後処理開始
ルミネはなんだか嬉しそうだが、ジグはこわばった表情のまま黙り込んでいる。
どうしてこうなったのか。
真面目なジグでは今の展開についていけていないのだろう。
それにしてもこれだけ騒いでも全くベッドから出てこようとしないスペルティアは、つくづく大物である。
「……その辺りの話はおいおい決めていくとして、今はお二人とも私の派閥にご協力いただく、ということでよろしいですか?」
「……そうなります」
「私はそれで良いのですが……、クルム王女はそれでよろしいのですか? まだ随分と年若いように見えますが……、無理はしていらっしゃいませんか? それに確か、あなたには優秀なお兄様が……」
「王になることは私の望みです。王になり、血のつながった者同士で殺し合いをするようなくだらない制度をなくします」
それだけでクルムが兄を亡くしたことを悟ったのだろう。
ルミネは目を見開いてから、「そうですか……」と静かに呟いた。
「勝算はありますか? 私の後ろ盾になっていた教会は、今回の件で大きく力を失うことでしょう。期待しているほどの援助はできないかもしれません」
「想定済みです。もし事が公になったとしても、金融、貴族界隈はともかく、教会の民への影響力は、依然として無視できない規模と考えます」
ルミネはちらりとジグを見てから、しばし目を泳がせる。
そこには不安の表情がありありと浮かんでいた。
音頭を取るのが十三歳の少女では不安にもなるだろう。
「不安ですか?」
「あ、申し訳ありません。派閥に協力することはもちろん構わないのです。私に何かできることがあるか、と考えていました。私がクルム王女くらいの頃は、教会に言われるがまま王位継承争いに参加いたしましたので……。クルム王女も何かに巻き込まれてはいないか、と」
「ルミネお姉様。私には許せないものが山ほどあります。その中の一つが、この王位継承争いの制度です。ルミネお姉様を今の状況に追い込んだのは教会かもしれませんが、元をたどれば制度に問題があるでしょう。私は、王となり、現状を是正するために、私の意思でこの争いに参加しているのです」
「…………強いのですね」
「強くありたいと努めています」
見つめ合う時間が数秒。
ルミネは悲しそうな表情をしてから、何かを決意したようにきりっとし、目を合わせたまま答える。
「……わかりました。何ができるか分かりませんが、私にできる限りのお手伝いをさせてください」
「ありがとうございます」
ルミネの反応は、スペルティアやジグから聞いた通りの人間らしい反応であった。
近くにいたことのある、賢そうな人たちからの評価であるからして、その辺りは疑うべくもないのだろう。
「そうなると……、今回の件をどうするか、という話になってきますね」
立って話をしていたクルムは、椅子に座り直して呟く。
ジグは当然のようにルミネに椅子を譲り、自分は後ろに控えるために移動しようとしたが、ルミネに袖を掴まれていたため、結局その場で足を止めた。
ルミネはそのままするりとジグの手に腕を絡めて、嬉しそうにしている。
クルムはそれを見て、なんかやっぱりこの姉は結構したたかだなと思ったりしながらも、思考を続ける。
もし【人形遣い】が現れず、順当に勢力を拡大していた場合は、なかなか厄介な勢力になっていたかもしれない。
「……基本的には、全ての罪を教皇や【人形遣い】に被ってもらう形にします。加えて、ホワイト殿がたまたま辿らなかった協力者たちを一斉に捕縛し、証言をさせます。……ジグ殿は、そういった末端の方々と顔を合わせることはありましたか?」
もしその情報が漏れていたのならば、協力者たちを捕まえて証言をさせると、余計なことまで口走る可能性がある。
「いえ、私は基本的にルミネ様と教皇としか会っていません。私が協力者であることが多くの者に知られてもいいことなどありませんでしたから」
「それならば問題ありませんね。……ルミネお姉様は協力者の顔や名前を思い出せますか?」
「……漏れはあるかもしれませんが」
「分かるだけで結構です。捕縛する時間を考えると、移動しながら話した方がいいかもしれませんね」
クルムは立ち上がって歩き出そうとしたところで、ピタリと足を止める。
「…………先生、スペルティア様は一人でここに置いて行って大丈夫でしょうか?」
「いつも一人でおるじゃろうが」
「……もし、【人形遣い】が、エルフの森から追放されたインヴェディアという人物なら、場合によってはスペルティア様を利用しよう、傷つけようと考える可能性もあるのではないでしょうか?」
「……ふむ、まぁ、ありえなくもない、かもしれんのう」
あまり考えたこともなかった。
そんなことをするくらいならば、もっと早くに動いていそうなものだが、今回の件で捨て鉢になって、という可能性もある。
グレイはしばしその場に腕を組んだまま立ち尽くして考え、結局ずんずんとスペルティアが眠っているベッドの方へ向かうと、迷いなくカーテンを開けた。
「お主も一緒に来い」
「……眠たい、うるさい」
「いいからさっさと準備せんか」
グレイがしつこく言うと、スペルティアは据わった眼でじっと見つめてからのそのそと動き出して、靴を履き、一言聞こえるか聞こえないかくらいの声量で呟く。
「……馬鹿爺」
シンプルかつ本当にただの悪口である。
「なんか悪口言ったじゃろ」
「仕方ない、と言った」
どうやらグレイの耳の良さを十分に把握したうえで、八つ当たり的に呟いた言葉であったらしく、誰の耳にもその暴言は聞き取られなかったようだ。
スペルティアからすれば、夜中に叩き起こされた上、なんだかよくわからないが外にまで一緒に連れていかれようという状況である。
悪口の一つくらい出るだろう。
「まったく、お主が危険だからと声をかけてやっているのに、いちいち……」
グレイがぶつぶつと文句を言っている間に、スペルティアも立ち上がって出かける準備を終える。
事情も知らされずに起こされても、とりあえず文句を言いつつも言うことを聞くあたり、なんだかんだグレイとスペルティアの間には確かな信頼関係があるようである。




