聞かないようだ。


 グレイはそんなメナスを無視して角を曲がり消えていった。

 薄情だと思いつつも、メナスは何とかまた立ち上がり、よろよろと数歩進んでまたその場に腰を下ろして休む。

 そんなことを繰り返しながらようやく角までたどり着いて曲がると、目の前にグレイが立っていた。


 グレイは無言でメナスに足払いをかけると、そのまま腰のあたりを腕で抱え、ずんずんと勝手に歩き出す。

 揺れる度に吐き気がしたし、頭痛が酷くなったが、抗議をするために口を開くと、本当に胃の中身が全部出てきそうな乱暴さであった。

 そのまま古ぼけた埃っぽい家に辿り着いたかと思うと、メナスは布が敷いてあるその辺の床に捨てられる。

 せめてベッドに寝かせてくれればいいのに、心の中で文句を言いながらも、体力を使い果たしたメナスは三度意識を失った。


 次に目を覚ました時には、痺れはほとんどなくなっていた。

 頭の横にコップと水差しが置いてあり、猛烈な喉の渇きに、メナスは中身をよく確認もせずにコップに水を注いでは喉に流し込んだ。

 三杯目からは面倒くさくなって水差しに直接口をつけて飲み干して、行儀悪く大きく息を吐いてから、部屋の中をぐるりと見まわす。

 何もない部屋だった。

 ベッドに寝かせてくれればいいのに、なんて思ったが、はなからそんなものは存在しなかったのだ。


 そんな部屋の端の、古びた椅子の上に、グレイが不愉快そうに足を組んで座っていた。

 メナスは手に持っていた水差しを床に置いて、にっこりと笑って話しかける。


「水ありがとう。生き返った気分だ」

「口付けてんじゃねぇよボケ死ね」


 相変わらずとことん口は悪かったが、やはり『話しかけるな殺すぞ』はもう出てこないようであった。

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