細かい根回し
情報共有をした後外へ出たクルムは、そのままパクスの元へ向かった。
基本的には与えられるのは金だけで、そのほかのコネクションは全て王子王女の方で何とかする、と言うのが王位継承争いにおけるやり方だ。
資材の準備から、業者の発注まで、すべてクルム自身の人脈から何とかするしかない。
もちろん、できなければそれまでで、評価はがくんと下がることになる。
公的な事業であるから、できませんでしたではもちろん済まないわけであるが。
「資材に関しては、ヘグニ殿下と付き合いのある商会の一つが、当然請け負うつもりで準備をしています。あれだけのものを自前で捌くことは難しいでしょうから、ま、どこかで折れて私の方に話を持ってくるでしょう。もしそれをしない場合は……、何か手を打つ他ないでしょう」
「何か案があるのならばお聞かせいただけませんか?」
大きな事業であるから、基本的には伝手を多く持っているパクスに頼りきりにならざるを得ないのが現状だ。
分かっていれば対応できることもあるということで、パクスの考えをこうして伺いに来ているクルム。立場は上のはずだけれど、力関係はかなり分が悪い。
パクスもそれは分かっているし、クルム本人が力関係を理解していることもあって、意地悪をせずに予定を共有する。
「今のところは場所の明け渡しと、そこにある物の解体の方に集中してください。その際に使えそうな資材があるなら取っておくことです。一応、最低限建築に取り掛かることのできる程度の資材は、間に合うように手配します」
「すべての準備は難しいということでしょうか?」
「無理をすればできますが、私は商人です。最大限に利益を追求したい。クルム様なら、私が何をしようとしているか分かるでしょう?」
パクスがこう問いかけてくるのは、クルムを評価しているからでもあるし、『まさか分かってないわけがないよな?』という試しでもある。
間違えばガツンと評価が下がり、それだけパクスはクルムを雑に扱うようになるだろう。
「……今資材を抱えている業者に、ぎりぎりまで不良在庫を押し付け、安く買いたたきたい。でしょうか?」
「そうです。それに今資材を抱え込んでいる商会は、建築を主な仕事としています。今回の件で、下についている現場仕事をする者たちの中には、仕事がなくなって首が回らなくなる者もいるでしょう。ついでにそれらも寝返らせます」
「……十分な数の指導者が確保できる予定、というのはそれですか」
ここまで、仕事を受けるまで余計なことは気にするなと言われてきたクルムは、初めてパクスの計画を耳にして納得する。
なるほど、商人のやり方だ。
「恩を売ったついでに、ここで貧民街にいる真面目な連中と引き合わせて、雇わせるつもりです。先行投資ですね」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「いいですね、十分に恩義を感じてください。少なくない金を使うことになりますから」
クルムはどうしてこの男は素直に礼を受け取らないのだろう、と思う。
どっちにしろ恩義は感じているし、雑に扱うつもりなどこれっぽちもないのに、それを理解した上でもこんなことを言ってくる。
ひねくれた男だ。
クルムは隣で茶菓子をバリバリ食べているグレイを横目でチラリと見て、この人の弟子なら仕方がないか、とも思う。この二人は見た目や言葉遣いはあまり似ていないけれど、時々妙に似通った性格を見せてくるのだ。
クルムは自分自身もややその傾向が現れつつあることに気付かず、まったくもうと、納得するのであった。
その日は急ぎで各貧民街を回り、四天王それぞれに今回の詳細をできるだけわかりやすく伝えておく。
このエリアを更地にしたいので、いついつまでに立ち退きと物の撤去の開始をするなど、事細かに伝えて書面に残してもらう。東のゾエ、南のグンナイに関しては、どちらも賢いので話はスムーズだった。
西のブルトンも、本人は脳筋であったが、どうやら頭の切れる参謀がついているらしく、そちらに話をしたところ、とんとん拍子で話が進んですっきりである。
外が薄暗くなった時に訪れたのは、北のロンヌスのエリア。
面白がってグレイがメロディエの件を秘密にしているせいで、最初の印象から変わらず、クルムが苦手な相手である。
「……ということなのですが、お願いできますか?」
「任せてください、と言っています」
クルムの説明にロンヌスが無言でこくりと頷くと、メロディエがそれを通訳する。
もはやロンヌスは口も開いていないし、通訳はなくとも何が言いたいかくらいは分かる。
そんなことよりクルムは、今日のメロディエがやけにちらちらとグレイの方を見ているのが気になっていた。
はじめは近くにいるから怖いのかと思っていたが、どうもそうではないようなのだ。目が合うと頬を赤らめて俯いたり、それに対してグレイが変な顔をすると、照れくさそうに微笑んだりする。
まるで恋する乙女だと思う。
先日この辺りが襲われた時にグレイが助けたらしいという話までは聞いていたので、まさかその時に、など余計なことを考えつつ話を終えるクルム。
帰り道のグレイは、何やら考え込んでいるクルムを見ながらにやにやと笑っていたが、実はクルムが珍しく鋭い女の勘を発揮し、二人の関係について想像を膨らましているとは思ってもいないのであった。




