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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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これがようやく第一歩

「それってさ……」


 クルムの準備具合を見て、ヘグニは戦う価値がないと引き下がる。

 それで話は終わりかと思われたその時だった。

 ジグラが柔和な表情のままクルムに向けて話しかけて来る。


「罪を犯して逃げ込んでいる人をみんな許せってこと? あんな場所で一致団結してるってことは、きっとまとめてる人がいるはずだよね。そういう人って、街で問題を起こして逃げ込んでいった悪い人だったりしないのかな? クルムは若いから、そういう人たちに利用されているってことはない?」

「……指名手配をされているような凶悪犯まで許す必要はないでしょう」

「他は許すの?」


 攻撃的には聞こえないのに、話を詰めることは続けるジグラ。

 もし貧民街に隣国の者を手配したのがジグラだとすれば、ヘグニよりは多少内情に詳しいはずだ。


「そうは仰いますが、ジグラお兄様」


 クルムは冷静に戦う相手を切り替え、ジグラと見つめ合う。

 目をそらすつもりはない。


「そもそも現状はどうですか? 貧民街に逃げ込んでいる軽犯罪者を捕まえて裁くことができていますか? 手が回らず放置しているような状況ではありませんか?」

「だからってそんな人たちが、大手を振って街を歩くようになるのも違うんじゃない?」

「軽犯罪を犯さずとも暮らせる状況を作ります。そして、万が一そうなった場合に逃げ込む場所をなくすことも、目的の一つです。貧民街に紛れてしまえば大丈夫、という意識が、犯罪を助長しかねません。この計画は、王都における軽犯罪率の低下、予防につながると考えております」


 ヘグニに続いてつついてはみたものの、思ったよりも隙のない答えを返されたからか、ジグラは「なるほどね」と言って引き下がるかに見えた。

 ヘグニもジグラも、今回はクルムほど準備をしてこの会議に臨んでいない。

 隙があれば突くつもりだが、しつこく追及して醜態をさらすつもりはないようであった。


「……でも、クルムは気を付けたほうがいいよ」

「何をでしょうか?」

「あまり罪を犯した者に肩入れをし過ぎるのもね……?」

「……御忠告ありがとうございます」


 どの話をしているのかが分からないのが不気味であった。

 貧民街のことと捉えることもできるが、パクスやグレイのことと受け取ることもできる。ありえないとは思うが、知られていて最も面倒なのはルミネやジグの件だ。

 嫌な忠告である。


 二人の兄が黙り込むと、ルアーノがしばし子供たちの顔を眺めて、それから厳かに宣言する。


「……予算をクルムに割り当てよう。ただし、一月以内に結果を出し、来月には建設に着工せよ。それができぬ場合、迅速にヘグニの案を実行するものとする」

「ありがとうございます。必ずや期待に応えてご覧にいれましょう」


 そこからはいくつかの連絡事項と仕事を割り振った上で解散。

 滞りなく話は進み、昼前にはクルムは自室に戻ることになった。


 クルムは澄ました顔で歩いて帰ってきたが、自室へ戻り、グレイとウェスカとの三人だけになった瞬間、大きく息を吐いてベッドに倒れ込んだ。

 行儀の悪いことであったが、グレイはもとより気にしていないし、まだ報告を何も聞いていないウェスカは、心配でそれどころではない。もしかして何かあったのではないかと、真剣な顔をしてクルムの答えを待つ。


「……うまくやりました」


 クルムはこぶしを握って声を上げる。

 これからはずっと、これまで以上に気を引き締めなければならない戦いの毎日になるわけだが、とにかく、最初の一歩はつまずくことなく好スタートを切れたのだ。

 体を震わせてはいるが、それはただの喜びと言うよりは武者震いに近いようで、クルムの全身にはやる気がみなぎっている。

 直前まで緊張した面持ちをしていたウェスカは、そんなクルムの言葉を聞いた瞬間に、同じようにこぶしを握り、目を潤ませ、「おめでとうございます……!」と呟いた。


 グレイは内心で『何を大げさな』と冷めた目で見ていた部分もあったが、まぁ、散々準備してきたものがうまくいったのだから、水を差さないでやろうと黙っている。

 浮かれて大喜びでもしようものなら気を引き締めろというところだが、今のクルムにはそんな雰囲気はなく、不敵に笑ってはいるが目つきは好戦的に細められている。

 咎めるような言葉も必要ないだろうと判断したのだ。


「ここまでこられたのも、ウェスカ、そして先生のお陰です」

「……そんなことはっ」


 ウェスカがスンッと鼻をすすりながら首を振っている間に、クルムは体を起こして立ち上がり、二人を順番に見て続ける。


「そして、勝負はここからです。改めてよろしくお願いいたします」

「……もちろんです!」

「うむ、しっかりやるがよい」


 クルムは持ち帰ってきた紙の束をテーブルに広げる。

 踏み出しの成功を噛みしめる時間はもう終わりだ。

 そこに記されていたのは、貧民街の住人が立ち退くべき場所と、その地区の開発計画である。

 クルムは今、莫大な予算だけをポンと渡されて、この計画書通りに土地を開発することを求められているのである。


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