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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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からかい過ぎは良くない

 スペルティアが面倒そうに出てくると、ルミネはようやくジグの袖から手を離し、両手を体の前に回して深々とお辞儀をする。


「スペルティア様、助けてくださりありがとうございました。何も告げずにここへ来ることもできなくなったことを、ずっと悔やんでおりました」

「対価は貰っていた。だからものを教えた。謝ることはない」

「そう……ですか」


 ルミネはスペルティアとの間に確かな絆を感じていたのだろう。

 だからこそ冷たく突き放すような返答に、少しばかり気を落としたようだった。

 そこでニヤッと笑ったのはグレイだった。


「こやつ、お主が自分を守るために来なくなったのだと言っておったぞ」

「グレイ、余計なこと言わない」

「え……?」


 スペルティアが嫌そうな顔をすると、グレイは声を上げて笑った。


「ほっほっほ、こやつ照れておるんじゃ。お主がばらまかれている薬を作っている犯人ではと疑ったら、それだけは絶対にないと即座に否定したんじゃぞ」

「スペルティア様……」

「良いことをすると気持ちがいいのう」


 スペルティアは眉間に皺を寄せ、手で口元を覆うように隠してグレイを睨みつける。ルミネは大喜びだが、スペルティアの方は照れと怒りで顔が赤くなっていた。

 スペルティアは結局何も言わなかったが、不機嫌さを隠すこともなく、グレイの近くに寄ってその脛を、尖った靴の先で何度も蹴りつけた。グレイはそれでも痛くもかゆくもないのか、笑っていたけれど。


 王宮の廊下を歩きながらも数十発蹴り飛ばしたところで、ようやく溜飲が下がったのか、それとも疲れたのか、スペルティアは黙って眉間に皺を寄せたまま普通に歩き始めた。


「実際、教会ではスペルティア様を排除しようとする動きはあったのですか?」


 ルミネは一瞬スペルティアの方を見て、「そうですね……」と言葉を濁した。


「いいから話す」


 スペルティアが言うと、ルミネは意を決したように頷いて話し始める。


「……ありました。遠回しではありましたが、それによって私の活動には制限が掛けられていました。その頃はまだ、より大きな求心力を得ることによって、スペルティア様を害さずとも、私を聖女に認定できるから、というお話でしたが……。【人形遣い】が現れたのは、それからしばらくしてのことです」

「そうでしたか……。誰にも支持されず放っておかれた私などは、まだ動きやすく、運の良い方なのかもしれません」


 そうだったからこそある程度自由に動けて、グレイを見つけることもできた。

 ルミネのような立場であれば、むしろ王になったとて自由に何かをすることは難しいだろう。


 話が途切れたところで、先ほどまで蹴り飛ばされていたグレイが、平然とした様子でスペルティアに問いかける。


「ところでお主、ルミネが早々に目覚めることは想定済みじゃったのか?」


 スペルティアは完全にグレイを無視して歩き続ける。

 先ほどの怒りがまだ継続しているようだ。

 まるで子供のようであるが、そもそも特に意味もなく意地悪をしたグレイが悪いので仕方がない。

 あれでルミネの気持ちが救われた部分もあるので、クルムとしては多少庇ってやりたいところだが。


「おい、聞いておるのか?」

「……スペルティア様。ルミネお姉様の目覚めは想定内でしたか?」

「あり得るとは思っていたが、思ったよりも早かった」


 さらりと戻ってくる返事。

 グレイは余計にイラっとしたようであるが、必要な情報は貰うことができた。

 続けてスペルティアは自主的に話し始める。


「ルミネ。……解毒の葉を煎じた茶を飲んでいた?」

「普段から、スペルティア様に教わったものを配合して、供の者に用意させておりました」

「そう。ならきっとそれのお陰。あれは昔から知られているものではなく、私が見つけたもの。効果が薄い代わりに日常使いができる。だから体の蝕まれ方が、想定よりも緩やかだった」

「スペルティア様のお陰です……、ありがとうございます」

「……もとはと言えば、私のせい。悪かったと思っている」


 無事に仲直りができたようで何よりであるが、こうなると蹴られた上に無視されているグレイは、少々不満そうな表情である。


「…………その茶を飲んでいたとしても、もし、私が想定しているものを【人形遣い】が飲ませていたとすれば、長くともあと十年程度でルミネは命を落としていた。多分【人形遣い】は、王国の混乱を望んでいた」

「なんだと……」


 拳を握ったのはジグだ。

 当たり前のように王になった後の話もしていたので、まさかそれほどルミネの体が蝕まれているとは思っていなかったのだろう。


「ちゃんと全部治した。普通に生きられるはず」

「ありがとうございます……!」

「君に礼を言われる筋合いはない。礼を言うのなら支払いをすべき」


 スペルティアはしれっとジグに金を要求。


「あ、それはもちろん、後ほど……」

「よろしい」


 ジグが畏まれば、スペルティアの機嫌は上向きに傾いたようであった。

 

「しかし、そうなると、【人形遣い】はまだまだ暗躍するかもしれませんね」

「そう。気を付けるべき」

「だから一番危険そうなお主を部屋から連れ出してやったんじゃろうが」

「知ってる。そうでなければ酷い目に遭わせている」


 散々蹴っ飛ばしたのは酷い目には含まれないらしい。


「何じゃひどい目って。何ができるって言うんじゃ」

「私は怪我と、内腑の損傷もある程度治すことができる。頑張れば、逆もできる」

「……怪我してもお主には頼らん」

「いつでも来る。待ってる、グレイならお金もいらない」


 グレイはしばし腕を組んで考えた後、渋い顔で渋々言葉を紡ぐ。


「……ふむ……、まぁ、なんじゃ。結果的には良い方向に働いたとはいえ、さっきはちょっと調子に乗りすぎたかもしれんのう」

「それで?」

「すまんかった」

「それでいい」


 グレイが謝罪するなど、本当に本当に珍しいことであるが、どうやらこちらの二人も、無事に仲直りしたようである。

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無敵の人じゃなくなりつつある爺かわいい
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