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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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ルミネの告白

「ルミネお姉様は私のことをご存じでしたか。私はあまり関わった記憶がないのですが……」

「当然のことだと思います。スペルティア様に連れられて、出産の時に近くに控えていただけですから」


 年齢的にはクルムの倍は生きているはずなので、確かにあり得ない話ではない。

 クルムが生まれた頃がちょうどスペルティアの世話になっていた時期なのだろう。

 出産は命懸けであるから、王族であればスペルティアが近くで待機しているのも自然なことである。

 大事に大事に生を受けた結果殺し合いをすることになるのだから、何とも馬鹿らしい話だ。


「……すみません、話を戻します。長く操られている間の私の記憶は確かに曖昧です。時系列があまりはっきりしませんし、ぼんやりとした部分もありました。ただ……、今のお話を聞かせていただいたことで、私の身に何があったのか、そしてジグ殿が何をしてくださったのか、おおよそ理解したつもりです」

「そう……ですか」


 ジグは何とも言えぬ顔で相槌を打つ。

 できることなら何も知らずにいて欲しかったというのが本音なのだから、この告白はジグにとって決して都合のいいものではなかったのだろう。


「その上で私から申し上げるべきことがあります」


 ルミネは袖を握っていた手を離すと、ジグに向かって深々と頭を下げた。


「巻き込んでしまい、申し訳ございませんでした」

「何を……!」

「私が迂闊にも操られたことにより、騎士としてのあなたの人生を台無しにしてしまいました」

「私が勝手にやったことです!」

「いいえ。誇り高き騎士であるあなたであれば、騎士団を裏切るくらいならば死を選んでいたはずです。だから、違います。違うのです」

「違いません! あなたの優しさに触れて、遅ればせながら、私の命を使うべき方はあなただと気づかされたのです」

「その優しさとはなんですか?」


 唐突な質問にジグは一瞬戸惑ったが、すぐに姿勢を正して堂々と答える。


「普段からの分け隔てない優しさ。どうすればより多くの人を救えるのかと思い悩む姿。そのために貪欲に知識を身につけていこうという生き方に」

「……あなたの心を決定的に動かした出来事は、何でしたか?」

「……あなたが、たった一度の意識が戻る機会を、私のために使い、そして、利用されぬように命を絶とうと魔法を絞り出そうとしていた、あの瞬間です」


 ルミネは困ったように笑って、ゆっくりと首を二回横に振った。


「であるのならば、やはり違います」

「何を……」

「ジグ殿は私のことを買いかぶりすぎです。私は、あなたが私に尽くさざるを得ない状況に追い込んだだけなのですから」


 ジグが黙り込むと、ルミネは一歩ジグに近付き、右手を取って両手で包み込む。

 ほとんど体が密着するほどの距離だ。

 ジグが手を振りほどかないことを確認したルミネは、静かに微笑み続ける。


「本当に優しいのならば、あの瞬間、ジグ殿を見捨てて、確実な機会を待つべきではありませんでしたか?」

「それは……」

「私は、私が夢うつつながらも操られていることを理解していました。幸い、【人形遣い】は、私が何を考えているかまではわからないようでしたね。最初の頃は、他に操っていた方と同じように、薬を内服するように命令して、その場を離れることもありました。私はその隙に辛うじて抗って、薬を捨てていました。だからあの瞬間だけ、抗うことができたのです。私は、あなたが目の前にいると気づいた時点で、大きな声を上げて逃げるように言うこともできたんです。聡いあなたなら、それで異常な事態を察していただけたことでしょう。私はそれをしなかった」


 ジグが完全に黙り込んでしまったのを見て、代わりにクルムが問いかける。


「なぜですか?」

「なぜでしょう。自信がなくて、気力が出なかったのです。このままジグ殿を逃がして、問題が解決されたとしても、きっと自分は助からないだろうと思ったのでしょうね。そしてジグ殿が刺された時、私は初めて抗うことができた。抗ってしまったのです」


 ルミネはそこでジグの手をしっかりと両手で握り込んで、ジグの目を見つめる。


「見捨てるべきでした。あなたを巻き込むだけになることも、この先に私自身が何とかする機会がなくなることも、その結果、人がたくさん犠牲になることも分かっていました。それでも、私はあなたを生かすことを選んでしまいました」

「それは……、私が未熟で傷ついたばかりに……」

「それはそうじゃな」


 シリアスな空気の中に、爺が余計な一言を挟むと、会話が数秒停止する。


 弱さは罪。

 自分にもそう言い聞かせて生きてきたグレイであるからこその、空気が読めない一言である。


「……私は、私のためにジグ殿を助けたのです」


 ルミネは何とか仕切り直す。


「助けた後に、足を引っ張ることのないように死のうとしていました! それを私が邪魔したのです!」

「そこです」


 ルミネは目を伏せると、ジグのごつごつした手をじっと見つめながら、ぽつりぽつりと続ける。


「死ぬのが、怖くなりました。本気で魔力を放出していれば、本当はもっと早く死ねていたはずなのです。もしかしたらジグ殿が何とかしてくれるかもしれない……。死ぬ必要がないかもしれない……。これを恩に感じてくれるかもしれない……」


 声は段々と小さくなり、やがて消え入りそうな声でルミネは呟く。


「もしかしたらジグ殿が、騎士団より私を選んで、一緒にいてくれるようになるかもしれない……」

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― 新着の感想 ―
爺は狸寝入りを咎めたらメロドラマ始まって退屈してそう
シリアスな場面だからおじいちゃんは黙ってて!
事あるごとに主人公のグレイを爺呼ばわりするのが、この作品の魅力の一つだよね。
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