事業計画
「資材の準備はパクス様に既に相談をしています。貧民街の住人の方々に協力していただくことで、人件費を抑えることも考えています。この計画の時点で、体が丈夫で働く気持ちのある犯罪歴のない住人は、街に組み込むつもりです」
貧民街の住人に仕事を与えるという約束を、さっそく果たしていこうという考えである。多少の教育は必要になるだろうが、その辺りは四天王にも協力をしてもらえば、然程の苦労はないだろう。
関わるべき商会は基本的に、パクス商会、あるいはファンファの関わっているランゴート商会を通すことになる。パクス商会はもちろん、ランゴート商会も、商売柄貧民街出身の女性を扱うことがよくある商会だ。
貧民街の住人に対する差別的な言動はある程度制御できるだろう。
続けてクルムは、計画書の平面図を指でなぞりながら説明を始める。
「計画書で開発する地域のさらに外側に、そういった人々のための区画をついでに作ってしまうつもりです。貧民街に慣れている彼らが、その外縁に暮らすことで、新しい区画との防柵のような機能も果たしてくれればと考えています。彼らの生活が安定しているさまが見えれば、他の住民たちも後に続きたいと思うようになるでしょう」
「流石クルム様……、よく考えていらっしゃいます」
確かにうまく回れば面白そうな話だ。
グレイにはいくつかの懸念があったが、そこで部屋がノックされて来客が告げられる。
外で丁度一緒になったのか、部屋にルミネ、ハップス、ファンファがまとめてやってくる。王女二人はいつものお付きも引き連れているので、一気に部屋の人口密度が高くなってしまい、話し合いの場所を食事をしている広間へ移す。
「何か助け舟が必要かと思って様子を見ていたのだけれど……、お見事でしたね」
「クルムが戦うと言った時は、大抵もう準備が終わっている時ですわ。私は安心して見ていましたの」
ルミネがにっこりと笑って言えば、ファンファがそれに続く。
ファンファについては、クルムの目には会議の場でずっとハラハラしていたように映ったが、そっとしておいてあげた。
ある意味クルムのことを真面目に心配してくれていた証でもある。
「今後の計画を聞くためにやってきたら、外で一緒になってな。予定は決まっているのだろう?」
「はい、ありがとうございます。それでは……」
ハップスの言葉にうなずいて、クルムは改めて先ほどと同じ説明を始める。
黙って聞いていた三人は、説明が終わるとそれぞれ考えるような仕草をしていたが、ややあってからまずファンファが口を開く。
「妨害とか……、あるんじゃないかしら? 特に貧民街の住人を使うというのなら、彼らは素性がはっきりしていないから……、お金で転ぶ人もいると思うの」
「いるでしょう。だからこそ、工事中は衣食住を提供して、同じ場所で寝泊まりをして、ある程度生活の管理をさせていただこうかなと。この計画は王族肝いりの国家事業でもあります。その名誉と責任についてはあらかじめ説明をしますし、ゾエさんたちからも、彼らの言葉で説明をしていただくつもりです」
クルムの言う通り、この件は国家事業として展開されるものだ。
いくらヘグニであっても、あからさまな妨害はできない。
どれだけ細かな嫌がらせを綺麗に潰していくかになってくるだろう。
「夜間の警護はどうだ。騎士団でもそれほど多くの手は割けないと思うが」
「解体ではなく、建築が始まってからのことですね」
「そうだ」
資材がなくなったとか、それこそ火をつけられたとかがあると大変だ。
期間の決まっている工事であるから、いざ解体が終わって建築が始まれば、邪魔をする者がいないか昼夜問わず厳重に見張る必要がある。それも、東西南北全ての工事現場を見なければならないとなれば、騎士団では手が足りなくなるだろう。
「一つ手を打っています。返答には少し時間がかかっていますが……、どうしてもうまくいかなければ、騎士団や先生、それに貧民街の四天王の方々に全力で動いていただくほかないでしょう」
「そうか、考えているならいい。難しければ俺も動けるようにしておこう」
今のハップスは、ルミネにぴったりとついて動いているジグの代わりに、ほぼ騎士団と共に行動をしている。そんなハップスの頼みならば、ホワイトも嫌そうな顔をしながらも手を貸してくれることだろう。
「仕事に雇う貧民街の人たちなのだけれど……。教会の炊き出しによくやってくる、仕事が見つからずに困っているような敬虔な人たちなら、喜んで手を挙げると思います。こちらからも未来に繋がる大事な仕事であるということをよく伝えて、送り出しましょう。それから、教会からも費用を捻出するので、各地域に一つ、教会と孤児院を作っていただけないでしょうか」
「……構いませんが、孤児院が増えれば、そちらの負担が大きくなりそうですが大丈夫ですか?」
前向きな提案はありがたいが、ルミネとて混乱した教会の立て直しに忙しいはずだ。そんな余裕があるのかと心配になるクルム。
「大丈夫です。教会と孤児院では、最低限の読み書きなどの知恵を授けます。そこで学んだものはいずれ仕事に就き、教会に還元してくれることになるでしょうから。だってクルム王女はいずれ、彼らに仕事を授けるつもりなのでしょう?」
「……そのつもりですが」
「未来への投資です」
クルムの計画によれば、貧民街の住人たちはいずれ、王都の建築や食糧事情を支えていくことになり、数を増やしていくはずだ。
そうなれば自然と、教会を信奉する人の数も増えていく。
青田買いするために、今の厳しい時期に血を流す。
ルミネの考え方は、今回もまたやはり、実に強かなものであった。




